第3章  2040年における理想的な医療介護提供体制:「病院のあり方に関する報告書」(2021年版)

主張・要望・調査報告

「病院のあり方に関する報告書」

第3章 2040年における理想的な医療介護提供体制

1.医療・都道府県主導の地域包括ヘルスケアシステム

 医療介護提供に関する行政管轄区分は、医療が都道府県2次医療圏、介護が市町村単位となっている。現在国がすすめている「地域医療構想」と「地域包括ケアシステム」も、前者が都道府県、後者が市町村の責任で推進という構造となっているがゆえに、整合性や連携についての議論に欠けており、理想的な医療・介護提供体制構築を困難なものとしている。
 医療・介護保険制度の一本化ないし柔軟な運用を含む医療・介護制度そのものの根本的な改革を前提とし、2040 年に向けての理想的な医療・介護提供体制を全日病として以下のように提言する。
 現在の2次医療圏は日常生活圏と乖離しており、地域の主要医療機関を中心にアクセス状況を踏まえ提供体制を考える必要がある。人口推移や高齢化率に加え地域の産業構造などから一定の生活圏で地域特性に合致した医療・介護・高齢者の住まい・生活支援等を一体的に検討する「地域包括ヘルスケアシステム」として再構築すべきである。
 現在進行中の「地域医療構想」、「地域包括ケアシステム」構築は、2025 年の地域別医療・高齢者向けの介護提供・日常生活支援体制を考えるものであるが、2040 年時の人口変動も明らかとなっていることから、年齢別人口と高齢化の推移およびこれから想定される疾病・要介護需要推計等に基づき、提供体制モデルを示す必要がある。
 地域特性を踏まえた医療の集約化・機能分化連携を考える「地域医療構想」は、医療需要の推移を根拠に検討が可能で、それなりの方向性を示すことはできるが、「地域包括ケアシステム」構築実現においては高齢者の自助互助が求められているものの住民の意向調査62 からは難航が予想されるので、全日病は医療を中心に介護福祉等の提供を一体的に考える「地域包括ヘルスケアシステム」として事業モデルを作成し、関連事業所間での協議のもとに各圏域の制度設計をし直すことを提案する。運用に関して、医療保険・介護保険の同時利用や報酬改定時期の統一などがなされるべきであり、制度の大きな改変を要するが、整合性が取れ効率性も担保されるので、医療・介護現場のみならず国民の理解も得られるはずである。また、現在医療・介護関連の政府調査で実施時期が統一されていないものも多いが、より正確な比較検討のために見直すべきである。

 都道府県は、新しい圏域ごとに既存の医療・介護・福祉機能の十分な再調査を行い、必要な財政支援による医療・介護・福祉提供者の統廃合・集約化・連携などを主導し、医療計画・介護保険事業計画作成時に各自治体を指導するなど全体の統括を行うべきである。圏域内各自治体においては具体的な行動計画を作成し、確実な実践に取り組みPDCA サイクルを回し、住民目線での改変を行政、医療・介護・福祉提供者、住民が一体となって取り続ける必要がある。
 市区町村将来人口増減表に示されるように、大都市部の人口推移・高齢化率とその他の市区町村の推移とでは大きく異なる。「未来カルテ」63、「地域経済分析システム」64 等から、65 歳以上・75 歳以上人口・生産年齢人口(第2章の新たな定義も参考に)、産業、保育、教育、医療、介護等の将来像について、それぞれの市区町村がシミュレーションを行い未来の姿を見える化し、各圏域における提供体制の再構築を今から始めるべきである。

62 厚生労働省「人口減少社会における医療福祉の利用に関する意識調査」https://www.mhlw.go.jp/content/12605000/000684405.pdf(2020.10.23 参照)日常生活の困りごとについて、友人知人同士で助け合う(18-44 歳33.5% 45-64 歳35.2%、以下同様):近隣住民で助け合う(23.1%、27.3%) 医療福祉サービスへのボランティア(9.5%、10.7%)・・・自分が関われる事はないので何もしない(49.0%、46.0%)。

63 未来カルテhttps://opossum.jpn.org/simulator/

64 地域経済分析システム(RESAS)https://www.chisou.go.jp/sousei/analysis.html

コラム:全日病の考える「地域包括ヘルスケアシステム」

 健康管理・医療・介護・福祉サービスが一体となった「地域包括ヘルスケアシステム」は、医療提供者が行う諸検査を基にした身体精神機能の客観的な情報と介護・福祉提供者からの日常生活に関する情報を加え、介入条件を設定して必要に応じ最適な支援を行うシステムである。
 高齢者にも健康維持のための予防投資や「未病対策」が重要であり、これに対して自助を促す取り組みは欠かせない。その上で、本システムの実践では共助公助を中心とし可能な限り互助を加える体制とする。
 支援を要することの多い65 歳を契機に諸情報を提供することを義務付ける制度の導入が必要であり、行政(ないし医療・介護・福祉提供者)による定型調査票による訪問情報収集と指定関係者限定の自動更新システムを構築する。半年毎に定期的な各項目のチェックを行い、一定条件以上の問題発生時には支援者会議を開催し対応を図るシステムである。

 都道府県が医療提供体制のみを考える「地域医療構想」、市町村が介護を中心に高齢者の生活を考える「地域包括ケアシステム」、さらには「地域共生社会の実現のための社会福祉法等の一部を改正する法律」(2021 年4月1日施行)の内容を統合し、市町村の責任で地域単位に医療機関を中心に関係者が住民を守る体制の再構築を目指すものである。いまだにある医療・介護・福祉提供者、行政間の不十分な意思疎通の解消にもつなげられるはずである。

