全日病ニュース

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レセ等データが地域の病床の機能別過不足を明らかにする

レセ等データが地域の病床の機能別過不足を明らかにする

【全日病「経営セミナー」】
データに基づく予測に沿って分化が促される。「連携・協調を志しとすべし」

 全日病が主催する「2025年に生き残るための経営セミナー」は8月16日に「これからどうなるDPC対象病院」と題した第4弾を本部会議室で開催、153人が参加した。産業医科大学医学部の松田晋哉教授とDPC評価分科会の金田道弘委員(社会医療法人緑壮会金田病院理事長)が講演した。
 松田氏は、レセプトとDPCのデータ活用から医療圏ごとの受療状況と病院の機能分布把握が可能となっていること、そして、その医療計画への利用が始まっていることを説明。さらに、地域医療構想にもとづいて、各地域で需要に見合った機能別の病床数を予測し、それに沿った分化・連携を追求する時代になると展望。
 こうしたデータの公表と活用によって、行政だけでなく、医療機関の側も地域の需給を踏まえた機能の確保に自ら対応することが可能となり、分化・連携に、自主的選択の余地が増えるとの認識を披露した。
 松田氏は、また、高齢社会化にともない、急性期の受皿と在宅ケアを支援する機能を併せ持つ地域包括ケアの病床がますます必要になること、さらに、療養病床に準じた、かつ、入院とリンクした機能を備えた在宅医療が重要になるという見解を明らかにした。
 一方、金田氏は、機能分化と連携の取り組みが進む今後を踏まえ、各病院は、競争から協調へと転換していく中で自院の機能を選択していくべきであると論じた。  

 中医協診療報酬調査専門組織のDPC評価分科会の前委員を務めた松田氏は、厚労科研のDPC研究班を率いてDPC体系の開発を手がけたことで知られる。
 他方で、レセプト・特定健診情報(NDB)、DPC、介護報酬請求の各データをクロスさせた福岡県保健医療介護総合データベースを開発。同県医療圏ごとの患者受療と医療機能の分析ツールを完成させている。
 この日の経営セミナーで、松田氏は、疾患別・機能別の受療圏構成やDPC対象病院のMDC別診療実績など前出データベースの一端を示し、医療提供体制を可視化するデータ活用モデルを紹介した。
 このデータベースは各地の自治体でも活用され、松田氏は、その後、医療計画を策定する上で独自にNDBやDPC等データを活用できるソフトとデータブックを手がけ、各都道府県に提供した。
 NDBやDPC等既存データを利用することによって医療の需給が地域単位で分かり、目標設定が可能となるという松田氏の提言は政府の目にもとまり、財政制度等審議会や経済財政諮問会議で麻生財務大臣が「レセデータ等の利活用で都道府県ごとの医療費目標設定が可能となる」と支持を表明。「骨太方針2014」にも「地域横断的な医療介護情報のICT化により医療介護支出の効率化・適正化を図る」と書き込まれた。
 この方針は、社会保障制度改革推進本部の下に設置された「医療・介護情報の活用による改革の推進に関する専門調査会」で、具体的に実行に移されようとしている。
 松田氏が作成した医療計画策定用のレセプトデータは、①2次医療圏別の医療提供状況、②2次医療圏単位の受療動向、③都道府県別の医療提供状況の3資料がベース。レセプトデータは施設名がないために医療圏別の集計となるものの、疾患別・病床機能別の受療圏が分かり、患者流出入の実態も入院・外来別、年齢別などの指標で捕捉できるため、医療圏ごとに機能の過不足や自己完結率が判明する。
 この枠組みに施設名が分かるDPCデータを加味するとMDCベースの病院別診療実績が明らかになる上、がんや救急に関しては化学療法の入外別実施など詳細がつかめるため、地域医療を評価する指標の抽出が可能となる。

地域包括ケア病床と病院直結在宅医療の整備が必要

 これらのデータは、しかし、過去の実績である。セミナーで、松田氏は、これらデータに人口構成と疾病構造の将来変化を加味したものをツール化、将来の提供体制を地域単位で予測できるようにしたことを明らかにした。
 そして、「NDBとDPCのデータを使うことによって、各医療圏における将来の課題が、優先課題がはっきりしてくる」と述べ、将来の提供体制について以下の課題を指摘した。
(1)高齢者が増える中、今の受療率が続くと急性期も慢性期も病床不足に陥る。
(2)したがって急性期病院は、回転を上げるために連携体制をどう確保するかが問われる。
(3)同時に、急性期の受皿と在宅ケア支援の機能を併せ持つ地域包括ケアの病床が重要になる。
(4)療養病床の不足による在院日数短縮により、医療ニーズをもつ重度要介護の患者が在宅に移行するため、療養病床に準じた、かつ、入院とリンクした在宅医療が必要となり、訪問看護も病院によるサービスがより重要になる。
(5)入院医療の縮減を支えるために、在宅療養を支援する病院と老健施設を拠点としたネットワークを地域単位で整えていく必要がある。
 その上で、松田氏は病床機能報告制度の意味するところを、「この報告によって、機能ごとに対応する医療行為がどの位されているかが、地域別、病院(病棟)別に分かる」と概括。その結果、「そうした医療行為の量を全国平均と比較することによって当該機能の病床の過不足が判明する」と説明。
 さらに、医療計画は名称が「地域医療・地域包括ケア計画」に変わる可能性があると述べ、地域包括ケアを支える在宅医療の整備が焦眉の課題になっていくとの認識を示した。
 この講演で、松田氏は、「今後の医療は、中央一元型から地方多元型へ、競争から協調の時代に入る」という認識を明らかにした。
 この論旨を受け、金田氏は、機能分化・連携で病床・病院の淘汰が進む中、病院は「連携・連合し、協働して、地域の医療に責任を持つ」方向で自院機能の再編を行なうことによって生き残ることができると指摘し、各病院にその志しをもつよう訴えた。