全日病ニュース

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診療報酬に依存しない経営


上段右から濱砂理事長、小川理事長、石川理事長、下段右から田中理事長、室谷理事長、浜脇理事長。

診療報酬に依存しない経営

【学会長企画】女性経営者が語る病院のあり方

 「未来を信じる病院経営~事業継承後の各々の立場から~」をテーマに、2代目または3代目として病院経営を受け継いだ6人の女性経営者が、意見を交わした。
 濱砂カヨ・宮崎善仁会病院理事長は、法人内の内科系と外科系の急性期病院を統合する計画が進行中の2016年に理事長に就任。「トップダウンの先代とは違い、ボトムアップの経営で、2021年に開設した新病院では、職員のアイデアを取り入れた」と述べた。新病院は、津波による浸水が想定される宮崎県東部の海沿いにあり、地域医療を守る災害拠点病院としての役割を担う。地域社会に貢献するべく、「『時代の変化に対応できる組織』『自ら考え行動できる組織』『職員が同じ方向を向く強い組織』でありたい」と述べた。
 石川賀代・HITO病院理事長は、2009年に理事長に就任した。2013年に石川病院からリニューアルしたHITO病院について、「ブランドコンセプトは人を真ん中においた病院」と述べた。チーム医療を進めるべく、「急性期医療と5疾病を中心に、包括的な医療を提供する体制を整え、専門医を集結させた。愛媛県内の拠点として機能する環境を整えている」ことを紹介した。また、高齢者の多疾患に対応するため、チーム内で横断的に活躍するスタッフの育成や、多職種協働を進めてきた。現在は、「見守りシステムやAIロボットの活用、さらにはiPhoneをキーデバイスとして、“業務効率化”と“医療の質”の両輪を支えるためにICT活用を進めている」と述べた。
 小川聡子・調布東山病院理事長(全日病理事)は、2009年に理事長に就任した。近藤修司・北陸先端科学技術大学院大学元教授が考案した「四画面思考」を紹介。四画面思考では、10年後のありたい姿を描き、それをもとに現状の姿を評価し、ありたい姿を実現するために3年後のなりたい姿、それを実現するために今からやることをそれぞれ明確にする。2013年度以降、東山会の組織四画面を毎年職員総会で発表している。「職員一人ひとりが行動を起こすようになった」と成果が上がっていることを述べた。また、組織基盤として事務を強化。2013年12名から現在33名が在籍している。「事務は、専門職の舞台を整える非常に重要な存在」と強調した。
 浜脇澄伊・浜脇整形外科病院理事長は、2017年に理事長に就任。「医療は社会保険で守られてきたが、国の財政が破綻しかけており、社会保険に依存しない医療を考えてきた」と述べ、「からだの音プロジェクト」と病院のブランディングについて紹介した。からだの音プロジェクトは、体操教室やセミナーの開催、小学校や幼稚園、保育園への冊子の無料配布などを行っている。冊子の配布は、病院を知ってもらうきっかけにもなっている。このプロジェクトによって、「予防、健康増進」が法人の柱の1つになったことも示した。ブランディングとしては、マスコットキャラクターの作成や、ホームページの有効活用を進めている。
 室谷ゆかり・アルペンリハビリテーション病院理事長は、東京で回復期リハビリテーション病棟について学んだのち、2008年に同病院を開設した。2014年には、特養、デイサービス、保育園、学童保育放課後デイの同居する多世代共生型施設、2018年には障害をもつ人の就労支援施設を立ち上げた。「私たちが患者や利用者として考えている限り、その人たちの生きる力を引き出し損ねているのではないか。当事者の“生きる力”をもっと引き出せるのではないか」との思いから、病院や介護施設のなかで実際働いてもらうための病院内ハローワークを検討しているとした。
 田中志子・医療法人大誠会理事長は、理事長に就任後、病院の増改築やサ高住の新築、幼老障一体型地域共生施設の新築など事業を拡大してきた。「今後は、診療報酬や介護報酬の収入が減り、人手を集めることが厳しくなる」と指摘。このコロナ禍で、障害者のためのグループホーム、就労支援事業所、放課後等デイサービス、ショートステイを備えた地域共生型施設を開設したが、「実はこの施設は、温泉、地産地消のレストラン、カフェバーとショップ、ウェルネスジム、アスレチック公園があり、表向きは商業施設となっている」と紹介。さらに同施設は、「医療・介護・福祉以外の雇用の創出にもつながっている」と述べた。
 最後に小川理事長が、「皆やるべきことに集中している。一致しているのは、未来を信じていること」とまとめた。

 

全日病ニュース2021年10月1日号 HTML版