全日病ニュース

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医師の働き方改革に強い危機感

医師の働き方改革に強い危機感

【対談】自見はなこ参議院議員・猪口雄二会長 議員活動から見た医療政策の課題を聞く

 新型コロナウイルスの感染拡大は未だに収束の兆しが見えないなか、医療制度改革の議論が再開した。地域医療構想や医師の働き方改革など、コロナ以前から継続する課題への対応が求められる。参議院議員として、国会審議を通じて医療政策に深くかかわってきた自見はなこ先生と猪口雄二会長に今後の医療改革について語り合っていただいた。
成育基本法の成立に尽力
こども家庭庁の創設につながる

猪口 国会審議の真最中で、大変お忙しいときだと思います。最初に、医療における男女共同参画社会やこども家庭庁の創設に向けた取組みについてお聞きします。
自見 忙しい時期ではありますが、こども家庭庁の創設など有意義な仕事をさせていただいています。
 私が参議院議員に当選したのが、2016年7月。その後、超党派の議員連盟の事務局長を務め、立法化に尽力したのが、成育基本法です(2018年12月に成立)。約四半世紀にわたり小児科医、産婦人科医らが立法の必要性を訴えてきたもので、妊娠期に始まり、小児期、思春期を経て成人に至る一連の成育過程において、子どもたち一人ひとりの健やかな発育を目指し、各種施策を講じることが目的です。
 その中に、成育過程にある者(子ども)やその保護者、妊産婦に成育医療等を包括的に提供するためには、行政組織を見直し、こども庁を創設することが必要と書き込んでおきました。
 その立法事実に基づいて、私は自民党議員の有志とともに、こども庁の創設に向けた勉強を始めて、そのための法律案を閣議決定して国会に提出するところまでかかわることができました。新たな「庁」ができるのはすごいことで、100年に一度の奇跡です(笑)。
 こども家庭庁の3部門のうちの一つが成育部門であり、まさに成育基本法がこども家庭庁の生みの親です。専任の大臣を置き、予算も増えます。子どもを産み育てることの負担が大きい中で、国が抜本的に支援策を見直して支えることは大変重要です。
 これは、子ども・子育ての予算を厚労省のシーリング(予算の上限)からはずすという意味もあります。厚労省予算の中に入っていると、子どもの医療費を増やすと、高齢者医療費を減らさなければなりません。必要な子ども予算を確保するために、厚労省の外に出るということです。
 一方、昨年の医学部受験では、女性の合格率が初めて男性を上回りました。女性医師が子育てをしながら、仕事ができる環境づくりが急務です。男性医師も昔よりは育児に参画しているので、このあたりで本格的に考え方を変えていかないとだめです。
猪口 そうですね。ただ、現実的には医師になって数年で結婚し、出産・育児となると、どうしても仕事量としては減ってしまう。そうすると、全体としての医師の定員の問題が絡んできます。
自見 確かに、医師の定員の問題はもう一度考えた方がいいと思います。女性医師の増加と働き方をきちんと見込んで、現状の医師需要の試算が成り立つかを確認する必要があります。
マンパワーが圧倒的に不足していた保健所
猪口 新型コロナ対応の質問に移ります。自見先生は、初期の段階で、厚生労働大臣政務官としてダイヤモンドプリンセス号に乗り込み、その後も対応に当たってきました。
 感染拡大が始まって3年目となった現在でも収束にいたらず、特にオミクロン株は、ピークアウト後もなかなか新規感染者が減りません。この状況をどうみていますか。
自見 いろいろな見方があると思いますが、この20年間、保健所を再編し、人員を減らしてきたのは問題があったと思います。今回、そのしっぺ返しを受けたと考えざるを得ません。
 保健所のマンパワーが圧倒的に不足していることに気づいた市区町村長や知事は、人的な手当てを行っています。一方で、それに気づかず、保健所だけにまかせている自治体もあります。そこの違いは大きいです。
 行政組織の連携も課題です。自治体の中での保健部局と医療部局の連携もそうですし、政令指定都市と都道府県の連携の問題もあります。東京では、23区と都の連携の問題となりますが、行政組織の横軸の連携の悪さがあって、それが壁となって我々を苦しめているという実感がありました。
猪口 日本全体で保健所をどうするかが問題となっているときに、各自治体で保健所の対応が違っていて、我々からみると、指揮命令系統を含め立ち位置が不明瞭で、相談に行っても、埒が明かないという感じです。
自見 保健行政は都道府県知事に命令権がありますが、政令指定都市と都道府県の間には埋めがたい溝がありますから。新型コロナの第一波のときに、県から言われたのは、政令指定都市から数字が上がってこないので、県として数字が出せないということでした。日頃から連絡を取り合ってもいないので、意思疎通ができなかったのでしょう。どちらかというと人的な課題であると感じました。
 それから予想以上に、書類による契約業務が多いのです。例えば、発熱外来を医療機関にお願いする場合でも、契約書の文言を一つ変えると、すべての契約書を取り直さなくてはいけない。集団契約で一括するなど賢いやり方を行っている自治体もありますが、とにかく書類が多いことは問題です。これを効率化できれば、マンパワーの割き方も変わってきます。
猪口 例えば、行政検査は保健所を通さないとできません。ところが、第一波、第二波では、目詰まりが起きて、検査が十分にできませんでした。検査ができるようになり、患者が増えたら、今度は健康観察もできずに自宅療養となっています。その繰り返しで、ついにオミクロン株では、届出だけであとは患者・家族と医療機関等にまかせるという状況になってしまいました。
 やはり、新型コロナの感染拡大のような災害に近い状況では、国が明確に方針を決めて、それに従わないと、全体の統制が取れません。
自見 ただ、指示の出し方にも問題があります。私が厚生労働大臣政務官に就任していた2020年の半年間でも、国からの事務連絡が700通出ています。これを都道府県の保健福祉部長が全部読んで、知事を始め議員や関係団体に説明しているかというと、難しいのではないでしょうか。方針を示すこととあわせて、国がわかりやすい事務連絡を出す訓練をしたほうがいいですね。
猪口 そうですね。我々も行政文書のプロではないので、大量の文書が来ると、すっと頭に入ってこない(笑)。
自見 要点に大きなマルを付けるなどして、一文で文意が伝わるように、わかりやすくしてほしいですね。
病院は余裕がない中でコロナに対応した
猪口 オミクロン株がピークアウトしてもなかなか減らない状況ですが、それでも経済を回さなければいけないので、まん延防止等重点措置は解除されることになりました。感染予防と経済活動のバランスの中でやっていかないといけない。そのへんの難しさをどうみていますか。
