全日病ニュース

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「構想ですべて決まるわけではない。その後の協議こそが重要」

【神田医政局長】

「構想ですべて決まるわけではない。その後の協議こそが重要」

西澤会長「1〜2年で結論という話ではない。2025年に向け地域でしっかり話し合うべき」

西澤 新年明けましておめでとうございます。2016年は地域医療構想が策定されるなど、2025年に向けた医療提供体制の改革はまさに重要な局面を迎えています。
神田 おっしゃるとおり、2025年に向けて病床の機能分化・連携を進めていく非常に大事な時期を迎えています。各都道府県は構想策定の真っただ中にありますが、厚生労働省としても、2016年度前半に策定を終えてほしいと都道府県にお願いしているところです。
西澤 地域医療構想に関しては、構想区域がどうなるのかがまだ明確ではない上、各区域の調整会議も十分開かれているとはいえません。今後どういう状況が生じてくるのか、医療機関には戸惑いがあるというのが正直なところです。
猪口 構想策定の進み具合は都道府県によってだいぶ違いますね。それだけでなく、各都道府県で理解の仕方が違っているという印象を受けます。中には、2025年の推計値に合わせることで事足りるかのような受け止め方をしている県もあるように思えます。
 本当は、その地域の、特に入院医療のあり方を論じなければならないと思うのですが、病床数を合わせることが目標になっているのです。あれはあくまでも推計に過ぎず、その病床数を取り上げる前に、各地域の提供体制の現状と将来について話し合わなければならないことが多々あるのではないかと思うのですが。
神田 昨年の10月段階で、32 の都道府県で構想区域レベルの調整会議が設置されています。そのうち20 ぐらいの県は2015年度内に策定を終える予定です。ただ、中には、何回か会議等を開いたが議論はまだこれからというところもあると思います。
 都道府県には推計ツールを提供していますので、まずは2025 年の推計値を出す、その上で、病床機能報告の現状とを比べて、その分析を行なうことによって各地域における課題を抽出し、それをどういうふうに解決していくのかということを議論していただくことが大切だと思います。
 そうはいうものの、例えば、療養病床と在宅医療等との地域差をできるだけ解消していくという方針の部分でどういう率を選ぶのかといったように、関心がもっぱら推計をどうするのかというところに向いている県もあるかもしれません。しかし、推計値を出さないと何が問題かという議論も始まらないわけですので、これから議論が深まっていくものと期待しています。

医療のグランドデザインを考える県もあれば様子見の県もある

安藤 東京の場合は5疾病5事業の推進と現行の2次医療圏がうまくかみあっていないという状況があります。そこで、地域医療構想の策定を契機に、病床規制は病床整備区域という圏域で臨み、医療計画に関しては事業推進区域という圏域を設け、この2つを連動させながらやろうという案が出ています。
 それと、まず初めに、自分たちの都道府県でどんな医療をしていきたいのかということで、病院団体からの委員も一緒になって、東京都における医療のグランドデザインをつくろうということになっています。
神田 まずビジョンをつくるというのは全くそのとおりでして、推計病床数と現状の比較から地域における課題を導くだけでなく、その地域の医療をどうしていくのかという、あるべき姿も併せて議論していくというやり方が望ましいと思います。
神野 私の病院は石川県にあるのですが、石川県と京都府は取り組みの遅い府県らしいです。「診療報酬改定がみえない中で取り組んでもしかたがない」という気分が、県にも、地元の医療機関にもあります。2016年度改定の中身がみえてから真剣に考えようということで、どうものんびりしているようです。
 現在は地域のグランドデザインについて話し合っていますが、2025 年までにはまだ同時改定もあり、それによる影響も考えられる。今グランドデザインをつくってもそれに見合うだけの内容になるだろうか、ということで様子見を決め込んでいる状況です。
神田 2016 年度改定をみてからということですが、では、2016 年度改定が終わったら決断できるのでしょうか。
 2016 年度前半に多くの県で地域医療構想が策定されて全体の状況がみえてきます。では次にどうするかというときに、今度は2018年の同時改定をみなければできないなどと言っていたら、一体いつになったらできるのでしょうか。(笑) 個々の病院の経営判断はもちろんあるでしょう。しかし、将来の医療需要を推計した上で、現在の地域における病床機能の実態をどう考えていくかという議論は、それはそれとしてあるのではないかと思います。さらに言えば、構想をつくった後こそが大事なのです。構想ですべて決まるわけではありません。その後に、どう調整していくのかということが問われるのではないでしょうか。
 病床機能報告では6 年後の機能も報告してもらうようにしました。それは、6 年というスパンを経て、病床の機能を転換したいあるいは転換するために建て替えをしたいという医療機関が出れば、それが議論のきっかけになるのではという期待からなのです。
 現実に建て替えるところが出てきて、例えば「急性期の機能を増やしたい」と言ったら地域全体としてどう考えるのか。そういう議論がおのずと始まっていくことでしょう。建て替えをする医療機関が、その地域で、長期の医療需要も見通しながら経営していけるかどうかという議論をしていく必要があると思うからです。
西澤 しかし、2016 年度前半に構想を策定するということに、厚生労働省と我々医療機関との間には認識の違いがあると感じます。構想区域ごとに、2025 年には機能別にこれだけの病床が必要だということを確認する。その上で自院はこうしたいと考える。そこで、それをもとに話し合おうというのが構想の意図だと思います。しかし、現実には、各医療機関はこの1〜2年でどこかの機能を選ばないとならないという感じを受けているのです。
 2025 年には人口も2〜3割減ることでしょう。それを踏まえると医療提供の姿はこうなるというのが最終的な話になるわけです。それを推計値に即合わせてしまうと、人口が減っていないのに病床数が減っていくため、医療が提供できなくなってしまいます。やはり、地域の医療機関が随時顔を合わせながら、足りない機能をどこがどうやって補っていくか協議していくというように一歩一歩取り組んでいく。そして、最終的に2025 年に推計値に合えばいいということではないでしょうか。
 病床機能報告は毎年出すわけですから、毎年変化していく病床の実態が分かります。それを踏まえて地域で話し合いをしていくという前提のもと、とりあえず、今ある材料でいくと将来はこうだろうという案を2016年度に1つつくるということではないでしょうか。
神田 大きくは違わないと思います。
 毎年の報告を得て、足元の状況と将来の医療需要推計を見比べながら、地域の課題をどうするのかを話し合うということだと思います。したがって、地域医療構想を策定すればそれで終わりということではありません。
 構想には「2025年のあるべき医療提供体制を実現するための施策」が書かれます。だからといって、地域のA病院とB病院の機能をこう再編するというのが短期間にできるわけでもありません。むしろ、その後の継続的な話し合いが非常に大事だというふうに思っています。その意味で認識に違いはないと思います。

