全日病ニュース

全日病ニュース

ホーム全日病ニュース(2024年)第1065回/2024年10月15日号医学部恒久定員内の地域枠活用を議論、宮崎大学の事例紹介

医学部恒久定員内の地域枠活用を議論、宮崎大学の事例紹介

医学部恒久定員内の地域枠活用を議論、宮崎大学の事例紹介

【医師養成過程を通じた医師偏在対策等検討会】地域枠を確保しつつ、将来的な臨時定員枠の解消が狙い

 厚生労働省の「医師養成過程を通じた医師の偏在対策等に関する検討会」(遠藤久夫座長)は9月20日、政府が年内にまとめる医師偏在是正に向けた総合的な対策パッケージを踏まえ、医学部の恒久定員内地域枠の活用を議論した。厚労省は、恒久定員内で地域枠を増やせれば、地域枠を確保しつつ、臨時定員を減らす環境整備が進むと考えている模様。ただ、全日病をはじめ病院団体は、医師偏在対策の効果が明確にならない限りは、臨時定員は継続すべきとの意見を持っている。
 同日は、宮崎大学の恒久定員内地域枠拡大の事例が紹介された。構成員からは、他大学への広がりに期待し、どのようにして関係者の合意を得ることができたのかなどの質問が相次いだ。
 医学部の臨時定員については、2026年度まで現状の定員を維持することになっている。その際に、医師多数県の配分は減らす一方で、医師少数県や一部の中程度県の配分については、増員の意向を確認した上で、配分を増やす方向にある。2025年度の臨時定員の具体的な調整が現在行われている。
 将来的には、人口減少により医療需要は減少するため、いずれ臨時定員の削減を行う時期は来る。その環境整備の一環として、医師偏在対策としての効果が一定程度認められている地域枠を活用し、定員内地域枠の設置の推進を図っている。

宮崎大学の恒久定員内地域枠の事例
 同日は、宮崎大学の恒久定員内地域枠拡大の事例が紹介された。宮崎大学では、2022年度以降、医学部入学定員の臨時定員地域枠の設置は行わず、恒久定員内に地域枠を新たに15名拡充した。臨時定員増は行わず、医学部入学定員は110名から100名に縮小した。一方、教職員の負担軽減や教育資源の確保ができるため、研修体制が充実し、今後の学年進行にあわせて診療参加型臨床実習の指導にも質向上が期待されるという。
 地域枠に理解を得る取組みとして宮崎大学側は、地域枠の医師に課される従事要件について、受験する学生に丁寧に説明することが大事であることを強調した。また、関係者間の合意をどのように得たのかの構成員からの質問に対し、宮崎大学側からは、地域枠の専門医を総合診療専門医に限るなどの制約を課していないことの説明があった。このため、いわゆる「マイナー科目」での専攻医確保が難しくなることを警戒し、関係者が定員減に反対することも少なかったという。
 宮崎大学では、「宮崎県医師養成・定着推進宣言」を行っている。高齢化や医師の地域偏在が進み、「医師少数県」でもある。医師が宮崎県に「残る」のではなく、「選ばれる」ことを目指し、◇地域枠の適切な定員設定と医学生教育の充実◇宮崎県キャリア形成プログラムに基づく若手医師の養成・確保◇医師の勤務環境の改善による県内定着促進─を掲げている。

総合的な診療能力のリカレント教育
 総合的な診療能力を有する医師の育成・リカレント教育も議題となった。超高齢社会を踏まえ、総合的な診療能力を有する医師が増えることが求められているが、日本専門医機構の基本診療領域における総合診療専門医を選択する専攻医は少ない上に、専門医として活躍するには年数がかかる。
 キャリアパスを構築する事業や、専攻医募集時の都道府県別・診療科別の募集定員上限設定(シーリング)において、総合診療専門医は対象外とするなど、いくつかの普及策が講じられており、採用数は徐々に増加している。2025年度政府予算の概算要求では、総合診療専門医のキャリアに関するサポートや勤務先の調整、他科からの転向支援など行う総合診療医センター(事業実績8大学)の拡充を、厚労省は財務省に要望している。
 一方、中堅の医師が地域で必要な診療科として、総合的な診療能力を学び直す際に、「システムとして学び直す機会」を設けることも重要な取組みとなる。厚労省概算要求では、リカレント教育(総合的診療能力)のための全国推進事業を新規で要望している。総合医育成プログラム事業を実施している全日病をはじめ病院団体の役割も期待される。
 また、医師養成過程における診療科選択の資料が示された。2008年を1.0とした診療科別医師数の推移をみると、2022年の指数は、リハビリテーション科が1.6を超えており最も指標が高い。次いで、形成外科(1.52程度)、麻酔科(1.46程度)が高い。指数が低いのは、外科(1.0程度)、耳鼻咽喉科(1.05程度)、眼科(1.08程度)となっている。
 日本専門医機構の調査によると、現在の基本診療領域を「選択した理由」(複数回答)で8割を超えているのは、小児科(86.0%)と産婦人科(81.5%)の「やりがいを感じるから」であった。逆に、希望していた基本診療領域を「選択しなかった理由」(同)では、脳神経外科の「ワークライフバランスの確保が難しいから」が41.4%、臨床検査の「その他」が50.0%、総合診療の「将来的に専門性を維持しづらいから」が39.8%で高くなっている。

医師の年齢など考慮し配慮を行う
 厚労省が年内に医師偏在対策の総合的な対策パッケージを策定することを踏まえ、今後の医学部定員の配分の考え方についても一定の合意を得た。
 2026年度医学部臨時定員の配分において、医師多数県の臨時定員地域枠を一定数削減する一方で、若手医師が少ない場合や医師の年齢構成が高齢に偏っている場合などは配慮するとした。例えば、熊本県や徳島県は医師多数県だが、35歳未満医師数は15%未満で低い。徳島県、同じく医師多数県の長崎県、高知県は65歳以上医師数が多い傾向がある。
 ただ、構成員からは、現状の医師偏在指標でも年齢別の労働時間などは考慮されていることから、配慮は限定的な範囲で行うべきとの意見があった。
 また、2026年度までに恒久定員内地域枠を一定程度設置するなど、さらなる県内の偏在対策に取り組む都道府県については、配慮を行うことでも概ね意見が一致した。
 なお、対策パッケージで求められた医師養成過程を通じた医師の偏在対策は、基本的にはこれまで同検討会で議論してきた偏在対策に沿っているため、新たな対策を案出するよりも、従来の議論を継続することに注力する。

 

全日病ニュース2024年10月15日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
本コンテンツに関連するキーワードはこちら。
以下のキーワードをクリックすることで、全日病サイト内から関連する記事を検索することができます。