全日病ニュース

全日病ニュース

「重症度、医療・看護必要度」の見直しで概ね合意

「重症度、医療・看護必要度」の見直しで概ね合意

【入院医療等の調査・評価分科会】
16年度改定入院項目の検討が大詰め。8月末に中間報告。9月から基本小委で議論

 診療報酬調査専門組織の「入院医療等の調査・評価分科会」は、7月29日と8月5日の会合で、2014年度調査結果の分析を踏まえた入院医療に関する改定課題の検討を終えた。
 事務局(厚労省保険局医療課)は、両日の分科会に、テーマごとにそれまでの議論を整理した中間報告の暫定案を提示。両日の検討結果を盛り込んだ文案を次回8月末の会合に提示し、中間報告としてとりまとめ、診療報酬基本問題小委員会の議論に付す予定だ。

 中間報告の構成は、(1)急性期入院医療(7対1算定病床の動向、特定除外制度、「重症度、医療・看護必要度」)、(2)短期滞在手術等基本料、(3)総合入院体制加算、(4)地域包括ケア病棟入院料、(5)有床診入院基本料、(6)医療資源の少ない地域に配慮した評価、(7)慢性期入院医療(在宅復帰機能強化加算、療養病棟入院基本料2、医療区分の評価項目、脳卒中患者に関する評価)、(8)その他(退院支援にかかわる取り組み、他科受診)からなる。
 これらのテーマは、「7対1算定病床の動向」と「特定除外制度」を除くと、5月29日から8月5日までの6回にわたる会合で、それぞれ2回議論されている。