 診療所や中小病院が一定地域の住民の健康管理を担う仕組みを導入する際、種々の情報を把握しこのシステム実践に応用するものであり、「確実な情報を関係者で共有し、的確な総合的ケアを行うシステム」でもある。

1)情報収集/整理/保管する専門部署の設置

前提 〇 一定条件以上の問題発生時の自動通報―支援者会議開催のルールとする。
〇 住民情報の一本化が必須であり、健康診断時に行政の持つ情報も集約する
⇒ 行政と医療・介護・福祉提供者は十分なセキュリティー確保の上での情報検閲可能なシステムを構築する
収集する情報 基本情報 生年月日、住所等
住まいの情報 自宅/借家/入所(老人ホーム/サ高住/特養/老健施設 グループホーム等)
生活に関する情報 正規雇用/非正規雇用/年金/生保、独居/同居(夫婦・家族)、子供の有無(男・女)、キーパーソン(同居・近隣・遠隔地)等
健康に関する情報 健康診断受診歴、既往歴、現病歴、かかりつけ医等
身体精神機能に関する情報 ADL、自立、半自立、要支援、要介護( 介護度)、認知機能(HDSR/MMSE)
移動手段に関する情報 歩行、公共交通機関、自転車、自家用車

2)支援会議と支援者の規定

支援会議 行政、支援センター担当者、医療機関関係者、介護施設関係者、家族、本人・家族の同意を得た近隣者等地域のサポーター等
必要な支援の決定 体力増強、食事支援、日常生活、通所/通院、買い物、対行政用行動等
支援者 かかりつけ医、訪問看護師、リハビリ専門職、介護提供者、家族、地域のサポーター等

3)介入の条件-認知症の有無、要支援内容に応じ3段階に区分

段階分けの例 ①支援があれば可能
② 遠隔指導にて可能/対面指導にて可能
③支援があっても不可能
認知症 CDR 1,2,3
衣食住に関する課題 健康管理につながる衣服交換
洗濯
必要に応じた衣服の購入
食事の用意/片付け/整理整頓
食材の購入/保管
家の戸締り
必要な排雪
電気器具の扱い
電話応対
金銭管理
健康維持に関する課題 洗面歯磨き
排尿排便
服薬管理

4)AI による経過評価・支援内容自動更新システムの導入

 全日病では、過去のあり方報告書において、「病院と地域連携(ネットワーク)」の章で「医療と介護をあわせ含めてヘルスケアという概念を持ち、どのような地域社会でネットワークを構築するのかが課題」とし、2000 年から議論・提言をしてきた。
 その提言を実現すべく活動した結果が、全日病を中心とした四病協提言の「地域一般病棟65」(2001)、「地域医療・介護支援病院66」(2013)、となり、「地域包括ケア病棟」、「在宅療養支援病院」の実現につながってきた。
 「地域包括ヘルスケアシステム」は、これまでの活動の発展形の提言であり、この実現に取り組んでいく。

65 地域一般病棟:地域(主として一次医療圏・生活圏)の医療を支える地域密着型病棟(病院)であり、地域住民、在宅療養中の患者、介護施設入居者等を対象として、連携を中心とした地域包括ケアを推進する病棟(病院)である。

66 地域医療・介護支援病院:高齢者に対する医療・介護の提供が深刻な課題となる2025 年に向け、医療の提供と在宅復帰を担うとともに退院後の在宅療養を支え、さらに介護を後方支援する医療機関として、急性期と回復期の機能をあわせ持つ“ 多機能病院” を地域包括ケアシステムの医療の側の中核に位置づけ、高度急性期から在宅・介護にいたる提供体制の連鎖の環とすべく、医療法等の法的枠組みと補助金そして診療報酬による評価を行なうべきである。

2.主な医療介護提供体制について

 圏域ごとに救命救急・2次救急・急性期医療に迅速に対応する施設と集中治療後の亜急性期から回復期・慢性期まで一貫した医療を行う後方連携施設、治療後の種々の後遺症や高齢化等により日常生活機能低下症例に対する介護提供体制が必要であり、更なる集約化・連携を推し進めるべきであるが、「地域包括ヘルスケアシステム」として再構築する際には、健康診断や疾病予防の体制作りもあわせて行う必要がある。
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)発生事例の教訓から、介護施設における感染症予防や感染発生時の協働体制を近隣連携医療機関と共に構築すべきことも忘れてはならない。

