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ホーム全日病ニュース(2024年)第1063回/2024年9月15日号病院経営が維持できる地域医療構想の策定を要望

病院経営が維持できる地域医療構想の策定を要望

病院経営が維持できる地域医療構想の策定を要望

【新たな地域医療構想等検討会】医療提供体制の基本的な考え方と方向性了承

 厚生労働省は8月26日、新たな地域医療構想等に関する検討会(遠藤久夫座長)に、目指すべき医療提供体制の基本的な考え方と方向性の案を提示。構成員から概ね賛同を得た。年内のとりまとめに向け、今後は入院・外来・在宅医療、介護との連携など各論の議論に入る。
 全日病会長の猪口雄二構成員や日本医療法人協会会長代行の伊藤伸一構成員は、基本的な考え方・方向性に賛意を示した上で、現状で病院の経営が危機的な状況にあることを強調した。
 猪口構成員は、「2040年までに診療報酬・介護報酬等同時改定は2回しかない。目指すべき医療提供体制に向けて我々も努力するが、病院のエンジンになるのは診療報酬・介護報酬である。医政局は保険局、老健局としっかり連携し、こういうビジョンで動かすのであれば、どうすれば動くのかということをきちんと考えることが重要になる。本当に病院の経営は厳しいので、何とかしてほしい」と訴えた。
 また、確実に医療従事者の確保が困難になる中で、医療DXなどを活用し、医療・介護の質を落とさず、効率化が図られている場合は、人員配置などを規定している施設基準の考え方も見直しが必要と指摘した。
 伊藤構成員も「病院経営は現場感覚で非常に危機的な状況だ。このままでは医療を提供するプレイヤーがいなくなる。医療機関が存続できる対策を新たな地域医療構想に取り入れることを積極的に考えてほしい」と要望した。
 なお、同日の資料では、病院の経営状況が示されている。病床利用率は一般病床、療養病床ともに20年以上前から低下傾向にあり、2022年では一般病床で69%、療養病床で85%。医業利益率は一般病院、療養型病院、精神科病院ともに2020~2022年に悪化している。ただ、新型コロナ感染拡大の影響が大きく、足下の状況が把握できていない。一般病院では2020年と2022年はマイナスの収支である。2023年以降のデータが示されていないので、構成員からは早期に最新データを把握して報告してほしいとの要望があった。

新構想の課題を大きく3つに整理
 基本的な方向性(下表)にあるように、現行の地域医療構想は「病床の機能分化・連携」を目指した構想だが、新たな地域医療構想は「入院医療だけでなく、外来・在宅医療、介護との連携等を含む医療提供体制全体の課題解決を図るため」の構想となる。
 課題は大きく3つに集約される。①地域の患者・要介護者を支えられる地域全体を俯瞰した構想②今後の連携・再編・集約化をイメージできる医療機関機能に着目した医療提供体制の構築③限られたマンパワーにおけるより効率的な医療提供の実現─である。
 基本的な考え方では、もう少し具体的に課題を列挙している。例えば、「増加する高齢者救急に対応するため、軽症・中等症を中心とした高齢者の救急の受入体制を強化する。ADLの低下を防ぐため、入院早期から必要なリハビリを適切に提供し、早期に生活に戻ることを目指す」ということがある。
 健康保険組合連合会専務理事の河本滋史構成員は、「ADLの低下を防ぐため、入院早期から必要なリハビリを適切に提供」することに関して、診療報酬における地域包括ケア病棟や2024年度診療報酬改定で創設された地域包括医療病棟の役割に期待した。
 日本看護協会常任理事の吉川久美子構成員は、日本看護協会が認定する看護師が高齢者施設に介入することにより、誤嚥性肺炎など高齢者の軽症患者の入院が減少するなどの効果が確認できていると報告。「高齢者施設で入所者の状態悪化を防ぐための支援が重要であり、(高齢者救急に至らせない)在宅や高齢者施設の対応力強化が必要になる」と指摘した。
 在宅医療については、需要増を前提に、「必要に応じて現行の構想区域よりも小さい単位で、地域の医療機関の連携により24時間の在宅医療の提供体制の構築、オンライン診療の積極的な活用、介護との連携等、効率的かつ効果的な在宅医療の提供を目指す」としている。
 猪口構成員は、「在宅医療の提供体制は地域によりだいぶ異なる。例えば、都会では十分な数の医師を集めた在宅専門の診療所がすでに乱立していて、十分な供給体制になっている。一方、地方ではそのような診療所はなくて、少数の医師が属する数少ない診療所で対応しなければならない状況にあり、大変厳しい。在宅といっても居宅と施設系では異なる。これらを踏まえて、いくつかの類型を示して、地域診断を行い対応する必要がある」と述べた。
 また、特に在宅医療に関して、ACPに言及。「言葉としては広がっているかもしれないが、どこまで浸透しているかは疑問に感じる。今後85歳以上の高齢者が急増する中で、医師が常駐していない特別養護老人ホームなどでACPをどのように活用していくかは大事なポイントになる」と強調した。
 その他、基本的な考えでは、「医療の質やマンパワーの確保」のため、「必要に応じて現行の構想区域を越えて、一定の症例や医師を集約して、医師の修練や医療従事者の働き方改革を推進しつつ、高度医療・救急を提供する体制の構築を目指す」考えも明示した。
 特に過疎地においては、「人口減少や医療従事者の不足が顕著になる中で、地域で不可欠な医療機能(日常診療や初期救急)について、拠点となる医療機関からの医師の派遣、巡回診療、ICT等を活用し、生産性の向上を図り、機能維持を目指す」ことも示した。

現行の地域医療構想の目標に近づく
 現行の地域医療構想の評価については、2023年度の病床機能報告集計で、全体の病床数が2025年の目標に近づいていることが確認されている。具体的には、病床の機能分化・連携を進めないと152万床になると推計された病床数の伸びが、2025年で119万床程度に収まる見通しとなっている。
 地域医療構想策定時に想定した病床数の伸びを抑制するための手段は3点。①一般病床のC3未満の医療資源投入量の患者数は在宅医療等の医療需要とする②療養病床の医療区分1の患者の70%は在宅医療等の医療需要とする③療養病床の入院受療率の地域差解消の取組みを推進する─であった。
 ①の一般病床のC3未満患者の病床数は、機能分化を進めない場合の推計値(11.8万床)から64%減で4.3万床になった。「C3未満」とは、診療報酬の医療資源投入量で175点未満の患者。在宅等でも実施できる医療資源投入量が225点とされ、退院調整等を考慮し175点を境界点数とした。一般病床においては、経年的に在院日数が縮減しているなど、医療資源投入量の低い長期入院患者の減少が確認されている。
 ②の療養病床の医療区分1は、診療報酬の療養病棟入院基本料の患者区分であり、特定の医療行為が行われていない患者に分類される。累次の診療報酬改定により、医療区分1の患者入院が療養病床では難しくなっている状況に加えて、介護医療院が創設され、医療区分1以外の患者入院が少ない療養病床は介護医療院に移行している。医療区分1の患者の病床は12.5万床から3.0万床に76%減となった。
 ③の療養病床の入院受療率の地域差解消は、医療区分1以外の慢性期病床の減少とし、当初の推計値(▲11.9万床)に近い▲11.3万床となっている。
 これらに対し、奈良県立医科大学教授の今村知明構成員は「医療機関の努力の結果だ。目標に近づいていることをもっと声高に強調してよい」と述べた。国際医療福祉大学大学院教授の高橋泰構成員は「減少分の患者が実際にどこに行ったのか。もう少し分析することが新たな構想を考える上でも重要」とした。

 

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