全日病ニュース

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積極果敢な活動。県医師会や日病の協力を得て、勉強会を年4回開催

▲長崎県支部について語る井上支部長

【支部訪問/第9回長崎県支部 全日病各支部の現状と地域医療の課題を探る】

積極果敢な活動。県医師会や日病の協力を得て、勉強会を年4回開催

県内全病院に案内、TV会議を活用。地域医療ビジョン等の独自調査と一体化

 長崎県支部は、今、きわめて積極的な支部活動を進めており、その成果いかんでは、全国の支部に貴重な教訓を提供する先進的事例になる可能性がある。
 井上健一郎支部長(社会医療法人春回会理事長)に長崎県支部の現況と直面する課題をうかがった。(支部訪問は不定期に掲載します)

 井上健一郎氏は、県医師会常任理事を務めた後、2013年に全日病長崎県支部長に就任した。
 会員数は40人。全日病支部の平均会員数(50人)を下回ってはいるが、昨今の厳しい状況下でも減少することなく、現状維持ないし微増で推移してきた。そういう意味からは、全日病支部の平均像と言えなくもない。
 その長崎県支部は、今、アクティブな支部政策を展開し、攻めの局面を切り開きつつある。支部の活性化を可能としたのが、井上支部長を初めとする役員の企画力、メール等を駆使したコミュニケーション術、そして、県医師会や日病支部等との地縁である。
 長崎県の病院数は155。そのうち民間病院は116にとどまり、国公立など公的病院の数が多い。県の病院協会はなく、日精協を除くと、県医師会病院部会、全日病支部、日病支部(会員数35)のみが機能している。その中で、長崎県支部は県医師会に事務を委託するなど、長く、良好な関係を堅持してきた。
 県医師会の蒔本会長は全日病の元副支部長だ。日病支部の会員は公民が半々の上、福井支部長は民間病院である。
 加えて、全日病も日病も、昔から県の医療審議会に委員を出してきた。
 そんなことから、「県医師会病院部会、全日病、日病の間に、一緒にできることはやろうという空気があり」、例えば、全日病支部と日病支部も、10年以上前から、年1回病院部会で勉強会をともにする、ある種パートナーの関係にある。
 このように長崎県の地縁は全日病に有利に思えたが、井上支部長は、就任直後にちょっとしたショックを受けたという。
 「県内の全病院に入会をよびかける案内を送ったんですが、まったくのナシのつぶてだったんです。やっぱりそうかと思いましてね…。支部の活動を強めなければということで、支部役員と話し合って、地域医療セミナーを始めることにしたのです」それまで年1回だった勉強会を4回に増やし、そこに、これまで以上の協力を県医師会と日病支部から得る、という計画である。
 1回目が今年の6月で、県医師会と共催というかたちをとった。診療報酬改定という演目で、講師に本部から猪口副会長を招き、100人ほどの参加を得ることができた。
 勉強会は2回目の9月から「長崎地域医療セミナー」と銘打った。地域医療ビジョンをテーマに、県医療政策課の三田課長と東京医科歯科大の河原教授を演者に招いた。県医師会との共催も崩さず、参加者は150人に増えた。
 「会員の病院長・理事長向けというより、事務職、とくに事務長の参加を目指した」のが成功した要因とみられるが、それでも1県にしては参加者が多い。詳しく聞いたところ、そこには納得のいく理由があった。
 「まず、参加費は無料にしました。さらに、県内全病院に案内をかけるとともに、地域医療ビジョンに関する独自アンケートを行なったのです」会場は共催者である県医師会の会議室を無料で借りることができた。また、講師は身内の猪口副会長と委員会の委員なので、経費は軽微で済んだという。
 129病院と実に多くから回答が寄せられたアンケートの結果は勉強会で発表した。
 2回目はスポンサー(中外製薬)を得ることができたため、参加費無料を維持できた。だが、2回にわたる成功の裏には、もう1つ秘訣があった。
 「県医師会が郡市医師会の間にテレビ会議システムを持っているので、6月はそれを使わせてもらいました。9月のときも、協賛メーカーにお願いし、テレビ会議システムをホテル会場に持ち込んでもらいました。こうして、2回とも、主会場は長崎ですが、佐世保でも視聴できるようにしました。佐世保から長崎に出るには2時間かかるなど、県内の病院が1ヵ所に集まるのは難しいものですから」つまり、100人と150人という参加者は2会場を合わせた数だったのだ。次回セミナーは、医療事故調査制度をテーマに12月に開く。その次は来年の春を予定しているという。
 それとは別に、1月には県医師会と講演会を共催する。テーマは病床機能報告制度。長崎県支部は、県内病院の報告状況を知るために、6月のアンケートに病床機能報告の内容を追加した調査を再度実施し、講演会で報告する予定だ。
 地域の実態を調査して講演会等で報告する。調査活動が講演会の案内を兼ね、その内容に対する関心を惹起する。
 そして、少しでも近い会場に足を運んでもらう―。長崎県支部の活動は、まさに、マーケティング戦略に沿っているといえよう。