1)健診・疾病予防

 疾病予防に関しては、従来の1次予防(健康増進)、2次予防(早期発見・早期治療)、3次予防(再発・悪化防止)から、最近は生活している環境改善を考える0次予防、副作用・合併症予防の4次予防、認知症の発症を遅らせる予防や社会的要因である経済的格差や社会状況の差に起因する疾患の予防を考える5次予防へと概念は拡大している。
 乳幼児健診、学童期から大学生までの健診内容の見直しに加え、母親、保護者へ受診啓発、および特定健診、企業健診内容の統一化と義務化、がん・骨粗鬆症・歯周疾患検診、更にはストレスチェックなどによる「心の健康」についての健診方法の確立まで、整合性のとれたシステムとして構築し直す必要がある。
 かつては世界的にも優れた日本の健診制度は、OECD 諸国水準からの遅れが指摘され67、日本の制度疲労の象徴的な事例ともなっており、抜本的に見直す必要がある。エビデンスに基づいた検査内容の見直し、精度管理、どの分野を強化するかの優先順位の決定、個人レベルでの継続的な管理、集団としての情報の利活用が課題である。
 成人以降の健康診断はより一層強化すべきであり、前時代的検査内容(現在の胸部エックス線、安静時心電図、血液・尿検査)を見直すとともに、現在の医療水準、疾病構造を反映した胸腹部CT、脳・心臓MRI/MRA、腫瘍マーカー等の主に日本人の3大疾病と寝たきりの原因となる骨粗鬆症等に対応する内容とする必要がある。今後は、自動観察システム情報(表情や視線、姿勢、言動、運動、食事、睡眠等)に加え、健診情報や生体センサーや排尿・排便自動モニターなどから得られる日常の生体活動に関する情報などから、心身の健康状態を評価する指標が確立されるはずであるが、10 年毎に医学の進歩に即し内容を見直すことを規定すべきである。
 健診結果判定にAI を利用することが普及するが、AI についての認証制度を導入するとともに、AI に加えて最終判断を専門医が行うなどの信頼される制度設計も必要である。
 今後は保険者の一本化をはかりつつ、健診は各保険者の責任で現在の健診センターからかかりつけ医(診療所と中小病院)の受診に変更し、異常があれば双方が連携して即指導・診療につなげる仕組みに改変すべきである。
 健康増進法に示される、「栄養・食生活、身体活動・運動、休養、飲酒、喫煙、歯および口腔内の健康に関する生活習慣および社会環境の改善」に加え、「心の健康」の維持に関して、ライフステージに応じてどのような具体的な行動をとるべきかの指針を作成し、保険者が国民全体にも啓発すべきである。「心の健康」については産業医や保健師等の参加のもとに企業と一体となった取り組みにすべきであり、各企業が健康経営の意識を高めるよう医療提供者側の協力も必要である。
 PHR(Personal Health Record)の導入の際には、各ライフステージにおける健診結果やワクチン接種歴、診療歴に加え、改善目標・行動などが網羅される設計にしなければならない。各ライフステージに必要な健診内容の整合を図り、あわせて標準的な「医療・介護情報の記録方法」を決定する必要がある。電子カルテと介護記録が相互利用可能なように標準化・整合を図り、これらの情報の柔軟な利用に関する規定を作るとともに、個人情報保護の観点から情報閲覧については十分議論する必要がある。
 健診・医療・介護・福祉情報の相互利用による健診体制、地域内病診・病病、医療・介護連携を構築し、情報の定期的分析を行うべきである。
 十分な準備の下、2040 年には「国民皆健診制度」となるように各方面の協調が必要であり、かかりつけ医機能の一環として制度上に明確に規定し、各保険者と人頭払いかつ成果報酬も加味されるよう交渉可能な仕組みが構築されるべきである。

67 OECD Reviews of Public Health: Japan 第1章 日本の公衆衛生行政システムは、国、都道府県、保健所、市町村の4層構造の下で直接の実施主体は市町村とされ分散化されている。第2章 国レベルで定められた「健康日本21戦略」では、多くの分野の予防戦略が羅列されていて焦点が絞られていない。第3章 多くの種類の検診・健診がエビデンスの裏付けのないまま実施されている。第4章 自然災害や新興感染症などの公衆衛生分野の緊急事態への対応における問題点が指摘されていて、無駄のない予防パッケージに焦点を当て、国民全体を対象としたより強い政策で後押しするべきこと、現在提供されている検診・健診を合理化して項目の削減を優先し、がん検診はエビデンスに基づくものに限るべき(Medical Tribune 寄稿 大阪国際がんセンターがん対策センター特別研究員 大島明氏 2019 年3月9日)

2)急性期から慢性期医療

 2025 年に向けて地域医療計画の見直しの中で機能別病床数の整理を行う「地域医療構想」が議論されている。「地域医療構想」は、当初、疾病別医療需要も考慮して提供体制を再構築するはずであったが、具現化が大幅に遅れることが明らかになるにつれて現状の提供体制の修正にとどまっている。全日病がかねてから主張してきた提供体制の再構築は、年齢別人口推移、各疾病数予測、地域経済の盛衰予測に基づく地域特性を踏まえた検討に基づく抜本的な変革68であり、現状がこれとかけ離れたものとなっていることは残念なことである。
 最近10 年間の都道府県別外来・入院数変化をみると、外来患者数増加は14 都県(15%以上増加は7都県)であり、他は減少(15%以上減少12 道府県)、入院患者数は、増加が5県で、10%以上減少が17 道県(20%以上減少が10 県)と減少の一途をたどっている69。外来・入院受療率は、患者数が増えるはずの高齢化の進展にもかかわらず、共にほぼ人口の増減に一致している。
 2040 年時の市町村別人口変動に示されるように人口増加自治体はわずか112/1682 団体で、現在10 万人以下の市町村では、1082/1404 団体、64.3%が20%以上の減少となると想定されており( 人口1 万人以下では441/479 団体92.1%)70、人口の少ない自治体においては医療需要の減少は顕著であるので、医療提供体制の再構築は急務である。
 より具体的な医療提供体制再構築には、人口推移とDPC データを基にした2次医療圏別主要疾患患者数推移を参考にし、必要な診療科別医師数も検討すべきである。
 若年者の人口増加が明らかでどの圏域においても外来・入院共に需要が伸びる沖縄県を除くと、全国平均で示される変化がほとんどの都道府県の傾向に合致し、外来患者数は2020 ~ 25年にかけて、入院患者でも2030 ~ 35 年にピークアウトする圏域が圧倒的に多い。外来は既にピークを越え、入院もほぼピークに達した2次医療圏では、再構築は待ったなしであろう。救命救急体制は、救急搬送時間60 分程度71 の範囲で脳卒中/虚血性心疾患を中心に対応できる体制が理想であるが、日頃から地域住民全体のこれらの疾患発症リスク管理を徹底し、住民への十分な医療情報提供と可能な限り遠隔住民へのアクセスの確保を行うべきである。
 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の教訓から、一定圏域ごとに必要に応じて転換可能で患者搬入から検査、入院まで別導線の感染症専門病棟設置を行い、その際の救急対応施設、回復後の後方支援施設の指定と準備体制維持の財政支援を官民問わず行うべきである。

