全日病ニュース

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「不足している機能を充足する」ことが地域医療構想の目的

「不足している機能を充足する」ことが地域医療構想の目的

回復期、「在宅等」、診療科の配置、認知症、人材の需給等の課題が明確に

「地域医療構想について」(要旨) 厚生労働省医政局地域医療計画課長 北波 孝
*全日病支部長・副支部長会議(6月20日)における講演から

 6月15日に内閣官房の調査会が推計した2025年の必要病床数が公表されたが、これは、ガイドラインの推計方式にもとづいてデータから機械的に推計したものであり、私は単なる参考値であると受け止めている。
 2011年に「社会保障と税の一体改革」で2025年の病床数を算出したときは、平均在院日数が2割減る仮定した結果、160万床が130万床になると推計された。
 当然ながら、病床稼働率の設定しだいで病床数はいかようにも調整できる。
 今回は急性期を78%に設定したが、一体改革の推計のように70%で設定すれば病床数は多く出る。
 地域医療構想をつくるに当たって、都道府県は、患者の出入りとか医療機能の過不足を踏まえ、地域で医療をどう組み立てていくかを考える中から10年後の姿を描き、そこで必要な病床数を求めていく。それと、今回の推計値が異なるのは当然あり得ることである。
 各都道府県には6月10日にデータセットと推計ツールを渡した。したがって、すでに都道府県は単純な計算ができる。今後、各都道府県は計算値を見ながら医療関係者とも議論していくことになるだろう。
 したがって、皆さんの地域でも、県が地域医療構想の調整会議の編成を進める、あるいは、まずは2次医療圏ごとの必要病床数を推計した上で、患者の出入りも含め、構想区域をどう設定するかを考えるプロセスに入るだろう。
 ぜひとも、それぞれの病院で診療している患者像を踏まえて、意見交換をしていただければと思う。
 今回の推計も、大切なことは、病床数だけでなく、疾病別の需要など、医療提供の内容がどう変わるかというところをよくみることにある。地域医療構想は「不足している機能を充足する」ことが一番大きな趣旨である。この「不足している機能を充足する」という意味をどう考えるか。これが非常に重要である。
 「充足する」というと新規に整備するという発想が思い浮かぶが、構想をつくるにあたって、「10年後のピーク」を踏まえて提供体制を整えるという考え方は正しいのかという問題がある。それは、2025年以降、多くの地域で高齢者の数が減少をたどるからだ。そこで、ガイドラインには、2025年だけでなく、2040年の人口予測のデータを付した。
 「不足している機能を充足する」方法は、具体的には地域医療構想の調整会議で話し合っていただくわけだが、その際、各医療機関の施設の耐用年数とか建て替え計画というものが大きな意味をもってくる。
 地域医療構想には時間軸と空間軸という視点がある。それは、構想で示される10年後の需要を単に認識・共有するだけでなく、それに向けて、地域と各医療機関がどういう段取りを組んでいくかという課題があるからだ。
 すなわち、10年という時間軸で、それぞれの医療機関がどのような形で建て替えをしたり、経営路線を変更していくかというかたちで「あるべき姿」に合わせていく、これが地域という空間で集合され、2025年の需要に対応していくわけである。
 医療機能の過不足を見越していち早く転換した医療機関が有利になると、あたかも陣取り合戦を思わせる「先陣争い」を懸念する向きもあるようだが、地域医療構想というのは、地域全体としてどういう医療需要があって、それに対してすべての医療資源がどういう形で医療を提供していくといいかを追求していくものであり、先に変化した方が有利という陣地取りのような話でない、と私は思う。
 各医療機関として法人経営の最適化を追求するという面は当然あることだろうが、今回、新たな視点として求められているのは、地域全体すなわち住民からみて、医療提供が最適化されているのかということである。これは非常に難しいかじ取りになるかと思うが、この2 つを両立させていくことが重要ではないか。

回復期の患者像は幅広い。定義を精緻化する必要がある

 では、2025年の推計値をどう捉えるべきか。今回示されたものは、病床の機能というよりも患者像と捉えていただいた方がよい。つまり、高度急性期や急性期などの病期に該当する患者がどのぐらい発生するかという見込みを病床数に換算したものであり、したがって、これがニーズだと考えていただければよい。
 同じ医療機能区分にもとづくものに病床機能報告があるが、これは定義を踏まえつつも、自院はこういう機能をもっていると各医療機関が地域で表示している機能ではないか。
 しかし、需要としてみると、それとはズレが出てくる。病棟にはいろいろな病期の患者がおり、病床報告ではそれをみて1つの機能を選択している。
 しかし、医療需要の推計は、各病期の患者発生量を、病棟単位ではなく地域横断的にみているわけであるから、両者は概念的に違う。
 ところで、この推計値をみると回復期が非常に増えている。この回復期には「状態が安定して退院するまでの間の患者」が含まれており、決してリハビリだけではないのだが、病床機能報告の報告をみると、回復期の機能を限定的に捉えている方が多いように思う。
 リハビリを受けている患者は当然ここに入るが、この病期の患者像は皆さんが思っているよりも広いと考えている。この点では、病床機能報告で用いた回復期の定義に限定的と思わせる面があり、これから、その辺りを精緻化していこうと考えている。
 例えば、高度急性期の病棟にも広い範囲の患者像がある。当然ながら、高度急性期の病床に高度急性期の患者だけが入るわけではないということが前提としてあるわけで、この判断のブレをどう考えるかということもこれから検討していきたいと考えている。
 あるいは、病床機能報告の報告事項等は2013年のデータに基づいているため、地域包括ケア病棟などの新たな類型をどこに分類するか、まだ未整理の部分がある。2015年度の報告には間に合わないが、これも、報告のときに迷わないよう議論をしていきたい。

