旧・診療アウトカム評価事業

病院支援事業

旧・診療アウトカム評価事業

本事業は平成25年(2013年)4月から「医療の質の評価・公表等推進事業(※注)」に移行いたしました。
※注 厚生労働省補助事業の終了に伴い、事業名称を2020年度より「診療アウトカム評価事業」に変更。

1. 医療の質への関心の増大

 世界的に医療の質についての関心が高まってきています。2001年に米国Institute Of MedicineはレポートCrossing the Quality Chasmを公表し、受けることのできる医療サービスと実際に受けている医療サービスの内容に差異があり、これはchasm(断層)と表現されるほど深刻であること、今後、疾病構造が慢性疾患中心となり、複数の医療機関が治療に関与するにつれこのchasmは拡大することが危惧されること、これを解消するためにはInformation Technologyの大々的な導入と、医療提供体制の大幅な変革を必要とすることを指摘しました。

2. プロセスアプローチとアウトカムアプローチ

 医療サービスの質を評価しようとする試みは1910年代まで遡ることが出来ます。最初は主に医療の結果に着目したものでした。1960年代には、A. Donabedianにより医療は、構造(ストラクチャー)、過程(プロセス)、結果(アウトカム)の3つの視点から評価すべきであるとの提案がなされ、これは現在も用いられています。ここで、構造とは、病院設備、保険制度、医療機器、専門医の確保など医療サービス提供前から定められているもの、過程とは提供される内容、結果とは提供されて生じる治療結果を表します。
 先進国では構造についてはほぼ満たされていますので、医療サービスの質を向上させようとする活動は、主としてプロセス(過程)アプローチとアウトカム(結果)アプローチに大別されます。プロセスアプローチは一定の方法論に基づいて最適な治療方法を提示・提供するものであり、医療従事者にとっては何をすべきかが分かりやすい反面、最適な方法(治療)は必ずしも最良の結果をもたらさないという構造的な問題を有します。アウトカムアプローチは、方法の如何は問題にせず、患者データベースなどにより治療結果を提示しその保障を図ろうとするものです。しかしながら、アウトカムを示されるのみでは、アウトカムの劣った医療機関ではどのような方法(プロセス)を実行すればアウトカムの改善が得られるかが不明である、という問題を有します。表1に両者の特徴を示しますが、両者は並行して進められる必要があります。

プロセスアプローチ アウトカムアプローチ
特徴 最適な治療方法を提示する 治療の結果をクリニカルインディケータを用いて提示する
欠点 最適な治療方法は必ずしも最良の結果を保証しない 結果が悪くても改善策を提示できない
EBM、クリニカルパス アウトカム評価事業(ベンチマーク)

表1:プロセスアプローチとアウトカムアプローチの比較

3. アウトカム評価の展開

 1980年代後半にはEBM(Evidence Based Medicine)の方法論が確立し、多くの診療ガイドライン、及びこれを各病院の状況に併せて二次元で展開したクリニカルパスが作成され臨床現場に用いられました。日本でも各学会の努力により、診療ガイドラインの整備が図られ、またクリニカルパスを導入する病院が増えてきています。1990年代後半以降は、プロセスアプローチの限界が認識されるにつれてアウトカムアプローチを可能にするためのデータベース構築に諸外国の関心は移りつつあります。
 データベースを用いたアウトカム評価事業の外観を図1に示します。基本的にはクリニカルインディケーター(臨床指標)を設定して、多数の病院の参加によりデータを収集し、集計して病院へ還元します。これにより、
(1) 治療成績、費用などの診療の標準を確立し、社会に示すことができます
(2) 参加病院には自院の位置付けを知り、改善へのインセンティブをもたらします
(3) 診療標準、個別の病院のデータを患者に提供することにより、より実質的なインフォームドコンセントを保障します
などの効果が期待されます。個々の病院の努力では見えて来ない診療の標準が多数の病院の参加により明らかにされ、全体として医療の質向上が図られます。このような試みは、米国、豪州などで既に行われています。代表的な事例を表2に示します。

Maryland Hospital Association(米国) Hawaii Health Information Corporation(米国) Australian Council for Health Standards(豪) 全日本病院協会(日本)
参加病院数 約2000 22 約600 約40
参加形態 全米各州、国単位にスポンサー(州病院協会)を設定。病院はスポンサーを介して参加する形をとる。米国以外では、政府、大学などがスポンサーとなり参加する(ただし、比較を可能にするために1か国からの参加は5病院以上が必要) ハワイ州の全病院。病院の自由意思による参加の形態を取っているが、発足時より全病院が参加しており、参加継続に対する圧力は比較的強い。 4年間有効の認定を受けた病院は、自動的にACHSの会員となりアウトカム評価、およびコンサルティングのサービスを受けることができる。 全日本病院協会への参加申込み。(全日本病院協会の会員になる必要があります。)
参加費用 あり(スポンサーはMHAの料金に上乗せして料金を参加病院に請求できる) あり あり(参加料金、コンサルティング料金は認定費用に含まれている。) なし
参加病院への情報提供 当該病院及び他病院については集積データ 参加全病院の個別データ 当該病院及び他病院については集積データ 当該病院及び他病院については集積データ
集積データの公表(統計数値) 行っていない 行っている 行っている 行なう予定
認定業務 認定はJCAHOが実施(関係なし) 認定はJCAHOが実施(関係なし) 認定機関を兼ねる 認定は日本医療機能評価機構が実施(関係なし)
組織形態 MHAが所有する株式会社が行う Non-profit organization Non-profit organization Non-profit  organization

表2:米国、豪、日本での代表的なアウトカム評価事業