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ホーム全日病ニュース(2024年)第1052回/2024年4月1日号地域医療構想のさらなる推進に向けて提言を公表

地域医療構想のさらなる推進に向けて提言を公表

地域医療構想のさらなる推進に向けて提言を公表

【全日病】地域医療構想の技術的な課題や高齢者救急などへの対応の必要性を指摘

 全日病は3月16日、地域医療構想に関する提言を公表した。地域医療構想については、2025年を目標とした取組みが現在進められ、2040年を見据えた新たな地域医療構想の議論も始まろうとしている。提言では、地域医療構想に内在する技術的な課題を指摘するとともに、高齢者救急や人材確保への対応を含め、病院機能の提示など地域医療構想のさらなる推進に向けた全日病の考え方を示している。
 以下に提言の全文を掲載する。なお提言は、病院のあり方委員会(大田泰正委員長)で案を作成し、3月16日の第12回常任理事会でまとめた。

1.高齢化の進行と地域性
 今後も少子高齢化が継続する見込みである。高齢化がもたらす影響は地域により異なる。例えば、大都市近郊では高齢者の絶対数が増加するのに対して、すでに高齢化の進行した地域では高齢者の絶対数は横ばいで、むしろ医療介護サービスの提供者不足が問題となるなど、高齢化がもたらす影響は異なる。それに対応するためには、地域における現状分析、健康課題の特定と優先順位の決定、地域医療構想への反映、結果の評価が、地域を主体に適切になされる仕組み作りが推進される必要がある。

2.データの活用について
 高齢者では医療、介護、その他のサービスを同時に利用することがしばしばあり、異なるデータソースから得たデータをリンクさせて分析する必要がある。その際に、国が行う統計など、実施年が異なるものがあり、実施年を統一することが望ましい。
 市町村など自治体が有する医療・介護・保健データについて、現状では個人情報保護法についての考え方が自治体により異なり、利用可能な範囲、手続きなどが標準化されていない。データ利用促進を図るため、①データの利用範囲、②申請手続きを標準化し、迅速かつ円滑な利用を可能とすべきである。また、自治体などの担当者、その他医療関係者が地域医療構想調整会議などで円滑なデータ分析を可能とするための分析ツールの提供、研修などの機会の強化を図るべきである。

3.地域医療構想の範囲の見直しと必要(基準)病床数の算出
 地域医療構想区域の多くは二次医療圏と同一である。医療計画における基準病床数、地域医療構想における必要病床数は、歴史的背景、算出方法も異なっているが、同一地域に「必要とされる」病床数が異なることは、現場に混乱を生じさせている。両者の統合が検討される必要がある。
 二次医療圏については、二次医療圏ごとの対象人口、医療人材を含めた利用可能な医療資源に大きな差異のあること、実際の患者の受療行動と異なることが以前より指摘されている。
 実際、県庁所在地に基幹病院などの医療機関が集中し、県庁所在地を有する二次医療圏とその他の二次医療圏で有する医療資源に大きな相違がみられ、後者においては基本的な医療の完結を図ることがしばしば困難である。
 また、特定機能病院の診療圏は広域であり、特定機能病院を多く有する都市部の二次医療圏では病床数は多いものの、当該二次医療圏外からの受診者が多くみられる。二次医療圏の範囲の見直しは、これまでにも検討されてきたものの、未だ関係者の合意を得るにはいたっていない。見直しにいたずらに時間を費やすのではなく、以下に示すように運用を弾力化して、二次医療圏での医療のあり方についての検討の効率化を図るべきである。

  1. 複数の二次医療圏を統合しての運用
  2. 特定機能病院の病床について基準病床数に算定する際の算定方法の見直し
  3. 県庁所在地などの基幹病院の病床数について、周辺の二次医療圏での共用を前提として各二次医療圏への仮想的な配賦

