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ホーム全日病第801回/2013年5月15日号資源と需要に地域差。データから...

資源と需要に地域差。データから「あるべき提供体制」を計画

寄稿/第9回社会保障制度改革国民会議における権丈・高橋両氏のプレゼン(概要)について
資源と需要に地域差。データから「あるべき提供体制」を計画

国民会議で提言 医療・介護の地域計画に沿った取り組みに補助金を投入

国際医療福祉大学 大学院教授(全日病広報委員会特別委員) 高橋 泰

 平成25年4月19日の第9回社会保障制度改革国民会議で、筆者は、「医療需要ピークや医療福祉資源レベルの地域差を考慮した医療福祉提供体制の再構築」というタイトルのプレゼンを行う機会を得た。
 この日は国民会議の委員がプレゼンを行い、お互いの内容を討議する予定の日であったが、委員の一人である慶應義塾大学の権丈教授が、自分の発言時間の一部を使って、高橋に発表をお願いしたいと提案され、委員でない私が権丈氏とペアでプレゼンを行うこととなった。
 当日は、私が7分、その後権丈氏が3分ほどのプレゼンを行なったが、先に権丈氏のプレゼン内容を紹介したほうが、権丈・高橋ペアのプレゼンの趣旨を把握しやすいので、まず権丈氏のプレゼンの概要を紹介する。

 

中長期の地域医療・包括ケア計画を各地域で策定

権丈善一慶應義塾大学教授のプレゼン

 権丈氏(写真右)は、まず、多くの国では公的所有の病院が多く、ニーズが変化したときに供給体制を変えることが難しくないことを論じ、日本的医療提供体制の問題の一つは、私的所有(民間病院中心)という形で体制を整備してきたがゆえに、ニーズが変化したときになかなか構造転換が難いことを指摘した。
 次に、「政府は増税の腹を決め、増税した分を社会保障、特に医療・介護にも回すと言っている」ことを紹介し、「医療・介護の提供体制の改革のために使うお金の使い方には、診療報酬や介護報酬として医療・介護の現場に全体的にお金を回していく方法と、補助金という形で目的に沿ったところに集中的にお金を投下する方法の2種類の方法がある」ことを説明した。
 さらに、権丈氏は、医療提供体制の改革を進めるために、「地域医療・包括ケア創生基金」を設置し、この基金が、時代のニーズに合った改革を行う自治体などに「補助金」を出すという提案を行った。
 少子高齢化に適合した医療提供体制の改革を進めるために、各地域が、その地域の医療や介護ニーズを把握し、10年後、20年後を見据えた計画を立て、地域住民のニーズに見合った改革を行おうとする計画策定者に、政府が予定している財源を集中するのが効果的だという主張である。
 ただし、この案を進めるためには、それぞれの計画策定者、たとえば地域医療計画を立てる県の職員をはじめとした人たちのレベルアップが不可欠となる。
 そこで、権丈氏は、有識者や国の職員等からなる「地域医療・包括ケアデータ解析専門チーム」を置き、このチームが地域医療計画策定者や地域包括ケア計画策定者と緊密に連携しながら、可視化された情報についての説明や解説を行い、都道府県単位や医療圏単位、地域包括ケア単位での「あるべき姿」の検討をすすめていく必要があることを強調された。
 権丈氏が自分の発表時間を割いてまでして私にプレゼンを依頼してきた理由は、私が二次医療圏データベースを用いてまとめた日本医師会総合政策研究機構のワーキングペーパー「No.269地域の医療提供体制現状と将来-都道府県別・二次医療圏データ集」などを見て、「提供体制の改革にはデータの力が必要なのだが、ビジョン作りのためのデータの問題は、これで行ける」と考えられたからである。
 次に、権丈提案に沿う形で用意した、私のプレゼンの概要を紹介する。

 

20~30年先を予測した医療福祉整備構想が必要

高橋のプレゼン

 私のプレゼンでは、まず、我が国全体の人口の動向を紹介した(写真左)。
 わが国全体では、0~64歳は、2010→40年にかけて一貫して減り続け、約3,000万人減少する。65~74歳は、2010→40年にかけて、ほぼ横ばいで約100万人増加する。75歳以上は、2030年頃まで増え続け、その後ほぼ横ばいで、約800万人増加する。
 その結果、国全体は、若年層が3000万人減、高齢者が900万人増で、総人口は約2,100万人減少する。また、0~64歳人口の減少率の地域差は大きく、75歳以上人口の増加率も地域差は大きいことを指摘した。
 更に、人口動態は地域により大きく異なるが、大都市、地方都市、過疎地域と分けることにより、今後の人口動態の動向をある程度把握できるようになることを紹介した。
 次に、医療福祉提供体制の再構築にむけての提言に関する説明を行った。
 今後も現在と同じ医療が提供される(価格も内容も変化しない)と仮定し、人口構成のみが変化した場合、我が国の医療需要ピークがいつどの時期にくるのかを地域ごとに計算した結果を地図上に示し、「我が国には、今後医療需要が減り続ける二次医療圏もあれば、2040年まで医療需要が増え続ける二次医療圏もある」ことを紹介した。
 さらに、各二次医療圏の人口当たりの総病床数、看護師数、老健・特養・高齢者住宅の収容可能人数を偏差値化し、少ない地域を赤や黄色、多い地域を青色や水色で示した日本地図を示しながら、医療福祉資源レベルも、地域差が大きいことを示した。
 医療や介護資源は概して、関東・甲信越・東海に少なく、北海道・北陸・中国・四国・九州に多い。
 更に、現在の医療や福祉の資源量と将来の人口動態から予測される医療や介護の需要量より、各二次医療圏の医療・福祉の余力を評価し、日本地図上に、余力のある二次医療圏と、余力のない二次医療圏を示した。
 最後に、以下の結語をもってプレゼンを締めくくった。

高橋プレゼンの結語

●地域により、人口動態が大きく異なり、医療需要のピークの時期や程度も大きく異なる。また、施設や人員レベルも地域差が大きい。
●まず、それぞれの地域が大都市型なのか、地方都市型なのか、過疎地域型なのかを把握し、更に他の二次医療圏と比較して、医療需要のピークが来るのが早いか遅いか、施設や人員レベルは充実しているかなど、「自分の地域の特性」を踏まえた対応を検討することが重要である。
●また、これまでのような「短期(5年)の医療福祉整備計画」だけでなく、「20~30年先までの予測を考慮した中長期の医療福祉整備構想」を検討する必要がある。

 

 消費税増税により医療界に回ってくる財源は、医療制度改革を推進するアメとして使える最後の財源であろう。
 今回提示した「中長期の医療福祉整備構想+補助金」という手法がベストの方法かどうかはわからないが、少子高齢化に向けた医療提供体制の何らかの改革を、今、早急に始めなければ、将来にむけて禍根を残すことは間違いないだろう。将に、今が、少子高齢化にむけた医療提供体制の改革を推進するラストチャンスであろう。