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薬剤費のマクロ経済スライドの考え方を議論

【厚労省・医薬品有識者検討会】座長が薬剤費のデータベース構築を提案

　厚生労働省の「医薬品の迅速・安定供給実現に向けた総合対策に関する有識者検討会」（遠藤久夫座長）は４月４日、薬剤費のマクロ経済スライドの考え方について議論した。委員からは、「医療費と切り離して議論することは不適切」などの意見があがった。
　薬剤費総額に係るマクロ経済スライドとは、シンクタンクの新時代戦略研究所（INES）が2021年５月に提言した仕組み。INESは、大半の先進国では薬剤費の対GDP比が増加する一方で、日本では減少する見込みを示した。その上で、今後、日本で薬剤費を少なくとも経済成長率に見合う程度まで伸ばせるよう、あらかじめ薬剤費総額の成長率を一定の値に設定することを提案。その成長率にあわせて、薬価改定を実施するという考え方を提案している。これにより、イノベーションを阻害することなく、財政の持続可能性も担保できるとした。
　この提案には、財務省が強い関心を寄せている。財務省は昨年４月の財政制度等審議会財政制度分科会において、薬剤費の適正化を検討する流れのなかでINESの提案を引用し、「給付費の伸びと経済成長率の整合性をとっていくことには一定の合理性がある。関係者において建設的な議論が進展することを期待したい」との考えを示していた。
　同検討会では昨年10月にINESから提言についてヒアリングを行ったが、４日の検討会でも改めてINESの提言について議論した。
　上智大学の香取照幸委員は、「薬剤費をGDPと比較するのなら、まず医療費とGDPを比較してからになる」と述べ、薬剤費のみを切り出して対GDP比を考慮し、議論することは不適切との考えを示した。
　他方、INESの理事でマクロ経済スライドを提案した研究会メンバーでもある法政大学の小黒一正委員は、「財政との調和を図りながら、少なくともGDP成長率に沿うように薬剤費を伸ばす仕組みを検討することを、検討会の報告書に盛り込んでほしい。財務省が欲しがっているのは、財政的な予見性だ。薬剤費については、財政当局と交渉の余地がある」と訴えた。
　医療費について小黒委員は、「現状では診療報酬本体を議論するのは難しいと思う」と述べた。
　香取委員は、医療費と薬剤費の関係について、「いま医療費は、GDPを上回って伸びている。財務省は基本的に、医療費をGDPの範囲内あるいは予算統制の範囲内に収めるという考え方だ。医療費を下げるための調整弁として、薬価改定が行われている。改定すれば薬価が下がるような仕組みをつくって、薬価で財源を出している」と説明。その上で、「もし薬剤費の対GDP比の話を報告書に盛り込むのなら、大きな問題として、『薬価を、財源を出すための調整弁に使うことを止めてほしい』ということを本当は書かなければならない」と主張した。
　他の委員からも、「薬価が財政の調整弁にされていることが医薬品の一番の根本の問題だ」（中央大学・三浦俊彦委員）との声があがった。
　青山学院大学の三村優美子委員は、「薬価制度を修正することで解決できる財政上の問題と、国が産業政策として対応すべき問題とのバランスを取りながら進めていくことが重要」と主張した。

データベースは安定供給にも資する
　一方、遠藤座長は、「個人的な意見」として、薬剤費に関するデータベースを新たに構築することを提案した。
　INESの対GDP比分析も含め、これまでの薬剤費の分析の多くは、外資系の情報コンサル会社の情報を使用している。遠藤座長は、「同社の最大のクライアントは製薬会社である。政策を海外の民間会社のデータをもとに議論することに問題がある」と指摘。その上で、「国が主導して、薬剤費のデータベースをつくることが必要だ。在庫を把握して安定供給に繋げることもできるはずだ」と述べた。委員からは、賛成する意見が出された。
　同検討会は次回の検討会で報告書の素案を議論する予定だ。