全日病ニュース

全日病ニュース

ホーム全日病ニュース(2024年)第1064回/2024年10月1日号報告すべき事例かを院内で検討し適切に報告することが重要 医療機関の自律的な行動が問われる

報告すべき事例かを院内で検討し適切に報告することが重要/医療機関の自律的な行動が問われる

報告すべき事例かを院内で検討し適切に報告することが重要/
医療機関の自律的な行動が問われる

【医療安全・医療事故調査等支援担当委員会 緊急座談会】切迫!医療事故調査対応

出席者(敬称略)
厚生労働省医政局 地域医療計画課 医療安全推進・医務指導室 室長 松本 晴樹
全日病 医療安全・医療事故調査等 支援担当委員会 委員長〈司会〉 今村 康宏
副委員長(全日病常任理事) 細川 吉博
特別委員(東邦大学医学部教授) 長谷川友紀
特別委員(弁護士) 宮澤 潤

 2015年に開始した医療事故調査制度は、報告すべき医療事故(医療に起因する予期せぬ死亡)が発生した医療機関において院内調査を行い、その調査報告を第三者機関である日本医療安全調査機構(医療事故調査・支援センター、以下、センター)が収集・分析することで、再発防止につなげ、医療の安全を確保するための仕組みである。全日病は本制度創設当初から制度整備に尽力し、現在も医療事故調査等支援団体として医療安全・医療事故調査等支援担当委員会を中心に研修・周知等に取り組んできた。
 制度開始から10年の節目を迎える2025年を目前に、制度見直しの議論が行われる可能性がある。2023年12月、患者代表の団体が医療事故調査制度改善を図るため、センターの権限強化や制度見直しのための検討会の設置を求める要望書を厚生労働省に提出した。要望書では、医療事故の報告件数の少なさや、報告すべき医療事故が報告されていないといった課題が指摘されている。
 これを受けて、医療安全・医療事故調査等支援担当委員会は緊急座談会を実施。厚生労働省医政局地域医療計画課医療安全推進・医務指導室の松本晴樹室長を招き、今村康宏委員長、細川吉博副委員長、長谷川友紀特別委員、宮澤潤特別委員が、医療事故調査制度の現状と課題について議論した(取材日は7月19日)。

過誤の有無を問わない制度の趣旨
全国調査で周知不足が明らかに


今村委員長

今村 医療事故調査制度は今まさに転換点にあります。2023年12月末の患者団体による要望書で指摘された課題は、我々も日々痛感しているところであり、ますます医療事故調査制度の重要性を認識しています。
 現行の制度では、医療機関が医療事故に該当するかどうかを判断し、遺族への説明やセンターへの報告を行います。医療事故調査は院内調査を基本とする一方で、外部委員の紹介など医療事故調査等支援団体による支援を受けることができます。
 今回の要望を受けて制度の見直しがされた場合、センターの権限が強化されるなどの法制度の変更を含めた新しい段階に入るのではないか、その際は、医療機関のプロフェッショナルオートノミーが働きにくくなるのではないかと危惧しています。
 現状、我々が自発的にできることは何かを考えていきたいと思います。
 まず、長谷川先生が代表を務める令和5年度厚生労働科学研究「外来医療・在宅医療における医療安全上の課題抽出と医療の安全性向上に資する組織的な方策の確立のための研究」から調査結果を共有いただければと思います。
長谷川 当委員会のメンバーを中心とする私どものチームでは2004年から、日本の病院における医療安全体制について、さまざまな形で全国調査を実施しています。日本の医療界の医療安全に対する取組みの経年変化を見ることができる最大規模のデータです。
 今回の調査は3,145病院を対象に郵送で実施し、回答率は14.7%。回答者は病院の代表者、または医療安全の担当者です。
 センターへの報告に当たっての障害を複数回答可で尋ねました。最も多い回答が、「職員が制度を十分理解していない」(31.3%)でした。「診療記録に( 医療事故と)判断できるほどの情報が記載されていない」(19.1%)、「死亡症例をもれなく把握・検証する仕組みがない」(6.1%)といった回答もありました。
 報告対象の判断に関する障害についてさらに尋ねると、「合併症や偶発症との判断、区別が難しい」(48.7%)、「予期せぬ死亡に該当するか判断に迷う」(48.7%)が多く挙げられています。その他には、「遺族に疑義がない症例まで報告するのは抵抗感がある」(19.1%)、「医事紛争につながるとの不安がある」(16.5%)などが挙げられました。
 届出後の原因究明にあたっては、「原因究明をする人と時間の確保が難しい」(46.1%)、「客観性の担保が難しい」(27.8%)、「院内に医療安全、事故調査の専門家がいない」(24.3%)、「原因究明の方法や内容が適切であるかどうか判断できない」(22.6%)などの障害が多くあることがわかります。
 実際にセンターに届け出た病院に対して何か院内体制で変わったことがあったかとの質問には、3分の2は「あった」と回答。具体的には、「マニュアルやルールの作成・改訂」「院内の安全文化の醸成」「事故が疑われる事例が発生した場合の対応方法」「医療機器・機材の統一・標準化」「院内認定制度の導入・見直し」などが挙げられました。最終的な満足度は、「満足」あるいは「どちらかといえば満足」という病院が4分の3となり、実際苦労した分、プラスに評価していることがうかがえます。
 制度全般に対する要望としては、「医療事故調査制度の名前が個人への罰則あるいは病院の責任をイメージさせるので、原因究明制度と名称を変えたほうがよい」「報告内容に過不足がないか、検討した内容など、センターからのフィードバックがほしい」「届出をすることによる病院へのメリットが明らかでない」との声があがりました。


