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ホーム全日病ニュース(2024年)第1056回/2024年6月1日号かかりつけ医と多職種連携に関する調査研究でセミナーを開催

かかりつけ医と多職種連携に関する調査研究でセミナーを開催

かかりつけ医と多職種連携に関する調査研究でセミナーを開催

【全日病・2023年度調査研究事業】中小病院のかかりつけ医としての役割と連携の実態を語る


(左から)美原副会長、進藤氏、中村氏、田中氏

 全日病の高齢者医療介護委員会はこのほど「かかりつけ医と多職種連携に関する調査研究事業」の報告書をまとめた。本調査は2023年度老人保健健康増進等事業として実施した。2040年を見据えると、在宅を中心に入退院を繰り返し看取りを必要とする高齢者を治し、支える医療・介護の提供と、医療・介護・福祉のハブとして機能するかかりつけ医が必要になる。地域でかかりつけ医機能を果たしていると思われる「200床未満の一般病院」「在宅療養後方支援病院」「郡市区医師会」と、かかりつけ医と連携する立ち位置にあると考えられる「居宅介護支援事業所」「訪問看護ステーション」を対象に、アンケートとインタビューで調査を行った。その結果をもとにセミナー動画を作成し、公式サイト上で公開した。本号では報告書とセミナー動画の概要を紹介する。なお、「認知症の医療提供体制に関する調査研究」「介護施設・事業所等における身体拘束廃止・防止の取組推進に向けた調査研究事業」についても、別途研究報告書を取りまとめている。

■セミナー概要

地域において「かかりつけ医療機関 」の核となる中小病院とは
~かかりつけ医と多職種連携に関する調査研究の結果から~
【登壇者】
美原 盤(司会)
 公益財団法人脳血管研究所 美原記念病院 院長
進藤 晃
 医療法人財団利定会 大久野病院 理事長
田中 圭一
 医療法人笠松会 有吉病院 理事長
中村 万理
 医療法人財団正友会 中村記念病院 院長補佐

■調査報告書概要
中小病院がかかりつけ医機能を発揮
 本調査のアンケートの回収結果は、中小病院225票(有効回答率17.3%)、在宅療養後方支援病院139票(同24.3%)、郡市区医師会316票(同41.4%)、居宅介護支援事業所417票(同39.7%)、訪問看護ステーション341票(同32.5%)であった。
 アンケート調査の結果から、中小病院が地域医療の要として在宅医療や入退院時の連携に取り組んでいる姿勢が明らかになった。
 中小病院における入退院者数と入院元、退院先の調査結果をみると、2023年10月の1か月間で受け入れた入院患者数平均65.1人のうち、15.7人(24.1%)が自宅等から入院した要支援・要介護者であり、在宅療養中の利用者が症状が悪化して入院が必要となった際に入院できる場として機能していると判断できる。
 一方で、回答のあった200床未満の一般病院で在宅療養支援病院の施設基準を届け出ている病院は4割弱、入退院支援加算は6割弱にとどまる。実際のニーズに診療報酬を算定できる体制が追いつかない部分があり、実態とその評価に開きがあることをうかがわせた。

情報共有が現時点の課題
 居宅介護支援事業所、訪問看護ステーションのアンケートでは、かかりつけ医療機関との連携の実態について調査した。かかりつけ医療機関に期待していることとして「在宅看取りに必要な診療を行うこと」「介護事業所からの報告や相談をしようとする際に、報告・相談しやすい雰囲気があること」「今後の見通しに関する医学的な見立て」といった項目があがった。
 実際に医療機関と連携している介護事業所等にとっての連携内容の「重要度」と「充足度」に関する調査では、事業所側が重要度が高いと感じている項目ほど、充足度も高いと感じているという傾向がみられた。かかりつけ医療機関がある程度連携ニーズを満たす形で診療が提供できていることが読み取れる結果である。一方で、かかりつけ医療機関と介護事業所等の認識の差が出た項目としては、「今後の病状や身体機能の見通しについて情報が提供されること」「診療内容について情報が一元的に提供されること」といった今後の見通しに関する情報共有に関わる事項が目立った。
 連携において共有したい項目の調査では、医療機関側も介護事業所側も「今後の療養に関する家族の希望」「今後の療養に関する本人の希望」が多かった。
 ほかにも、連携に関する人員の不足、ICT導入に伴う設備投資や知識の不足などもアンケートで複数から課題としてあがった。