自見 圧倒的多数の国民がワクチンを打つことですね。オミクロン株は、デルタ株の前に流行したアルファ株とほぼ同じ毒性で、違いは多くの国民が2回目のワクチン接種を終えていて、集団免疫ができていることです。集団免疫があるから、このくらいの重症度で済んでいるのであり、3回目のワクチンを圧倒的多数の国民が打つことが非常に重要です。
 しかし、いま3回目のワクチン接種が遅れています。
猪口 私の地元の江東区でも、3回目のワクチン接種会場の予約は空いています。若い人は、ワクチンで熱が出て苦しむのなら、むしろ、コロナにかかってしまったほうがよいと考える人が多いようです。全体のことを考えればそれではだめなのですが。
自見 そのような行動が自分たちの社会経済生活を制限する原因になってしまうことをもっと広報・周知する必要がありますね。
 新型コロナ対応で強く感じているのは、全国に地域医師会があり、そのネットワークがあるからこそ、ここまでの対応ができたということです。発熱外来からワクチン接種、自宅療養者の管理まで、保健所が手一杯になっているところで、有効に働きました。
 それから、病床に関しては、余裕のない中で対応していることを、政府はどこまでわかっているのかなと思います。ホテルのチェックイン・チェックアウトではないのであって、1人の患者が退院するのに、どれだけソーシャルワーカーがかかわって対応するか、後方支援ベッドとか、自宅に帰るのであれば家族の支援とか、1人の患者に対して、どれだけの手間がかかるのかが理解されていないと感じます。
猪口 アメリカでは病院の稼働率は5割程度のようです。日本の急性期では75%ぐらいまで上げないと経済的にやっていけません。地域包括ケア病棟など回復期では、85%ぐらい必要です。そのような状況で、新型コロナに対応するとなったら、一般診療を抑制せざるを得なくなります。
自見 今回の状況で、一般診療がどうであったのかはきちんと検証しないといけませんね。新型コロナ対応でさまざまな要求があったけれど、予定入院がどれだけ待たされたか、あるいは外来受診ができなかったかなど、「見える化」する必要があります。
猪口 国も厚生労働科学特別研究事業等を含め、データは取っているようで、我々も3病院団体の経営調査結果などを提供し、協力しています。
 あとは海外比較。日本の病床確保が問題だったと指摘されるけど、もともと日本は先進国の中で、入院率が高い。海外ではよほど重症にならないと入院させてもらえません。死亡率などの指標をみても、日本の方がよいわけで、客観的な比較を行ってほしいです。
自見 新型コロナ患者への医療費は、日本ではすべて公費でみていますが、外国ではどうなのかということも、データを確認する必要がありますね。
宿日直許可基準は柔軟な取扱いが必要
猪口 さて、医師の働き方改革は、時間外労働の罰則規定の施行が2024年度から始まるので、あと2年です。法的な規則は決まっていますが、実際に社会に適合させる取組みは、まさにこれからであり、不透明なところがたくさんあります。がちがちの規則を見直さないと大変な問題になります。そこで俎上に載せたいのは、労働時間制限の適用除外となる宿日直許可基準の取扱いです。
 まず、連続当直が認められません。東京の病院で常勤し、土日は釧路で当直する場合も連続当直は認められないので、不効率だと思います。産科の場合は、週に1、2回分娩があったらもうだめです。もう少し柔軟な取り扱いにしないと、産科も救急も、特に二次救急が大変なことになると危惧しています。現在、病院団体としての対応を考えているところです。
 規則は山ほどできたけど、それを現場が理解していないという問題もあります。大きな病院でも、管理職クラスは、一定程度把握しているとしても、一般の医師は全然知らない。こんな状況で本当に2024年度に施行して大丈夫なのかと心配になります。
自見 私もいま政治活動の中で最も緊張感を持って考えているのが、医師の働き方改革です。
 当初の予定では、2024年度までの準備期間は設けられていたはずでしたが、新型コロナウイルスが来て、医師労働時間短縮計画の策定や特例水準の認定などのプロセスを含めた準備作業を、非常に限られた期間で実施しなければならない状況にあります。
 宿日直許可基準の取扱いについては、各病院にどう対応するのかと聞くと、当直を受ける側の病院は「バイトが来ないなら医療を縮小せざるを得ない」というし、当直を出す側の病院は「宿日直許可を取っていない病院にはバイトは出せない」という、にらめっこの状況になっています。
医療崩壊の可能性も国に実態調査求める
猪口 一県一医大のようなところでは、関係者が膝詰めで話し合って、ちゃんと議論していると聞いていますが、大都市では、行政も把握できていないし、現場では収拾がつきません。医師の働き方改革を現実的なものにしないといけません。
自見 これは法律で決まっているので、法律を変えるとすると、来年の通常国会に法案を出す必要があります。法制局の事前審査や審議会等での合意形成を得る時間を含めると、少なくとも夏までには見直し案を固めなくては、間に合いません。
 現在、自民党で田村憲久前厚生労働大臣を座長に、私が事務局長を務める「医師の働き方改革の施行に関するプロジェクトチーム」があり、まずは実態調査を政府に求めています。このまま進むと、特に二次救急や産科を担う民間病院がやっていけなくなるという強い危機感がありますが、調査でまず実態を明らかにしないといけません。
猪口 公立・公的も民間も含め、基幹病院でも、人に余裕はなく、大学病院に頼っています。大学病院としても若い医師がどうやって生活していくのかという問題を突きつけられます。しかし、それでも、期限が近づかないとなかなか現場は動きそうにない。
自見 私もこの問題については、前から警鐘を鳴らしてきたのですが、党内でもなかなか伝わらず、ようやく関心を持つ人が出てきました。ただ、この問題は、民間病院から見る風景、大学病院から見る風景、若い学生や研鑽を積んでいる研修医・専門医から見る風景、それから知事から見る風景が違います。これらを複合的に見ないと、うまくいきません。
猪口 確かにそのとおりで、我々のような医師と、現場で働いている若い医師の感覚は全然違います。
 ただ、いまの状態を壊して、すぐに新しい形ができるわけではない。まずは壊さずに、もう少しやり方を考えないと、大変なことになります。
自見 大学病院の医局長の意向で、医師の引揚げが起きると、医療崩壊の引き金になる可能性もあります。大学病院に入局する医師も減るかもしれません。
猪口 同じ大学の医局によっても、医師の労働時間が違うので、大学としての方針を決めにくい。それぞれが時間外労働基準のA水準、B水準、連携B水準、C水準のどれを選んでくるのか。本当に心配が多いですね。
政治の力学で政策が決まる
診療報酬改定に反映

