地域医療構想

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地域医療構想

1.地域医療構想とは?

 超高齢社会にも耐えうる医療提供体制を構築するため、2014年(平成26年)6月に成立した「医療介護総合確保推進法」によって、「地域医療構想」が制度化されました。
 地域医療構想は、将来人口推計をもとに2025年に必要となる病床数(病床の必要量)を4つの医療機能ごとに推計した上で、地域の医療関係者の協議を通じて病床の機能分化と連携を進め、効率的な医療提供体制を実現する取組みです。
 医療介護総合確保推進法を受けて、厚生労働省は2015年3月に「地域医療構想策定ガイドライン」をまとめ、これに沿って、2016年度中に全ての都道府県で「地域医療構想」が策定され、2018年に4月から始まった第7次医療計画の一部として位置づけられました。
 地域医療構想では、二次医療圏を基本に全国で341の「構想区域」を設定し、構想区域ごとに高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4つの医療機能ごとの病床の必要量を推計しています。
 また、地域医療構想を実現するため、構想区域ごとに「地域医療構想調整会議」(以下、調整会議)を設置し、関係者の協議を通じて、地域の高齢化等の状況に応じた病床の機能分化と連携を進めることになりました。調整会議では、各医療機関が自主的に選択する病床機能報告制度に基づく現状の病床数と地域医療構想における2025年の病床の必要量(必要病床数)、さらには医療計画での基準病床数を参考にして、病床の地域偏在、余剰または不足が見込まれる機能を明らかにして地域の実情を共有し、関係者の協議によって構想区域における課題を解決し、2025年の医療提供体制構築を目指すこととしています。

2.日本の人口構造の推移と医療に対する需要

 日本の高齢化率(65歳以上人口の割合)は、2017年(平成29年)に27.7%となり、4人に1人が高齢者という本格的な高齢社会を迎えています(図1)。
 少子高齢化の流れは今後も加速し、団塊の世代が75歳以上となる2025年には、医療・介護のニーズが急増すると予測されています。このため、2025年に備えて、医療・介護サービスの提供体制の整備が進められています。
 高齢化の一方で、日本の総人口は減少局面に入り、2065年には総人口が9,000万人を割り込み、高齢化率は40%近くにまでなると予想されています。これに伴い、医療・介護の担い手となる生産年齢人口が急速に減少し、2025年の7,170万人から2040年には5、978万人になると推計され、社会の支え手の減少が大きな課題となります。

図1 日本の人口の推移

 高齢化の状況には地域によって大きく異なります。高齢者数が大きく増加するのは、首都圏をはじめとする都市部であり、65歳以上人口の増加数を見ると、東京都、大阪府、神奈川県、埼玉県、愛知県、千葉県、北海道、兵庫県、福岡県で、2025年までの全国の65歳以上人口増加数の約60%を占めることになります。都市部の高齢化が進み、地方では過疎化が進むことになります(図2)。

図2 都道府県別高齢者人口(65歳以上)の増加数(2010年→2025年)

 高齢化がピークを迎えた地方では、人口減少に伴って高齢者人口が減少に転じ、医療・介護ニーズも縮小していくと考えられます。このため、地域の実情と将来の見通しを踏まえた対応を地域ごとに考えていく必要があります。
 地域医療構想は、2025年の将来推計人口をもとに、地域における将来の医療需要を推計し、そのために必要となる病床数を予測した上で、関係者が共有し、将来の地域医療の姿を描く取組みです。

