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ホーム全日病ニュース(2024年)第1057回/2024年6月15日号新たな地域医療構想に向けた医療・介護の展望や期待

新たな地域医療構想に向けた医療・介護の展望や期待

新たな地域医療構想に向けた医療・介護の展望や期待

【新たな地域医療構想等検討会】医療・介護関係団体・有識者からのヒアリングを実施


5月27日の検討会の様子

 厚生労働省の新たな地域医療構想等に関する検討会(遠藤久夫座長)は5月22日、27日、31日の3回にわたり、医療・介護関係団体・有識者からのヒアリングを行った。それぞれの立場から、現状の医療・介護の課題を踏まえ、新たな地域医療構想に向けた展望や期待について意見発表があった。

複数モデル予測等柔軟な対応が必要
 日本医療法人協会会長代行の伊藤伸一構成員は、「中小民間病院が地域包括ケアシステムの中核を担ってきた。民間病院の柔軟性を存分に発揮し、民間病院の特性を有効利用することで地域医療構想を加速させることができる。運営補助のあり方を含めて、民間病院と公立病院の特性を活かした再構築が必要だ」と述べた。
 また、「基準病床数と必要病床数の差異が生じ、一部自治体で大きな混乱を招いている。激しいせめぎあいの中で公立・公的病院の再編統合が行われる一方で、行政が病床数の差異を生み出すといった矛盾は解消しなければならない」と指摘。これまでの病床機能を中心とした協議から病院機能に注目した協議に切り替えるべきと主張した。
 日本歯科医師会専務理事の瀬古口精良参考人は、在宅歯科医療の課題について、「入院により歯科治療や口腔管理が中断し、その間に口腔内の状況の悪化や口腔機能の低下が進行することが多い」と述べた。新たな地域医療構想では、◇人口減少や構造を踏まえた歯科医療提供体制の確保・整備◇誰一人取り残さない歯科医療・在宅歯科医療の展開◇医科歯科連携、多職種連携のさらなる推進―を期待するとした。
 日本薬剤師会常務理事の荻野構一参考人は、◇外来医療の医療提供体制モデルは薬局を含めたものにすることが必要◇在宅医療では、薬局が医療・介護連携体制に積極的に参画し、多職種連携をさらに進めることで地域におけるチーム医療を実現することが必要―とした。特に、医薬品提供体制確保の観点からも、「外来・在宅医療に関連する議論には薬剤師が構成メンバーになることを期待する」と述べた。
 また、薬剤師偏在、病院薬剤師の確保、医薬品提供体制の確保といった喫緊の課題もあわせて議論すべきとの考えを示し、医政局と医薬局の密な連携を求めた。
 健康保険組合連合会専務理事の河本滋史構成員は、2040年頃を見据えた医療提供体制として、①かかりつけ医が患者を中心に医療・介護を調整(地域包括ケアシステム)②救急搬送を含む一般的な入院医療、時間外診療や在宅医療を補完する機能(地域完結型医療)③基幹病院・拠点病院が濃密な医療を集中投入、重度の救急搬送や難しい手術を集約(広域医療)―の三層構造のイメージを示した。
 新たな地域医療構想では、◇外来医療や在宅医療を含めた医療需要の推計◇構想区域の柔軟な設定◇医療・介護資源の最適配置と連携◇全国医療情報プラットフォームによる医療の質向上・効率化―などへの期待を示した。
 福島県保健福祉部次長の玉川啓構成員は、地域から見る地域医療構想の課題として、①目標と実績が対応する設計への見直し②現実的な医療機能を踏まえた目標の設定・柔軟化③複数シナリオの設定④現実解を意識した在宅や介護との連携強化⑤病院経営の持続可能性の視点⑥人材確保に関する制度設計の見直し―をあげた。
 今後の議論の進め方については、「地域医療構想は我が国全体で、国民・患者、医療機関、医療団体、国、自治体が共同で向き合う政策課題。コロナ対応で培った経験を生かした、国と都道府県等との協働関係のアップデートをお願いしたい」と訴えた。
 東京都保健医療局医療政策担当部長の岩井志奈参考人は、東京都の地域医療構想調整会議において、「認知症や基礎疾患等を抱える高齢患者、独居の高齢者が増加する中で、医療・介護全体での体制構築の議論が必要」「既存サービスを提供するための人材確保も厳しい状況であり、将来に向けて医療・介護の人材確保の状況を踏まえた議論が必要」との意見があったと説明した。
 その上で、◇新たな地域医療構想では、策定後も様々な状況変化を踏まえ、適宜考え方の見直しやデータの更新を図るとともに、都道府県の実情に応じた柔軟な対応を認めるべき◇構想策定後、地域の現状を的確に捉え自律的に今後の対応を判断できるよう、複数の適切な指標を示すべき◇関係者と十分な議論を行うには時間が必要であり、策定のためのガイドライン等は可能な限り早期に示すべき―と主張した。
 国際医療福祉大学大学院教授の高橋泰構成員は、過去の高齢者像と比べた高齢者の急速な変化を織り込み、将来の医療福祉施設の需要予測を行うことの必要性を強調した。その上で、「認知症や各疾患の患者数予測は動的シミュレーションモデルを用いることが望ましい」と述べた。具体的には、認知症の減少や寝たきり高齢者の減少など医療・介護需要の変動要因を組み込んだ複数のシナリオを作り、地域・病種別の必要病床数を算定するべきとした。
 また、新型コロナを経て、2024年度の一般病床、療養病床、介護施設の稼働率が低下していると指摘。高齢者の増加等に伴う需要増を強調するあまり供給過多に陥ることへの懸念を示し、「既存の病院や施設の維持や充実に(資金を)まわす方向性で、新たな地域医療構想を作成するべき」と述べた。
 さらに、今後のケアの主流となる団塊世代の行動様式を踏まえ、「元気な生活を持続するためのリハビリや住宅改修を含めた予防や、独居でも自宅で亡くなる覚悟のある高齢者に対して、それを可能にする支援を充実すべき」との考えを示した。