個別指導の立ち会いにも参加。活動にはIT を積極活用

 長崎県支部は、また、地方厚生局による個別指導の立ち会いへの参加を実現した。
 「県医師会に要請し、了解を得ました。病院のときだけですが、支部役員の誰かが行くという形で、今年の春から3回立ち合っています」支部役員は副支部長1人に幹事6人の計8人。役員の負担も大きいと思えるが、「重要な問題は一堂に会しますが、普段はメールのやりとりで済ませている」とのこと。セミナー同様、広い長崎県ならではの対応だ。
 今年度に、事務長や医事課長クラス7人で診療報酬委員会を設置した。個別指導立ち合いで得た実務上の課題も取り上げ、会員病院に還元することが1つの目的という。
 その委員会活動はメーリングリストを活用している。セミナー、役員会、委員会と、長崎県支部はITの活用にたけている。しかし、支部ホームページはまだ手がけていない。
 この質問には、「やはりつくらないといけないですね。でも、立ち上げやメンテに人手がいります。本部で、簡易にホームページがつくれるパッケージをつくって提供してくれないでしょうか」と注文がついた。
 このように、積極果敢な活動に取り組んでいる長崎県支部には、今、前向きな話が多い。しかし、話題が一体改革に触れると、井上支部長の表情は一転曇った。
 「基金については、会員全病院に意見を聞いて、支部の事業案を県に出しました。厚労省のヒアリングにも同席するなど、県の事業計画は概略つかんでいますが、恐れていたとおり公的中心の内容で、我々の提案も不採用です」だが、基金に関しては、まだ対応手段はある。
 「基金は恒常的制度です。そこで、県医師会中心の会議で、基金をどういう中身にするか話し合う場を、我々現場を含めて設置するよう提案しました」しかし、地域医療ビジョンになると、どう対応すべきか、悩みは深い。
 「あのまま進んでいくと、民間病院、とくに急性期は押し潰されてしまう可能性が高い。2025年の長崎県は、一般病床で50%、療養病床で20%の過剰です。つまり、一般から療養には行けないので、このままだとベッドを減らすしかない。では、民間と公的、どっちを減らすのかという話になるわけです」
 「地域医療ビジョンなど、国は、医療費と病床の削減に本気なことが分かります。私個人は本当にうまくいくかどうか疑問に思うのですが、問題は、国の動きに対して、我々全日病が、対案を出せていないということではないでしょうか。本来はこういうときのために、全日病総研とかがあるはずなのですが、今のままでは、正直、残念な気がします」
 そういう井上支部長は、「都市部もそうでしょうが、地方の現場も必死の思いで、地域医療を支えています。本当に、今から戦いの時期に入ると覚悟しています」と結んだ。
 その言葉には、支部政策の強化と会員増強も“戦い”の1つであるという信念がうかがえた。