全日病ニュース

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新基金に5件の事業を提案。県と接点をつくる

▲栃木県支部の抱える課題を語る藤井卓支部長

【支部訪問/第7回栃木県支部】

新基金に5件の事業を提案。県と接点をつくる

私的病院協会と一体の活動。だが、その活動基盤を失う危機に直面

 栃木県支部の会員数は26人。私的病院が95ある中で決して大きな数ではないが、栃木県私的病院協会の中心となり、一体となった活動を行なってきた。栃木県私的病院協会の会長でもある藤井卓支部長(医療法人卓和会藤井脳神経外科病院理事長)は、今回の基金に積極的な事業案を提案、県とのパイプづくりに成功した。その一方で、支部活動を支える活動基盤の喪失という危機に直面している。藤井支部長に栃木県支部の現況と直面する課題を語ってもらった。(支部訪問は不定期に掲載します)  

 栃木県には109の病院があるが、そのうち公的病院は県立3を含む14病院に過ぎず、私的病院は95と9割近くを占める。
 そのうちの50病院が、今年30周年を迎える一般社団法人栃木県私的病院協会に参加している。
 その栃木県私的病院協会の会長を、藤井卓支部長は2012年4月以来務めている。
 栃木県私的病院協会には医法協の会員も参加しているが、全日病会員の割合が高いこともあって、「私的病院協会の会長が全日病の支部長も兼ね、事務局は私的病院協会にお願いする」かたちで今日にいたっている。いわば一心同体の関係だ。
 その栃木県私的病院協会が存立を左右する危機を迎えているという。というのも、昨年の厚生年金保険法等一部改正によって、2019年以降、厚生労働大臣は積立比率等の基準を満たさない基金に解散命令を発動できることになったからだ。
 「この法改正を受けて、栃木県病院厚生年金基金は3 年後の自主解散に向けて動き始めました」
 だが、解散は栃木県私的病院協会の活動基盤の喪失を意味しているという。
 「私的病院協会の事務はすべて厚生年金基金の事務局にお願いしており、その私的病院協会に全日病支部の事務もおまかせするという関係で支部活動が成り立っているのです。支部には活動資金がありません。これまでやってこれたのは、私的病院協会とおんぶにだっこの関係だったからなんです。解散までの3年の間に、私的病院協会、全日病、医法協の3団体の事務所をどこにするのか、事務職員をどうするかという問題を解決しなければならない。せっかく3つが手を携えてやってきたので、これからも一緒の事務局でなければならない」というわけだ。
 栃木県には公的病院を含む87病院が参加する病院協会がある。栃木県病院協会は栃木県医師会と催し物や研修会を行なうことも多く、県や医師会と情報を共有するなど、別格の存在となっている。
 そうした中、栃木県支部は県とのパイプをつくり始めた。きっかけは新基金制度である。
 「今回の基金制度では、本部からの方針を受けて事業案を県にもって行きました。今まで、県との接点はもっぱら私的病院協会が受け持ち、全日病としてはなかったんです。それを、今回は両団体として提案、したがって全日病という名前でも出した結果、初めて正式なコンタクトがとれました」
 栃木県支部は、基金に対して、「在宅患者の救急搬送にかかわる在宅医療機関等と2次救急機関の連携体制構築と運営に対する支援」や「地域に必要なSCU病床等を整備・維持するための支援」など、5件の事業を提案した。
 もっとも、「県には色々な団体から上がった事業案が余りにも多いので取捨選択に困っているようです。今までの事業を継続しなければならないこともあって、我々が提案したのは、どれも難しいかもしれない」と、楽観視はしていない。
 それでも、「病院団体として、とくに民間病院の立場から、行政に物申していく必要がある」と、藤井支部長は断言する。
 「公的病院の数が少ない栃木県は、救急でも何でも、民間の力に依存しないと地域医療がもたない。したがって、民間の意見を伝えながら、民間の医療機関が存続できる方向を考えてもらわなければならないと思います。護送船団ではいけませんが、かといって、1つか2つだけが勝ち残るというのでは地域医療そのものが成り立たない。この地域を守るために必要な民間の医療機関のレベルを保たなければいけないと思うのです」
 そのためには、「全日病だけでなく、私的病院協会や医法協とかが一緒になって県に提言していく力を持たないといけない」と語る。
 「ところが、現実は、我々には金がない。力もない」と、藤井支部長は厚生年金基金の解散を惜しみ、「それに代わるバックボーンが必要です。では、栃木県で、我々はバックボーン足り得るだろうか」と自問する。

支部活動の新たな基盤を模索

 「制度が大きく変わろうとする、まさに転換点にある今、それぞれの病院はどう動くべきか模索しています。そして、どこが頼りになるのかが問われているのです」と語る藤井支部長は、急性期医療における民間中小病院の役割を減じようとしていると、地域医療の視点から医療改革の行方を懸念する。
 「そもそも救急を担う病院が減りつつあるのに、7対1を初めとする急性期を減らそうとしています。しかし、急性期をいたずらに減らしていくと、地方では、今でも大変な救急をどうやって維持していくのかという問題に直面します。とくに栃木県は、数の少ない公的病院で急性期を維持することは、まずできません。わが国医療の半分以上を扱っている民間病院が元気よく、急性期も扱える状態をつくり上げないと、医療そのものが成り立たなくなります」
 そうした考え方から、“勝ち組”と“負け組”の2極化に向かう改革に全日病がどう対応していくべきか―。藤井支部長は熱く語る。
 「もしかしたら、我々(全日病)は日本の医療を支える中小民間病院の集まりという原点から変質してきてはいないか。本当に中小を含む民間病院のすべてを支えられる組織であるのかどうか点検する必要はないのか。勝ち組だけで地域の医療を支え切れるのか。そういったこともよく考えていかないと…」
 そして、「支部会員が年1回集まるのが精いっぱい」という慢性的な資金不足を解消するために「納める会費の何割かが支部に還付される」制度や「全日病に地域のデータを収集・分析する部署があって、そこに相談すれば、参考となる事例や情報がもらえる」仕組みの創設など、「支部の数少ない構成員では担えない資金や情報面を本部が支えてくれると本当に助かる」と、本部に対する要望を語る。
 しかし、要望するだけではない。
 「全日病本部からの情報は(会員病院に)伝わっていると思うが、会員病院の情報が私の方に上がってきていない。年1回の総会だけでなく、役員会でも懇談会でももっと多く開けば色々な情報も出てくるのかもしれないので、これは私の責任かもしれませんね。会員の増強も自然発生的に任せてしまっているかもしれない」と、自らを振り返りもする。
 そうした地道な取り組みは、私的病院協会や医法協との三位一体を堅持していくことができれば、色々手立てはある。
 では、厚生年金基金に代わるバックボーンをどこに見出していくのか…。しかも、財政的な面だけでなく、改革に立向かう全日病のスタンスとアイデンティティを新たなバックボーンとするために、地域の病院にどう訴えていくとよいのか。藤井支部長は、葛藤しつつも、栃木県における全日病の旗を維持すべく、今後の支部活動を模索している。