老健施設はほぼ常に受入れ可能
 全国老人保健施設協会会長の東憲太郎構成員は、高齢者施設の中で老健施設と介護医療院だけが医師が常勤する医療提供施設であると説明。老健施設が、介護報酬における総合医学管理加算で評価される短期入所療養介護、いわゆる医療ショートにより軽度な医療ニーズのある利用者を受け入れていることを強調した。また、老健施設の稼働率は平均80%台であり、「ほぼ常に受入れが可能」と述べた。
 医療機関でも生活機能の維持を図るための機能強化が行われているが、基本的に医療機関は治療を最優先させる場で、「認知機能など一定の生活機能の悪化は致し方ない」とし、「一刻も早くリハビリ機能を充分にもつ老健施設へつなぐことが効果的」と主張した。
 高齢者住まい事業者団体連合会代表幹事の市原俊男参考人は、介護付有料老人ホームやサービス付高齢者向け住宅、住宅型老人ホームといった高齢者向け住まいについて、高齢者の増加を背景に「効率的なサービス提供を可能とするため、集住化を一定程度促進していくことは不可避」と述べた。
 サービス付き高齢者向け住宅において効率的に診療報酬・介護報酬を算定する事例が散見され、2024年度改定で適正化が実施されたことについては、今後集合住宅へのサービス供給量が減る可能性があるとの懸念を示した。在宅療養との違いを尋ねる質問には、「医療・介護へのアクセスを確保していることがメリットの一つ」と述べた。
 日本在宅介護協会常任理事の小林由憲参考人は、「介護職員が圧倒的に不足」していること、「9割近くの事業所で『採用困難』」となっていることへの危機感を訴えた。介護職員は2022年に統計開始以来、初めての離職超過となり、訪問介護の人材不足が特に深刻であるとした。そのような事態がすでに「サービス提供に支障を与えている」と述べた。
 新たな地域医療構想に向けては、①かかりつけ医機能と情報連携の仕組み強化②医療機関と介護事業所での効果的かつ効率的な専門職の配置③医介連携をさらに促す診療報酬・介護報酬上の評価の必要性をあげた。
 日本介護支援専門員協会会長の柴口里則参考人は、新たな地域医療構想を見据えた課題として、◇単独世帯の認知症高齢者など高齢者の増加◇意思決定が困難な患者に生じる早期の入退院等の困難◇協力医療機関を確保できない高齢者施設等の存在◇在宅で看取りが行える体制の不足などを指摘した。
 対応策としては、①生活支援体制の整備②医療と介護の一体的な提供③介護連携情報基盤の整備④介護者へのサポート体制の構築をあげた。介護者へのサポートでは、協会としてワークサポートケアマネジャーを養成しているとした。新たな地域医療構想に対して、各市町村で基幹型の救急と在宅医療連携拠点、地域包括支援センターが連携し、「医療や介護を含めた様々な生活支援サービスがどこにいても受けられる体制の構築」に期待を示した。
 社会福祉連携推進法人リガーレ代表理事の山田尋志参考人は、社会福祉連携推進法人として、7法人が連携したグループ本部「地域密着型総合ケアセンターきたおおじ」(京都市北区)の設置を含め、人材の育成・組織の標準化・ケアの標準化・施設の地域展開に取り組んでいると説明した。リガーレグループが所在する各町の医療の課題としては、◇休日・夜間の救急対応◇3次救急が救急車で1時間以上かかる◇コロナでクラスターが発生したが近隣に発熱外来さえなかった―ことをあげた。
 特別養護老人ホームが認知症を含む重度要介護高齢者にとって地域における安心な住まいとして重要な役割を担っていることを指摘しつつ、それを支えるための医療提供体制として、生活を支える医療の充実を求めた。そのために、かかりつけ医機能の確保や協力医療機関との連携強化、PHR共有の仕組みの構築、コミュニティケアワーカーなど専門職の育成などが必要とした。
 日本精神科病院協会常務理事の櫻木章司構成員は、精神障害にも対応した地域包括ケアシステムのため、「日常生活圏域ないしは市町村単位での地域精神科医療と日常の医療との連携や障害福祉・介護との連携が求められている」と強調した。
 精神病床は現行の地域医療構想の必要病床数に含まれていない。一般病床とは異なった入院医療の状況にあるためだ。一方、長期入院患者の減少などで精神病床は減少傾向にある。櫻木常務理事は、2024年度診療報酬改定で精神医療でも地域包括ケア病棟が創設され、機能分化が推進していることを指摘した。
 また、「都会でメンタルクリニックが急増しており、地域の精神科救急に全く参画しない診療所や数分で済ませる再来患者を優先している診療所、非常勤の医師で回転させチェーン展開している診療所、安易に診断書を乱発する診療所など、さまざまな形で社会問題化している」ことへの懸念も示した。

