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ホーム全日病ニュース第807回/2013年8月15日号社会保障制度改革国民会議報告書

「病院完結型」から「地域完結型」医療への変化・対応を訴える

「病院完結型」から「地域完結型」医療への変化・対応を訴える

【社会保障制度改革国民会議報告書】
医療のあり方の変化を提起。国民には応能負担を求める

 

社会保障制度改革国民会議報告書「Ⅱ.医療・介護分野の改革」から(要旨)

1. 改革が求められる背景と国民会議の使命

(1)改革が求められる背景急速な高齢化は、疾病構造の変化を通じて、必要とされる医療の内容に変化をもたらしてきた。平均寿命60歳代の社会で、主に青壮年期の患者を対象とした医療は、救命・延命、治癒、社会復帰を前提とした「病院完結型」医療であった。老齢期の患者が中心となる時代の医療は、病気と共存しながらQOLの維持・向上を目指す、住み慣れた地域や自宅での生活のための医療、地域全体で支える「地域完結型」医療に変わらざるを得ない。
(2)医療問題の日本的特徴日本の医療政策の難しさは、西欧や北欧の国立や自治体立の病院等(公的所有)が中心とは異なり、医師が医療法人を設立し、病院等を民間資本で経営する形(私的所有)で整備されてきた歴史的経緯から生まれている。公的セクターが相手であれば政府が強制力をもって改革できるが、日本は公立の施設が少ないために、そうしたことができなかった。
 日本の医療費の対GDP比はOECD諸国の中では中位にあり、決して高い水準ではない。こうした中、日本の医療機関は相当の経営努力を重ね、国民皆保険制度、フリーアクセスなどと相まって、世界に高く評価されるコストパフォーマンスを達成してきた。
 だが、今後、必要なサービスを将来にわたって確実に確保していくためには、医療・介護資源の効率的利用を図り、国民負担を適正な範囲に抑えていく努力も継続していかなければならない。皆保険制度を守り通すためには医療そのものが変わらなければならない。
(3)改革の方向性
①基本的な考え方日本のように民間が主体となって医療・介護サービスを担っている国では、提供体制の改革は、提供者と政策当局との信頼関係こそが基礎になるべきである。
 政策当局は病床区分を始めとする医療機関の体系を法的に定め直し、各区分の中で相応の努力をすれば円滑な運営ができる見通しを明らかにすることが必要。さらに、「地域完結型」の医療に見合った診療報酬・介護報酬に向け体系的に見直すことなどに、速やかに、そして真摯に取り組むべき時機が既にきていることを認識するべきである。
 フリーアクセスは、これまでの「いつでも、好きなところで」から「必要な時に必要な医療にアクセスできる」としていく必要があり、この意味でのフリーアクセスを守るためには、緩やかなゲートキーパー機能を備えた「かかりつけ医」の普及が必須である。
②機能分化とネットワークの構築急性期医療を中心に人的・物的資源を集中投入し、入院期間を減らして早期の家庭復帰・社会復帰を実現するとともに、受け皿となる地域の病床や在宅医療・在宅介護を充実させていく。この時、分化した機能にふさわしい設備人員を確保することが大切で、病院のみならず地域の診療所もネットワークに組み込み、医療資源として有効活用していくことが必要。
 その際、適切な場で適切な医療を提供できる人材が確保できるよう、職能団体には、中心となって、計画的に養成・研修することを考えていく責務がある。
 「地域完結型」へ転換すると、患者は、医療施設、介護施設、在宅へと移動を求められるため、提供側が移動先への紹介を準備するシステムの確立が求められる。ゆえに、川上に位置する病床の機能分化は退院患者の受入れ体制の整備という川下の政策と同時に行われるべきものであり、新しい医療・介護制度の下で川上から川下までのネットワーク化は必要不可欠となる。加えて、国民会議の議論から資源の地域差が浮かび上がり、医療・介護の在り方を地域ごとに考えていく「ご当地医療」の必要性が改めて確認された。
③健康の維持増進等 国民の健康の維持増進、疾病予防及び早期発見等を積極的に促進する必要もある。医療提供者に医療情報の電子化・利活用のインセンティブを持たせるとともに、レセプト等データを分析して疾病予防の促進等を図るべく医療保険者にインセンティブが働く仕組みを構築。併せて加入者の自発的健康づくりへのサポートの在り方等も検討すべきである。