長谷川特別委員

今村 医療機関にとってさまざまな障害・困難があることを改めて認識しました。報告すべき事例が果たしてしっかりとされているのか、全日病としてもしっかりと見極めて対応していかなければならないと考えます。
 松本先生、調査結果を踏まえたご見解はいかがでしょうか。
松本 医療事故調査制度は来年で10年の節目を迎えます。制度への注目が再び高まっている状況にあり、改めて制度の意味や内容を理解していただく重要なタイミングだと思います。
 長谷川先生の研究結果を見ていても、病院ごとにしっかりやっていただいている一方で、例えば、「過誤の有無を問わない」とする現在の医療事故調査制度に対する誤解があると感じました。
 病院管理者や職員に、改めて制度周知をしていくこと、そして報告すべき医療事故の定義の考え方などをしっかり周知していくことが重要ではないかと考えます。
今村 制度に関しては周知が十分ではないところが実際あり、非常に大きな問題です。
 宮澤先生は制度の開始当初から厚労省の検討会等で携わっていらっしゃいますが、どのようにお考えですか。
宮澤 周知のあり方として、「医療起因性」と「予期せぬ死亡」の2つの要件が重要であり、「過誤の有無を問わない」ということを中心に考えていく必要があります。医療機関はやはりどうしても過誤の有無を問われるのではないかと恐れ、訴訟が頭をよぎり、調査をためらうという側面があるからです。
今村 過誤の有無を問わないという制度の趣旨を改めて十分に理解いただく必要があると思います。

判断に迷い報告をためらう
センター調査の体制も課題


松本室長

長谷川 議論に当たって、「全体として報告数が少ない」点と「報告すべき事例が報告されていない」点は区別したほうがよいと思います。
 前者に関しては、医療事故情報収集等事業等のデータから制度設計時に予想した件数に比較すると報告件数が少ない。当初は制度が周知されてないがゆえに報告数が少ないということは当然あり得ますが、そうであれば徐々に増えていくはずです。しかし、年間の報告件数は9年間ほとんど変わってない。過小報告があるのか、あるいは当初の予想が誤っていたのかのどちらかです。
 センターの資料を見ると、特定機能病院で9年間に1例も報告がないという病院があります。これはいささか奇異な印象を受けます。年間1~2万人の患者が退院している高度医療を提供する病院で死亡退院率が1%と考えても、死亡退院数は100~200例です。そういった病院で報告すべき医療事故が1例もない状況が9年間続くことは、なかなか考えにくいです。
 検知能力が低ければ、医療事故を把握、あるいは判断できません。検知能力を高めて、少しでも疑問があった場合は調査するというのが医療機関の基本的な姿勢ではないかと、私自身は考えています。
今村 医療事故に該当するかどうかについては医療機関の管理者が判断します。医療機関の管理者に報告義務があり、医療機関が判断に迷った場合は、センターに相談することができます。その際、センターでは複数の医師や看護師による「センター合議」を行い、この結果を医療機関に助言します。
 遺族等からセンターに相談があった際には、遺族からの依頼により、相談の内容等を医療機関の管理者に伝達することもあります。
 そのような中で、「報告すべき事例が報告されていない」点についてはどのように捉えるべきでしょうか。
長谷川 センターが医療機関からの相談に対して「報告すべき」と回答しても、報告されない事例が一定数あります。この他、意図しているかは別として、さまざまな過程で報告すべき事例が漏れている可能性があり得ると思います。
松本 センターも限られたデータで判断しているため、事故として報告がないことに対して、機械的にすべてがおかしいとは言い難いでしょう。しかし、センターから「これは事故としての報告対象ではないか」と言われたときの受け止め方や、その意味合いについては、各医療機関でもう一度考えていただければと思います。
 一方で、センターのほうでも、もう少し医療機関が理解できるような丁寧な対応が必要かもしれません。
 やはり制度への理解と、専門家によるサポートが重要と考えます。全日病をはじめ全国の支援団体による各医療機関への助言の質が向上するように、厚労省としても取り組んでいきたいと考えています。
宮澤 報告数が少ないというのはその通りですが、もしそれが増加した場合、今のセンターが調査を受け入れられるのかといった体制面の問題があります。
 現在のセンター調査は報告から結果が出るまでに平均で約2年の時間がかかっています。報告件数が増えた際に、それ以上の時間がかかってしまっては、再発防止に取り組むという制度そのものの意義や効果が薄れてしまいます。2年以上というのは結果を待つ側にとっては耐えきれない長さです。実際に、センター調査の報告を待てないということで訴訟になってしまった事例を、現在私自身が抱えています。
 センター調査そのものを充実させるといった点も、同時並行で考えていく必要があるでしょう。
今村 センター調査に3年や4年といった時間がかかっている場合もあり、当時関わったスタッフがどんどんと辞めてしまい、調査が難しくなるとも聞いています。
長谷川 ご指摘のようにセンターのキャパシティが限られているためにセンター調査に長期間を要しており、制度としての実効性を低いものとしています。その点については、学会や病院団体などへのアウトソースが1つの手段になると考えます。案件の難易度や複雑性を加味してアウトソースすることを検討してもよいと思います。