3.第7次医療計画と地域医療構想

 2018年度からはじまった第7次医療計画では、医療法に基づく基準病床数と地域医療構想に基づく必要病床数が併記されています。この2つの病床数はどのような関係になっているでしょうか。
 まず両者は、目的と役割が異なります。医療計画上の基準病床数は、病床の地域的偏在を是正する目的で設定され、既存病床数が基準病床数を超える地域(病床過剰地域)では、都道府県知事は公的医療機関等の開設・増床を許可しないことができるとされ、病床規制が働く仕組みとなっています。
 これに対して、地域医療構想における必要病床数は、将来の医療需要を病床の機能区分ごとに推計し、病床の機能分化・連携を推進することを目的としています。都道府県知事は病院の開設等に当たり、不足している医療機能を担う等の条件を付すことができるものの、地域の病床数を規制する仕組みとはなっていません。
 こうした目的の違いを反映して、その算出方法も異なります。一番の違いは、算定に用いる人口推計の時点です。基準病床数は、医療計画策定時における公式統計による夜間人口を用いています(第7次医療計画では、2016年の住民基本台帳、もしくは2015年の国勢調査が用いられています)。
 一方、地域医療構想による必要病床数は、2025年の推計人口に基づいて、医療需要を推計し、2025年の必要病床数を算出しています(地域医療構想策定ガイドラインでは、日本の地域別将来推計人口(平成25 年(2013 年)3 月中位推計)を用いています)。
 このように目的と算出方法は異なりますが、第7次医療計画の終了年は2023年であり、地域医療構想で想定する2025年とは2年の違いしかありません。このため、両者の関係を整理しておく必要があります。
 基準病床数、既存病床数、病床の必要量(必要病床数)の関係を考えると、6つのタイプに分類することができます(図3)。このうち、特に検討が必要となるのは、病床の必要量が基準病床数、既存病床数のいずれをも上回るタイプAとタイプBです(図4)。

図3 基準病床数、既存病床数及び病床の必要量の関係

図4 病床の必要量が基準病床数・既存病床数のいずれをも上回る場合

 タイプA、Bにおいては、2025年度までに基準病床数を超えた医療需要が生じることになりますが、基準病床数の制限があるため、必要な病床数を整備することが難しくなります。このようなケースは、今後、急速な高齢化が見込まれる都市部において生じると予想されます。
 基準病床数と必要病床数の関係について検討した「地域医療構想に関するワーキンググループ」は、2016年9月に、今後病床の整備が必要となる構想区域への対応について、整理しています。
 それによると、「今後高齢化が更に進む地域においては、医療需要の増加が大きく見込まれ、それに応じた医療提供体制の整備が求められる」とした上で、「このことは急激な人口増加が見込まれる場合に、基準病床数の算定に対し、特例を認めている医療法第30条の4第7項の規定の趣旨に合致する」との見解を示し、次のように整理しています。
 病床過剰地域で、病床の必要量(必要病床数)が将来においても既存病床数を大きく上回ると見込まれる場合は、
 ①高齢化の進展等に伴う医療需要の増加を毎年評価するなど基準病床数を確認する
 ②医療法の基準病床数算定時の特例措置で対応する
  なお、上記①②を活用した病床の整備に際しては、次の点に配慮した上で、地域の実情等を十分に考慮し、検討をする必要があるとしています。
  ・機能区分(高度急性期、急性期、回復期、慢性期)ごとの医療需要
  ・高齢者人口のピークアウト後を含む医療需要の推移
  ・疾病別の医療供給の状況、各医療圏の患者流出入、交通機関の整備状況などの地域事情
  ・都道府県内の各医療圏の医療機関の分布等

4.地域医療構想における病床機能区分

 地域医療構想においては、高度急性期、急性期、回復期、慢性期の4つの医療機能ごとに、将来の医療需要を推計しています。その推計方法は「地域医療構想策定ガイドライン」に示されており、4つの機能を医療資源投入量(出来高点数)によって区分しているのが特徴です。

医療需要の推計方法

 地域医療構想では、医療機能ごとに2025年における医療需要(推計入院患者数)を推計し、それをもとに病床の必要量(必要病床数)を推計しています。
 高度急性期機能、急性期機能、回復期機能の医療需要の計算式は、次の通りです。

2025年の医療需要の推計方法

構想区域の2025 年の医療需要=
[当該構想区域の2013 年度の性・年齢階級別の入院受療率 × 当該構想区域の2025 年の性・年齢階級別推計人口]を総和したもの

 なお、慢性期機能の医療需要は、他の医療需要と異なる推計方法をとっています。慢性期については、入院受療率の地域差を一定の幅に縮小する目標を設定し、それを加味して医療需要を推計する手法となっています(詳細は、「地域医療構想策定ガイドライン」16-21頁参照)。

