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ホーム全日病ニュース(2024年)第1063回/2024年9月15日号規制的な手法を含めて医師偏在対策を検討

規制的な手法を含めて医師偏在対策を検討

規制的な手法を含めて医師偏在対策を検討

【社保審・医療部会】2024年末までに総合的な対策パッケージをまとめる

 社会保障審議会・医療部会(遠藤久夫部会長)は9月5日、厚生労働省が8月30日に「近未来健康活躍社会戦略」として公表した「医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージの骨子案」をめぐり議論を行った。総合的な対策パッケージは2024年末までに決定する。全日病副会長の神野正博委員は、規制的な手法を含め実効性のある医師偏在対策に対する期待を示した。
 一方で神野委員は、検討項目が多く、検討時間も少なく、これまで関係者の合意が難しく手を付けてこなかった対策の検討も含まれていることから、実効性のある対策にならない可能性に懸念を示し、厚労省側の姿勢を確認した。厚労省の担当官は、「年内にまとめるべく検討を進める」と力を込めた。
 神野委員は、他の委員の意見も踏まえ、総合的な対策パッケージを実行した場合の効果として、例えば、「大都会の診療所の開業が減少すること」、「美容医療に携わる医師が減少すること」が評価指標になり得ると指摘した。

保険医の取扱い含めた規制的手法
 医師偏在対策については、骨太方針2024(6月21日閣議決定)で、「医師の地域間、診療科間、病院・診療所間の偏在の是正を図るため」に、検討が必要な対策を列挙した上で、「総合的な対策のパッケージを2024年末までに策定する」と明記した。
 これを踏まえ、8月30日に厚労省として「近未来健康活躍社会戦略」を公表し、骨子案として、3つの対策を柱に医師偏在是正の取組みを推進する考えを示した。3つの対策は①医師確保計画の深化②医師の確保・育成③実効的な医師配置とした。それぞれの対策に対し、具体的な方向性を示した。
 9月5日には、医療部会開催に先立ち、厚労省の医師偏在対策推進本部の初会合を開催。武見敬三厚労大臣を本部長とし、厚労省の関係部局の幹部が出席した。武見厚労大臣は、「医師の偏在対策はもはや待ったなしの課題であり、この解消なしに国民皆保険制度を維持することはできないとの切迫感をもっている」と強調。「私が本部長として全体の指揮をとり、医師偏在の解消を実現すべく具体的な検討を加速化させる」と述べ、「関係部局が一丸となって横断的かつ戦略的に取り組む」と発言した。
 初会合では、骨子案に対する主な論点も示されており、医療部会ではこれらの経緯を踏まえた議論が行われた。
 3つの対策(下の上表)のうち、「医師確保計画の深化」では、現状の都道府県の医師確保計画について、都道府県における医師偏在是正プランの策定と国における重点的な支援対象区域の選定をあげている。第8次医師確保計画(後期)の実施が2027年度であり、計画を強化する考えだ。主な論点(下の下表)では、都道府県の主体的な取組みと、国によるサポートの仕組みが必要としている。
 2つ目の対策の「医師の確保・育成」では、必要に応じて法改正が必要な規制的手法が3つ取り上げられた。
 その1つが、「医師少数区域等での勤務経験を求める管理者要件の大幅な拡大の検討」であるが、委員からは、否定的な意見が多かった。
 例えば、「若い医師で(公立病院の)院長になりたいと思う医師は少ない。医師少数区域等の勤務経験を認定されることがディスインセンティブになってしまう可能性すらある」(楠岡英雄委員・国立病院機構名誉理事長)、「民間病院も後継者選びが大変で、病院を管理できる能力のある医師はあまりいないのが現状。そこに医師少数区域等の勤務経験という条件を課してしまうというのは筋が悪い話だ」(加納繁照委員・日本医療法人協会会長)などの意見が出た。
 法改正が必要な規制的手法としてはほかに、「外来医師多数区域の都道府県知事の権限強化、保険医制度における取扱い等の検討」がある。
 保険医制度における取扱いは、日本医師会の医師偏在の考え方(8月21日)に具体案が示されており、「保険医療機関の管理者として、卒後一定期間の保険診療実績の要件を加え、保険診療の質を高める」という提案となっている。
 背景には、美容医療など自由診療を行う若手の医師が増えている実態がある。委員からは、職業選択の自由という観点があるものの、医師の業務は公益性が高く、多額の公的資金が投入されており、一定の規制は許容されるとの意見が複数の委員からあった。
 そのほか「医師の確保・育成」の対策では、「臨床研修の広域連携型プログラムの制度化」、「中堅以降医師等の総合的な診療能力等に係るリカレント教育」、「医師多数県の臨時定員地域枠の医師少数県への振替を検討」がある。
 リカレント教育については、2025年度予算案の概算要求に盛り込まれた。「臨床研修の広域連携型プログラムの制度化」については、医師がキャリアパスを経る上で、複数の臨床現場に携わり、症例経験を含め様々な経験を得ることができる観点で、賛意を示す意見が複数の委員からあった。
 「実効的な医師配置」については、地域医療介護総合確保基金等による財政措置として、「重点的な支援区域の医療機関や処遇改善のための経済的インセンティブ、当該区域への医師派遣等を行う中核的な病院への支援、全国的なマッチング機能の支援等の検討」が盛り込まれた。また、「大学病院との連携パートナーシップについて、都道府県・大学病院にヒアリング等を行い、対応を検討する」としている。

病院の経営支援に基金活用要望
 同日の医療部会では、「新たな地域医療構想等に関する検討会」の検討状況の報告があった。神野委員は、2点を指摘。まず、医療機関の厳しい経営状況を強調。「地域に必要な医療を提供している医療機関」に対しては、地域医療介護総合確保基金による支援を行うことを要望した。次に、新たな地域医療構想においては、入院医療に加え、外来・在宅医療、介護との連携等でも医療ニーズを量として示し、地域協議の場で活用できるデータとすることを求めた。

 

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