在宅療養支援病院の要件がネック
 セミナーでは調査結果を受けて、中小病院の医療・介護・福祉連携にとって鍵となる在宅療養支援病院の状況について、各病院の状況を聞いた。「地域のクリニックと連携して24時間対応を確保し、看取りは地域の施設に対応することで要件をクリアした。ただし、夜間の受入れは現状困難」(進藤氏)、「要件はだいたいクリアしているが、常勤医の人数が足りないため保留中。クリアできればすぐに申請したい」(中村氏)、「訪問看護や緊急往診に対応するマンパワーがなかったが、地ケア病棟開設に伴い在宅療養に力を入れるため取ることにした」(田中氏)といった状況で、移行のメリットは理解しているものの、中小病院では要件を満たすのが簡単ではない現状がそれぞれの病院にあることが浮かびあがった。
 また、かかりつけ医機能として介護事業所等が想定している看取りについて、「在宅で看取りたいというニーズはあるが、最後は医療提供が濃くなり『病院に入院したい』ということになる」(進藤氏)、「若いがん患者は介護者も若いので看取り希望が多い。老老介護だと力尽きて病院に来る、在宅の高齢者は意図せぬ急死が多い」(中村氏)、「終末期に医療を求めることはあまりない。在宅だといざというときに不安でパニックになる。亡くなるのが深夜だと医師の到着が朝になるのが耐えられないこともある」(田中氏)といったように、在宅で看取る難しさを病院側でも感じているという実情が明らかになった。

連携、ICT 導入でもマンパワー不足
 アンケートで課題としてあがった人員不足について、各病院の実情を聞くと、「事務職、介護職の免許のない職種が集まりにくい。事務職は連携に必要だが圧倒的に足りない」(進藤氏)、「すごく苦労している。連携の核になる人材は看護師でもかなりのスキルが求められる」(田中氏)といった実情で、特に連携に必要な人材の不足、補充が深刻とみられる。「慢性的な人手不足で、地域連携の際には社会福祉士が集まらず苦労したが、自院内で事務員に資格を取らせて育てあげた。地域連携の経験のある社会福祉士、看護師を新たに投入した」(中村氏)と、自院内での育成や経験者の投入で対策を講じている様子もうかがえた。
 ICTの導入についても「かなりお金をかけて進めており、専任の担当者も1名いるが、非常に苦しい運営。業務の削減のためと思ってやっている」(進藤氏)、「地方都市のアナログ路線なので電子カルテすら手が回っていない」(中村氏)、「投資ができていない。見本市・展示会でシステムを見てはいるが、導入したいと思えるものが見つからない」(田中氏)と、病院の規模や立地によって進捗に差があるが、資金面でも人員面でも苦しい状況がみてとれる。

地域連携の核として機能する
 今後の展望については、「地域包括ケアの小さな病院なので、ポストアキュートを担う地域連携の核として顔の見える連携を築き、希望・理想と現実の仲介役となりたい。『ここしかないから』で選ばれるのではなく、『ぜひここに』という病院になりたい」(中村氏)、「他に病院がない中、『有吉式地域包括ケア』という地域密着型医療・介護提供を行ってきたが、在宅療養移行に伴い、高齢者救急の受入れ強化、訪問看護ステーション開設、輪番制による24時間対応などを行っていきたい。オンライン診療やマイナ保険証の活用もやりたい」(田中氏)、「地域の核として在宅療養支援病院になることが必要だ。情報の中心になることが大事で、ICTを利用していきたい」(進藤氏)と、地域の核となるためにICTや連携にさらに力を入れるビジョンを語った。

詳しくは全日本病院協会ホームページの「会員お役立ち よもやま情報館」をご覧ください。
https://www.ajha.or.jp/member_info/movie/index.html

 

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全日病サイト内の関連情報
  • [1] 病院のあり方に関する報告書

    https://www.ajha.or.jp/voice/pdf/arikata/2015_2016_arikata.pdf

    病棟からの受け入れ(post-acute 機能)」「2次 ... 出力:画面、音声、振動、印刷、投射、形態. (触覚 ... 担当副会長 美原 盤(公益財団法人脳血管研究所 美原記念病院 ...

  • [2] 病院のあり方に関する報告書(2011年版)

    https://www.ajha.or.jp/voice/pdf/arikata/2011_arikata.pdf

    ら、急性期後の入院医療(post acute)として、 ... 出力:画面、音声、振動、印刷、投射. ・画面レイアウト、画面 ... 委 員 美原 盤(財団法人脳血管研究所 美原記念病院 ...

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