2. 医療・介護サービスの提供体制改革

(1)病床機能報告制度の導入と地域医療ビジョンの策定医療提供体制改革の第1弾として医療機能情報報告制度を早急に導入、都道府県が医療機能ごとの医療必要量を示す地域医療ビジョンを策定することが求められる。ビジョンの実現は中期的な医療計画と病床の区分を始めとする実効的な手法で裏付けられなければならない。その際、医師・診療科の偏在是正や高額医療機器の適正配置も視野に入れる必要がある。ビジョンは次期医療計画の2018年度を待たずに策定・実行に移すことが望ましい。
(2)都道府県の役割強化と国保保険者の都道府県移行地域の実情に応じた医療提供体制を再構築する上で、マンパワー確保を含む都道府県の権限・役割の拡大が検討されるべきである。都道府県を国保の保険者とし、地域医療の提供水準と住民負担の在り方を総合的に検討する体制を実現すべきであり、都道府県と市町村が役割分担する仕組みを目指すべき。
 次期医療計画の策定を待たずに行う医療提供体制改革の一環であることを踏まえれば、移行は次期医療計画の策定前に実現すべきである。
(3)医療法人制度・社会福祉法人制度の見直し地域における医療・介護のネットワーク化を図るためには、医療法人等が容易に再編・統合できるよう制度を見直すことが重要。このため、医療法人と社会福祉法人は、非営利性や公共性の堅持を前提としつつ、例えばホールディングカンパニーの枠組みのような合併や権利の移転等を速やかに行うことができるための制度改正を検討する必要がある。
 あわせて、都市再開発に参加できる制度や、ヘルスケアをベースとしたコンパクトシティづくりに要する資金調達を促す制度など、規制の総合的見直しが必要である。
(4)医療と介護の連携と地域包括ケアシステムというネットワークの構築高度急性期から在宅介護までの一連の流れにおいて、川上の機能分化は、退院患者の受入れ体制整備という川下の政策と同時になされるべきであり、また、川下に位置する在宅ケアの普及は、短期的入院の確保という川上の政策と同時に行われるべきである。地域ごとの医療・介護・予防・生活支援・住まいの包括的ネットワークも求められている。
 この地域包括ケアシステムの構築に向けて、まずは、15年度からの第6期以降の介護保険事業計画を「地域包括ケア計画」と位置づけるべきである。これと併せて、要支援者に対する介護予防給付は新たな地域包括推進事業(仮称)に移行させていくべきである。
 なお、地域医療ビジョンと同様に、地域の介護需要のピーク時を視野に入れながら25年度までの中長期的目標の設定を市町村に求める必要がある。また、地域医療ビジョンや医療計画は市町村が策定する地域包括ケア計画を踏まえた内容にするなど、医療提供体制の改革と介護サービスの提供体制の改革が一体的・整合的に進むようにすべきである。
 将来的には、介護保険事業計画と医療計画とが、市町村と都道府県が共同して策定する一体的な「地域医療・包括ケア計画」とも言えるほどに連携密度を高めていくべきである。
(5)医療・介護サービスの提供体制改革の推進のための財政支援医療・介護サービスの提供体制改革の推進のために必要な財源には消費税増収分の活用が検討されるべきである。全国一律の診療報酬・介護報酬とは別手法の財政支援が不可欠である。病院の機能転換や病床の統廃合など計画から実行まで一定の期間が必要なものも含まれるため、基金方式も検討に値しよう。この財政支援は医療従事者の確保や介護サービスの充実なども対象にする必要がある。
 消費税増収分の活用の前提として、地域医療ビジョン、地域包括ケア計画等の策定を通じ、地域の医療や介護への還元のありようが地域住民に示されることが大切である。
(6)医療の在り方医療の在り方そのものも変化を求められている。
 「総合診療医」は地域医療の核となり得る存在である。
 身近な医師に日頃から相談・受診しやすい体制の構築、医療職種の職務の見直し、チーム医療の確立、医療機関の勤務環境を改善する支援体制の構築、医療従事者の定着・離職防止を図ることが必要である。看護大学の定員拡大及び大卒社会人経験者等を対象とした新たな養成制度の創設、看護師資格保持者の登録義務化等を推進していく必要がある。医師の業務と看護業務の見直しは早急に行うべきである。
 「地域全体で、治し・支える医療」の射程には、死すべき運命にある人間の尊厳ある死を視野に入れた「QOD(クォリティ・オブ・デス)を高める医療」も入る。
 人生の最終段階における医療の在り方について国民的合意を形成していくことが重要である。
 また、例えば関係学会等が、医療行為による予後の改善や費用対効果を検証すべく継続的なデータ収集を行うことが必要。これらの成果に基づき、保険で承認された医療も費用対効果などの観点から常に再評価される仕組みを構築することも検討すべきである。こうした取組はデータに基づく医療システム制御の可能性を切り開くものであり、日本の医療の一番の問題であった制御機構がない医療提供体制の克服に必ずや資するものがある。
(7)改革の推進体制の整備都道府県ごとの「地域医療ビジョン」等の策定、これらを踏まえた医療機能の分化、医療・介護提供者間のネットワーク化等の医療・介護の一体改革、さらには国保保険者の都道府県への移行は、いずれも国民皆保険発足以来の大事業になる。市町村ごとに中学校校区単位の地域包括ケアシステムを構築することも介護保険創設に匹敵する難作業となろう。
 政府の下に医療・介護の提供体制改革を推進する体制を設け、厚労省、都道府県、市町村における改革と連動させなければならない。その際、まず取り組むべきは、各2次医療圏における将来の性別、年齢階級別の人口構成や有病率等のデータを基に各地域における医療ニーズを予測し、各地域の医療提供体制がそれに合致しているかを検証した上で、地域事情に応じた先行きの医療・介護サービス提供体制のモデル像を描いていくことである。データ解析により現今の2次医療圏の見直しも可能となる。

 

「3. 医療保険制度改革」の骨子

●負担能力に応じた応分負担を通じて保険料負担の格差是正に取り組む・国保の賦課限度額は引き上げるべき。被用者保険の標準報酬月額上限引上げも検討する。
・被用者保険による後期高齢者支援金負担は15年度からすべて総報酬割で按分するべき。
●「保険給付の対象となる療養の範囲の適正化等」を図る・「緩やかなゲートキーパー機能」の導入が必要。大病院の外来は紹介中心とし、一般外来は「かかりつけ医」に相談するシステムの普及、定着が必須。そのため、一定規模病院の紹介状のない外来患者に定額自己負担を求める仕組みを検討すべきである。
・入院療養における給食給付等の自己負担の在り方の見直しを検討すべき。
●自己負担について「年齢別」から「負担能力別」へ負担の原則を転換する・70~74歳の自己負担特例措置を止め、70歳になった者から2割負担とすることが適当。
・高額療養費の所得区分を細分化し、応能負担となるよう限度額を見直すことが必要。

 

「4. 介護保険制度改革」の骨子

・予防給付のほか利用者負担等の見直しが必要。一定所得利用者の負担は引き上げるべき。
・特養は中重度者に、デイサービスは重度化予防効果のある給付へ重点化する必要がある。