全日病ニュース

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ホーム全日病ニュース(2020年)第962回/2020年5月1日号医療事故調査等支援団体として制度の普及・定着に取り組む病院における医療事故調査を支援

医療事故調査等支援団体として制度の普及・定着に取り組む病院における医療事故調査を支援

医療事故調査等支援団体として制度の普及・定着に取り組む病院における医療事故調査を支援

【第6回 医療事故調査等支援担当委員会】シリーズ●全日病の委員会

 全日病の委員会を紹介するシリーズの第6回は、医療事故調査等支援担当委員会の細川吉博委員長にご登場いただきました。医療事故調査制度が2015年10月からスタートして間もなく5年。全日病は、医療事故調査等支援団体の一つとして、医療機関における医療事故調査を支援する活動を行っています。委員会の取組み状況について、細川委員長に聞きました。

医療事故調査制度の運営をフォロー
――まず、医療事故調査等支援担当委員会の役割について教えていただけますか。
 医療事故は、患者さんにとって、また患者さんのご家族にとってたいへん残念な出来事であり、我々、医療従事者にとっては避けなければならないことです。
 また、最善を尽くしたにもかかわらず、不幸な事故によって医療者が罪に問われたり、不当に逮捕される事態はなくさなければなりません。
 医療事故調査制度は、医療事故をめぐる長い議論を経て2015年から始まりましたが、この制度が普及・定着し、医療に対する信頼と安心の確保につながるように我々医療従事者も努力しなければなりません。医療事故調査等支援担当委員会として、医療機関の院内調査を支援し、制度運営をしっかりフォローする必要があると考えています。――医療事故調査制度によって、医療事故が発生した場合に、医療機関は院内事故調査の実施が義務づけられていますね。
 医療事故が発生した場合、まず遺族に説明を行うとともに、医療事故調査・支援センター(日本医療安全調査機構)に報告した上で、速やかに院内事故調査を実施することが求められます。また、医療事故調査を行うに当たっては、原則として外部の専門家の支援を受けながら調査を行うとされています。
 全日病は、医療事故調査等支援団体の一つとして医療機関の医療事故調査を支援する役割を担い、この活動を進めるために当委員会が設置されました。当委員会の支援内容は、表1の通りですが、会員病院に限らず、広く門戸を開いています。また、遺族からの質問や相談にもできる限り対応することとしています。
 医療事故調査等支援団体には、全部で29の団体・事業者がありますが、病院が相談できる窓口として全日病が支援団体の役割をはたすことは大切なことだと思います。病院の力になり、頼られる存在になるように取り組まなければなりません。
 私は、昨年度に常任理事に就任したのを機に当委員会の担当になりましたが、先輩方が取り組んでこられた事故調査と医療安全の蓄積の厚みを感じています。前委員長の飯田修平先生や副委員長の永井庸次先生、東邦大学医学部の長谷川友紀先生、弁護士の宮澤潤先生をはじめ、多くの専門家の先生方にこの委員会の活動をいろいろな意味で支えていただいていて、これは全日病の強みだと思います。
 医療事故は起こらないことが一番いいのですが、医療という行為の性質上、アクシデントは避けられません。万が一、事故が起こった場合には、調査を行って原因を究明するとともに、自院のスタッフを守る必要があります。そのためには制度についての理解を深めるとともに、積極的に全日病の支援を活用し相談していただくことが大切と思います。全日病の支援について、会員病院に知っていただくことも当委員会の役割であると思っています。

相談窓口を積極的に活用してほしい
――委員会の具体的な活動についてお聞きします。医療事故調査等支援の相談窓口を開設していますが、活動状況を教えてください。
 全日病のホームページに相談窓口(表2)を設け、医療事故調査の支援に対する依頼や相談を受け付けているほか、院内調査に関する専門家の派遣を行っています。2018年度には、3件の相談があり、これに応えて3件の専門家の派遣を行いました。2019年度は、5件の相談があり、同様に5件について専門家を派遣しています。
 初めて当委員会に相談される時は、敷居が高いと感じられるかもしれませんが、病院の状況に応じて上手に窓口を利用している病院もあります。患者さんの遺族との話し合いがこじれて、困っている病院は少なくないと思いますので、積極的に活用していただければと思います。

