全日病ニュース

全日病ニュース

ホーム全日病ニュース(2024年)第1053回/2024年4月15日号病床不足地域とみなされる二次医療圏に病院団体から危機感

病床不足地域とみなされる二次医療圏に病院団体から危機感

病床不足地域とみなされる二次医療圏に病院団体から危機感

【全日病・常任理事会】「討議」で基準病床数、既存病床数、病床の必要量の関係性を議論

 全日病は3月16日の第12回常任理事会の「討議」で、「基準病床数」を議題に意見を交わした。
 地域医療構想により、地域の医療需要に見合った医療提供体制の構築を図る中で、地域の病床数を規制している「基準病床数」が増える形で計算されることにより、病床過剰地域が病床不足地域と見なされ、病院などの新規参入を招く状況が生じているとの事例報告を受けたものだ。このような状況が放置されれば、不必要な過当競争を引き起こす可能性が生じるとともに、医療従事者の逼迫をさらに加速させる事態になってしまう。
 猪口雄二会長は、「よくない状況だ。地域医師会とも協力し、都道府県に理解を求める必要がある」と述べるとともに、会員病院に状況を注視するよう求めるべく周知を促した。

基準病床数と既存病床数の関係
 基準病床数とは、全国一律の算定式により、都道府県が設定する病床数である。二次医療圏単位で設定し、地域で整備する病床数の上限となる。病床過剰地域から非過剰地域へ病床を誘導することを通じて、病床の地域的偏在を是正し、全国的に一定水準以上の医療を確保することが目的と位置づけられている(右表・上を参照)。
 一方、既存病床数は病院と有床診療所の実際の病床数(一般病床・療養病床)であり、基準病床数と比較して、病床過剰地域か否かを判断する基準となる病床数である。病床過剰と判断される場合、都道府県知事は公的医療機関等に対しては、「(開設・増床等の)許可をしないことができる」、その他の医療機関に対しては、「(開設・増床等に関する)勧告を行うことができる」。勧告に従わない場合は、「保険医療機関の指定を行わないことができる」。
 逆に、既存病床数が基準病床数を下回り、病床不足の地域とみなされれば、病院・有床診療所の開設・増床等ができることになる。
 一方、現在、人口減少や高齢化の動向を踏まえ、将来の医療機能別の病床の必要量に見合う地域の医療提供体制を整備するため、地域医療構想の実現に向けた取組みが進められている。
 地域医療構想の病床の必要量は基準病床数と整合しない場合がある。例えば、病床の必要量は既存病床数に見合っているのに、基準病床数の計算では病床不足となる地域が生じ得る。基準病床数は右表(下)のような算定式で計算されるもので、それに従うと、病床利用率が下がると、分母が小さくなるので、他の変数に変化がない場合、基準病床数は増えることになる。
 2023年10月4日の厚生労働省医政局地域医療計画課の事務連絡では、そのことを明記している。
 事務連絡では、「(基準病床数と病床の必要量の)両者は、その目的、算出方法や算出に利用しているデータが異なることから」、必ずしも一致しない。「地域医療構想における病床の必要量との整合性を考慮した上で、基準病床数を設定する必要」があるとの基本的な考えを示している。
 その上で、「基準病床数が第7次医療計画から増加し、地域医療構想における病床の必要量との間に一定の乖離が生じる場合」があると指摘。その場合には、「告示において定める値をそのまま用いるのではなく、これまでの基準病床の算定に当たって使用した数値や各医療圏の実態を勘案して独自に設定することが望ましい」と明記している。
 さらに、「既存病床数が基準病床数を下回る地域であっても、許可病床数がすでに将来の病床の必要量に達している場合には、医療法第7条の3に基づき、必要な手続きを経た上で、都道府県知事が許可を与えないこと(民間医療機関の場合には勧告)ができること」を明らかにしている。
 ところが、同日の常任理事会では、愛知県の事例が提示され、第8次医療計画において、病床過剰地域から病床不足地域に転じた二次医療圏を含め、軒並み病床不足地域となってしまっている資料が示された。愛知県との折衝により、当初の数字よりも病床不足の規模を少なくすることができたものの、大規模法人の新規参入の余地を生じさせ、愛知県の医療団体に懸念を生じさせる事態になっているという。
 基準病床数の算定式の変数に影響を与える要因は複雑であり、基準病床数の変化の原因を分析することは容易ではない。ただ、平均在院日数や病床利用率の変化が影響した可能性がある。
 常任理事会では、東京都の状況をめぐっても議論があり、区中央部・区西部に大学病院等が集中し病床過剰の地域となっており、医療従事者を吸収している一方で、特に西多摩などは病床不足の地域になっている。そこに新規参入が増えれば、現状で厳しい医療従事者の確保がさらに困難になってしまう。そのような危機感を訴える意見が相次いだ。
 また、広島県では、JR広島駅前に千床規模の新病院を整備する計画が進んでいる中で、広島県からは、近隣の医療従事者を吸収してしまうことはないとの説明がされているものの、実際のところは確信が持てないにもかかわらず、行政は粛々と計画を進めていることが報告された。

猪口会長が早期の見直し求める
 猪口会長はこれらの状況を踏まえ、「基準病床数の計算の影響で、病床不足となる二次医療圏が全国的に増える傾向にあるようだ。我々からすると、『病床が逼迫しているのでベッドをもっとほしい』という状況ではなく、地域医療構想の趣旨からみても、増床すべきではない。都道府県が基準病床数を決める際には、やはり地域医師会とも協力して、医療団体としてベッドは増やさない方向に持っていく必要がある」と述べ、同様の状況が地域で生じている場合の対応を求めた。
 また、「新たな地域医療構想に関する検討会」でも、「病床必要量と基準病床数の関係」が検討課題になっている。しかし、実際に基準病床数の変更が行われても、現状の予定では、第8次医療計画の中間見直しあるいは第9次医療計画の時点になってしまうため、猪口会長は、それより早く基準病床数の見直しが必要との考えを示した。

 

全日病ニュース2024年4月15日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 新型コロナ感染症患者受入病床確保対策会議が発足|第979回 ...

    https://www.ajha.or.jp/news/pickup/20210201/news08.html

    2021/02/01 ... 新型コロナ感染症患者受入病床確保対策会議が発足|第979回/2021年2月1日号 HTML版。21世紀の医療を考える「全日病ニュース」は、全日本病院協会が ...

  • [2] 第 9章

    https://www.ajha.or.jp/about_us/60years/pdf/60years_09.pdf

    構想、医師偏在対策、医師の働き改革が進んでい. る ... 四病院団体協議会は2月19日、代表者会議を開. き、新型 ... 四病協は、医療用マスクの需給逼迫を受け、全. 国の ...

  • [3] 2021.2.15 No.980

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2021/210215.pdf

    2021/02/15 ... 四病院団体協議会・日本医師会・全. 国自治体病院協議会による「新型コロ. ナウイルス感染症患者受入病床確保対. 策会議」は2月3日、新型コロナ感染.

本コンテンツに関連するキーワードはこちら。
以下のキーワードをクリックすることで、全日病サイト内から関連する記事を検索することができます。
偏在  逼迫  討議