全日病ニュース

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西澤会長「調整会議が機能すれば医療提供者が提供体制に関与できる」

西澤会長「調整会議が機能すれば医療提供者が提供体制に関与できる」

神田医政局長「 将来推計と現状から課題を導くだけでなく、あるべき姿も議論してほしい」

病床機能報告は病棟単位になってからが本番

美原 地域の事情は多様ですから、地域ごとに様々な地域医療構想ができます。そうしたときに、それをつくり上げていく構想策定会議の質が問われるように思うのです。群馬県は今年度中に構想ができるということで、自院がある区域でもすでに調整会議が2回開かれました。しかし、そこに出てきた資料を見ると、本当にしっかり議論できているのだろうかと思ってしまいます。策定会議の質によって構想に格差が生じることが懸念されます。
神田 構想ができた後にそれを実現するために話し合う場というのが調整会議の法的な位置づけです。しかし、地域の色々な問題を早く把握して共有していただくということで、構想の策定に先行して議論が始まっているわけです。ただ、大切なことは、調整会議の本番は策定した後だということです。
 地域をどうしていくかというあるべき論を議論することはもちろん大事なのですが、実質的な議論は、構想をつくり、現状と推計との比較から導かれる課題を踏まえたところから始まるのであり、それこそが本番ではないかと思うのです。
 その中で、こういうふうにやればスムーズに調整できる、あるいはこういう支援があれば機能転換もうまくいくといった事例が積み重なっていき、情報の共有ができていくことでしょう。そういう意味では、今の段階で、ここは進んでいる、ここは進んでいないと評価するのは早いのではないでしょうか。
西澤 局長がおっしゃるように、とりあえずは構想をつくるだけなのです。ところが、会員病院には、それに基づいてすぐに形を出さなければならないと受けとめているところが多い。これは、我々も誤解を解くようにしていかなければならないと思っています。そこで、もう1つ大事なことは、病床機能報告制度はまだ完全なものではないということです。
神田 それはおっしゃるとおりです。
西澤 具体的に言うと、報告は、まだ病棟単位ではありません。したがって、2016 年の前半に策定される地域医療構想は、病棟単位のデータがない2014年と2015 年のデータを基に立てられる。つまり、病棟単位の報告は今年の診療報酬改定を経た2016 年度から初めて行なわれるので、それを踏まえてこそ本来の報告ができるということです。この点を、ぜひ、しっかり認識しておきたいものです。

各地の協議内容など支部に的確な情報を提供したい

西澤 ところで調整会議というのは新しい試みです。今までの医療計画は行政がつくり、医療機関はその枠の中で対応していかなければなりませんでした。しかし、この制度は、医療機関が自主的に取り組んでいくというのが趣旨です。構想を策定するのは都道府県ですが、行政の主たる役割は、しっかりしたデータを提供して話し合う場を設けるところにあります。そして、話し合いがうまくいかなかった場合に行政が行司役を務めるということではないだろうかと思います。
 今は、そういう仕組みをまず理解する、試運転の段階かと思うのです。今は、お互いに持っている情報が全然違う中で調整会議が行なわれているので、混乱するのもいたしかたない。しかし、その中で真摯な話し合いを重ねていき、徐々に、きちんとした話し合いの場にしていけばいいと思うのです。
 そのためには、各地域が、こういうことで困っている、こういうのがいいのではないかといった情報を出していくべきなのです。そういうことでは、我々全日病も支部からそういう情報を集め、全国に発信していく必要があると考えます。
神田 医政局の地域医療計画課に各都道府県の担当を配置してきましたが、新たに管理職の担当を決めて全都道府県に張りつけたいと思っています。各地の情報にアンテナを張って、窓口で具体的な話しを聞いて、一緒に考えていく必要があると思っています。
美原 中身の濃いデータが県から構想区域に降りてくるわけですから、ぜひ、各調整会議にそれを咀嚼できるメンバーを揃えていただきたいものです。
西澤 いずれにしても、国が計画を立てた枠内でやってきた今迄と比べると、地域医療構想は我々にとっていい制度だと思います。しかし、これにしっかり対応していかないと、やはり医療機関にはまかせられないということで旧来の手法に戻ってしまっても困ります。
 そういう意味からも、我々全日病もぜひ支部に正確かつ的確な情報を提供し、支部からも意見や情報を汲み上げながら、着実に取り組んでいきたいと思います。今まで全日病はデータをつくりながら物を言ってきたわけですから、そういう方向で、会員病院の皆さん方と一緒にしっかり取り組んでいけばいいのではないかと思います。