 上記の式のうち、「当該構想区域の2013 年度の性・年齢階級別の入院受療率」は、2013年のNDBのレセプトデータ及びDPCデータを患者住所地別に配分した上で、構想区域ごとに、性・年齢階級別の年間入院患者延べ人数を算出。それを365(日)で除して1 日当たり入院患者延べ数を求め、これを性・年齢階級別の人口で除して入院受療率とします。
 この性・年齢階級別入院受療率を4つの医療機能ごとに算定し、それを構想区域の2025 年における性・年齢階級別人口に乗じたものを総和することによって、将来の医療需要を推計しています。なお、2025 年の性・年齢階級別人口は、国立社会保障・人口問題研究所『日本の地域別将来推計人口(平成25 年(2013 年)3 月中位推計)』を用いています。

病床の機能区分の考え方

 医療機能ごとの医療需要を算定するに当たっては、NDBのレセプトデータ及びDPCデータを医療資源投入量(診療報酬の出来高点数)で区分して推計しています。その際、看護体制を反映する入院基本料を含めると、同じ診療行為であっても医療資源投入量に差が出ることから、入院基本料は含めずに計算しています。
 DPCデータの分析から、医療資源投入量と入院日数との関係をみると、入院日数の経過につれて、医療資源投入量が逓減していく傾向があります(図5)。

図5 高度急性期機能、急性期機能、回復期機能の医療需要のイメージ

 医療資源投入量の逓減の傾向を踏まえると、医療資源投入量が一定程度、落ち着いた段階を患者の状態が安定した段階であると想定し、入院から医療資源投入量が落ち着く段階までの患者数が、高度急性期及び急性期機能で対応する患者とし、急性期機能と回復期機能を区分する境界点(C2)を600点として推計しています。
 高度急性期機能については、救命救急病棟やICU、HCU等に入院する患者像を想定し、高度急性期機能と急性期機能を区分する境界点(C1)を3,000点として推計を行っています。
 回復期機能については、在宅等においても実施できる医療やリハビリテーションに相当する医療資源投入量として見込まれる225点を境界点(C3)とした上で、在宅復帰に向けた調整を要する幅を見込み175点で区分して推計するとともに、回復期リハビリテーション病棟入院料を算定した患者数(一般病床だけでなく療養病床の患者も含む。)を加えた数を、回復期機能で対応する患者数としています。なお、175 点未満の患者数については、慢性期機能及び在宅医療等(居宅、特別養護老人ホーム、養護老人ホーム)の患者数として一体的に推計することとしています。
 なお、ガイドラインでも指摘している通り、こうした推計方法の考え方は、病床機能報告制度における各医療機関の病床選択の基準となるものではありません。

図6 病床の機能別分類の境界点の考え方

病床の必要量が基準病床数・既存病床数のいずれをも上回る場合

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(出典:「地域医療構想策定ガイドライン」16頁)

5.病床機能報告制度

 病床機能報告制度は、医療機関が、その医療機関の有する病床が担っている医療機能の現状と今後の方向を自主的に選択し、病棟単位で都道府県に報告する制度です。2014年度(平成26年度)に実施された制度で、医療機関の自主的な選択を重視しています。
 各医療機関は、病棟が担う機能を、高度急性期機能、急性期機能、回復期機能、慢性期機能の4つの機能から1つを選択し、毎年10月に都道府県に報告しますが、実際の病棟には、さまざまな病期の患者が入院していることから、提供している医療の内容が明らかとなるように具体的な事項を合わせて報告することになっています。
 各医療機能を選択する際の判断基準は、表1の通りです。具体的な数値等を示すことが困難であるため、定性的な基準となっています。

表1 医療機能の判断基準

 実際の病棟には、様々な病期の患者が入院していることから、図7のように、いずれかの機能のうち、最も多くの割合を占める病期の患者に提供する機能を報告することを基本としています。

図7 病棟のイメージ

 ここで注意が必要なのは、病床機能報告制度を通じて各医療機関が報告する現状の医療機能別の病床数は、地域医療構想において推計した2025年の病床の必要量(必要病床数)とは算定方法が異なり、同列で比較することはできないことです。この点を忘れて、病床機能報告の集計結果と必要病床数を単純に比較すると、回復期機能を担う病床が各構想区域において大幅に不足していると誤解する事態が生じます。例えば、構想区域ごとに2015年度の病床機能報告による病床数と2025年における病床の必要量を比較すると、回復期では、336区域で病床不足(病床機能報告<病床の必要量)、5区域で病床過剰(病床機能報告>病床の必要量)となっています。これは、回復期機能が不足しているのではなく、高度急性期、急性期、慢性期のいずれかの病棟にも回復期に該当する患者が多数入院していることから生ずる違いです。これを図示すると、図8のようになります。