68 公益社団法人 全日本病院協会「病院のあり方に関する報告書 2015-2016 年版」(2016)医療提供体制は、疾患のそれぞれの発生頻度により整備目標が変化し、医療圏の設定によりそのあり方は大きく左右される。また、地域の事情(人口密度、交通システム等)や時代の変化により、医療圏における医療必要性は変化していくので、これらを念頭に構築する必要がある。

69 日本投資銀行・日本経済研究所「ヘルスケア業界ミニブック-患者構造の変化と医療費動向-」https://www.dbj.jp/upload/investigate/docs/5cf5b914e48319d5a96128e6d95631ce.pdf(2020.3)

70 総務省「自治体戦略2040 構想研究会」第1 回 資料(2017.12)

71 「カーラー救命曲線」=心停止3分、呼吸停止10 分、大量出血30 分で致死率50%「 ゴールデンアワー」=重症外傷後の手術等の根治治療開始まで1時間

コラム:提供体制再整備基準(集約化・連携)の提示と圏域別見直し

 下に示したのは、圏域内人口が5万人前後で現状では医師・看護師・薬剤師等の専門職数が全国最低位の2次医療圏に関して、「病院のあり方委員会」メンバーが想定した理想的モデルである。
 実際にこのモデルに相当する体制構築には時間を要するか不可能な圏域もあるはずなので、各医療圏において地域の全日病会員が、医療計画見直しの際に人口推移や医療提供資源を確認し、実態に沿う提言をすべきである。

前提

高齢化 30%
要介護 10-12%
要介護度3-5 40%
〇 人口5万人当たりに必要な体制を想定
〇 人口30 万人毎に3次医療可能な地域医療支援病院300-500 床が存在することを想定
必要ベッド数の概要 医療系500~700 床
介護系500 床
200-300 床レベルのセンター病院/中核病院―総合的複数診療科目 医師数50-70
看護師数150-230
100-200 床レベル(亜急性期型)一般病院、地域包括ケア病棟中心 医師数10-20
看護師数60-150
・軽症急性疾患に対応
・ 中核病院から転院 リハビリテーション・亜急性期対応
・ 在宅医療の後方支援を行う地域密着型病棟
200 床レベルの療養型病院 医師数10
看護師数50
100 床レベル老健又は特養(4)、グループホーム(5) 医師数 4
看護師数 12-44
1次医療を担う診療所(15) かかりつけ機能・健康管理
訪問看護ステーション(5) リハビリ職配備

 現在医療提供資源が乏しい圏域の場合は、理想的体制構築まで時限的に以下の特別措置を導入し、サービスを受ける国民間に格差が生まれない工夫が必要である。

  • 専門職数等人員基準の一定程度の緩和
    ― 病棟毎看護師配置から施設全体での基準(3段階)
    (100 床、2病棟当たり
     医師 3人  看護師 急性期10-20 人
            亜急性期―慢性期40-50 人
            介護療養30-50 人
            ケアスタッフ30-50 人)
  • ケアミックス施設(急性期~介護療養)認可と病態別特別診療報酬(患者毎に急性/亜急性・回復/慢性/介護療養の病期に区分して現在の包括払い×上記3区分別基礎係数相当を支払う)の導入
  • 専門診療科の診察が必要な症例等に関しては、適時都市部専門医のオンライン診療を認め、読影料も含めた診療報酬設定を行う
  • 特定看護師72 の積極的利用
    現在は、急性期医療現場で就業する者が多いが、医療資源の少ない圏域におけるオンライン診療などでの活躍も望まれる また、将来居宅・入所介護の現場で指導者としての役割付与も検討すべきである

72 2014 年6月「特定行為に係る看護師の研修制度」創設。特定行為研修終了後、医師から示された手順書に従い以下の条件のもとに急性期から訪問看護等まで幅広い業務(特定行為38 と特定行為区分21)が可能である。

3)在宅医療と居宅介護

 最も改めるべき施策は、「在宅医療・居宅介護の全国一律の推進」である。在宅医療・居宅介護成立の前提には、対象者がある程度の身体機能を有する独居者か、支援する家族の同居・存在が必須である。同居家族は、各圏域の産業構造維持のために必要な人材である可能性が高く、特に人口減少地域や産業衰退地域においては、介護者としての役割を期待することには慎重であるべきである。地方都市郡部等では、医療・介護提供に重点を置いたコンパクトシティー化による効率的ケア提供を図るか、在宅医療・居宅介護から施設での医療・介護に転換すべきである。最近の高齢者の診療実態をみると、都市部においては2040 年時に想定される疾病構造(嚥下性肺炎、虚血性心疾患、脳卒中、骨粗鬆症に伴う骨折等が中心)に近づき、一般病院での加療終了後在宅医療となることが多くなっていることから、病院が主体となり在宅医療まで担う「地域循環型」医療を推進することが望まれる。