地域医療連携推進法人は一種のアライアンス

織田 地域医療連携推進法人が誕生すると、地域における医療連携も統合連携のようなかたちに変わっていく可能性があるように思いますが。
神田 地域医療連携推進法人というのは、2025 年に向けて地域における機能分化・連携や業務の共同化などを共有していく形態で、経営を担う主体にはなりえますが、医療経営を直接することを主目的にしているわけではないので、それが直ちに統合化に向かうということにはならないと思います。
 むしろ、方針を共有していくことから、機能分化・連携をさらに推進していく上で、この法人を使って基幹・中核病院も入れた議論をしていく枠組みをつくるということが考えられるほか、中小の病院にも参画していただいて、この地域をどういうふうにしていくかという方針を共有していくことが主眼になると思います。
織田 つまり、アライアンス的な感じということでしょうか。
神田 アライアンスだと思います。主として医療を中心とした連携のツールで、これを使った方が地域における話し合いがうまくいくということであればこの枠組みも使っていただけるという、選択肢の1つです。逆に言えば、つくらなければならないというものでもないし、これがないと必ずしも話し合いができないというものでもないと思います。
西澤 あくまでも地域医療構想を推進するための法人ということですね。
神野 ところで、認定看護師や専門看護師の研修は、もっぱら都会の大きな施設で開催されているために、地方の病院には大きな負担になっています。
 看護師の特定行為研修の場合も、今のところ、結構大きな施設が研修機関に指定されています。
 私は多くの訪問看護師に特定行為ができるようになってほしいと思っているのですが、元々看護師が少ない訪問看護ステーションに東京や大阪に出て集合教育を受けろというのも無理な話です。やはり、各2次医療圏の基幹病院的な施設を中心に研修を組んでいかないと、“2 桁万人”という目標は達成できないのではないでしょうか。
 ということで、全日病では研修機関になる病院を支援するツールの開発に取り組んでいるところです。近隣の病院で集合教育を受けられるようにしていかないと、10 万人というのは難しいと思いますね。
神田 この法案を出すにあたって、特定行為研修に行くことによって看護師が不足することがないようにと、あるいは、特定行為研修を受けられるということで看護師が大きな病院に引き抜かれるようなことがないように十分注意をしてほしいというのが、与党からの要望でした。
 そういうことで、研修の方法については、座学的なものは基本的にeラーニングでいいと、また、研修を一気に全部終えなければならないということではなく、特定行為区分ごとに単位制のような形で行なってもいいというようにしています。それと、指定を受けるのは研修機関ですが、実習に関しては、今働いているところが協力施設になって指導者を養成していただければ、そこで受けることができます。
 お話しのように、全日病がつくるeラーニングのツールが全国の研修機関に普及していけば、臨床現場をずっと離れて研修機関の座学に出るという事態が回避できます。実習施設における指導者も、全日病の指導者講習を受けていただければ自施設で実習の指導を円滑に行なうことができます。そうしたことを併せて、できるだけ現場の負担が過度にならないようにしながら、特定行為ができる看護師を増やしていければと思っています。
安藤 特に民間の中小病院は特定看護師を育てるのに結構資金が要ると思うのですが、人材育成ということで基金の事業として認められるようにはならないでしょうか。
神田 現在、指定研修機関の設備整備や運営に必要な経費のようなものは補助の対象となっているので、基金とのダブルとなると矛盾してしまいます。これは制度の立ち上げですので、今は、基金というよりは補助制度で支援させていただくという考え方で行なっています。