知事に稼働している病床を閉鎖させる権限はない

 「不足している機能を充足する」上で、高齢化に伴って増加する回復期ニーズへの対応をどう図るかという問題だけでなく、周産期とか小児医療を考えたときに、診療科の配置のバランスをどう図るかというのが非常に大きな問題になる。10年後には人口も減り、医療人材の確保が難しい地域が出てくる。
 そういうときに当然ながら集約をしていく、まさに分化と連携が必要になってくるわけで、これは非常に大きな論点になることだろう。
 また、今後は2025年の需要を推計できるので、医師数、看護師、それから回復期にかかわるOTやPTがどのぐらい必要になるかというのも、洗い直しをしたいと考えている。
 さらに、推計結果をみると、在宅等については今よりも大きく充実させないと増えていく医療ニーズに対応できないという地域もある。この整備ができなければ、今の病床で受けざるを得ないことになる。
 この受け皿については多様なサービスの選択肢を考えていく必要があり、少し柔軟に考えなければならないと思っている。
 ガイドラインは認知症への対応にも触れている。認知症の方はどこで医療を受けるのが一番適当であるのかは、あまり前提をおかずに議論をする必要があるかと考える。
 総務省は3月に新公立病院改革ガイドラインを策定した。地域医療構想と整合的に公立病院改革を進めるという趣旨であり、公的病院も地域医療構想の議論に積極的にかかわっていくことになる。厚生労働省としても、公的病院等に、地域医療構想調整会議に積極的に協力してほしいと申し入れをしている。
 さて、都道府県知事が講ずることができる措置であるが、知事には稼働している病床を閉鎖させる権限はない。
 医療を提供しているところは必要な病床であるので、そこを強制的に削減するということはないと申し上げたい。
 地域医療構想の基本的なコンセプトは、医療需要が変化するに当たって不足している機能をいかに充足させるかということである。当然ながら、総需要は限定されるので、結果として既存病床の機能が別に転換をするという話になるとは思うが、だからといって、機能を動かさないところに行政が手を加えるということはない。
 稼働しない病床の削減の要請というのがあるが、これは、1つの病棟で何床かが空いているのを目ざとく見つけて召し上げるという話ではなくて、病棟全体が動いていない場合に、不足している機能を充足する方に使うといった対応をしていくという話である。
 いずれにしても、地域医療構想は10年程の中長期的な計画であるので、ただちに何かをするというわけではない。むしろ、今回の推計から需要がどう変化していくかをよくみていただきたい。全体の病床数だけでなく、主要な疾患ごとのデータもあるので、そういう中身の変化というのもよくみていただく必要があるのではないか。
 したがって、需要推計に引きずられるのではなく、それはそれできちんと認識をしていただく必要があるが、肝心なことは、各医療機関が、想定される患者像と実際の患者像との差が本当にないのかどうかをみて、今後どういう機能を果たし、どういう特色を地域で果たしていくのかというビジョンを積極的に出していただくことである。
 ところで、保険局の事業で、病床転換助成事業というのがある。療養病床と一般病床のうちの療養病床と同一の病院内にある病床に医療から介護への転換の支援をするいうものだ。
 地域医療介護総合確保基金(医療分)は基本的に介護に移る案件は対象にしていないので、医療から介護への転換で考えるときに、この助成金というのも活用の範囲に入れていただきたい。

推計値における「在宅等」の受皿は柔軟に検討したい

[質問と回答から]
◯知事が講じることができる措置は医療審議会の意見を聞いて行なわれるとされているが、現在の医療審議会に席を占める医療機関は公的がほとんどだ。民間医療機関の割合が増えるよう国から指導していただけないか。
北波 都道府県の医療審議会については、調整会議も含めて、国として、こういう構成にしろとは言えない。しかし、医療審議会における地域医療構想関係の審議は、基本的には、意見聴取も含めてオープンとすることが求められるので、ある程度歯どめはきくのではないか。調整会議の方はガイドラインで地域の医療関係者がきちんと参加できる体制をとるとされており、協議テーマに関係した院長や理事長は参加できるはずだ。不具合がいろいろあるというのであれば、個別に教えていただければ、私どもも県と相談したい。
◯回復期は、あくまでもリハビリというところを中心にお考えなのか、地域包括をさらに発展させた形とか、あるいは違った名称を今後考えていくのか、お聞かせ願いたい。
北波 回復期機能の患者の状態像をみると、退院調整を含めて大分広い概念になっているので、現在の定義では狭く捉えられがちである。実際の患者像をみると、その位置づけをよく考えないとならないと思っている。具体的には、地域包括ケア病棟をどこに位置づけるかという点がある。病床機能報告ではほとんど急性期で出してきているので、適切な表示方法を考えたいと思っている。検討会議を再開し、この点を含めて検討していく。
◯内閣官房の調査会の推計は無視してもよいか。
北波 この推計はガイドラインの方法に則って行なわれており、あくまでも単純に計算すると、こうなるということである。私は、全体のトレンドをみると、こういう形は当然あるかと思う。これを認識していただいた上で、地域の具体的な需要を踏まえ、提供体制について議論していただく必要がある。ただし、地域で算定される数字はこれとは違うものになる。そういう意味からもこれは参考にするべき値である。
◯私がいる人口5万の地方都市で、年間20人ほどの孤独死がある。在宅に戻そうにも、一人暮らしなどはケアが行き届かない。多大なリソースが要る在宅は非常に難しいと思うが。
北波 推計では「在宅等」といっているが、そういった帰れない人たちをどうするのか、今の介護サービスやサ高住などで受け切れるのか、検討していく。慢性期の病床以外の方をどこの場で、どういうところでやるか、これは前提なしに考えていきたい。