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3,000人要件の見直しとプログラム責任者必置で合意

▲神野副会長(右から2人目)はストレート入局論に反論を加えた。

3,000人要件の見直しとプログラム責任者必置で合意

【医師臨床研修部会】
「ストレート入局」をめぐって応酬

 医師臨床研修制度の2015年度からの見直しについて議論を行なっている医道審議会医師臨床研修部会で、大学医局の委員は、“王政復古”ともいうべき主張を繰り広げている。
 4月25日の会合に招かれた日本小児科学会の水谷氏(生涯教育・専門医育成委員会委員)は、前回の見直しで必修科目から外された小児科を制度創設時のように再度必修に戻すべきと論じた際に、「ただし、卒前教育で小児科の臨床実習が取り入れられるのであれば、臨床研修においては、かつてのストレート入局が有効かとも考える」との認識を示した。
 これを受け、山下委員(山形大学医学部長)は「卒前教育で小児科を重視するようになればストレート入局は可能になるのではないか」と賛同した上で、「これは全国医学部長病院長会議の結論でもある」と、ストレート入局の復活が大学医局の総意であることを明らかにした。
 小森委員(日医常任理事)は「プログラム弾力化によってB項目(到達目標における経験目標の「経験すべき症状・病態・疾患」)の研修経験者が減ったといわれる。しかし、卒前の実習で体験できれば問題ないという声もあるが…」と、山下委員の見解に同調しつつ、学会側の見解を質した。
 この日は日本産科婦人科学会も招かれて現行臨床研修プログラムに対する意見を述べたが、小森委員の質問に、小西理事長は「産科の実習は医師免許取得前はやはり難しいのではないか。学部教育に実習を導入することは大切なこと。だが、それはそれとして、臨床研修中で何とかしてほしい」と反問した。
 この意見に、山下委員は、「学部教育、初期と後期の臨床研修というのを一体の流れで考えるべきだ。その学部教育も国家資格試験と実習の両立が望ましい。学部教育を充実させた上で、ストレート入局にしていくのがいいのではないか」と持論を展開。
 小西理事長は、「それは理想だ。しかし、そこまでいくのに時間がかかる。臨床研修を見直す課題は避けて通れない」と応じ、両者の間で意見の応酬が続いた。
 卒前教育に各診療科の実習を導入するという主張には問題点がないわけではない。神野委員(恵寿総合病院理事長・全日病副会長)は「卒前教育の見直しを論じる上で国家試験の改革が避けられない。その議論なくして、実習を学部教育でやればことはすむというのはいかがか。それはそんなに簡単な話ではない」と指摘、大学側の意見を短兵急な話だと批判した。
 神野委員の発言に、小西理事長も「医療技術の高度化を考えると、現在の国家試験レベルの知識は必至だ」と、ストレート入局を推進する方便となりかねない安易な国家試験改革論を戒めた。
 同日の医師臨床研修部会は、両学会以外に、精神科七者懇談会と日本医師会が医師臨床研修制度に対する意見を表明した。
 日医の中川副会長は、「医学部教育の充実と臨床研修制度の見直しによって、将来的に、医師の地域と診療科偏在を解消したい」として、「医学部4年生終了時に、臨床能力を判断する目的でCBTとOSCEを課す。それに合格した学生には学生医(仮称)の資格を与え、5、6年生で診療参加型臨床実習を行う」と、医学部教育を見直した上で、「1年目に内科、救急医療、地域医療、精神医療からなる必修科目を研修。2年目に、将来専門としたい診療科または多くの診療科を巡回してプライマリケアの能力を深めていく」という臨床研修の考え方を明らかにした。
 日医案に対して、神野委員は、「この案は医学部教育の5、6年生の改革を前提とするもの。現状は、そうした改革がないままに弾力プログラムが導入されている。日医の案は、医学部教育の改革を実現してこその、1年次にプライマリケアを修め、2年次に専門コースに入るという考え方ではないか」と質した。
 これに対して、中川副会長は「その通り。我々の提案のポイントの1つは5、6年生の診療参加型臨床実習ができているか否かにかかっている」と述べ、卒前教育の改革と乖離した臨床研修プログラムの弾力化には賛成できないという認識を吐露した。

 

神野副会長 研修病院に病院機能評価受審義務化を提案

 この日は、基幹型臨床研修病院の指定基準についても議論されたが、必要症例数(年間3,000人以上)に関して、神野委員は「3,000人未満の病院でも臨床研修に十分必要な質が確保されているという調査結果が出ている。3,000人にこだわる必要はない」と主張した。
 山下委員は「何人にするかという議論は止めにしたい。チーム医療、多くの症例数、指導医の存在が大切」と外形基準に拘泥しない姿勢をのぞかせながらも、「本当に外形基準でいけば、自ずと3,000人は優に越えるだろう」と現行基準へのこだわりをうかがわせた。
 一方、小森委員は「3,000人には根拠がないので、これにこだわる必要はない。ただし、具体的な体制が質を高める上で適切であるか否かは十分検討してほしい」と、見直しに賛同した。
 この議論に関連して、研修病院を定期的に外部評価すべきという提案があり、病院機能評価が候補にのぼった。これを受け、神野委員は病院機能評価受審を要件に加えるよう提案した。
 この日の議論を、桐野部会長(国立病院機構理事長)は「3,000人に合理的な根拠はないというのがコンセンサスとなった」と集約。さらに、「3,000人未満は訪問調査を課すとし、3,000人以上には何らかの追加的な要件を付してはどうか」と提案した。
 指導・管理体制に関しては「プログラム責任者の研修修了と1人配置」とする方向で概ね合意した。