医療事故調査制度は今年6月までに見直しの検討

西澤 医療事故調査制度が始まりましたが、現在の状況をみていると、我々医療機関の側に対応の遅れがあるようにも感じていますが、局長ご自身はどのようにみていますか。
神田 予期しない死亡事例を報告するとともに、まず院内調査をしていただく。
 また、医療機関から報告があった場合には、医療機関だけでなく遺族からも医療事故調査・支援センターに調査が依頼できるという仕組みができたことの意義は非常に大きいと思っています。
 行政機関である調査委員会方式とは違うのではないかとか、医師法21 条との関係が十分整理されていないというご指摘もいただいています。しかし、責任追及ではなく、再発防止を主眼にした制度にするべきだというのが医療界の一致したご意見でした。
 この制度がきちんと運営されることによって司法当局も謙抑的になり、直ちに介入するというケースの減少につながっていくのではないかということが期待されます。そういう意味では、きちんとした報告がなされ、かつ、しっかりした調査もされるということを示していくことが大事ではないかと思います。
 今年の6月までに、医療事故報告や医療事故調査あるいは医療事故調査・支援センターのあり方とか、医師法21条との関係をどうするのかということに検討を加えることになっています。自民党のワーキングチームでも議論いただきながら、どのような見直しをするのか、検討していきたいと思っています。
西澤 医療事故調査制度については、我々は2008 年の大綱案には反対しましたが、今回の制度は我々の主張がかなり通ったといえます。医療事故が起きたときに、きちんとした調査をして原因を究明することによって再発防止につなげていくということと、事故にともなう問題への対応があって、今まではそれが一緒くたに論じられていたのですが、それをきちんと分離させることで、「同じ事故は二度と起こしたくない、起こしてほしくない」という患者と医療提供側の思いがかなう仕組みが生まれたものと思っています。
 そういうことからも、この制度をしっかり育てていくということが、国民・患者との信頼関係の強化だけでなく質の高い医療をすることにもつながると思うので、我々自身、一所懸命に取り組んでいきたいと思っています。
 神田局長には、新年にあたり、率直な思いとご意見をうかがうことができ、あらためて感謝申し上げます。
神田 あるべき医療に向けて、今後とも、よろしくお願いします。

新春特集Ⅱ  四病協4会長座談会「医療改革、2016年の課題と病院団体の役割」

西澤 明けましておめでとうございます。2016年は地域医療構想が策定されますし、構想区域における協議も本格化していきます。一方、診療報酬改定では、7 対1 入院基本料の要件が一段と厳しくなるなど、病院経営もさらなる変革が迫られる年になりそうです。
 財政審などは早くからマイナス改定が当然という議論を展開してきました。彼らの理論ではそうなんでしょう。
 しかし、医療を提供している者からみると、経営が安定しないといい医療は提供できません。したがって、マイナス改定は避けていただきたいし、薬価を下げて得られた財源は本体に戻してもらわないとうまくいきません。
山崎 少子化高齢化の下で社会保障費が膨らむのは当然のことで、財源に限りがある中、国がどこまで医療提供体制の面倒をみていくかが問われています。したがって、公費をどこまで出すのか、あるいは、どこまで保険料と患者負担で対応していくのかという点をはっきりさせなければならないと思います。こうした議論をきちんとやらないで、財源が不足しているから診療報酬を削れというのは荒っぽい話だと思います。
 しかし、財源的にもたないのははっきりしている。そこで、提供体制をどうしていくのかという根本的な議論を、専門家ではない人だけで論じるのではなく、医療・介護提供者を含めて議論していく場を設けるべきではないかと思っています。
加納 アベノミクスによって、病院の経費負担は明らかに増えています。そうした中で、賃金の上昇が求められていますが、その原資となる診療報酬の引き上げが担保されていくのかというと実際はそうなっていません。どうも、医療の世界だけがおかしなかたちで扱われているという感じが否めません。
 実際、慢性期の病院は収益率をある程度維持しているものの、急性期は下がる一途という改定が続いています。
 こうした状況で高齢者の医療がやっていけるのかということを、政府に真剣に考えてもらわなければなりません。
 平成19年ですか、収益率を大きく落ち込ませた改定の後に救急患者のたらい回しが社会問題になりましたが、そうしたことが再発することがないような改定となることを願っています。このままいくと、本当に危機的な状況が来るのではないかと心配しています。
西澤 改定率については、薬価等を除いた技術料を本体といい、薬価等を含んだ総額をネットというかたちで、診療報酬を2 分した表現がよく使われます。これにもとづいて薬価を下げた財源は本体に返さなくていいという主張もなされています。その結果、前回改定が、消費税を抜くと全体で−1.21%ですが、本体は+0.1%となったため、「本体は少し上ったからいいじゃないか」という話が出てきました。しかし、結果として、今回の医療経済実態調査をみても収益は非常に悪くなっています。このように、本体がプラスであればいいということではなく、ネットでプラスでないと経営が厳しくなるということを、我々はきちんと主張していく必要があると思います。
 社会保障の財源が厳しくなる中でどこを切り詰めるかという議論は、安直に医療費を削れという話になりがちですが、とくに、今回は帳尻をすべて診療報酬で合わせようとしています。これは非常に乱暴なやり方で、いわば、金は減らすが質は上げろという無茶な話なわけです。
 したがって、我々も、現場の専門家として様々なデータを示しながら主張していかないと、今の流れはなかなか変らないのではないでしょうか。四病協としても、しっかり対応していかなければならないと思っています。
 そう思います。我々病院団体も、例えば2018年の同時改定に向けて、こういう医療をするのでこういうものが必要である、そのためには、我々も必要な効率化は受け入れるといったようなことを主張していかないと、いつまでたっても堂々めぐりですよね。
西澤 そのためにも、次の改定に向けた懸案事項などを早い段階で検討し、提言していく場を設けたいものです。