研修会を通じて院内事故調査の方法を習得
――もう一つの活動の柱は、研修会の開催ですね。
 2019年度は、3つの研修会を開催しました。
 「医療事故調査制度への医療機関の対応の現状と課題研修会」は、病院が院内事故調査を円滑に実施するための考え方と方法を習得することを目的とし、座学で半日の研修となっています。
 医療の安全確保は、医療機関および医療従事者に課せられた責務ですが、重大な医療事故を経験することは稀ですし、また、医療事故が発生する状況は様々であり、その対応は必ずしも標準化されていません。このため、事故発生後の対応は困難となるのが通常です。
 全日病では、2011・2012年度に「医療事故発生後の院内調査の在り方と方法に関する研究」を実施し、その結果を『院内医療事故調査の指針』としてまとめています。また、2014年には、「診療行為に関連した死亡の調査の手法に関する研究」(代表研究者 西澤寛俊)を行い、院内事故調査のガイドラインに関する研究を行いました。2017年には、院内医療事故調査の具体的な方法がわからないという声に応えて、『院内医療事故調査の考え方と進め方』を出版しています。
 このように全日病では、医療事故調査制度が発足する以前から調査研究を重ね、相当の蓄積を持っています。それを活かして事故対応の手法を広く会員病院に学んでいただくための研修会を実施しています。
 また、「院内事故調査の指針 事故発生時の適切な対応研修会」は、『院内医療事故調査の指針』を教材に、院内医療事故調査を円滑に実施するための考え方と方法を習得することを目的としています。2日間の日程で、グループワーク形式で事例をもとに事故報告書の作成までの手順を学びます。講師は、西澤班(「診療行為に関連した死亡の調査の手法に関する研究」)の協力者である宮澤弁護士や飯田先生、永井先生、長谷川先生にお願いしています。

医療事故調査制度を運営面から改善
 もう一つの研修会が、「医療事故調査制度事例検討研修会」です。この研修会は、医療事故調査等支援団体として、運営面から制度の改善に寄与したいというねらいがあります。
 医療事故調査制度に対して遺族や報道関係者から指摘されていることとして、報告事例が少ない、あるいは報告すべき事例が報告されていないという点があります。その要因としては、報告事例の判断の誤りがあると考えられています。
 そこで、この研修会では、医療事故が発生した際に、医療事故調査制度の対象事例か否かの判断に迷った事例を取り上げ、グループワークによって、対象事例の考え方を学ぶこととしています。――2020年度の研修会については、どのような予定でしょうか。
 2020年度についても同様の研修会を実施する予定であり、開催日程は表3の通りです。新型コロナウイルスの影響で、6月の日程は中止または延期を検討していますが、確定した段階で、ホームページや全日病ニュースでお知らせします。
 これらの研修会は、「医療安全管理者養成講習会」(全日本病院協会・日本医療法人協会共催)の継続認定の研修会に該当し、医療安全対策加算の施設基準で求められている「医療安全対策に係る研修」となります。このように医療安全の取組みは、診療報酬でも評価されていますので、積極的に活用していただきたいと思います。

事故原因を究明し医療安全に活かす
――最後に会員病院に対して一言。
 医療事故は、患者さんの家族にとって辛い出来事であると同時に医療従事者にとって一生を左右するような出来事です。医療安全の取組みを通じて事故を未然に防止することが第一ですが、必ずしも過失がなくても不可抗力で起こることもあり得ることを念頭に置いて対応する必要があります。
 医療事故調査制度の目的は、調査を通じて事故の原因を究明し、再発防止を図ることにあります。事例を集めて振り返りつつ、安全確保の取組みを進めることが大切であり、そのことを通じて誰もが安心して受けられる医療をつくっていく必要があると思います。制度の趣旨をご理解いただき、当委員会の支援活動をご活用いただきたいと思います。――ありがとうございました。

表1 医療機関への支援内容

① 医療事故調査制度全般に関する相談
② 医療事故の判断に関する相談
③ 院内事故調査の手法に関する助言
④ 院内事故調査報告書の作成に関する助言
⑤ 院内事故調査委員会の設置・運営に関する助言
⑥ 院内事故調査に関わる専門家の派遣

表2 医療事故調査等支援相談窓口

電話番号03-5253-7441
電子メールanzenshien@ajha.or.jp
FAX 03-5283-7444
受付時間9:30~ 12:00
13:00~ 17:00
(土曜・日曜・祝日・年末年始を除く)

表3 2020年度の研修会開催予定

1  医療事故調査制度への医療機関の対応の現状と課題研修会
 第1回 2020年6月28日(日)
   13:00~ 18:00
   (中止・延期を検討中)
 第2回 2021年2月28日(日)
   13:00~ 18:00
2  院内事故調査の指針 事故発生時の適切な対応研修会
 2021年2月13日(土)・14日(日)
  1日目:13:00~ 18:30
  2日目: 9:00~ 17:00
3  医療事故調査制度事例検討研修会
 2020年10月18日(日)
  10:00~ 16:30

 

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