4)医師の需給

 近年、医師は毎年約9400 名誕生しているが、2018 年4月医師需給分科会では2028 年頃医師総数が約35 万人となり需給のバランスが取れるため入学定数削減を打ち出し、現在もその推計73 のもとに議論がすすめられている。しかしながら、医師の需給均衡は現場の感覚とは乖離している。最近では新卒医師の約30-35%を女性が占めている。現在勤務環境が十分整備されていないことを考慮する必要はあるが、女性医師は、当直業務への関与が少ない、地方勤務者が少ない、選択診療科の偏重もあり、現状では医師不足解消への寄与度は低い。
 75 歳以上では現役は約50%と推計されているように医師自体の高齢化の影響も懸念されている。若手医師においても、週4日就業、週1回当直などを要求するなど、働き方そのものが変化してきていること、更には、働き方改革を厳密に履行するならば、2交代制3交代制の導入も必然となることなどから、臨床現場でのより詳細な実態を再調査すべきである。
 2040 年時予想される医療需要の減少を考えると医師総数では充足される可能性はあるが、診療科自由選択制が続く限り医師不足診療科の改善は望めず、診療科内専門分化も大きく影響しうることから、2040 年時医師配備の充足に関して再検討が必要である。
 先に示した人口や高齢化率推移からみた各圏域における医療需要調査に基づき、関連診療科・専門医数(老年科医・総合診療医も含める)の適正配備計画を作成しなければならない。この場合、多くの医師が慢性疾患管理を中心に外来診療を行うことが求められ、その意味で老年科医、総合診療医の大幅な養成が必要となる可能性が大きいことに留意すべきである。現在は、急性期医療現場で就業する者が多いが、医療資源の少ない圏域におけるオンライン診療などでの活躍も望まれる。また、将来居宅・入所介護の現場で指導者としての役割付与も検討すべきである。不足診療科医や不足地域就業医師/指導医への報酬補填などの必要なインセンティブを与え該当地域での勤務を誘導する必要がある。
 全日病は、「超高齢社会で認知症を含む複数疾患を持つ高齢者が増加している中で、多くの医療機関で専門性を有した医師が専門領域以外で活動する機会が増えている実態を鑑み総合医の育成が必要不可欠である。日本専門医機構「総合診療専門医」の育成には時間がかかる」との認識のもとに、2018 年から医師偏在対策の一環として総合医育成事業74 を開始した。本事業の成果に大きな期待がかけられている。
 地域枠医師の就業義務規定の厳格化が検討されているが、一定期間経過後も効果をあげない場合には、医育機関における診療科別医師養成義務制度の導入や、地域別保険医数の上限設定、専門医数配備計画に従うような一定の強制も必要である。現在、各地域へ配備されつつある地域枠医師の専門医取得のための研修施設が限られるため、指導医不在の施設に十分派遣が出来ていない実情がある。カリキュラムを見直し、オンライン研修を導入するなどの取り組みを行えば、指導医不在の小規模施設での勤務も可能となるので、地域枠医師養成計画の再考が必要である。義務年限終了後も医師不足地域に留まることができるよう、オンラインを利用した生涯研修制度や都市部専門医との連携などの医療レベル維持のための環境を整備し、子弟の教育への配慮や十分な有給休暇取得が可能となる補填医師確保の制度など、働きやすい環境づくりを考慮すべきである。時代によって医学生・医師の価値観が変化することを考え、地方勤務に関する定期的な意識調査のもとに、実践的かつ柔軟な対応を続ける必要があろう。
 全日病をはじめ医療提供者側は、今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)臨床現場における専門医不足の教訓並びに働き方改革推進により間違いなく招来するであろう医師不足問題を強く国に訴え、現在の医師養成計画の再考を迫るべきである。

73 「女性医師は出産や子育てがあることを勘案して仕事量を30-50 歳代男性医師の80%」、「60 歳以上医師の仕事量を80%」、「初期臨床研修医1年目は30%、2年目は50%」として推計。

74 総合医育成事業の研修概要
対象者:おおむね医師経験6年目以上で、研修を希望する会員施設の全ての診療科の医師。
研修期間:標準研修期間は2年間、個々の状況を考え3年を上限目安に柔軟に運用。
認定要件:
・ スクーリングについては概ね6割以上の参加を認定要件とする(医療運営2回必須、ノンテク10 回中6回以上、診療実践22 回中12 回以上、計全20 単位以上)。AHAACLS プロバイダーコース(日本内科学会内科救急・ICLS 講習会(JMECC)もこれに準じる)および厚労省の定めるプログラムに基づく緩和ケア研修会の参加はそれぞれ「診療実践コース」1単位参加とみなす。
・ 総合診療実践レポートの提出(終了時)。
・ 総合診療e ラーニング(4件以上)の視聴。
上記の要件を満たした場合にプログラム受講者が認定申請を行い、全日病の審査委員会が審査。