構想は地域主導のチャンス。それだけに医療提供者の対応が大切

西澤 地域医療構想ですが、早い県では2015年度内にも策定が終わりそうです。
加納 私の出身の大阪府は2次医療圏と地域医療構想区域を合致して進めるという方針を決めましたが、私は、必ずしも2次医療圏と合致させる必要はないと思っています。その中で都道府県間の調整の問題がありますが、大阪と奈良には微妙な関係があるために調整が円滑に進まないようです。
 地域医療構想というのは非常に大きな変化だと思いますね。今までの医構想は地域主導のチャンス。それだけに医療提供者の対応が大切療行政は、厚生労働省が中央で決めた基準等を全国一律でやっていたのですが、今度はこれが地域ベースになるわけで、21世紀は地域の世紀なんですよ。
 ただ、気をつけないと構想の策定が丸投げになる可能性もある。そう考えると、地域格差の問題ひとつとっても、地域の行政担当者や医療関係者の意気込みによって違ってくる部分が出てくるように思うのです。厚生労働省はガイドラインがあるので問題ないと言っていますが、そんな簡単なものではないでしょう。
 したがって我々は、他の都道府県と見比べながら自分の県がどうなっているのかを把握して、問題がある部分には声を大にして主張していく必要があるし、さらには、具体的かつ積極的に、構想の策定過程に参加していかなければならないと思います。
加納 大阪府は外注せずに府内で地域医療構想をつくったようです。今回見ていて、大阪府の行政担当者は非常に気合いが入って対応していると感じました。各都道府県そうだと思いますが、今回は、“我が県は”という思いをもって当たっているんじゃないでしょうか。
西澤 今までは国がつくった計画に我々も従ってきたという面がありましたが、これからは、自ら認める地域の課題に取り組んでいくことになる。言い換えると、各地域で医療に取り組んでいる我々現場が、医療計画なりをきちんとしたものにつくり上げていかないとうまくいかなくなりますね。

 

全日病ニュース2016年1月1日・15日合併号 HTML版

 

 

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    号 HTML版。21世紀の医療を考える「全日病 ... 事務局(厚労省医政局地域医療計画課
    )は、新たに「医療需要に対応する医療供給(医療提供体制)の確定方法及び策定後の
    実現に向けた ... は、地域医療構想のGLで「地域医療構想の策定プロセス」と「策定後
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  • [2] 最大の課題は大学病院、公的病院、高度医療民間病院が集中する札幌圏

    http://www.ajha.or.jp/news/pickup/20151001/news17.html

    2015年10月1日 ... 議論をする医療提供者側もデータを見ながらの意見陳述なので、それまでの抽象的な
    議論はなくなって具体的提案が ... 個別医療機関の具体的な役割は、構想策定後に
    地域医療構想調整会議で議論○地域医療構想は、策定して終わりでは ...

  • [3] 地域医療構想策定ガイドライン等について

    http://www.ajha.or.jp/topics/admininfo/pdf/2015/150402_20.pdf

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