外部の目は医療の質向上に寄与
病院は医療安全に責任がある


細川副委員長

細川 当院では医療安全管理室を設置し、死亡事例をすべて抽出しており、私自身が確認するようにしています。今ではすべてセンターに相談する方針としていますが、正直なところ、最初のうちは判断に迷うことがありました。
 先ほどの長谷川先生の調査の中で、「届出をすることによる病院へのメリットが明らかでない」との言葉がありました。病院の立場からすると、遺族があまり疑義を感じていないところをあえて取り上げて、大きな問題を起こすことへの抵抗感があるのだと思います。病院が届出に積極的に取り組んでいけるような環境に今あるかどうかが、一番大きな問題ではないかと考えます。
 また、医療事故調査制度の名前そのものが、過誤を前提に置いているようなイメージがどうしてもあるのではないかと感じています。
 おそらく病院は、届け出た後にこの結果がどうなっていって、自分たちの病院がどうなるのかよくわからず不安になるのではないでしょうか。
 したがって、この辺を上手くリードしていくことを考えていくべきですが、現状なかなか難しい問題です。
宮澤 届出のメリットはあると思います。それがまだ浸透していないので、届出の数が少ないというところにつながっているのでしょう。
 医療法で示されているように、院内調査は原則として第三者の専門家を入れて行います。すると、外部の目を通して、自らの医療が改善する契機が得られる可能性があります。これは、2009年に開始した産科医療補償制度で、原因分析委員会が調査報告書を作成することによって、脳性麻痺の発症率が減少してきたことと同様のことが考えられるのではないかと思います。第三者の目が入ることが医療の質の向上につながる点を強調すべきです。
 名称の問題について、これは私個人としては非常に不思議に感じています。例えば、「交通事故」は運転者に過失があるものも、運転者に過失がなくて歩行者が突然出てきて事故になってしまった場合も、交通事故と称されます。このように、過失の有無にかかわらず事故という言葉は一般的には使われている。にもかかわらず、医療事故だけがなぜ過失があることを前提にしているのか。不思議な偏りがあり、まずはそこを一般的な用語に合わせて考えていくべきです。
 細川先生のご意見は、まさにその通りだと思います。病院にとっては、今後何が起こるかわからないという状況が一番の不安になるわけですから、最悪の状態になった場合の対応方法を最初から示しておけば、その不安要素を取り除けるのではないかというのが、私の考えです。
 例えば過失があったことを病院が認めるのであれば、今後の改善策を示しながら損害賠償をします。これは賠償責任保険の中で対応するため、病院に直接金銭的負担が生じるわけではなく、弁護士に相談することで、十分に対応できます。
長谷川 どうなるかわからないという不確定性が軽減されて安心感につながるという点は、私自身も全く同意見です。医学的な原因究明には専門家が関与し、金銭的な話は多くは保険で支払いが行われます。
 現実には病院がメリットを直接感じることは少ないかもしれません。しかし、安全を考慮しない、法律違反を放置する組織が存在し続けるのか、志の高い人材がそこに集まるかどうかを考えれば、制度を軽んじた状況が継続することはあり得ないということは明らかです。
 病院は地域に対して大きな責任があります。だから「安全ではない病院」に対して、患者や地域の住民は当然不安を抱きます。働いている人たちも、自分が医療事故の当事者になるリスクが高い病院では働きたくないはずです。メリット・デメリットの話というよりも、医療法に基づき粛々と対応すべきことではないかと考えます。