5)医療・介護従事者としての外国人の受け入れ

 専門職の支援、要介護者のケア等に関する人材不足は深刻であり、今後も確実に解消される見通しはない。
 2040 年時には技術革新により人材不足の一部を補うことは可能であろうが、完全に置き換えることは不可能と考えられる。2019 年10 月末時点で外国人労働者雇用事業所数/ 労働者数は約24.3 万か所(対前年12.1%増)、約166 万人(同13.6%増)で過去最高を更新し、サービス業の分野(41.4%)では外国人労働者の存在が必須となりつつある。しかし、長期間にわたる就労を目的としている専門職より、資格外活動や技能実習のような短期間の在留資格で働く割合が全体の43.4%と高く、現状の制度では労働力不足の解消に期待が持てない。
 全日病も技能実習(介護)制度の監理団体として指定され、外国人技能実習生の受入れ事業を積極的に行っており、その成果に期待するところが大きいが、技能資格試験の際の日本語以外の外国語での対応、差別のない給与体系、滞在実績や本人の希望により2重国籍を認めるなど、長期間就労が可能な制度へ改変しなければならない。
 現在、主に東南アジアからの人材受け入れがなされているが、当該国の高齢化進展から今後も安定した労働力の確保は困難と想定される中では、大胆な発想の転換が重要であり、移民(難民)の受け入れも医療・介護提供者間で協議したうえで、国民に問う必要がある。

6)懸案事項と対策

⑴人口減少:高齢・超高齢人口の増加、生産人口減少

 生産力低下、消費の落ち込み、社会保障制度の持続可能性低下、さらには地域社会の衰退・消滅の可能性まで大きな懸念が指摘されており、確実な労働力確保がその唯一の解決策である。
 いかに高齢者の就労や女性の社会進出の推進を図るかが問われている。高齢者雇用にはまず定年制を廃止すべきであり、女性の雇用では官民問わずすべての企業において欧米並みの管理職への登用を図るべく具体的な数値目標を設定し、国の政策として推進しなければならない。また、それぞれのライフスタイルにあわせた就労が可能なように非正規雇用やワークシェアなど多様な就労形態の選択肢を提示すべきである。
 出生率からみて人口減少と生産年齢人口の減少は確実なので、先にあげたように日本人と同等の待遇と長期滞在や国籍取得が可能な制度変更を行って、外国人労働者の招聘をすすめるべきであり、移民政策の導入に加え、難民の積極的受け入れも行うべきである。
 非対面・非接触を可能にするテレワークは、同じ情報・サービスを共有でき、拠点を構える場所を限定しないことで、高齢者や女性の就労促進に寄与し、広く優秀な人材を採用できる可能性が高い。各職場で業務のデジタル化に対応できるよう、国はICT 活用の支援策を積極的に進めるべきである。

⑵社会保障財源不足

 平均寿命の延伸に伴う年金給付費の増大も否めないが、社会保障費の増大は主に医療費・介護療養費の増大によるものと想定されている。「人口減少がもたらす社会保障への影響」75 によると、2025 年3.5 兆円、2040 年12.4 兆円の財源不足が考えられるため、社会保障給付費を抑制するか、更なる負担を求めることが必要となるとされている。考えうる主な財源は、消費税増税・総所得に対する税や財産税の導入などであるが、今後国民の多くの理解が得られるよう、社会保障給付費の使用目的、優先順位をつける検討もあわせ十分な議論が必要である。

75 「人口減少と経済成長に関する研究会」報告書、財務総合政策研究所、2020 年6月(土居 丈朗 慶応大学経済学部教授)

⑶混合診療

 混合診療(公的医療保険と自由診療の併用)については、金持ちだけが受けられる医療となり、社会の分断をもたらす懸念もあり、慎重な議論をすべきである。しかし、次々に開発され一部の患者にのみ使用される超高額医薬品の保険適用には限界もあるので、セーフティーネットとしての公的医療保険適用基準を設定した上で、民間保険を利用する形での導入は必要であろう。

7)医療・介護需要の変化に対応した官民協調体制の構築

 沖縄県、首都圏大都市を除き、医療需要は減少し、介護需要も大中都市部では増加するが小都市、町村では減少する。従って、日常生活圏を基本に見直した各圏域において需要に応じた医療・介護提供体制見直しは必然である。医療は都道府県が、介護は市町村が管轄するという現状における実践時の不整合や非効率性を改める必要性を章のはじめに記したが、その際積極的な医療圏・介護圏の統合と圏域内医療・介護提供者(病院・診療所・介護系施設)の連携システム構築も必要である。医療・介護需要、医療・介護従事者数の見通しを踏まえ、医療圏/自治体ごとの特異性の確認した上で、行政、医療・介護提供者、住民間での将来構想立案と実現へ向けて「地域包括ヘルスケアシステム」を構築すべきである。確実な集約化・連携の実現推進のためには、業種間の垣根を超えた株式会社も含めた統合が必要であり、資本の共用が可能な「地域医療・介護・福祉連携推進法人」設立が認められるべきである。株式会社の参入に関しては議論の多いところであるが、地域において一定の責任を担い、営利追求のみとならないような条項の設定があわせて検討される必要がある。
 地域特性を踏まえた官民協調体制構築が求められるので、設立母体にかかわらず提供内容に応じた補助金制度を導入することにより、長年の懸案だった官民のイコールフッティングの実現も果たされることが期待される。

