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病院の財務
1. 病院の財務
(1)財務会計
病院の財務会計は、「病院会計準則」に基づき作成されています。
病院の財務管理の改善向上に寄与することを期待され、昭和40年10月に厚生省医務局より制定されました。平成15年9月に、企業会計原則の大幅な改正を受け、厚生労働省より改訂版が公表されました。以下の内容は、その改訂版に拠るものです。
〔病院会計準則の構成〕
第1章 | 総 則 |
第2章 | 一般原則及び一般原則注解 |
第3章 | 貸借対照表原則、貸借対照表原則注解及び様式例 |
第4章 | 損益計算書原則、損益計算書原則注解及び様式例 |
第5章 | キャッシュ・フロー計算書原則、キャッシュ・フロー計算書原則注解及び様式例 |
第6章 | 附属明細表原則及び様式例 |
別 表 | 勘定科目の説明 |
新と旧の大きな相違点は、「利益金処分計算書」が無くなり、「キャッシュ・フロー計算書」が導入されたことです。
〔新たに導入された会計基準〕
1 | 金融商品会計 |
2 | 退職給付会計 |
3 | リース会計 |
4 | 税効果会計 |
5 | 研究開発費等会計 |
6 | 補助金の処理 |
新と旧の大きな相違点は、「利益金処分計算書」が無くなり、「キャッシュ・フロー計算書」が導入されたことです。
〔損益計算書の様式例〕
損益計算書
自 平成×年×月×日 至 平成×年×月×日
I | 医業収益 | ||
1 入院診療収益 | ××× | ||
2 室料差額収益 | ××× | ||
3 外来診療収益 | ××× | ||
4 保健予防活動収益 | ××× | ||
5 受託検査・施設利用収益 | ××× | ||
6 その他の医業収益 | ××× | ||
合計 | ××× | ||
7保険等査定減 | -××× | ××× | |
II | 医業費用 | ||
1 材料費 | |||
(1) 医薬品費 | ××× | ||
(2) 給食材料費 | ××× | ||
(3) 診療材料費 | ××× | ||
(4) 医療消耗器具備品費 | ××× | ××× | |
2 給与費 | |||
(1) 給 与 | ××× | ||
(2) 賞 与 | ××× | ||
(3) 賞与引当金繰入額 | ××× | ||
(4) 退職給付費用 | ××× | ||
(5) 法定福利費 | ××× | ××× | |
3 委託費 | |||
(1) 検査委託費 | ××× | ||
(2) 給食委託費 | ××× | ||
(3) 寝具委託費 | ××× | ||
(4) 医事委託費 | ××× | ||
(5) 清掃委託費 | ××× | ||
(6) 保守委託費 | ××× | ||
(7) その他の委託費 | ××× | ××× | |
4 設備関係費 | |||
(1) 減価償却費 | ××× | ||
(2) 器機賃借料 | ××× | ||
(3) 地代家賃 | ××× | ||
(4) 修繕費 | ××× | ||
(5) 固定資産税等 | ××× | ||
(6) 器機保守料 | ××× | ||
(7) 器機設備保険料 | ××× | ||
(8) 車両関係費 | ××× | ××× | |
5 研究研修費 | |||
(1) 研究費 | ××× | ||
(2) 研修費 | ××× | ××× | |
6 経 費 | |||
(1) 福利厚生費 | ××× | ||
(2) 旅費交通費 | ××× | ||
(3) 職員被服費 | ××× | ||
(4) 通信費 | ××× | ||
(5) 広告宣伝費 | ××× | ||
(6) 消耗品費 | ××× | ||
(7) 消耗器具備品費 | ××× | ||
(8) 会議費 | ××× | ||
(9) 水道光熱費 | ××× | ||
(10) 保険料 | ××× | ||
(11) 交際費 | ××× | ||
(12) 諸会費 | ××× | ||
(13) 租税公課 | ××× | ||
