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ホーム全日病ニュース(2022年)第1013回/2022年7月15日号行動経済学的視点から考える医療人財マネジメント~メディカルスタッフが最高に活躍できるための心くばり〜

行動経済学的視点から考える医療人財マネジメント
~メディカルスタッフが最高に活躍できるための心くばり〜

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第2回 どうしてタスクシフトが進まないのか?

 当企画は、行動経済学の視点から病院の経営マネジメントを見直し、病院のリーダーがチームメンバーの能力を伸ばすことで、全体のパフォーマンスやクオリティを上昇させることの支援を目的としている。
 前回(第1回)は「中間管理職が病みやすいのはなぜ?」と題し、リーダーがリスクを容認して業務を成立させることや、中間管理職は損失回避的に振る舞いやすいことを意識して部下と接することの大切さを解説した。
 今回(第2回)のテーマは、働き方改革に関連して「どうしてタスクシフトが進まないのか?」を取り上げる。会員の皆様の参考となれば幸いである。



江口 医師の働き方改革に関連して、「タスクシフト」も経営の課題だと思います。けれども、うまく進んでいないところもありそうです。


江口有一郎氏

石川 「仕事を取られる」と身構えてしまうのでしょうか?
平井 私は数年前まで大学の企画経営で働いていまして、よく言われたのは、「責任と権限の移譲」です。名目上はタスクシフトでも、責任だけ増えて権限が移譲されないパターンは、大きい組織ほどありがちだと思います。その背景には、権限を失うことへの損失回避や、求めていないアウトプットが出てくる心配があると思いますし、それがタスクシフトのメリットよりもデメリットに目を向けさせてしまうのではないでしょうか。


平井 啓氏

石川 「責任はとるから好きにやって」と言ってくれる人がいたら、皆ちゃんと考えてそれなりにやるのではないかと。
江口 任せれば、かえって良いものができますよね。「お金は用意するから、任せるよ。本当にいいものを作ろう」って言うと、意外とお金を使わないんですよ。
平井 人にやらせるのが苦手で、細かいところまで監視しないと気が済まない性格傾向を「マイクロマネジメント」と呼びます。医療分野は職人的な気質の人が多く、自らの技術でアウトプットを出して偉くなった人は特にそうなりがちです。任せることを「怖い」と思ってしまうので、管理者研修などで教育が必要だと思います。また、人に任せるときに、自分が想定していないアウトプットが出てきたときは「自分の指示の出し方が良くなかった」と考えないといけません。そうではなく「あいつはできない」などと言い出すからうまくいかなくなるのです。
石川 とてもよくわかります。今まではリーダーシップでマネジメントを回すという形が主流だったでしょうが、最近は「プラットフォームを作る」、つまり皆が活躍できる土壌・体制を極力整えることに徹してもいいのかなと思います。これをやったら絶対大丈夫というものはないので、皆で考えて、アイデアを出し合って、目標に対して皆が努力するという形でいいのではないでしょうか。


石川賀代氏

江口 チームとして進むべきベクトルを正確に示したら、思い切ってあとは任せて、「困ったら言ってね、何でも聞いて!」という形でいいのかもしれませんね。
石川 働き方改革では、記録の簡略化などの「間接業務を減らす」という観点も取り組めることがたくさんあります。
江口 例えば、理学療法士が1日で持てる単位が業務時間で割り切れないんですよ。なぜかというと、理学療法を行った記録を書くのに半日かかるからです。栄養指導も1 人30分行ったら、30分は記録に費やすという。そんな無駄なことはないだろうと思います。
石川 それは全部テンプレート化したらいいのではないでしょうか。
江口 出退勤もそうです。定時に来て定時で帰るスタッフが多いから、そこからずれている人だけシステムに入力すればいい。なのに、全員が来た時間と帰る時間を書いているのです。面倒くさいから皆まとめて入力しますので、結果的に適当な記載になる。今はシステムを変更しようという話になっています。
石川 当院でも退職により財務スタッフが1人だけになってしまって、人を補充しない代わりに財務・人事業務はシステム化しようという話になりました。機械は文句を言わないし、夜も働けるし…ということで。
平井 業務の切り分けという点でNTT西日本の事例をご紹介します。ここは障害者雇用をするための子会社をつくり、グループ会社に声をかけて業務の切り出しをして集めて、精神障害者を中心とした従業員がそれを担っています。秘訣は業務をモジュール化して、障害の程度に合わせてマッチングすることです。これによって生産性が高まり、外注するよりも子会社に回すほうがいいということになりました。この子会社は定着率が非常に高く、最初12人だったのが326人にまで増えたそうです。
石川 当院も障害者雇用に力を入れ始めており、障害者の方にもお任せできる業務を整理しているところです。また、障害者や外国人が職場にいると皆やさしくなって、環境がとても良くなるんです。皆が分かるような言葉を使ったり、よく声かけをするようになったり、コミュニケーションが活発になるからすごくいいことだと思っています。
平井 まさに同じようなことがNTT西日本でも起こっていて、本社から管理職がこの子会社に出向して何年か経験すると、マネジメントスキルが上がって、説明や指示を言語化して、やさしく対応できるようになって戻ってくるそうなんです。
江口 障害者の方がムードメーカーになるんですね。
石川 ピュアな方が多くて、真面目で一生懸命なんですよね。本当にありがたいなと思うことが多くて、お互いに良い関係を築けているように思います。

 

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