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ホーム全日病ニュース第803回/2013年6月15日号第3者機関 院内調査の検証は再発

第3者機関 院内調査の検証は再発防止が目的で過失認定のためではない

第3者機関
院内調査の検証は再発防止が目的で過失認定のためではない

【医療事故調査制度に関する報告書】
院内調査には原則外部医療専門家が参加。医療関係団体等による外部支援体制を整備

 厚労省の「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」は5月29日の会合で、(1)予期しない診療関連死のすべてについて院内調査を実施するとともに第3者機関に届け出る、(2)院内調査の結果は遺族に開示かつ第3者機関に報告する、(3)遺族または当該医療機関が求める場合はさらに第3者機関が調査を行なう、(4)院内調査を支援する医療関係団体等の登録制度を設ける、(5)第3者機関は再発防止策の普及・啓発を行なう、ことを骨子とする医療事故調査制度の基本的な枠組みをまとめた(6月1日号既報)。
 報告は一部修正が加えられ、5月31日に公表された。
 報告は調査目的を「原因究明及び再発防止を図る」ためとした上で、①第3者機関は行政機関への報告、警察への通報をしない、②第3者機関による院内調査報告の検証・分析等は再発防止が目的で医療関係職の過失認定のためではない、とそれぞれ明記した。

■検討部会委員を務めた飯田常任理事の談話

 事故調査の目的は、原因究明・再発防止である。患者・家族の納得や補償は重要であるが、事故調査とは別の枠組みで検討しなければ原因究明・再発防止は困難である。
 しかし、従来の事故調査の検討においては両者の混同があり、議論が迷走する要因となった。
 筆者は、産科医療補償制度の準備委員会(2007年2月)から現在の運営委員会まで参画し、「原因究明・再発防止と補償・責任追及は別々の枠組みで検討すべきである。いずれ、出産に関連した脳性麻痺のみならず、医療全体に及ぶことは必定である」と主張してきた。
 11年8月に厚労省は「医療の質の向上に資する無過失補償制度等のあり方に関する検討会」を設置、危惧した通り、原因究明・再発防止と補償・責任追及という異なる目的の検討を開始した。筆者は、ここでも「両者は別の枠組みで検討すべき」と主張した。
 その後、原因究明・再発防止に限定した「医療事故に係る調査の仕組み等のあり方に関する検討部会」が設置され、計13回(12年2月~13年5月29日)の検討を経て、原因究明・再発防止を目的とする枠組みが合意されるにいたった。
 本検討会の意義は、第3者機関設立で大枠の合意がなされたことと、質疑の中で、厚労省医療課長が医師法21条に関する解釈を立法の趣旨に戻して明確にしたことである。制度の具体的な内容や指針策定は今後の課題である。医療界を挙げて自律・自立的に取り組むことも合意された。

 

「医療事故に係る調査の仕組み等に関する基本的なあり方」について(要旨)

1. 調査の目的

原因究明及び再発防止を図り、これにより医療の安全と医療の質の向上を図る。

2. 調査の対象

・診療行為に関連した死亡事例(当該事案の発生を予期しなかったものに限る。以下「死亡事例」と表記=編集部)

・死亡事例以外は段階的に拡大していく方向で検討する。

3. 調査の流れ

・医療機関は死亡事例が発生した場合、第3者機関に届け出るとともに速やかに院内調査を行い、当該調査結果を第3者機関に報告する。(第3者機関から行政機関へ報告しない)