(14) 医業貸倒損失 | ××× | ||
(15) 貸倒引当金繰入額 | ××× | ||
(16) 雑 費 | ××× | ××× | |
7 控除対象外消費税等負担額 | ××× | ||
8 本部費配賦額 | ××× | ××× | |
医業利益(又は医業損失) | ××× | ||
III | 医業外収益 | ||
1 受取利息及び配当金 | ××× | ||
2 有価証券売却益 | ××× | ||
3 運営費補助金収益 | ××× | ||
4 施設設備補助金収益 | ××× | ||
5 患者外給食収益 | ××× | ||
6 その他の医業外収益 | ××× | ××× | |
IV | 医業外費用 | ||
1 支払利息 | ××× | ||
2 有価証券売却損 | ××× | ||
3 患者外給食材料費 | ××× | ||
4 診療費減免額 | ××× | ||
5 医業外貸倒損失 | ××× | ||
6 貸倒引当金医業外繰入額 | ××× | ||
7 その他の医業外費用 | ××× | ××× | |
経常利益(又は経常損失) | ××× | ||
V | 臨時収益 | ||
1 固定資産売却益 | ××× | ||
2 その他の臨時収益 | ××× | ××× | |
VI | 臨時費用 | ||
1 固定資産売却損 | ××× | ||
2 固定資産除却損 | ××× | ||
3 資産に係る控除対象外消費税等負担額 | ××× | ||
4 災害損失 | ××× | ||
5 その他の臨時費用 | ××× | ××× | |
税引前当期純利益(又は税引前当期純損失) | ××× | ||
法人税、住民税及び事業税負担額 | ××× | ||
当期純利益(又は当期純損失) | ××× |
一般企業の財務諸表と表示区分上での大きな違いは、損益計算書での医業収益(営業収益)の各項目名と、医業費用(営業費用)の小区分を材料費・給与費・経費の他に委託費・設備関係費・研究研修費・控除対象外消費税等負担額・本部費配賦額を別項目として区分計上している点にあります。
財務諸表の様式等の統一を計ることにより、監督官庁等病院関係者に適切な情報を提供するとともに、他の病院との比較検討が可能になります。
〔キャッシュ・フロー計算書〕
損益計算書により、算出される最終結果としての利益は、剰余資金の算出ではありません。収入と支出の差引が剰余資金となります。損益計算書の収益は発生主義により未収金であっても収益計上されています。キャッシュ・フローでの収入とは現預金等として入金されたものを指します。費用と支出についても同様です。
近年病院においても患者のニーズを的確に掴み、病院機能の増進や患者アメニティの向上を計り、より良い医療を目指し他の医療機関との競争に勝ち残るためにも病院経営の安定化とともに、資金の流れを把握管理することがますます重要になってきています。一部上場企業については、平成12年3月期より制度会計に組み入れられています。今回の改定で病院会計準則でも財務諸表のひとつに加えられました。
〔キャッシュ・フロー計算書(直接法)の様式例〕
キャッシュ・フロー計算書
自 平成×年×月×日 至 平成×年×月×日
I 業務活動によるキャッシュ・フロー
医業収入 | ××× |
医療材料の仕入支出 | -××× |
給与費支出 | -××× |
委託費支出 | -××× |
設備関係費支出 | -××× |
運営費補助金収入 | ××× |
・・・・・・・・・ | ××× |
小計 | ××× |
利息及び配当金の受取額 | ××× |
利息の支払額 | -××× |
・・・・・・・・・ | -××× |
・・・・・・・・・ | ××× |
業務活動によるキャッシュ・フロー | ××× |
II 投資活動によるキャッシュ・フロー
有価証券の取得による支出 | -××× |
有価証券の売却による収入 | ××× |
有形固定資産の取得による支出 | -××× |
有形固定資産の売却による収入 | ××× |
施設設備補助金の受入れによる収入 | ××× |
貸付けによる支出 | -××× |