療養病床は削減すればいいという単純な話ではない

西澤 局長のお話で分かるように、全日病と厚生労働省の間に認識の違いはありません。しかし、会員病院の受け取り方をみていると、「病床機能別の推計値にすぐに合わせなければならない」とか「この2〜3年の間に自院はどこかに行かなければならない」といった、誤解に基づく焦りがあるように感じられます。
神野 これはたまたま受けた相談ですが、各2次医療圏の推計値をみて、「自院は非耐震・非スプリンクラーだから、病院をやめて診療所にしたい」っていうのです。推計値が足を引っ張っているのです。もちろん「早まるな」って忠告しましたが。(笑)猪口 特に西の方は療養病床が多いために、県によっては「療養を30 何%減らす」といった報道がなされると地域の医療機関は浮足立ってしまうのです。本当は建て替えで十分対応できるはずが、「建て替えてもしかたがないようだから、このまま行ってしまえ」みたいなことにならないか、ちょっと怖い気がしますね。
織田 療養病床が非常に多い九州でも、昨年の推計値の発表で病院は非常に慌てています。病床の機能分化・連携というのは、人口の動態と医療ニーズの変化を見ながら徐々に誘導していくべきものだと思うのです。それが、ある日突然「病床が過剰」という形で出たものですから、療養病床の患者の一部を在宅に移すといっても具体的にはどうするのか、緩和ケア病棟はどこの機能に入るのか、地域包括ケア病棟はどうなるのか、まだ、そういう段階の混乱が続いています。
神田 今回の医療需要の推計では、「在宅医療等」には、居宅だけでなく、特養、老健施設、軽費老人ホームなどの施設も入っています。療養病床の推計では、医療区分Ⅰで医療度が一定程度低い方は在宅で療養できるのではないかという視点から、それを地域全体でどう受けとめるかを検討していくことになります。これは短兵急にできるものではないし、現実に今療養病床に入院している高齢者も大勢います。したがって、そこは並行して進めていく必要があります。
 昨年末に「療養病床のあり方等に関する検討会」が新たな施設類型を含む選択肢を示しました。それを介護保険部会と医療部会で議論していただきますが、在宅等というのは幅の広い考え方であり、療養病床か居宅かという単純な選択ではないと思います。
織田 厚生労働省が示した療養病床の都道府県格差はきわめて大きいものがあります。こうしたデータが現場に大きな影響を与えて、混乱に拍車をかけています。我々も、そんな単純な話ではないという説明をしていますが、なかなか全部に行き渡らないので、地域における議論はまだ混迷状態にあります。
神田 療養病床受療率の地域差を解消していくためには、受け皿を整えていく必要があります。先ほど申し上げたように、そこには中間的形態が色々あるかと思います。その選択肢をしっかり議論し、各地域でどのようにするのか考えていただくことになります。
西澤 そういうことではあるのですが、簡単に言えば、療養病床を減らさなければならないということで現場は慌てているわけです。しかし、推計方法として、そんな単純に「医療区分Ⅰの7割を在宅でみなければならない」とはなっていないはずです。
 これはやはり、我々現場サイドが医療区分Ⅰの7割を在宅で本当にみられるかどうかを調査して、確かに可能だというデータを得た上でその方向に向かえばいいのであって、そうすることなくただ慌てふためいているのだとすると、我々提供側にも問題があるといわれてもしかたがないとも思います。
 療養病床に限らず、単純な数字合わせではなく、今の患者や利用者に質の高いサービスをきちんと提供するためにはどうあるべきかという検討を行なった上で、では、その方向の中でどういう施設が必要なのかを考えるという手順を踏むべきで、あくまでも患者に視点を当てたかたちで方向づけるというようにしていくのが我々の役目だと思うのです。
猪口 そういう視点とか手順を踏む必要を都道府県にも分かってほしいものですね。(笑)

 

全日病ニュース2016年1月1日・15日合併号 HTML版

 

 

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