在宅医療が構想の主要な課題
 全国自治体病院協議会会長の小熊豊構成員は、自治体病院が果たす役割は地域により異なり、公立病院等でなければ担えない医療機能への重点化とあわせ、経営的な観点を含め一般医療も担う必要があると主張した。
 新たな地域医療構想を踏まえた高齢者医療のあり方として、「人・物・金・情報・技術・体制の効果的、効率的活用」が、持続可能な高齢者医療・介護システムを堅持するために不可欠と指摘。同一組織により急性期から回復期、慢性期、在宅医療まで総合的に取り組み、介護、老人保健施設等も一体的、複合的に展開する方式の拡大を図ることなどが求められるとした。
 また、物価高騰や処遇改善、医療DXの財源確保や診療報酬・介護報酬の施設基準を満たすことのできる施設整備を求めた。
 日本慢性期医療協会副会長の池端幸彦参考人は、福井県における現状の地域医療構想の推進に関する取組みを紹介。在院日数が長く、病床稼働率が低い急性期病床を持つ病院に対するヒアリングなどを実施した結果、「回復期への病床機能の転換やダウンサイジングを検討する医療機関が増えた」と述べた。また、医療機能は「病床単位」で把握したほうが、「実体をより正確に反映している」ため、2024年度中の策定が医療機関に求められている対応方針においては「病床単位」を基本にすべきとした。
 新たな地域医療構想については、◇慢性期と在宅・介護提供体制との一体的構想◇大胆な集約化◇国民への丁寧な説明と情報提供◇トップダウンからボトムアップ◇マーケティング戦略を意識した情報開示◇一般病床・療養病床の枠組みの撤廃―などが必要とした。
 全国有床診療所協議会副理事長の猿木和久参考人は、有床診療所の現状について、2024年2月末の施設数が5,593施設(7万5,115床)で近年減少傾向にあるとしつつ、患者のすべての病期に関わることができる「病床を持つ究極のかかりつけ医」の医療機関と位置づけた。その上で、「高齢者を含む全世代型地域包括ケアの中核」になり得ると主張した。
 地域医療構想における有床診の役割として、「急性期から看取りまで広範囲に対応し、病院病床の機能分化によって生じ得る地域医療の隙間を埋められる」ことや「医療介護の複合ニーズに対しても有床診療所の病床は有用」であることなどを説明した。
 日本在宅ケアアライアンス理事長の新田國夫参考人は、「病床数を中心とした医療構想のみでは、地域医療構想とは言えない。在宅医療の受け皿が十分に整備されない限り、地域医療構想におけるかかりつけ医・在支診・病院の連携による地域完結型医療提供体制の構築は困難」と主張。「在宅医療が地域医療構想の主要な課題」となり、在宅医療を支えるという発想で病院の機能を考えることが必要とした。
 新たな地域医療構想に向けては、中小病院の役割の明確化やかかりつけ医機能と多職種協働のさらなる推進、市町村の高齢者保健福祉計画と地域医療構想との一体化などに期待した。
 日本看護協会常任理事の吉川久美子構成員は、2040年頃を見据えた看護機能の強化における課題として、①ICT活用やアウトリーチ型の伴走支援など外来看護の機能強化②24時間対応の連携拠点を地域に位置づけるための訪問看護事業所の機能強化・規模拡大③医療機関の敷地内などでの看護小規模多機能型居宅介護事業所の機能強化・設置推進をあげた。
 最大の課題と指摘した人的資源の制約に対しては、「地域全体で看護職員を育成・確保、共有」に取り組むとした。具体的な事例として、「一部の地域医療連携推進法人では、病院と診療所、訪問看護、老健間で看護師出向を実施」、「短時間正規雇用の看護職員に、各自が夜勤可能な時間帯を柔軟に設定」などを紹介した。
 全国老人福祉施設協議会会長の大山知子参考人は、特別養護老人ホームの立場での介護の視点から、◇特養は医療提供施設ではなく「居宅等」の位置づけだが、医療が必要な場合に速やかに対応できる機能を備えているため、「居宅等」とは異なる位置づけにすべき◇配置医師のあり方・機能・役割について地域医療構想の中に位置づける必要がある◇緊急時や夜間を含めたオンライン診療や、日常的に医師と特養等の介護施設が連絡・相談できる仕組みなど特養等利用者の医療アクセスの向上が必要である―と主張した。

 

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