全日病ニュース

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地域包括ケア病棟 地域によってはサブアキュートが重要な役割に

【座談会 地域包括ケア病棟― その役割と選択する病院の課題】

地域包括ケア病棟
地域によってはサブアキュートが重要な役割に

だが、包括+加算という現行点数では急性期の医療は難しい

 「全日病ニュース」は5月から8月まで4回にわたり、「2014年診療報酬改定にどう対応するか」というテーマで「会員病院の報告」を掲載した。
 その後、全日病の「経営セミナー」で『地域包括ケア病棟への移行』がとりあげられるとともに届出に関する動向調査が実施され、地域包括ケア病棟に対する会員病院の関心がきわめて高く、届出を考えている病院も多いことが判明した。
 そこで、「会員病院の報告」の最後を飾る座談会を行ない、届出を決めた病院に、地域包括ケア病棟について意見交換していただいた。

猪口 今回の改定では地域包括ケアの病床を増やすという意図が色濃く出ました。他方、病床機能報告制度に伴って4区分の医療機能が打ち出されましたが、その中でも亜急性期、最終的には回復期となりましたが、これをなんとかしたいという強い思いが厚労省にはあったと思うのです。
 では、日本の急性期をどう考えたらよいのか、これからどうなるとみていますか。
神野 急性期を考えるというのは、急性期の後をどうするかという問題でもあります。日本は、その後がないから急性期のベッドが増えてきたわけです。例えば、アメリカでは急性期病院の前にホテルをつくって、退院後はそこに入ってもらうという形をとるといったフォローがあったから、在院日数4~5日が実現できた。
 このように、急性期のあり方というのは、地域で急性期の後を誰が面倒みるのか、それをどういう形で展開するのかという点とリンクするのではないでしょうか。
西本 例えば、3次救急を成り立たせるためには2次救急が必要で、さらに、2次救急がうまくいくには1次救急が大切です。そう考えると、急性期が何床いるかという問題も、神野先生がおっしゃるように、その受皿整備がどれだけ進むかということでもあります。
 この機能が充実すれば7対1は今の半分もいらないでしょう。逆に、これが十分でなければ、今とさほど変わらない状態が続くのではないでしょうか。
仲井 自院の7対1病床でいうと、改定後の「重症度、医療・看護必要度」によって病床稼働率を上げられないという点が結構きいています。では、地域の事情はどうなのかというと、結構、元気な人が増えている。そうなると、急性期を維持しようとしても患者を確保できるのかという問題があります。
 それと、地域包括ケアのようにある程度急性期を診ることができる病床で、どこまで急性期の患者を診るのかという問題もあると思うのです。つまり、各病院がどこまで診ようと考えるかによっても変わってくると思うのです。
 これは今後、需要と供給の関係で決まってくるのでしょう。例えば、ERに患者がいっぱいあふれているという地域は、地域包括ケア病棟でそこそこ急病の人を診なければならないかもしれませんが、医療機関が少なくて、急性期はここだと決まっているような地域であれば、7対1に患者が集まることでしょう。
 私は、今回、自院でどんな患者をどう診るかと思う気持ちも、7対1あるいは地域包括ケア病棟の選択に影響するということがよく分かりました。
猪口 亜急性期の病床から地域包括ケアの病床への移行は一見容易にみえますが、ポイントはそこではなく、地域事情との関係で地域包括ケア病棟をどうみるかというところなんでしょうね。

