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ホーム全日病第801回/2013年5月15日号「新型医療法人」創設の提案に...

「新型医療法人」創設の提案に様々な憶測

「新型医療法人」創設の提案に様々な憶測

【社会保障制度改革国民会議】
国民会議で複数の委員が同主旨の提案。シンクタンクの研究会が同構想を先行提起

 

 4月19日の社会保障制度改革国民会議で権丈委員(慶大教授)が行なった「新型医療法人の枠組みを創設」という提案が、病院界で波紋を呼んでいる。
 これまでの診療報酬主導による誘導には限界があるとする権丈委員は、同日の国民会議で、医療機能の分化・連携を促すための新たな策として、要旨以下の提案を行なった。
 (1)病床機能情報報告制度の導入と地域医療ビジョン策定を前倒しで実施する
 (2)これを踏まえて都道府県は「地域医療・包括ケアビジョン」をまとめる
 (3)ビジョン実現へ、都道府県は地域医療計画を、市町村は地域包括ケア計画を策定する
 (4)それに沿った分化・連携を促すために、消費税増収分を財源とする「地域医療・包括ケア創生基金」を創設する
 (5)「地域医療・包括ケアビジョン」策定と平行しつつ、以下の方策を検討する
  ・2次圏ごとの基準病床数を医療機能別に算定して地域医療計画に盛り込む
  ・都道府県を国保の保険者とし、保険医療機関指定
  ・取消権限を与える等の施策を講じる
  ・医療機関の再編等を可能とし、医療・介護一体の町づくりに参画できるように医療法人制度を見直す
 (6)これらを医療法改正で明示する
 この提案において、権丈委員は、地域で複数の病院がグループ化して病床・診療科の設定や仕入れ等を統合して行なうことができる環境を作ること、すなわち「非営利を厳正化して地域独占を許容」する必要を提起。
 その方法として、「新型医療法人(たとえば、非営利ホールディングカンパニー)の枠組みを創設し、地元の要請に基づきそこに参画する場合には、国立病院や公的病院は本部から切り離されることを法律的に担保する」とともに、地域医療・包括ケア創生基金を重点投入する対象に加えるという考え方を示した。
 この権丈提案を、一部全国紙が「厚生労働省は医療法を改正し、地域独占の新型医療法人の設置を認める方向で検討に入った」と報じたことから、病院界には、その情報をめぐって様々な憶測がいきかっている。
 権丈提案について、田村厚労大臣は「そういうニーズがあるのかどうかということも含めて、厚生労働省として検討してまいりたい」(4月23日の記者会見)と、検討する姿勢を示している。
 権丈発言について、厚労省には、「病床機能情報報告制度と地域医療ビジョンの前倒しを提起したことは我々の政策を支持したものと受け止めている。消費税増税分を医療機能分化・連携に投入すべきという論も我々には援軍となる」(医政局総務課幹部)と好感する向きもある。
 権丈提案のインパクトは、ホールディングカンパニー(持株会社)化した“新型医療法人”創設の提案である。
 権丈提案に関して、関係者からは「今回提案するにいたる過程では財務省との意見交換があったようだ」、あるいは「基金に消費税増税分を投入するという点で財務省との間にコンセンサスを得たのではないか。何らかの方法で医療機関を統合再編していかないと、消費税の投入を認めないだろう」といった声がきかれる。
 社会保障制度改革国民会議事務局の幹部は、「医療体制を大きく動かす可能性のある政策ツールであり、論点として重要な意味をもつことになろう。(4月19日の国民会議では)見解の表明が主であり、具体的な意見のやりとりまではなかったが、権丈委員の考えは増田委員の考えと共通するものがある。国民会議の委員の中にも一定の支持があるともいえるのではないか」と、権丈提案に関心を向けている。
 「増田委員の考え」とは、同委員(野村総合研究所顧問)の意見の中に、①医療法人制度(及び社会福祉法人制度)の経営統合を促進する制度(例)ホールディングカンパニー型の法人類型の創設、②医療法人(及び社会福祉法人)の「非営利性」を担保しつつ都市再開発に参加できるようにする制度(例)都市再生会社への出資等を認める規制改革、③地域医療の再生、特に2次医療圏における救急体制の整備と当該救急部門のファイナンスの確立(病院のコンソーシアムを組織しつつ医療機関の機能分担と集約を進める)、などの提案があることを指している。
 「増田委員の考え」と根底で重なる権丈委員の提案は、NIRA(公益財団法人総合研究開発機構)の「まちなか集積医療の実現に関する研究会」が2012年1月にまとめた報告書(「老いる都市と医療を再生する」)で提案されている、街づくりと医療・介護システムを統合させた再開発論とも概ね一致している(同報告書当該部分は別掲)。
 同報告書は、医療・介護を集積した再開発の担い手として「ホールディングカンパニー型の新型医療法人」を想定。その上で、「個々の医療法人(事業医療法人)には持ち分を有することを認め、新型医療法人とそこに属する個々の事業医療法人の間に限り配当を許容する」「新型医療法人がまちづくりの株式会社(共同事業体)に出資することを認める」と、より踏み込んだ提案を行なっており、政府の地域活性化統合本部「健康・医療のまちなかづくりに関する有識者・実務者会合報告会」で、参照すべき提言として紹介されている。
 「まちなか集積医療の実現に関する研究会」には、厚労省の武田俊彦社会保障担当参事官室長(当時)が委員として参画している。この提言が、権丈委員の提案にどう影響を及ぼしたかは定かではないが、同研究会の構想が国民会議における医療機能の分化・連携したがって医療機関再編を促進する方法をめぐる議論に影を落とした格好だ。
 国民会議は6月以降の全体議論で再び医療・介護の改革課題を議論するが、この提案が報告に盛り込まれると、“新型医療法人”創設というかたちで、医療法人のあり方をめぐる議論が再燃する可能性がある。
 厚労省は、国民会議の報告(8月21日が期限)をまって医療法改正法案の要綱をまとめるとしており、近々社保審医療部会を開催し、国民会議の議論経過を報告した上で委員からの意見を聴取したいとしている。
 しかし、消費税増税分の使途を含む2014年度の概算要求は7月に素案を作成、各省庁とも8月末には財務省に提示する。国民会議のとりまとめを待つまでもなく、医療法改正法案と来年度予算措置の概要は固まりつつあるとみることもできる。

□まちなか集積医療の実現に関する研究会(NIRA)報告書「老いる都市と医療を再生する-まちなか集積医療の実現策の提示-」から

第3章これからの医療介護システム

 急性期医療に主眼が置かれた病院中心の供給システムは、地域で支える包括ケア型医療へと早急に移行する必要がある。しかし、現行医療法人制度のままで新たなシステムへの再編は難しい。そのため、非営利性、附帯業務の制限などの原則を堅持しつつ、医療法人制度を以下の3つのレベルに分けて見直しを進め、医療法人相互の連携・再編、関連サービス提供主体との統合を促す。

□ 医療法人相互の連携

 ホールディングカンパニー型の新型医療法人を創設。個々の医療法人(事業医療法人)には持分を認め、新型医療法人とそこに属する個々の事業医療法人の間に限り配当を許容する。

□ 医療介護サービスの提供主体との連携

 新型医療法人が特定の医療介護サービス提供主体(株式会社立)の株式を保有、配当を受けることを許容する。

□ まちづくりを担う主体との連携

 新型医療法人がまちづくりの株式会社(共同事業体)に一定限度出資することを認める。他方、まちづくり会社が医療法人の持分を持つことも検討する。