8)コストを適切に反映していない診療報酬体系

 診療報酬体系は、①医療の質を高めることに寄与する、②医療を担うものの努力を正当に評価する、③医療の過剰・過小を排し、効率的な医療・介護の提供に寄与する、④疾病と状態像の特性を十分加味し、重症度、医療必要度、看護必要度を反映する、⑤診療に係る技術料、材料費、薬剤費等のランニングコストと、建物の初期投資、維持管理に要するキャピタルコストを各々反映する、⑥事務処理が比較的容易であるべき、と前回報告書で示したが、その後3回にわたる改定においても「コストの反映が乏しい」という問題は未解決である。改定の度に一貫性のない加算の新設と廃止が繰り返されており、事務処理について難解・複雑な体系で事務作業の煩雑さは、より増大している。また、「医療技術の相対評価」と「物価上昇」をそれぞれ評価する体系が理想であるが、前者は内科系・外科系それぞれに適時評価のシステムがあるものの、後者は現在未対応である。
 診療報酬体系は、提供体制のあり方の変革にあわせ適時必要な見直しを行うべきである。従って、先に述べたような「地域包括ヘルスケアシステム」へ一本化することを前提に、これにも沿う報酬体系を提言したい。
 欧米では、救急診療・専門医診療以外通常の外来診療を診療所が担い、入院が必要な場合病院を紹介というシステムが多く導入されている。日本では歴史的に診療所が規模を拡大する形で病院となった経緯や、近年通常の診療は「かかりつけ医」にて行い、病院外来は紹介制により専門科に移行しつつあることから、これを推し進める中で諸外国に近い機能分化が進むことが適当と考える。「かかりつけ医機能」76 の中には休日・夜間の患者対応や在宅医療も含まれるので、一診療所では対応困難であることから、地域の中小病院が中心となり診療所のグループ化・連携なども念頭にした体制作りが求められ、制度上も確定させるべきである。
 医療過疎の地域においては、オンラインによる都市部の大規模医療機関等からの診療応援体制の構築を同時に考えなければならないが、感染症対応に関して非接触診療の必要性も浮上してたので、全日病は、色々な想定のもとに役割や機能を明確にしたうえでオンライン診療の確実な早期の実践が可能なように行動すべきである。
 診療所医師が担当患者の入院治療を病院医師と共に担う「開放病床」の報酬を引き上げ積極的な利用促進を図るとともに、診療所専門医が手術のために契約病院を利用する仕組みの導入も必要である。
 先にも触れたように、健康管理は一定の地域に存在する診療所や中小病院を中心に国民皆健診制度として構築すべきであるが、順次統一化された保険者の義務として啓発に努めるべきである。
 これらの外来機能を踏まえ、必要な報酬体系は、外来においては、

  • 新患/救急
    出来高(DPC 対象施設入院の場合救急部分は出来高)
  • 再診
    包括払い(疾患別対応 複合病変評価)
  • 健康管理/健診並びに教育
    保険者からの人頭払い(脳/心臓疾患・がん:早期発見システム導入)

が考えられる。再診時の包括払いでは過去に導入され粗診粗療の批判を浴びた「外来総合診察料」の反省を踏まえ、疾患別(特に慢性疾患)、複合病変の有無にあわせた標準診療内容を規定すべきである。健康管理・健診・教育に対する成果報酬の導入も考慮すべきであるが、成果は住民患者の協力次第で変化しうることから、住民患者への健診ポイント制による還元等をあわせて検討すべきである。
 入院機能に関する診療報酬体系は、それぞれの各病期でほぼ包括払いで統一されている。
 急性期医療にはDPC/PDPS が採用されている。DPC そのものは診断群分類で4557 分類と諸外国のDRG に比し各段に多く臨床実態に即しており、また、日々の診療内容がデータとして提出されることから、この情報を利用して疾病管理に応用できる点は評価される。但し、支払いに関係ない診療内容の提出義務がないことから、完全に患者の病態が把握されているとは言い難く改善が必要である。
 支払い方法としてのDPC/PDPS の最大の問題は、病院機能の区分に従う基礎係数(特定機能病院Ⅰ群1.1327 Ⅱ群1.0708 Ⅲ群1.0404)の差異である。Ⅱ群、Ⅲ群は臨床実績の要件に差異があり診療報酬の差は理解できるが、Ⅰ群において評価されている教育研修費用は本来文科省から支払われるべき内容である。また、高度医療に関しては定型的治療がない分野であり症例数も少ないことから出来高払いとすべきものであり、Ⅰ群でのその他症例の診療内容がⅡ群施設と異なるものではないことから、Ⅱ群係数と同等とすべきである。
 支払い方式としてのもう一つの課題は、PDPS(1日定額払い)であることから損益分岐点が在院日数として明確となり、それ以上の在院日数短縮努力につながらない場合が多々ある点である。DRG/PPS についても在院日数と損益は密接な関係があるが、DRG の施設係数(Casemix Index)が難易度の高い患者をどの程度診ているかの指標になること、支払いが1入院当たりでDPC/PDPS より病院の在院日数短縮やその他のコスト削減努力が反映されるので、DRG/PPS の優れた点も考慮して修正すべきである。
 諸外国におけるDRG は支払制度の視点から導入されており、政府の医療提供の考え方や保険制度にそれぞれに特徴があるが、報酬そのものの不公平感の排除に配慮されているところなど学ぶべき点も多い77。現状のDPC に重症度難易度指標を入れ、これに見あう1入院当たり包括払いとし、年間総重症度係数から次年度加算する仕組みとすると臨床現場に沿ったより良い支払制度となるはずである。
 諸外国同様、質の評価が報酬上考慮されるべきである。質の評価に関しては臨床指標を基本に考えるのは当然であるが、治療成績のみを評価した場合、軽症症例に偏った入院となるというような弊害もありうるので、評価項目の決定、数値化は十分議論すべきである。質管理を行っている事を含め病院全体としてのパフォーマンスを評価すべきであろう。イギリス、米国等で実践されているP4P(Pay for Performance、質に基づく支払い)については、有効であるとする報告はあるものの、総体としてみればP4P が医療の質を向上させるという十分なエビデンスは得られていない78。今後の推移を見守り日本でも導入の可能性を検討すべきである。
 かねてから、現在の診療報酬は原価に基づくものではないという批判があり、DPC/PDPS導入後も原価計算に関する研究はあるが、制度導入と運用にかかるコストが大きな課題となって停滞してきた。しかし、海外での研究の進展やICT の急速な普及から、実践的ノウハウの蓄積や段階的運用にて実現化の道筋が見えていたとする報告もあり79、今後の進展に期待する。
 昨今の入院患者の年齢層は高齢化し続けており、認知症や身体機能低下による要介護状態の患者が入院した場合の負担は大きい。介護に関する診療報酬上の評価がほとんどないのは大きな問題であり、介護保険の同時適用か相当の加算措置がなされなくてはならない。
 「地域包括ヘルスケアシステム」では、当該患者の退院時残存機能評価に基づき、亜急性期・回復期・慢性期での獲得目標とその後のケアまでの長期支援体制を本人・家族に提示することを規定し、これについても報酬を設定すべきである。
 入院に係る診療報酬体系に関する提言は、原則は前回報告書の内容と同様であり80、日額定額の修正や要介護患者の評価などその後の変化への対応を加味したものである。

