全日病ニュース

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連携先からアウトカムが評価される。十分な実績が生き残るすべ

【座談会 地域包括ケア病棟― その役割と選択する病院の課題】

連携先からアウトカムが評価される。十分な実績が生き残るすべ

地域包括ケア病棟
医療内容は丸裸に。確かな実績を次なる要望につなげたい

地域包括ケア病棟への移行を考える療養病床も

猪口 療養病床からも地域包括ケア病棟に行けますが、療養病床の動向はどうですか。
仲井 届け出るところはあります。地域包括ケア病棟に参入あるいは予定している療養病床は、ほとんど、自院に来られる患者の急変を受けている病院です。そういう療養病床は数多くありますし、そういった中には「今ある機能を評価してもらえた」と歓迎している病院もあれば、現状に満足することなく、「もう少しリハビリを増やさないといけない」と考えているところもあります。そこは、やはり、志し一つではないでしょうか。
 先ほど申し上げたように、結局は、自分達がどこまでどの病棟で診るかという胸先三寸的なところもありますので、そういう志しの高い療養病床には地域包括ケア病棟に行きたいと考える病院が少なくありません。
猪口 入院医療管理料であっても移行する病棟は13対1以上にしなければならないし、加算をとるのならばそれなりの配置がいります。しかも、実績はすぐにできるわけはないので、多分「2」から始めるんでしょう。
 そこら辺のことも、届出が一巡した段階で調査する必要があると思います。全日病は6月末に、地域包括ケア病棟に対する会員病院の意向を緊急調査し、1,430病院から回答を得ました。それによると、483もの病院が届出済もしくは届出を考えています。つまり、相当数の病院が移行する方向にあるのは確かで、療養病床からの届出もある程度出てくるだろうと思いますが、正確なところはもう少したたないと分かりませんね。  

大病院にも参入の動き―“病院完結”志向の恐れ

猪口 神野先生の病院は届出を終えていますが、その先の展望はいかがですか。
神野 次の課題は、どの機能の病棟をどれだけ増やし、どの病棟を削減するかということですね。現在、7対1のDPC、回リハの1、地域包括ケアの1、障害者の病棟を持っていますが、これからはどの部分を増やすかがテーマです。回リハを増やすという選択もあるかもしれない。
西本 自院も同じような状況ですが、障害者病棟を1病棟持っているので、それをどうするか考慮中です。とりあえず今年は地域包括ケアの安定稼動に力を注いで、来年は障害者病棟にメスを入れようかと考えています。
 その結果、もしかすると地域包括ケア病棟で行くかも知れません。一般病床は厳しいものがありますので、何か手を加えるなりして、地域包括ケアを増床する可能性は十分あると思っています。
猪口 ところで、厚労省は地域完結型といっているんですが、例えば東京では、全床7対1でやっていたそこそこの規模の病院に、今回の改定で規模を縮小して7対1を堅持し、空いた病床を地域包括ケアにするという動きが見受けられる。そのため、今までは自院に患者を送ってくれていたのが、これからは送らないという影響が出ています。これって、地域完結型ではなく、むしろ病院完結に向かっているのではないかという気もします。
神野 私の周りにはそういう動きはまだありませんが、急性期のみでやってきた地域の公立病院が今後地域包括ケア病棟をとるようになると、世の中はガラッと動くと思います。
西本 確かにもろ刃の面がある改革です。これで、将来にわたって1病院の完結で終わってしまうと、地域包括ケア病棟のそもそもの考え方が崩れてしまうかもしれません。地域によって事情は違うでしょうが、何らかの、極端なことを言えば、同じ病院の一般病床からの転床はカウントできないといった制限をつけないと、なかなか地域完結に向かっていかないのではという感じがしています。
 地方には、近くに連携できる病院も乏しく、100床未満で療養も一般もあって、中には回リハまである病院があり、こういう病院は将来どうするのかなと心配しているのですが、そういったところの病床整備も同時並行にしていってこそ、地域完結ができていくのかなと個人的には考えています。
仲井 私は、地域包括ケア病棟を活用した自院を“地域包括ケアミックス病院”と呼んでいます。これまでは“デパート型ケアミックス病院”と言っていましたが、高度急性期から慢性期まで提供していた割には在宅がちょっと弱かった。しかし、今後は、高度急性期は自分の得意分野に絞って、8月に届け出たHCUと7対1の一部で看る。その代わりに、急性期、回復期、慢性期そして在宅を伸ばしていこうということです。
 仮にそういう病院がいっぱいできると、例えば、中等度の人口密度のところは、そうした病院群が高度急性期の部分を連携すればいいわけです。そういう意味では、人口密度とか人口構成によって形は色々できるわけで、これも含めて地域包括ケアシステムを支えていけばいいのです。これは地域医療ビジョンの中で考えられることかと思うのですけど…。
猪口 自分のところも含めて思うのですが、紹介を受けた場合も、自院で急性期から地域包括ケア病棟に移した場合も、とにかくしっかりリハなりをやる。そして、在宅に戻すときも、ただ退院しなさいというのではなく、介護職やケアマネと連携して、重い人、独居の人、あるいは認知症の人もこうすれば安全に帰せると…。
 そういう努力とノウハウをきちんと持って、しかもそうした実績を具体的にデータで示す。その上で、必要なものは診療報酬でみてほしいというように示していく。こういう道筋をつけていかないとならない。それをやっていけば、自ずと形が決まっていくのではないかと思います。
西本 そこなんですが、地域包括ケア病棟で質問してくる病院の中には、例えば、リハ2単位ぎりぎりの対処方法とか、必ずしも実体が伴わない医療でどうやって切り抜けていけるかといったところに知恵を張りめぐらせようとするところがあるように思うのです。
 ここは、やはり、そういう考え方は変えてもらって、地域でなくてはならない病院になるにはどうしたらいいかということを真摯に考えて、そうした取り組みを行なっていかないと、いつしか隘路に入りかねません。
猪口 まったくそうです。地域包括ケア病棟で引き受けた以上は在宅や退院に持っていかなければなりません。そうした際に、紹介してくれた病院には必ず報告するといったルールも必要かもしれない。そういう連携上のマナーができないどころか、アウトカムも十分ではないとなったら、ケアマネから苦情が出て、紹介先にも「あそこに紹介したらこんな形で出された」と不評を買ってしまう。
 そうした1つ1つに努力を傾けて、「あの病院はちゃんとやってくれる」という評判を得ることが大切です。そうした実績をつくりながら、サブアキュートとか本当に必要なところはみんなでデータを確保して、要望していくということではないでしょうか。

