全日病ニュース

古代と、現代の経営から病院を維持するためのヒントを探る

【夏期研修会】「巨大古墳の時代」と「イノベーション」のテーマで講演

　全日病は８月25日、群馬県支部（美原盤支部長、副会長）の主催で、夏期研修会を開催した。テーマは「群馬県から発信された古代、そして現代の経営のあり方から病院運営のヒントを探る」。「古代」については、若狭徹・明治大学教授が「巨大古墳の時代」と題して「倭国の対外活動と東国豪族」を副題に、東日本で最も大きい太田天神山古墳（群馬県）の意味などを語った。「現代の経営」については、アップルの元本社副社長の福田尚久・日本通信株式会社代表取締役社長が「イノベーション」と題して「壊す勇気と覚悟」を副題に、経営者に必要な資質を伝えた。

前方後円墳はヤマト王権の影響の証
　古墳時代は３世紀中頃から６世紀末で、ヤマト王権を中心に祭祀や墓制が統一され、前方後円墳を共有する連合体ができた時代とされる。水上交通と陸上交通のネットワークの中で、南は現在の鹿児島県、北は現在の岩手県までその体制は及んだ。若狭氏によると、古墳時代はヤマト王権の影響力が及ぶ「広域政治・経済・宗教連合」の安全保障体制であったという。
　古墳は王の死後ではなく、生前に着工する地域集団の意識結集・再配分の装置であるそうだ。当時、前方後円墳の多くは海上からその姿を眺めることができたとされ、巨大な人工物の外観を見せつけることで、「王権の存在」という権力の所在を明らかにする意味を持った。群馬県にある太田天神山古墳は海に接していないが、利根川の上流域にあり、河川ネットワークがあったと考えられる。
　日本書紀では、東国豪族の対外活動を確認できる。現在の群馬県は東日本で前方後円墳が最も多く見つかっている場所である。当時の呼び名である上毛野の豪族の中に、「将軍」として蝦夷を攻めた人物や唐・新羅連合軍と朝鮮の白村江の戦いに参加した人物がいたことを資料により確認できる。その豪族の中に太田天神山古墳を増築した人物が存在した可能性が高い。また、５世紀末に上毛野では、朝鮮半島から馬を輸入し国産化。繁殖に成功し、群馬県の名称の由来となった。

30年先の工程表を作ることを優先
　福田氏はアップルが経営危機に見舞われていた時期にその危機をどう克服したかについて語った。1996年頃、パソコン市場はマイクロソフトのウィンドウズにほぼシェアを奪われていた。
　資金繰りも厳しく絶体絶命の状況にあったという。そのような状況で、スティーブ・ジョブズ氏が行ったことは、30年先の事業のビジョンを明確にする工程表を作ることだった。
　資金繰りの確保という目の前の課題よりも長期の工程表を作ることを優先させたことは、結果的にイノベーションを生み出した。当時の幹部は優先順位の立て方に反対したが、ジョブズ氏はリーダーとして周囲の反対にかかわらず断行した。資金繰りについては、マイクロソフトから融資を受けられたという。アップルが倒産すればウィンドウズがパソコン市場を独占してしまい政府により事業分割される恐れがマイクロソフト側にあったためだ。
　そこからアップルの躍進が始まる。30年先の工程表を作る必要があったのは、「現在の状態」と「ゼロベースで考えたあるべき姿」に大きな隔たりがあるからだ。現在の状態を壊さないと、あるべき姿は実現できないと福田氏は強調した。みんなが賛成するまで待つと「too late」になる。反対者がいても決断し実行するリーダーが不可欠という言葉も説得的だった。リスクを取りそれに見合う報酬が支払われる。
　悪い例も紹介された。例えば、「問題を先送りして早急な決断を避ける」、「１人の判断でできるところにも３人の承認を求める」、「何事をするにも『通常のルート』を通す」といったことだ。会場からは頷きの反応が広がった。
　福田氏は現在、前橋市アーキテクトでもある。自助型の未来都市を実現するため、利便性とコミュニティの価値をバランスさせる取組みを行っている。