各病期すべて包括払いを原則

  • 高度急性期・急性期
    DPC に基づく1入院当たり定額
  • 亜急性期/回復期
    状態別包括PDPS(1日定額払い)
  • リハビリ
    客観的FIM 評価を加味した包括PDPS+具体的な長期支援計画に対する定額報酬
  • 慢性期
    状態別包括PDPS

 上記に加えて
 *要介護度にあわせた加算
 *質評価に基づく加算
 * 新規入院時並びに老人保健施設入所中の既存疾患用薬剤は、かかりつけ医から持ち込みか、出来高とする

 今後、過疎地における医療・介護提供の持続可能性には大きな課題がある。当該地域においては医療・介護施設の経営は成立しなくなることが危惧される。その場合、診療・介護報酬以外の補填で事業が成立するよう予算制導入も考えなければならない。当該医療・介護圏の自治体からの拠出による運営支援が必要である。人口1万人以下で2040 年時30%以上減少するような圏域では、各自治体が周辺自治体と共同で、健診・医療・介護・福祉まで包括的に対応する仕組みを今から策定しておくべきであり、国からの何らかの財源で賄える方策を議論すべきである。
 現在、保険診療は消費税非課税となっているため、医療機関が物品購入等の際の消費税は患者・保険者負担に転嫁できず、最終的に医療機関の負担となり(控除対象外消費税)、いわゆる損税となっている。消費税引き上げ時に診療報酬改定により補填されてきたが、各医療機関でコストの構造、報酬の算定内容が異なり平等とはいいがたく過不足が生じてきた。「原則課税」として抜本的解決を図るべきであり、全日病は他病院団体と共に強く国に働き掛けるべきである。

76 かかりつけ医機能:日常診療において患者の生活背景を把握し、適切な診療及び保険指導を行い、専門性を超える場合、診療時間外、休日夜間も地域の医師医療機関等と協力して解決する。健診等の地域の保健等の社会的活動、行政の活動にも協力し、在宅診療も行う。医療に関するわかりやすい情報提供を行う。「医療提供体制のあり方」、2013年8月、日医・四病協共同提言

77 ドイツ:病院予算制、精神科病院以外すべて、看護介護士人件費除外、診療費用調査により決定、1319 分類(2019年)
フランス:民間営利・医師人件費出来高別建て、ICU/救急/放射線は加算、「高額材料/医療」はポジティブリストで出来高、大学病院の先進医療・研究機能は公共事業として補助金特別枠あり(実際には公的病院の赤字補填との批判あり)、2291 分類(2019 年)
米国 MS(メディケア)-DRG:医療の質・患者満足・安全/ 効率性等評価で±2%、救急入院時は出来高、入院医療の外来シフトやポストアキュートまで整合性のある制度構築、大幅にコストかかった症例= アウトライヤー加算あり、760 分類(2020 年)

78 田辺智子:医療の質と「実績に基づく支払(P4P)」―諸外国の事例を中心に―.レファレンス、国立国会図書館調査及び立法考査局、2019 https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_11275351_po_081905.pdf?contentNo=1&alternativeNo=

79 坂口博政、荒井耕:診療報酬制度における原価計算の位置づけ.Discussion Paper Series No 049、 29 Oct、2019、Kanazawa University Faculty of Economics and Management

80 病棟種別と望ましい診療報酬支払い方式「病院のあり方に関する報告書」2015-16 年版

9)災害時を想定した事業継続計画

 東日本大震災以降も相当規模の地震や地球温暖化が関係するとされる大規模な風水害が発生し、医療・介護施設への影響が報道されてきたが、今回の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)世界的大流行では医療崩壊寸前の事態ともなり、各医療・介護提供機関をはじめ行政・医師会における危機管理とBCP(Business Continuity Plan、事業継続計画)の現状に大きな課題があることが浮き彫りとなった。
 大震災被災の経験や新型インフルエンザ等対策特別措置法施行から、医療界でBCP の理解が深まってきていたが、病院のBCP 作成率は25%に過ぎない。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)世界的大流行では、急性期から回復後の後方施設不足などが大きな問題となったように、個々の病院を超えて地域としてのBCPの不備が明らかとなった。大災害であればあるほど、1病院単独のBCP では実際に意味をなさないことが多い。BCP の有効な実践のためには日頃からの十分な信頼関係を基本とした密な医療連携体制構築が必要であり、近隣医療機関ならびに行政、医師会とも共同で作成した実効性のあるBCP が重要となる。