宮澤特別委員

医療事故を適切に判断する
体制・評価の見直しが必要

今村 医療機関が抱えるさまざまな課題に対して、どのように支援していけばよいでしょうか。
長谷川 死亡状況を把握する仕組みが十分でないと、そもそも医療事故かどうかを判断できません。死亡事例について、医療に起因するか否か、予期したかどうかを院内で適切に把握・共有できるようにする必要があります。
 報告すべき医療事故を適切に判断するために医療機関がやるべきことを明確にすること、そしてそれがきちんと対応できている場合は診療報酬などで適切に評価することが大切だと思います。例えば、現状の診療報酬の医療安全についての評価内容は不十分であり、見直しが今後検討されるべきと考えます。
今村 ご指摘の通り、実施に特定機能病院や高次医療機関の医療安全担当者からは、「時間と労力、そしてお金が非常にかかる」との声を聞きます。医療事故調査制度に参加し、積極的に院内調査を実施している医療機関に対する支援を手厚くしていく必要があると考えます。
 この点について、今後厚労省としてもさらにサポートを増やすことはお考えでしょうか。
松本 しっかりと院内事故調査をしていただくための体制整備が必要と考えており、現場の声を聞きながら、医療事故調査制度以外でできることも含めて、医療安全が進んでいくように考えていきたいと思っております。
 医療事故調査制度は再発防止のための制度であり、「遺族が事故だと思ったから事故に該当する」というものではないことは大前提です。一方で、「事故の定義に合致するかどうか」については、しっかりと医療機関の管理者が判断していただく必要があります。遺族から「事故ではないか」と問われた際にも、該当性について、丁寧に説明いただきたいと思います。
 また、院内事故調査に対して、センター調査が求められる数は、十分の一程度であり、実際の調査結果については一定の納得が得られていると考えることもできるかもしれません。
長谷川 たとえ件数が少なくても社会的な注目を集めるので、その影響を危惧しています。医療事故の判断や遺族への説明など、医療機関側が適切に対応できるよう、全日病を含む、様々な支援団体がサポートすることで、ソフトランディングができないかと考えています。
松本 医療界が前向きに取り組んでいるという姿勢を社会に発信していくことで信頼性が向上する効果も期待できると思います。
 医療機関を技術的にサポートする支援団体からの支援の強化・充実について、省内で検討しています。そういった中で改善できればと考えます。

国民に対する制度周知も重要
医療機関の自律的な対応を求める

今村 今日のお話では、制度のさらなる周知が重要とのご指摘が多くあがりました。周知に関しては、医療者だけではなく、一般の国民に対しても、医療事故について正しく理解いただくことが必要と考えます。
 そのような中で、全日病は医療事故調査制度の適切な運用のために、注意喚起の文書を作成しました(図表)。本内容は会員向けに定期的に周知する予定です。
松本 この時期に全日病として発信していただけるのは意義があることだと思います。
 医療事故調査制度の普及啓発については、国としてもさまざまな取組みを進めています。厚労省が毎月発刊している広報誌では、昨年11月に医療安全の特集を掲載しました。
 医療事故調査制度はどういった制度なのか、「責任追及を目的とするようなものではない」というような制度に関する情報を発信していくこと、それを国民に広く理解いただくことは重要だと思っています。
長谷川 全日病も過去に制度について周知するため、ポスターを作り、会員病院に配布して掲示を求めました。
 最近では、遺族の疑問に対して病院が適切に対応せず、問題化している事例が複数あります。それをメディアが大きく取り上げて、制度的な問題として浮上しています。だからこそ、改めて会員病院に対して一般に向けた周知を求めることが、今回の座談会の狙いであることを強調したいです。
松本 この制度が始まったときは、「医療界のプロフェッショナルオートノミーに任せる」との位置づけでした。医療界がいったん信頼を預かっている状況ですので、それに対してしっかり応えていかないと、医療界への目が厳しくなります。逆に信頼性が向上すれば、日常の診療もスムーズになる等の効果も期待でき、様々な良い循環につながる可能性があると思います。そのような点も含めて医療界自体が適切に理解することが必要だと思っています。今回の座談会を契機に、全日病での取組みを進めていただければ非常にありがたいです。
今村 ありがとうございます。今回の注意喚起を一つのきっかけとして、医療界のオートノミーがさらに働いて、患者や国民が納得できるような対応を医療機関が行うことで、最終的に医療の安全がより高まることを期待しています。全日病でも医療の安全確保につながるよう引き続き尽力します。
 先生方におかれましては、今後とも我々の活動に、ぜひご支援ご指導をお願いいたします。


 

全日病ニュース2024年10月1日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
本コンテンツに関連するキーワードはこちら。
以下のキーワードをクリックすることで、全日病サイト内から関連する記事を検索することができます。