□7月29日の議論から

 この日は、短期滞在手術等基本料、総合入院体制加算、地域包括ケア病棟入院料、有床診入院基本料、医療資源の少ない地域に配慮した評価、慢性期入院医療について2度目の議論を行なった。
 短期滞在手術等基本料3については、まず、両眼が減少して片眼の手術が増加した水晶体再建術や「点数が低すぎて採算がとれない」という回答が50%に達した腹腔鏡下鼠径ヘルニア手術を見直すことで基本的に合意。次に、出来高実績の点数が全体に高い透析患者の診療報酬項目を包括の対象外とする方向でもほぼ一致した。
 透析を包括から除外することに関連して、神野正博委員(社会医療法人財団董仙会理事長・全日病副会長)は「透析以外でも合併症や副傷病があれば手のかかるものはある。これらも除外を検討すべきではないか」と提案。他委員からも同様の声があがった。
 さらに、包括範囲の出来高実績点数の分布が2つ3つの山をつくる手術項目があり、その理由として乳幼児の年齢や麻酔方法による違いが考えられることから、それらは算定対象の項目立てを見直すことが確認された。
 事務局は、また、短期滞在手術等基本料3の対象手術等を拡大する方向での検討を提起したが、神野委員は「これらの手術は平均在院日数の計算から外れている。拡大は慎重にお願いしたい」と反対を表明。他の委員からも同様の意見が示された。
 総合入院体制加算に対して、事務局は、「1」は要件を緩和する方向、「2」は要件を厳格化する方向で議論を促している。しかし、急性期病院の姿を体現する同加算算定病院にどういう医療提供を求めるべきかをめぐって、とくに、認知症や精神疾患合併症の患者を受け入れる要件のあり方で意見が分かれたほか、重症患者の受け入れを促すために「重症度、医療・看護必要度」を採用すべきとの案も出るなど、議論は収斂しなかった。支払側の委員から「1の要件緩和は早期に過ぎる」との声も出た。
 こうした状況に、神野委員は「1を緩和して2を厳格化するというのであれば、いっそ14年改定前のかたちに戻してはどうか」と疑問を投げかけた。
 地域包括ケア病棟に関して事務局が示した論点は、①手術料等を包括外とする、②より入念な退院支援を要する患者の受け入れを促すという方向での見直しであった。これは、病態がより複雑な患者や在宅復帰が困難な患者の受け入れを促す方向で医療提供の内容を回復期リハ病棟と差別化し、その機能の強化を図るというもの。
 「手術料等」には手術、処置、検査、麻酔が考えられるが、事務局はこの日の論点で、「例えば手術料及びブロック注射を除く麻酔料を包括外とする」ことを提案した。
 ①について、神野委員は「7対1や10対1に併設された地域包括ケア病棟では一般病棟で手術が実施されるのでこの効果には疑問がある。全病棟が地域包括ケアなら手術は増えよう。併設の病院は外出しから除外してはどうか」と提案した。
 分科会には手術等の外出しに賛成する意見がある一方、「軽微な手術が多い現状では包括のままでいいのではないか」「もう少し様子をみてはどうか」との意見もある。
 これに対して、神野委員は「自宅から入棟した患者は12%に過ぎない。この割合を増やすためには全病棟が地域包括ケアの病院には、例えば褥瘡や緊急避難的な手術の外出しを認めるべきではないか」と反論。
 支払側の委員も「在宅支援機能を考えると、骨折外傷だけでなく緊急時受け入れの機能を強化する方向で議論してはどうか」と発言、包括から除外する方向の議論を容認しが、結論は基本小委の議論次第となる。
 医療資源の少ない地域に配慮した評価に関しては、事務局が前回(6月19日)提起した「医療従事者の確保が困難な地域」に着目して対象地域を増やす方向で概ね一致しており、この日も、それを確認するものとなった。ただし、7対1や10対1の医療機関も対象にすべきかまでの議論はつくされていない。
 慢性期入院医療の、在宅復帰機能強化加算について、事務局は前回(7月1日)の議論を踏まえ、①病床回転率等算出における自宅入院と転院の区別、②(①を踏まえ)在宅復帰率等算出における入院期間制限(1ヵ月未満)の見直し、③加算届出病棟における退院支援室等の設置と退院支援職員の病棟への配置を、検討課題にあげた。
 分科会の大勢は①と②に肯定的だが、自宅入院と転院の区別が加算要件の強化につながることを懸念する向きもある。また、入院期間制限の廃止がモラルハザードにつながらないかと警戒する意見もあり、この日の議論は十分深まるにはいたらなかった。③については、退院支援職員の病棟配置に反対する意見が強い。
 療養病棟入院基本料2に関しては「医療区分2・3の患者の割合について何らかの要件を設ける」ことが論点にあげられたが、一部の委員から「こうした意見は分科会の分際を超えている」との批判が出た。
 医療区分について、事務局は、①うつ状態(区分2)、頻回の血糖検査(区分2)、酸素療法(区分3)の各項目は「密度の高い治療を要するかどうか等」から評価内容を精査する、②入院後に新たに生じた褥瘡は「2」と評価しないことなどを提起した。
 ②に対して、神野委員は「入院後に新たに生じた褥瘡に関するデータは提示されていない。こうしたことをデータなく取り上げることはおかしい」と反対。他の委員も同様の意見を述べた。
 脳卒中患者に対する適切な評価に関して、事務局は、中間報告案に、①障害者施設と特殊疾患病棟等に入院している意識障害を有する脳卒中患者の多くはこれら病棟で想定される状態像と異なっており、引き続き入院対象とすることには課題がある、②当面の間これら病棟への入院が必要としても、同一の状態にある患者の報酬が病棟間で大きく異なっていることは課題がある、③これら病棟に入院する脳卒中患者の中には医師による指示見直しの頻度が高い患者がいることなどから、患者ごとの状態にも留意すべきとの意見があった、と書き込んだ。
 ③に記された意見は神野委員が強く主張してきたもので、同委員は、事務局の当初論点になかったこの追記を率直に評価した。