図8 病床機能報告制度と地域医療構想の将来推計の違い

 2016年の病床機能報告制度の集計結果をみると、急性期機能のみで報告した病院数は1,400以上あり、その平均病床数は83床と小規模病院が多くなっています。病棟数は1または2であると考えられるので、急性期と回復期が混在している病棟が多いと考えられます。
 各地域の構想区域調整会議では、このような現状を正確に把握して、議論することが重要となります。
 なお、地域医療構想に関するワーキンググループでは、病床機能報告の見直しに向けた議論が進められています。その一つが、定量的な基準の導入です。佐賀県や埼玉県では、関係者の理解が得られた定量的な基準を作成して、医療機能や供給量を把握するための目安として、地域医療構想調整会議の議論で活用しています。こうした先行事例を踏まえ、他の都道府県においても、2018年度中に定量的基準の導入を求めることとしています。

6.地域医療構想調整会議

 地域医療構想は、策定するだけで十分ではなく、実現に向けた取組みが重要です。地域の実情に応じた課題抽出や実現に向けた施策を地域の関係者で検討し、合意していくことが求められます。そのための「協議の場」として、構想区域ごとに「地域医療構想調整会議」を設け、関係者の協議を通じて、地域医療構想を達成するための協議が行われています(図9)。

調整会議で地域の課題を協議

 各医療機関における病床の機能分化および連携は、自主的に進めることが前提であり、地域医療構想調整会議は、その進捗状況を共有するとともに、構想区域単位で必要な調整を行います。具体的には、病床機能報告制度における医療機関の報告内容と地域医療構想で推計された必要病床数を比較し、地域において優先的に取組むべき事項を協議するとともに、地域医療介護総合確保基金の活用について検討することとしています。
 「地域医療構想策定ガイドライン」では、地域医療構想調整会議の議事について、以下のような内容を想定しています。
 ① 地域の病院・有床診療所が担うべき病床機能に関する協議
 ② 病床機能報告制度による情報等の共有
 ③ 都道府県計画に盛り込む事業に関する協議
 ④ その他の地域医療構想の達成の推進に関する協議

図9 地域医療構想の実現プロセス

7.地域医療構想調整会議の進め方

 地域医療構想は、すべての都道府県で策定され、地域医療構想調整会議の協議を通じて実現していく段階にあります。こうした中で、「経済財政運営と改革の基本方針2017」(骨太方針2017、平成29年6月9日閣議決定)が地域医療構想を取り上げ、調整会議での具体的議論を促進することを求めました。「個別の病院名や転換する病床数等の具体的対応方針の速やかな策定に向けて、2年間程度で集中的な検討を促進する」と明記するとともに、地域医療介護総合確保基金を具体的な事業計画を策定した都道府県に重点的に配分する考えを示しました。
 これを受けて、医療計画の見直し等に関する検討会・地域医療構想に関するワーキンググループは、「地域医療構想の進め方に関する議論の整理」(平成29年12月13日)をまとめ、地域医療構想調整会議の進め方について、考え方を示しました。

(1)地域医療構想調整会議の協議事項

 骨太方針2017の要請を受けて、都道府県において、「個別の病院名や転換する病床数等の具体的対応方針」を毎年度とりまとめることとし、とりまとめには、地域医療構想調整会議において2025年における役割・医療機能ごとの病床数について合意を得たすべての医療機関の
①2025年を見据えた構想区域において担うべき医療機関としての役割
②2025年に持つべき医療機能ごとの病床数
を含むものとしています。

(2)個別の医療機関ごとの具体的対応方針

 「議論の整理」は、公立病院、公的病院、その他の医療機関に分けて、個別の医療機関の具体的対応方針を協議するスケジュールを示し、特に公私の役割分担について確認することを求めています。

【公立病院】

 公立病院は、新公立病院改革プランを策定した上で、地域医療構想調整会議において、2017年度(平成29年度)中に、2025年に向けた具体的対応方針を協議することを求め、協議が整わない場合でも繰り返し協議し、速やかに具体的対応方針を決定するよう求めています。
 その際、山間へき地・離島など、民間医療機関の立地が困難な過疎地等における医療の提供といった役割が公立病院に期待されていることに留意し、構想区域の医療需要や現状の病床稼働率を踏まえてもなお、公立病院が提供する必要がある医療であるのかどうか、民間医療機関との役割分担を踏まえ、公立病院でなければ担えない分野へ重点化されているかどうかを確認することとしています。