・遺族又は医療機関から調査の申請があったものは第3者機関が調査を行う。

4. 院内調査のあり方について

・死亡事例が発生した場合、医療機関は院内に事故調査委員会を設置する。その際、原則として外部医療専門家の支援を受け、必要に応じて他分野の外部支援を求める。

・外部支援や連絡・調整を行う主体として、「支援法人・組織」として、都道府県医師会、医療関係団体、大学病院、学術団体等を予め登録する仕組みを設ける。

・院内調査報告書は遺族に開示する。院内調査費用は医療機関が負担する。

・厚労省は院内事故調査のガイドラインを策定する。

5. 第3者機関のあり方について

・第3者機関として民間組織を設置、以下を業務とする。

①院内調査の方法等に係る助言

②院内調査報告書に係る確認・検証・分析  ※当該確認・検証・分析は再発防止のために行われるものであり、医療関係職種の過失を認定するために行われるものではない。

③遺族又は医療機関からの求めで行う医療事故調査

④医療事故の再発防止策に係る普及・啓発

⑤支援法人・組織や院内事故調査等に携わる者への研修

・第3者機関は全国に一つとし、調査は各都道府県の「支援法人・組織」と一体に行う。

・医療機関は第3者機関の調査に協力すべきものとする。仮に医療機関の協力が得られず調査ができない場合は、その旨を報告書に記載し、公表する。

・第3者機関による調査報告書は遺族と医療機関に交付する。

・第3者機関の調査費用は、学会・医療関係団体からの負担金や国からの補助金に加え、調査を申請した遺族や医療機関にも負担を求める。

・第3者機関から警察へは通報しない。(医師が検案をして異状があると認めたときは、従前どおり、医師法21条に基づき、医師から警察署へ届け出る)

 

医療事故情報収集等事業は今後も継続する

 検討部会後、取材陣に今後の法制化作業を説明した吉岡てつを総務課長は、①「予期しない死亡」は医師と管理者の判断による、②法制化の過程で届出義務違反への罰則の有無が検討される可能性がある、③第3者機関には調査権限が付与されない、④調査結果が訴訟に使われる可能性を否定することはできないなど、医療事故調査制度に対する厚労省の認識を表明した。
 その要旨は以下のとおり。

■検討部会後の吉岡総務課長と取材陣のやりとりから

 義務化事項として、届出と届出先、院内調査、指定法人の業務などが考えられる。そのどこまでが法律で、どこまでが政省令になるかは法制局と検討することになる。届出義務の対象は病院、診療所、助産所、歯科診療所だ。院内事故調に外部の者を入れることまで法律に書くかどうかも、法制局との相談になる。
 届出義務違反に罰則をつけるつけないの議論は検討部会ではなかった。この点は、与党の中にも色々な意見があるようだが、法制化作業の中で検討してもらうことになる。
 当制度の施行時期は第3者機関の業務が円滑に動くまでの時間を見越して考えなければならない。それまでにGLをつくって周知を図る必要がある。「支援法人・組織」を全国に組織し、解剖を含む円滑な運営体制を整えなければならない。それらがどのくらいの時期に可能となるかだが、できるだけ急がなければならないのも事実だ。
 第3者機関は民間組織であるが指定法人というかたちもある。第3者機関には調査権限をもたせないというのが検討部会の合意。その代わり、非協力医療機関は公表するわけだ。
 「予期しない死亡」というのは医師と管理者の判断によるが、具体的な基準はGLに該当事例等を書き込むことになろう。特定機能病院等による事故報告は死亡に限られていないことから、今後も継続する。
 調査資料が訴訟に使われる可能性を否定することはできない。刑事訴訟法にあるとおり、証拠となることを排除できない。ただし、最終的には裁判官が真偽を判断することになる。
 無過失補償の議論よりも大切というので事故調査の議論を先行したが、今回の結論は無過失補償の議論には役に立たない。つまり、無過失であるかどうかを峻別する話にはなっていない。したがって、その議論を再開しなければならない。

(以下は取材陣との問答形式で示す)

記者 5年前の大綱案と今回の枠組みはまるで違う結果になったが。

課長 あのときは医師法21条の適用をどう外すかが関係者の主眼であった。そのために事故調を公的な第3者機関にするということでまとまったが、その後、医療界は公的な機関ではまずいということになって、今の議論に続いた。

記者 あのとき医療界の多数は厚労省の案に賛同した。しかし、その後、「責任追及と原因究明を別にすべき」との認識が広まり、医療界の合意になったという流れではないか。

課長 それと、(昨年10月26日の医事課長発言で)医師法21条の理念を分かってもらったということもかなり影響しているのではないか。

記者 担当課長として5年前からの流れをどう振り返るか。

課長 こういう仕組みは医療界が納得しない限り進まないということだ。

記者 今回は四病協、日病協、医学部長会議の意見が前面に出た。これが医療界としてまとまった根拠になったという認識でよいか。

課長 そうだ。