貸付金の回収による収入 | ××× |
・・・・・・・・・ | ××× |
投資活動によるキャッシュ・フロー | ××× |
III | 財務活動によるキャッシュ・フロー | |
短期借入れによる収入 | ××× | |
短期借入金の返済による支出 | -××× | |
長期借入れによる収入 | ××× | |
長期借入金の返済による支出 | -××× | |
・・・・・・・・・ | ××× | |
財務活動によるキャッシュ・フロー | ××× | |
IV | 現金等の増加額(又は減少額) | ××× |
V | 現金等の期首残高 | ××× |
VI | 現金等の期末残高 | ××× |
2. 病院経営の重要な指標
厚生労働省医政局から「病院経営指標(医療法人病院の決算分析)」と題して、病院を一般病院・療養型病院・精神病院として分類し作成された統計資料があります。病院分類から、さらに地域ブロック・病床規模別に分類し、下記の項目により分析しています。
(1)損益状況の分析項目
〔基礎〕 | |
1 | 対象施設数 |
2 | 病床数 |
3 | 経過年数 |
4 | 一日平均入院患者数 |
5 | 一日平均外来患者数 |
〔機能性〕 | |
6 | 病床利用率 |
7 | 外来/入院比 |
8 | 平均在院日数 |
9 | 患者規模100人当り従事者数 |
10 | 患者1人1日当り入院収益 |
11 | 患者1人1日当り外来収益 |
〔収益性〕 | |
12 | 医業収益対医業利益率 |
13 | 人件費率 |
14 | 材料費率 |
15 | 経 費 率 |
16 | 委託費率 |
17 | 減価償却費率 |
18 | 経常収益対支払利息率 |
19 | 経常収益対経常利益率 |
20 | 総収益対総利益率(税引前当期純利益率) |
〔生産性〕 | |
21 | 常勤医師1人当り年間給与費 |
22 | 常勤看護師1人当り年間給与費 |
23 | 従事者1人当り年間年間医業収益 |
24 | 労働生産性 |
25 | 労働分配率 |
(2)損益状況・財政状態の分析項目
〔基礎〕 | |
1 | 対象施設数 |
2 | 病 床 数 |
3 | 経過年数 |
〔機能性〕 | |
4 | 1病床当り総資産額 |
5 | 1病床当り利益剰余金額 |
6 | 1病床当り固定資産額 |
〔安定性〕 | |
7 | 自己資本比率 |
8 | 固定長期適合率 |
9 | 流動比率 |
10 | 医業収益対借入金比率 |
〔収益性〕 | |
11 | 総資本経常利益率 |
12 | 総資本回転率 |
〔上記指標の一部説明〕
「医業収益比率」(1)の12~17
医業収益を分母として、各費用項目を分子においた各比率。この比率で収益性の判断材料としています。人件費率・材料費率・経費率・委託費率・減価償却費率・支払利息率等があります。
「労働分配率」(1)の25
労働分配率は、病院の生み出した付加価値額(=医業収益-(材料費+経費+委託費+減価償却費+その他の費用))のうち、どの程度人件費に配賦されたかを示す指標で、人件費を付加価値額で除することにより求められます。労働分配率を適正な水準に改善・維持するには、労働生産性の上昇率と賃金の上昇率を比較し、賃金上昇率よりも労働生産性の上昇率が高くなることが必要になります。
「自己資本比率」(2)の7
出資又は寄付金額と過年度よりの累積された利益剰余金の合計である自己資本が、総資本(負債+資本)の何割をしめるかを表します。医療法では病院を開設する医療法人に自己資本比率20%以上を求めています
平成13年10月10日起案
平成13年11月 7日改定
平成15年 6月18日改定
平成18年 4月18日改定
医療法人社団 永生会 財務経理部
[参考文献]
「病院会計準則とその手引」厚生省健康政策局監修 社会保険研究所発行
「病院会計準則等の見直しに関して」(中間報告)四病院団体協議会 病院会計準則研究委員会
「病院経営指標」(平成15年度 医療法人病院の決算分析)厚生労働省医政局
「病院会計準則〔改訂版〕」(平成16年8月)厚生労働省医政局