【公的医療機関等2025プラン対象医療機関】

 公的医療機関等2025プラン対象医療機関は、公的医療機関等2025プランを策定した上で、地域医療構想調整会議において、2017年度中に2025年に向けた具体的対応方針を協議することを求め、協議が整わない場合でも繰り返し協議し、速やかに具体的対応方針を決定するよう求めています。その際、公的医療機関でなければ、担えない分野へ重点化していることを確認することとしています。
 なお、公的医療機関等2025プラン対象医療機関は、新公立病院改革プランの策定対象となっている公立病院を除く、公的医療機関等、国立病院機構および労働者健康安全機構が開設する医療機関、地域医療支援病院、特定機能病院をいいます。

【その他の医療機関】

 その他の医療機関のうち、開設者の変更等を含め、構想区域において担うべき医療機関としての役割や機能を大きく変更する病院の場合は、事業計画を策定した上で、地域医療構想調整会議において速やかに2025年に向けた対応方針を協議することを求めています。
 それ以外の医療機関については、地域医療構想調整会議において、遅くとも2018年度末までに2025年に向けた対応方針を協議することを求めています。

(3)地域医療構想調整会議の運営

 都道府県は、地域医療構想の実現に向けて、年間スケジュールを計画し、年4回は、地域医療構想調整会議を開催することを求めています。年4回開催のスケジュールを毎年繰り返すことで、地域医療構想の達成を目指すこととしています(図10)。
 なお、都道府県は、各病院・病棟が担うべき役割について、円滑な協議ができるよう、個別の医療機関ごとの各種補助金の活用状況を示すこととされています。

図10 地域医療構想調整会議の進め方のサイクル(イメージ)

地域医療構想調整会議の進め方のサイクル(イメージ)

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(出典:地域医療構想の進め方に関する議論の整理  平成29年12月13日)

8.都道府県知事の権限

 地域医療構想は、医療機関の自主的な取組みおよび医療機関相互の協議により、病床の機能分化と連携を進め、将来あるべき医療提供体制を実現するものですが、都道府県がその役割を適切に発揮することが重要とされています。都道府県知事は、地域医療構想の実現に向けて次のような対応が可能です。

(1) 病院・有床診療所の開設・増床等について

 都道府県知事は、病院・有床診療所の開設または増床等の許可の際に、不足している病床の機能区分に係る医療の提供という条件を付することができます。

(2) 既存医療機関が過剰な病床の機能区分に転換しようとする場合

  • 都道府県知事は、既存医療機関が過剰な病床の機能区分に転換しようとする場合、その理由を記載した書面の提出を求めることができます。また、書面に記載された理由が十分でないと認めるときは、地域医療構想調整会議における協議に参加するよう求めることができます。
  • 地域医療構想調整会議における協議が調わないときは、都道府県医療審議会に出席し、その理由などについて説明をするよう求めることができます。
  • 過剰な病床の機能区分に転換しようとする理由がやむを得ないものと認められないときは、都道府県医療審議会の意見を聴いて、過剰な病床機能に転換しないことを公的医療機関等に命令することができます。なお、公的医療機関等以外の医療機関にあっては、要請することができます。

(3) 地域医療構想調整会議における協議が調わないなど、自主的な取組みだけでは不足している機能の充足が進まない場合

 都道府県知事は、都道府県医療審議会の意見を聴いて、不足している病床の機能区分に係る医療を提供することなど、公的医療機関等に指示することができます。公的医療機関等以外の医療機関に対しては、要請することができます。