 必要病床数は、年齢階級別入院受療率を固定し、将来の推計人口、病床稼働率から算出される。近年、入院受療率が低下傾向にあることが考慮されておらず、また、病床稼働率が低く想定されており、当該医療圏で利用可能な医師、看護師などの人的資源が考慮されていない。総体として過大な病床数が必要病床数として算出されている。計算方法、仮定について適宜見直しが行われる必要がある。
 また、慢性期の必要病床については、地域における介護施設、在宅医療などの受け入れ体制により必要な病床数は異なることが想定される。これらを含めた検討が必要である。都道府県の裁量の拡大と地域医療構想調整会議との十分な情報共有が図られるべきである。

4.病院機能の分類の見直し
 病院機能の分類は、将来の医療供給体制を方向付ける点で重要である。病床機能に応じて、病床数、施設基準、診療報酬支払い方法、利用状況や質に関わる指標の設定が適切になされることにより良質な医療の効率的な提供に寄与することが期待される。また、病院経営においても長期の経営戦略を考えるうえで大きな影響を及ぼす。
 現在の病床機能は、高度急性期、急性期、回復期、慢性期に区分されている。しかしながら、回復期には、いわゆる地域包括ケア病床が担うpost/sub-acute機能と回復期リハビリテーション機能が含まれている。両者は全く異なった医療機能であり、例えば、救急対応、地域とのかかわり、診療圏は異なっている。期待される医療機能に基づき、病床機能の分類の見直しを図る必要がある。
 また、地域医療構想調整会議における機能分担を明確にする上でも、病棟単位で示す病床機能報告の機能種別とは別に、病院として担う「病院機能」も示すことが望ましい。「地域に密着し地域医療を担う病院=かかりつけ医機能支援病院」は、高齢者救急においても重要な機能を有し、かつ民間病院の役割が重要となることからも、新たな病院機能として検討すべきである。

5.高齢者救急を想定した医療体制の構築
 地域医療構想策定に当たって喫緊の課題は、高齢者の救急対応である。いたずらに集約を図るのではなく、総体として地域の医療資源を活用して高齢者救急に対応することが求められる。二次・三次救急医療に対応可能なセンター病院を設置し、医師など当該地域の医療資源の集約化を図り、ワンストップでの対応が試行されている。
 しかしながら、集約に伴い周囲の病院が救急医療(初期、二次)を縮小したため、センター病院に初期救急への対応など当初想定された範囲外の負荷の増大を生じ、また、後方病院の確保が十分になされない状況では患者の停留を生じ、結果として救急患者の受入れそのものに支障が生じるなどの事例が見られる。また、患者の意向が十分に確認なされることなく、センター病院において高度な医療が提供される可能性がある。
 以下について検討されることが必要である。

  1. ACPの推進と、登録、登録内容の参照が可能な仕組みを構築し、患者の希望する医療の提供が可能となるよう救急隊を含めて容易に知ることができるようにすること
  2. センター病院のみのワンストップで救急に対応できるという非現実的な解決策ではなく、かかりつけ医機能支援病院を含む周囲の医療機関との役割分担の確認(初期、二次の受入れ、後方病院など)
  3. 上記を促進するため地域医療構想調整会議との情報共有と地域医療介護総合確保基金の活用
  4. 後方転送に協力する病院に対する診療報酬上の評価

6.医療人材の確保の強化
 医師のみならず医療人材の確保は地域医療の確保においてきわめて重要であるが、2024年4月からの医師の労働時間管理の強化は、地域医療に大きな影響をもたらすことが想定され、喫緊の課題となっている。
 開業医の高齢化、働き方改革の推進による医師の勤務時間管理の強化と大学等からの医師派遣の縮小などは、地域での医療確保に大きな影響を与えることが想定される。一方、若年医師では専門医取得など卒後教育期間の長期化のため、大学や専門医教育が可能な病院が集中する都市部から地方への移動は進んでいない状況にある。専門医取得にあたって地方での勤務経験を必須とする、あるいは不利な取扱いとしないなどの政策的な配慮を学会などと協同して検討することが望ましい。

 

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