全日病ニュース

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スプリンクラー設置義務 約11年の移行期間で対象病院を拡大

【病院・有床診療所火災対策検討部会の報告】

スプリンクラー設置義務
約11年の移行期間で対象病院を拡大

対象外の病院も補助金が可能。今後も防災対策見直しと予算確保を追求していく

副会長病院・有床診療所火災対策検討部会委員安藤高朗

 平成25年10月11日、福岡市博多区の阿部整形外科診療所にて火災が発生し、患者と職員も含め10名が亡くなった。火災後、この診療所には消防の点検が入っていたが、火災対策マニュアルの作成はなされていなかった。9枚あった防火扉も5枚が作動せずに開いたままであった。
 火災後はこうした不備が明らかになり、防災対策の現状への不安と必要性とがしきりに指摘された。消防庁はこの事故を受け、地域医療を担う診療所において二度とこうした悲劇が繰り返されないよう「病院・有床診療所火災対策検討部会」を発足させた。
 私も四病協の立場から、委員の任を頂戴することになった。そして当初より、四病協では全医療機関へのスプリンクラーの設置を要望してきた。11月7日の第1回開催以来、本年度6月19日の第6回に至るまで議論を重ねてきた。これらの議論の結果をまとめたのが「有床診療所・病院火災対策報告書」(7月4日公表)である。
 本部会では、ソフトとハード両方の面から対策が検討された。ソフト面においては職員の教育や意識づけ、地域の消防と医療機関とで連携をとった訓練実施の徹底、防火戸をはじめとする防火設備の点検強化等が今後一層取り組むべき課題であるとされた。
 ハード面については、火災報知機の設置義務化等が決定。また、3000m2以上の有床診療所及び「避難のために患者の介助が必要な有床診療所・病院」へスプリンクラー設備の設置が義務化された点は、本会における決定項のうちでもかなり大きなものであった。加えて、設置にあたり補助金事業が開始したことも特筆すべきであろう。
 スプリンクラー設置の義務化対象の設定は、決定に至るまで委員の間で熱心な議論が交わされた。スプリンクラーの設置は金額的な負担が大きく、ぎりぎりの経営で運営している中小病院と有床診療所にとって打撃となるのは明らかであった。
 地域医療を支えているのはこうした小規模医療機関でありながら、スプリンクラー設置の負担が原因で病床の取り下げや閉鎖も起こりかねないという現状は調査結果においても明白で、委員の共通認識であった。
 だが、火災による惨事を二度と起こさないという意思は部会の大前提であり、最終的にスプリンクラー設置義務の対象病院が拡大されたこと、さらには、約11年の移行期間を設定したことは、一つの前進であったといえるだろう。
 加えて、特に評価すべきであるのは、義務対象にかからないほどの小規模病院もスプリンクラー設備の設置を希望する場合、補助金給付の対象となるという点である。自治体によって多少のばらつきはあるものの、火災対策へ意欲的な医療機関が評価される仕組が整えられる形で終了したのは収穫であった。
 だが、必ずしも今回の措置で充分と考えるわけではない。四病協の使命の一つは国民の生命に加えて全国の会員病院を守ることであり、それは防災面についても経営面についても同様である。
 我々としては、部会は終了となったものの今後も引き続き防災対策の見直しや追跡調査を行うことを要請し、また自分たちでも実施し、予算の確保と増額についても訴えていく所存である。