「重症度、医療・看護必要度」A項目のみの評価基準を追加の方向

□8月5日の議論から

 この日は、「7対1入院基本料の算定病床の動向」「特定除外制度の見直しに伴う影響」「重症度、医療・看護必要度」「退院支援に係る取り組み」「他科受診」について議論した。
 「特定除外制度の見直しに伴う影響」は15年度調査でより詳細な実態が捕捉されるため、中間報告では簡易な分析にとどまる見通しだ。
 「重症度、医療・看護必要度」について、事務局(厚労省保険局医療課)は、一巡目(7月16日)の議論で、(1)明らかに急性期医療を必要としている患者の状態を反映する方向でA項目を見直す、(2)B項目の点数を外してA項目が一定点数であればカウントするなど重症患者を評価する方法の検討、などを提起。
 B項目については、(3)とくに相関性の高い「寝返り」「起き上がり」「座位保持」の整理を提起。その上で、(4)認知症患者の状態像を反映させるために「診療・療養上の指示が通じる」「危険行動」を採用することを提案している。
 事務局は、前回の議論を踏まえ、この日の分科会に、(a)急性期医療の必要性が高い項目に関するデータ、(b)せん妄患者に対する評価実態のデータをそれぞれ示すとともに、(c)急性期入院医療におけるデータ提出に関する現状について説明した。
 このうち、(a)については、7対1病棟入院患者が算定した日に「医師の指示の見直しが1日1回以上必要」であった患者の割合が60%以上に達した項目を検索。
 前回指摘された術後や救急搬送後の患者が算定している項目以外にも、ICUとHCUで評価されている項目(中心静脈圧測定や観血的動脈圧測)や抗悪性腫瘍剤の投与後など極度の免疫抑制時に実施される検査・治療の項目が一般病棟A項目では評価されていないとした上で、それらを追加する必要性を、この日提示した新たな論点に書き込んだ。
 同時に、A項目にある抗悪性腫瘍剤の評価対象は原則看護職員とされているため、薬剤師による投与は評価の対象外となっている点をあげ、看護職員以外の職種が実施することがある処置・介助などは記録も含めて評価の対象とするルール緩和の必要を提起した。
 神野委員は、新たな論点で提起された、無菌治療室での治療(無菌治療室管理加算等)、中心静脈圧測定、観血的動脈圧測定項目を一般病棟A項目に加える必要を認め、その追加を提案した。
 次に、(b)について、事務局はDPCのデータから、7対1病棟におけるせん妄をともなう患者は、術後あるいはそれ以外を問わず、医師の指示の見直しや看護師による処置等の頻度が高い傾向が認められるとした上で、B項目との相関がみられると分析。さらに、B項目にはない「診療・療養上の指示が通じる」「他者への意思の伝達」「危険行動」とも強い相関があるとした。
 ただし、中間報告の「重症度、医療・看護必要度」に関するまとめ案には、「『他者への意思の伝達』『診療・療養上の指示が通じる』『危険行動』の3項目は認知症・・・と特に関係が強かった」とした上で、「他者への意思の伝達」と「診療・療養上の指示が通じる」は類似の状態を評価していることから、HCUで採用されている「診療・療養上の指示が通じる」「危険行動」の2項目を認知症対応の評価としてB項目に加える考えを盛り込んだ。
 これに対して、神野委員は、「例えば急性期の術後や化学療法の直後に一過性のせん妄に陥りやすい。せん妄がいかに手のかかる状態であるかはすでにデータで明らかだ。この一過性のせん妄が認知症の患者と同等にB項目で評価されるのは不合理。せん妄は、急性期医療の評価指標としてA項目で評価されるべきだ」と主張した。
 (c)に関して、事務局は、新たな論点で「DPC対象病院以外の10対1入院基本料の病棟では要件とされていないこと」や重症度、医療・看護必要度の評価が「提出データに含まれていないこと」を指摘、現状ではDPCデータによる置き換えは難しいという認識をのぞかせた。委員からも義務化対象病棟の拡大に慎重な声があがった。
 この問題に対して、神野委員は「重症度、医療・看護必要度がDPCデータから分かれば現場は大変助かる」と発言、環境の整備を要望した。
 「重症度、医療・看護必要度」の評価基準に、A項目のみでも一定の点数であればカウントできるという基準を加えるという考え方に、特段の反対意見は出なかった。一定の点数としては「Aが3点以上」が想定されている。
 「退院支援に係る取り組み」に関して、事務局は、中間報告案で、①退院支援を促す診療報酬項目の複雑かつ重複した要件を整理する必要があること、②在宅復帰率の計算方法を見直して、在宅復帰率が要件となっている病棟への転院・転棟に対して「自宅」や「高齢者向け集合住宅」への退棟をより高く評価する必要があること、③退院支援職員の配置、退院支援室の設置、ケアマネを含む多職種カンファレンスの実施を評価もしくは要件化する必要があることを示唆した。
 退院支援職員の配置に関して、神野委員は「退院支援の担当者は積極的に地域に出る必要がある」と専従を要件とすることに反対したが、他の委員からも同様の声が相次いだ。
 他科受診の問題で、事務局は精神科と有床診に入院料減算が多いと指摘、何らかの対応の必要を示唆したが、委員からは「影響は一般病棟でも大きい」と見直しを求める意見が相次いだ。