(4) 稼働していない病床への対応

 病床過剰地域において、公的医療機関等が正当な理由がなく病床を稼働していないときは、都道府県知事は都道府県医療審議会の意見を聴いて、その病床の削減を命令することができます。なお、公的医療機関等以外の医療機関に対しては、病床過剰地域においてしかも医療計画の達成の推進のため特に必要がある場合において、正当な理由がなく病床が稼働していないときは、都道府県知事は、都道府県医療審議会の意見を聴いてその病床の削減を要請することができます。
 また、公的医療機関等が上記の命令・指示に従わない場合、都道府県知事は、医療機関名の公表、地域医療支援病院の不承認または承認の取消し、管理者の変更命令等の措置を講ずることができます。なお、公的医療機関等以外の医療機関が、正当な理由がなく要請に従わない場合には勧告を、許可に付された条件に係る勧告に従わない場合には命令を、それぞれ行使できます。そして、それらの勧告等に従わない場合には、医療機関名の公表、地域医療支援病院の不承認または承認取消し、管理者の変更命令等の措置を講ずることができます。
 地域医療構想に関する都道府県知事の権限の行使の流れは、図11の通りです。

図11 都道府県知事の権限の行使の流れ

医療法改正で都道府県知事の権限を追加

 7月に成立した医療法・医師法改正により、地域医療構想を達成するための都道府県知事の権限が追加されました。人口減少が進むことにより、将来の病床の必要量が既存病床数を下回る場合、これまでの権限のみでは、申請の中止や病床数の削減を勧告できないことが問題とされ、既存病床数が既に将来の必要病床数に達している場合には、医療機関の新規開設、増床等の許可を与えないこと(民間医療機関の場合には勧告)ができる規定が設けられました(公布日の7月25日施行)。

図12 将来の病床の必要量が既存病床数を下回る場合の対応

9.地域医療介護総合確保基金

 団塊の世代が75歳以上となる2025年に向けて、効率的かつ質の高い医療提供体制の構築と地域包括ケアシステムの構築が急務となっています。このため、地域医療介護総合確保促進法により、医療・介護の連携強化を目指して、平成26年度から消費税増収分等を活用した財政支援制度(地域医療介護総合確保基金)が創設され、各都道府県に設置されています。地域ごとの様々な実情に応じた医療・介護サービスの体制を構築するためには、全国一律に設定される診療報酬・介護報酬とは別の財政支援の手法が不可欠であり、診療報酬・介護報酬と適切に組み合わせることが必要と考えられたためです。
 なお、平成30年度予算における地域医療介護総合確保基金は、公費ベースで1,658億円(医療分934億円(うち、国分622億円)、介護分724億円(うち、国分483億円))となっています。

(1) 都道府県計画および市町村計画(基金事業計画)

 事業の実施に当たっては、事業計画として都道府県計画および市町村計画を策定し、計画に基づいて事業を実施していくことになります。
 計画には、公正かつ透明なプロセスの確保(関係者の意見を反映させる仕組みの整備)や事業主体間の公平性の確保、診療報酬・介護報酬との役割分担など基本的な事項のほか、目標と計画期間(原則1年間)、事業の内容、費用の額、事業の評価方法を記載します。

図13 都道府県計画と市町村計画(基金事業計画)

(2) 地域医療介護総合確保基金の対象事業

 地域医療介護総合確保基金の対象事業には、次の5つがあります。
① 地域医療構想の達成に向けた医療機関の施設又は設備の整備に関する事業
② 居宅等における医療の提供に関する事業
③ 介護施設等の整備に関する事業(地域密着型サービス等)
④ 医療従事者の確保に関する事業
⑤ 介護従事者の確保に関する事業
 このうち、①「地域医療構想の達成に向けた医療機関の施設又は設備の整備に関する事業」については、2018年度に対象事業が拡充され、医療機関の事業縮小の際に必要となる費用を計上することが可能となっています(図14)。

図14 地域医療介護総合確保基金の対象事業の拡充(平成30年度~)

10.地域医療構想と地域包括ケア

 団塊の世代が75歳以上となる2025年には、医療と介護のニーズを合わせ持つ高齢者が増大すると予想されます。このため、医療介護総合確保推進法により、医療と介護の一体的な提供を可能とする体制整備が進められています。
 地域医療構想は、急性期から回復期、慢性期まで、将来の医療ニーズの予測を踏まえ、関係者の協議によって地域に必要とされる医療提供体制の整備を進めるものです。
 一方、地域包括ケアシステムは、要介護の状態となっても可能な限り、住み慣れた地域で自立した日常生活を営むことができるよう、医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に確保される体制構築を目指すものです。
 地域医療構想と地域包括ケアシステムは、車の両輪の関係にあり、お互いが補完しあうことで、医療と介護の連携を推進し、Aging in Place(住み慣れた地域で豊かに老いる)の実現を目指しています。