地域包括ケアの病床で急性期を診ることは可能

猪口 神野先生の病院は病棟単位で移行するということですが…。
神野 私の病院は7対1が292床あるので、ポストアキュートが主体になると思います。何をもって軽度急性かという問題もありますが、急性で来た患者は7対1で診るという形は、もうしばらくは変わらないのではないでしょうか。
西本 私のところは114床のうち43床を地域包括ケア入院医療管理料1で届け出ました。自院はフルラインではなく、単一機能がベースですので、その中で守備範囲を広げざるを得ません。点数的に急性期対応に不安もありますが、他の機能の病床がなければ、その中で充実した医療を提供していくしかありません。
 自院は医療機関が密集している地域なので競争が激しいんです。したがって、不十分な医療をしていると、後方連携の病院などから自院を退院した患者はこんなレベルなのかという評価を受けるので、手を抜くわけにはいきません。
仲井 自院は80床を予定していますが、例えば短期滞在手術等基本料3について、当院で多い白内障の手術、全大腸内視鏡のポリープ粘膜切除、ヘルニアの手術等は地域包括ケア病棟で十分診ることができると思います。こういった使い方をしていけば急性期を診ても問題ないと思います。
 それと、開業医の先生からは、誤嚥性肺炎を起こしやすい嚥下障害が多少ある患者に嚥下機能の評価や摂食機能療法を施して戻してほしいという声もあるので、そういう患者も地域包括ケア病棟で診ていいかと思っています。
 なぜここまで言えるようになったかというと、7対1を大きく減らしたからです。それで、この様な患者もすべて診ていこうという考えになったのです。つまり、7対1を持っているとそういう患者はすべて7対1で診るのですが、逆に、7対1を減らすと、今度は地域包括ケアで診ていこうと…。
神野 ただ、白内障はもちろん高齢者ばかりです。それだけでなく、短期入院手術には結構手のかかる患者がいます。厚労省が7対1は高度急性だと言うからおかしくなるわけですが、医療スタッフの数などからみれば7対1は一般急性期であって、特段に高度急性期でもない。だから、7対1で白内障とかを診て何が悪いのかという議論もあるわけです。むしろ、看護配置が薄いところでそれをやることに対する危惧はないのかな…。
仲井 私のところは2病棟ですが、1つは整形外科の術後が多く、リハビリが中心です。もう1つは現在内科の病棟を移行させる予定で、そこには大腸内視鏡ポリープ切除の患者がいますし、7対1の傾斜配置で看護体制がちょっと薄くて、夜勤が2人なんです。地域包括ケア病棟に移行してもそれほど看護の手はかからない、つまり、現状と余り変わらないかなと思っています。
西本 私のところはベースは10対1ですが、白内障とかポリペクとかも含めたいわゆる短期手術の3は普通にやっています。特段の不満は出ていません。
猪口 厚労省も7対1は高度急性期と言い切っているわけではなく、ICUやCCUといったユニットということで進めていくというイメージではないでしょうか。

