全日病ニュース
高齢者救急を受け入れ早期の在宅復帰を目指す~地域包括医療病棟について~
高齢者救急を受け入れ早期の在宅復帰を目指す~地域包括医療病棟について~
【診療報酬改定シリーズ●2024年度改定の解説③】全日本病院協会 医療保険・診療報酬委員会 委員 丸山泰幸
■急性期と回復期のギャップを埋める
「地域包括医療病棟入院料」は2024年度診療報酬改定で新設された。この病棟は急性期医療と回復期医療とのギャップを埋め、高齢者の救急医療と在宅復帰支援を効果的に行うことを目的としている。
新設された背景としては、次のように挙げられている。
- 1.高齢者の人口増加に伴い、特に軽症・中等症の高齢者救急搬送が増加している。
- 2.急性期病棟に入院した高齢者の一部は、離床が進まずADLが低下し、在宅復帰が遅れるケースが報告されている。
- 3.高齢者の入院患者には、誤嚥性肺炎や尿路感染など、医療資源投入量が少ない傾向にある疾患が多く、高度急性期病院との機能的ミスマッチが生じている。
- 4.誤嚥性肺炎患者への早期リハビリテーションは、死亡率の低下とADLの改善につながることが示されている。
- 5.高齢入院患者の一定割合が低栄養リスク状態または低栄養であり、これは生命予後不良と関連している。
このような状況下において、介護・リハビリテーション機能を有した医療施設で高齢者の救急患者の受入れ体勢を整え、治療・リハビリ・栄養管理・入退院支援を一括して担い、救急医療の機能分化を行い、医療と介護サービスを切れ目なく提供し、早期に在宅復帰を目指すという役割が期待されている。
急性期一般入院料1や地域包括ケア病棟と比較してみると(図1)、急性期一般入院料1は看護配置7対1以上で平均在院日数16日以内となっている。急性期病棟の課題として、当然ながら急性期治療が中心ではあるものの、介護やリハビリ機能が弱い点があり、特に高齢者の軽症・中等症の場合は安静臥床が続きADLの低下につながることが多い。2024年度改定では重症度、医療・看護必要度がさらに厳格化され、内科系中心の病院では急性期一般入院料1を維持することが困難なケースが出てくると予想される。
地域包括ケア病棟では看護配置は13対1以上となっており、ある程度の介護には対応可能な一方で、急性期医療の面では看護人員体制的に夜間救急の直接受入れ等には弱い傾向にあると考えられる。
地域包括医療病棟は、医療資源投入量の少ない傾向にある誤嚥性肺炎や尿路感染といった疾患等を中心に、看護配置を10対1以上とし、常勤の理学療法士、作業療法士または言語聴覚士を2名以上、専任の管理栄養士も1名以上配置することにより、急性期領域も担保しつつADL低下を防ぐための措置も対応可能とする。
地域包括医療病棟の新設により、高度急性期病院への高齢者の軽症・中等症患者の搬送が減少し、急性期病院との機能分化が進むことで、適切な医療提供が可能となる。地域包括ケア病棟が「ポストアキュート」「サブアキュート」「在宅移行支援」の3機能をバランスよく担うのに対し、地域包括医療病棟は急性期機能の中でも医療資源投入量の少ない高齢者の軽症・中等症の救急患者を直接受け入れ、治すと共に支える医療(リハビリ等)を提供し、より早期の在宅復帰を目指す。
■施設基準が厳しく量的確保に懸念
施設基準では、自院からの転棟割合5%未満、救急搬送患者割合15%以上、重症度、医療・看護必要度は16%(必要度Ⅰ)以上、または15%(必要度Ⅱ)以上が求められ、高齢救急患者の積極的な受入れを促している。これにより、地域の救急医療体制の強化と効率化が期待されている。
地域包括医療病棟入院料は地域包括ケア病棟入院料の2,831点より219点高い、1日当たり3,050点に設定。地域包括ケア病棟と異なり包括範囲にリハビリテーションが含まれておらず、実施分のリハ点数の出来高算定が可能となる。
図2の通り、厚生労働省は地域包括医療病棟への移行のイメージとして、地域における、高齢化、救急、リハビリテーション等の医療提供体制等を踏まえ、急性期一般入院料1(7対1)や急性期一般入院料2~6(10対1)を算定する急性期病棟からの横滑り、または一定の救急医療の実績のある地域包括ケア病棟等からの転換を想定しており、将来的には急性期一般入院料2~6の病棟をすべて地域包括医療病棟に移行し、「急性期一般病棟」(7対1)、「地域包括医療病棟」(10対1)、「地域包括ケア病棟」(13対1)という医療提供体制の構築も、国の方針としてイメージされている印象がある。
しかしながら、多くの医療機関にとって、地域包括医療病棟への移行は困難な状況にあるようだ。日本病院会、全日病、日本医療法人協会の3病院団体が実施した「地域包括医療病棟入院料への移行調査」(集計速報値)報告書によると、2024年6月3日時点での地域包括医療病棟入院料の届出予定は、回答数1,002病院の中で「転換希望」が39病院(3.9%)、「検討中」が141病院(14%)、「転換しない」が822病院(82%)という結果になった。
転換しない理由として「現在の病棟機能を維持できるため」が最も多く、次いで「示された施設基準を満たせないため」をあげた。当報告書の総評では「地域包括医療病棟の施設基準が厳しすぎるため簡単には移行できない実態が明らかになった」とされ、「地域の高齢者急性期患者の受入れ先として適切な量的確保ができない可能性が懸念された」と報告されている。
地域により2025年問題はすでに前倒しで始まっていると言っても過言ではなく、我々医療機関の地域に必要とされる病床機能選択のかじ取りは、今後よりいっそう難しいものになっていくと考えられる。
全日病ニュース2024年8月1日号 HTML版
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[1] 中医協委員から2024年度診療報酬改定の背景や経緯をきく|第1054 ...
https://www.ajha.or.jp/news/pickup/20240501/news03.html
2024/05/01 ... また、尿路感染症や誤嚥性肺炎の高齢患者などサブアキュートの受入れ先として、看護配置13対1の地域包括ケア病棟等ではなく、新たに10対1の地域包括医療 ...
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[2] 猪口会長が新たな地域医療構想に関する提言を発表|第1054回 ...
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2024/05/01 ... ゆる地域包括ケア病床が担うpost/ sub-acute機能と回復期リハビリテー. ション機能が含まれている。両者は全. く異なった医療機能であり、例えば、.
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[3] 厚労省 ポスト&サブアキュートを担う病棟の機能を提示。地域一般 ...
https://www.ajha.or.jp/news/pickup/20130615/news03.html
2013/06/15 ... 医療界からさらにより良い提案があれば検討していく」とした。 地域の一般病院は、急性期後の患者、在宅等を含む救急の患者、軽症急性期の患者を引き受け ...
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