全日病ニュース

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各構想区域で療養病床の整備数をどう考えるかが構想実現の鍵

【寄稿地域医療構想策定ガイドラインと「専門調査会第1次報告」について】

各構想区域で療養病床の整備数をどう考えるかが構想実現の鍵

回復期の理解も重要ポイント。入院(入所)と在宅ネットワーク化の成否を握る地域包括ケア病棟

3. 数字の考え方
 筆者の個人的見解として、今回の推計は厳しめの値になっていると考える。
 したがって、各構想区域で検討された結果を積み上げた病床数は現状を追認した152万床と115万床の間になると考えるのが妥当だろう。
 ただし、国全体としては、現在より病床数を増やすことは財政的に難しいであろうから、実際の目標値は135万床と115万床の間になるのだろう。こうした推計値を地域医療構想調整会議ではどのように活用されるべきだろうか。以下、筆者の考えを述べてみたい。
 まず、今回の専門調査会報告で示された数字は厳密な意味では目標ではない。
 目標となる病床数は各調整会議でそれぞれ決めるものである。高度急性期、急性期、回復期は、一般病床について、医療行為の投入量等を参考に現在の平均在院日数と受療率をもとに推計した結果であり、この推計値が大きくぶれることはないだろう。
 おそらく、回復期というものを正しく理解することが議論を円滑に進めるためのポイントとなる。ここで言う回復期は「回復期リハビリテーション病棟」のみをさすのではなく、かつて全日病が提唱していた「地域一般病棟」1)も含む概念である。したがって、いわゆる亜急性期も含まれる病床概念であり、平成26年度の改定で導入された地域包括ケア病床がもっとも概念にあう病床である。
 医療と介護、入院・入所と在宅をネットワーク化する上で、地域包括ケア病棟の整備はその成否の鍵を握っていると筆者は考えている。
 地域医療構想策定ガイドライン検討会座長の遠藤教授も述べているように、焦点は「急性期から回復期への分化」なのである2 )。したがって、地域の民間病院を中心に、この回復期病床をいかに整備すべきかが調整会議における重要な議論のテーマの一つになる。
 この際、回復期病床では在宅復帰や在宅医療を支える機能が重視されることを考えれば、この病床を持った病院の地理的配置が十分に検討されなければならない。構想区域内で地域包括ケア病床等の回復期病床がどこかのエリアに集中してしまうと、本来の機能が発揮できない。この点について留意が必要である。
 構想区域における総病床数を決めるもっとも重要なもう一つの論点は療養病床をどの程度整備するかであろう。
 図1の推計では介護施設や在宅医療で対応する患者数として29.7~33.7万人を想定しているが、こうした患者を各地域でどのようにケアするのか、具体的には療養病床、介護施設、在宅のそれぞれでどれだけケアできるのか議論されることになる。具体的には地域包括ケア体制を各地域でどのように整備していくのか、特に、医療・介護の保証された住をどのように整備していくかが鍵となる。
 仮に、今回在宅及び介護施設で対応可能とされた患者をすべて療養病床でケアすると決めるのであれば、その分は慢性期病床に積み上げることになる。
 ただし、そのための人的資源及び財源の確保に関する検討も必要である。
 医療職、特に看護職を確保できるか否かは、人口が減少する地域において現在の病床を維持できるかどうかのもっとも大きな制約条件になる。しかも、こうした地域では、現在そこで働いている医療職も高齢化していく。そのような条件下で、どのように医療と介護を保証していくのかということを冷静に検討する必要がある。
 現在、我が国では年に1万床以上の病床が「自然減」しているが、その原因の多くは人的資源の不足によるものだと推測される。ここで留意すべきはこのような病床の減少が起こっている地域でもニーズは十分あるという点である。
 無計画な自然減を放置しておけば、当該地域の厚生水準は著しく低下する。したがって、このような地域では病床をダウンサイジングすることで地域の「病院」機能(場合によっては有床の多科診療所でもいいのかもしれない)を維持し、減床した分を医療介護が保証された「住」に機能転換するということの可能性についても検討すべきであると考える。
 加えて、人的資源に余裕のある他地域からの支援も必要であり、このようなことも地域医療構想の中では議論されなければならない。
 ちなみに、高度急性期・急性期病床については、専門医制度における認定施設との関係を考える必要がある。外科系専門医の認定・更新には領域別の手術数などが定められるため、それにあった施設の配置が求められることになる。各都道府県では医師会の調整のもと大学病院等との協議が必要になる。
 なお、各地域における傷病構造の変化(図8)や各病院の所在地から30分圏内の人口における入院患者数の推計(図9)、各地域の介護需要の推計(図10)など、上記のような推計結果を踏まえて各医療機関が今後の経営を考えるためのツールや参考資料については、当教室のホームページ3)からダウンロードあるいは閲覧できるので参考にしていただければと思う。

4. まとめ
 地域医療構想の本来の目的は病床を削減することではなく、2025年の傷病構造及び医療・介護を担う人材の状況を考慮した上で、各地域の住民の安心を保証するための医療介護提供体制を構想することである。
 低経済成長下の少子高齢化という厳しい現実を踏まえて、各地域の医療をどのように保証していけばよいのかということを、医療関係者が主体となって構想していくというのが今回の事業の大きなポイントである。
 また、地域医療構想の策定プロセスは医療の現状を関係者に理解してもらい、医療に対して適切な理解とファイナンスを獲得していくための絶好の機会であると筆者は考えている。その意味でもデータを開示し、そしてオープンな議論が行われなければならない。
 いずれにしても今回示される数字はどれも絶対的なものではない。将来のことを正確に予想することはできない。
 継続的に見直しを行いながら、2025年の各地域の傷病構造にふさわしい提供体制を漸進的に構築していくのが今回の構想であると考える。拙速ではなく、冷静かつ実際的な議論が各地域で行われることを期待したい。
 なお、地域医療構想の考え方については医学書院発行の「病院」誌に連載をしているので、関心のある方は参照していただければと思う。また、推計ツール等を含めて具体的なデータをどのように検討すればよいかについてもまとめているのでそちらも参考にしていただければ幸いである。

図5 機能別病床推計の具体的手順

図6 病床機能の推計方法

図7 将来推計の方法

図8 大阪三島医療圏の傷病別患者数の推移(入院)

図9 30分圏域の入院患者数の将来推移(大阪医科大学病院)

図10 大阪高槻市の介護需要の将来予測