サブアキュートの必要性は地域の状況にもよる

猪口 私の病院は1病棟だけなので、10対1と入院医療管理料の組み合わせでやっています。もしも急性期への対応が加算で認められたら、全体で地域包括ケア病棟に行こうではないかという検討もしましたが、救急・在宅等支援病床初期加算の150点で今している医療をやれるかというと、やはり難しいということになって、ミックスにせざるを得なかったのです。
神野 リハの包括というのは予想外でしたね。西本さんの病院のようにリハは幾らでもやるというところもありますし、それによってアウトカムもよくなるから、それはそれでいいわけですが、今までの取り組みからすると、リハの職員をいっぱい雇う原資としてリハの加算が欲しかったというのが正直な気持ちです。
西本 自院についていえば、基本点数2,500点に救急・在宅等支援病床初期加算の150点では対応できない患者が出てくる可能性もあるかと思います。やはり、サブアキュートの機能に加算を設けたほうが、整備しやすいのではないでしょうか。
仲井 私の病院ではポストアキュート、例えば、肺炎の長引くタイプとか老年症候群の急性増悪で長引くような患者は障害者病棟で診ていました。また、回復期リハを持つだけの患者がいなかったので、整形とか脳外のリハなどは亜急性期の病床で診ていました。
 そのポストアキュートの2つを足したバーチャルな病棟をつくって試算したところ、実績単価は地域包括ケア病棟の方が若干高いんです。リハの提供は4.1単位です。そこで、リハ提供加算をとった亜急性期2と地域包括ケア病棟の包括点数を比較したところ、差は693点でした。
 それを運動器疾患リハ(1)と(2)の平均175点で割ると4単位になります。つまり、地域包括ケアの包括に4単位は含まれているということです。でも、実績値は4.1単位ですから、そう変わりはありません。しかも、機能を移行しても、人員数でみると今とほとんど変わらないんです。つまり、ポストアキュートという面で見ると、障害者病棟+亜急性期病床と地域包括ケア病棟は変わらないのです。
 問題は、サブアキュートの機能を加えたときにどうなるかですが、皆さんがおっしゃるように、何かないと足が出るかもしれない。ただ、どんなサブアキュートを診るかっていうのでも違ってくるのでしょう。そこは、今後のデータを踏まえて、必要であれば厚労省に物申していくということではないでしょうか。
猪口 そうですね。地域包括ケア病棟の行方はこれで終わりというわけではないでしょう。厚労省は、これからも高度急性期や急性期の病床を減らして、その次に地域包括ケア病棟を位置づけていきたいと考えているでしょうから。
 しかし、昨年11月に発表した四病協の追加提言は「地域医療・介護支援病院」という構想を打ち出しています。厚労省によって名称は地域包括ケア病棟となりましたが、「地域医療・介護支援病院」というのは、全日病や四病協が提唱してきた「地域一般病棟」をバージョンアップしたものです。
 この「地域医療・介護支援病院」のイメージ図をみると分かりますが、どうみても、特に施設や在宅から入院してくる患者は急性期の扱いになると思う。それだけに、その病床で急性期の医療を包括プラスアルファでやれというのはちょっと酷で、それだけでは各病院とも手を出しにくいように思うのです。
 ただし、そこで提供される医療内容はデータ提供によって丸裸になるので、今後は、ここをめぐる議論が一番大きなものになると思うのです。一方で、病床機能報告制度で地域包括ケア病棟は急性期と回復期のどちらで届け出るのか整理がついていません。
 したがって、全日病としても、どういう機能まで持たせれば生き生きと機能していくのか、地域包括ケア病棟の提言に取り組んでいきたいと考えています。
神野 役割機能というのは、地域、病院の分布、年齢構成などによって変わっていくものです。例えば、サブアキュートをやりたいと思っても、地域に急性期病院が多ければ、患者はそちらに行ってしまうので、サブアキュートはできません。
 地域包括の名の通り、これは地域トータルでみる必要があるし、それをどうやってインテグレートしていくのかという課題があるのではないでしょうか。その旗振り役は医師会かもしれないし、病院かもしれないが、その地域にどういう種類の機能がどう分布しており、その中で我が地域包括ケア病棟はこういう役割を担うという…。
仲井 先日、厚労省の方に「サブアキュートの点数は何とかならないのか」と質問してみました。すると、「重症度、医療・看護必要度に10%の区切りがある」と言われ、そこがサブアキュートの限界じゃないかというニュアンスでした。逆に言うと、今後、サブアキュートを担っていく上で、「重症度が高い人が多くいるところは評価してほしい」という要望はありなのかもしれません。
 それと、地域包括ケア病棟は、地域包括ケアシステムの数だけ色々なパターンが出てくると思います。日本全国に、中学校区は9,700、日常生活圏域は5,000ぐらいあり、それぞれに地域包括ケアシステムができるので、それ以上の数の地域包括ケア病棟が生まれることでしょう。それだけの数の病棟ができると価値観もそれぞれだろうと思います。
猪口 仲井先生が言うように色々な形ができるとすると、それを一律の包括点数で括っていくのはますます難しくなりますね。
西本 先生方がおっしゃるとおりで、ポストアキュートに関しては、ある程度、この点数でいけると思います。ただ、サブアキュートについては何らかの点数が欲しいですね。
 というのも、7対1というのはサブアキュートの機能を含む病床だと思うからです。その7対1を地域包括ケア病棟とかの看護配置が少ないところに移行させるには、サブアキュートにそれ相応の加算をつけないと無理なのではないでしょうか。
猪口 そう思います。地域包括ケア病棟にはポストアキュートだけの病院も当然あるわけですが、一方で、サブアキュートもやるという病院も当然ある。そこで、サブアキュートの評価を求めるということになれば、全日病としても、そういう病院が何をやっているかというデータをもって要望していく必要があります。