地域包括ケア病棟の役割を踏まえ、実績を残してほしい

仲井 私は全日病の会員ではありますが、一方で、地域包括ケア病棟協会の会長を拝命しています。そこで、地域に地域包括ケア病棟が根づいて、その利用者とサービス提供者が「これはいい病棟だ」と評価していただけるようになればいいなと、本当に願っています。
西本 ポストアキュートという機能からみると、地域包括ケア病棟は前方の急性期病院から期待されています。他方で、在宅ばかりでなく後方の病院や施設にリレーしていくことを考えると、我々は、この点数でベストの結果を出していかなければよい評価をもらえないという立場にあります。
 この先になればなるほど競争相手は増え、恐らくどんどん厳しくなっていくことでしょう。その中で効率化を図り、かつ実績を確保していく努力をすることによって生き残っていかなければならないと思います。
神野 人口の減少は都会よりも地方が先に進みます。そういう中で、我々はやるべきことをやらなければなりません。高齢者が多い地域にあるからこそ、我々のグループは大きなビジョンとして「面倒見をよくする」ことを謳っていますが、その中で、病棟ごとにミッションを明確にしています。
 「面倒見をよくする」ために、例えば、回リハは、脳卒中で麻痺した人とかを半年以内に在宅に戻すためにリハを強化することがミッションになります。では、地域包括ケア病棟のミッションは何か。自院では、患者に「在宅で過ごすための準備病棟です」と説明しています。これが、ミッションとしての地域包括ケア病棟の位置づけなのです。
 その中で、単に在宅に帰れるようになるだけでなく、さらに、その後のことも「面倒見をよくする」。そのために、次は、本当の意味の地域包括ケアとして、訪問系とか通所系のサービスにつなげていく必要がある。そういうところまで見据えた上で、在宅準備病棟という地域包括ケア病棟のミッションをはっきりさせていきたいと思っています。
猪口 私の病院は本当に小さくて、連携なしには成り立っていかない状態にあります。そこで、連携関係を築くために、マーケティングの考え方で取り組むようにしています。つまり、我々の病院が何をしているかという情報を地域の病院に知ってもらうことが重要ではないかと。そのためにMSWとか退院支援ナースを配置して、積極的にその紹介に回らせています。
 これによって次々と紹介が出てくるのですが、それに対して絶対にノーと言ってはいけない。とにかく受けよう、受けて結果を出そうということで、今、一所懸命やっています。時には大変な人も転院してきて、現場は「ああ、どうしよう」というケースもあるのですが、そこはがんばって結果を出していかないと…。地域包括ケアシステムにポジションを得ていくのはきわめて厳しくなるだろうと思っていますから。
 今日出てきた我々の目標とか努力というのが何とか実って、数年後に、同じメンバーで前向きな総括ができるように頑張りましょう。(笑)