猪口 2022年度診療報酬改定では、不妊治療の保険適用がありました。
自見 菅義偉内閣の方針がなかったら、実現しなかった政策です。自由診療の領域で発展してきた不妊治療の医療技術を保険適用するにあたっては、技術的に非常に苦労したと思います。4月以降、どれだけの医療機関が保険診療に移行するかを注視していきたいと思います。今回初めての保険での評価であり、次期診療報酬改定で見直しがあるかも含め、少なくとも6年間は観察しないと、どのあたりに収れんするかは見えてこないでしょう。
猪口 看護職員の処遇改善もありますが、診療報酬で上乗せされても困るという話もあります。対象も限られていて、ある病院では処遇が改善され、違う病院では改善されないというのもおかしい。処遇を改善してもらうのは助かるという見方もありますが、このやり方はどうなのかという思いがあります。
自見 政治の立場からすると、少し見方が違います。
 岸田政権は、医療・介護・保育の処遇改善を打ち出しましたが、本来、政策を考えると、介護と保育の処遇改善はいいのですが、医療については診療報酬全体のパイの配分があるので、手を付けるべきではなかったと思います。ただ、政治の力学から考えると、このような政策になるのは当然の流れでもあります。
 3年前の参議院全国区の得票数で、1位は看護連盟でした。岸田首相が総裁選を勝ち抜くために一番票の数の多い看護連盟の要望を受け入れるのは当然です。看護連盟の支援を受けて、政権についたのであれば、それに報いるために政策面で配慮することになります。
猪口 1位が看護連盟として、2位はどこですか。
自見 薬剤師連盟です。その要望を受けて、リフィル処方箋が今回実現したとみています。
 政治において数は力であり、団体の持つ組織票の数は、どの順番で要望をきくかという優先順位に直結することになります。これは政治の世界では当たり前のことです。ただ、納得はしていませんし、これによって医療政策のバランスが崩れることを心配します。
猪口 政治の力学によって政策が決まるという現実を直視せざるを得ません。その意味で、自見先生にはますます力を発揮していただかなければなりません。
 本日は、お忙しいところありがとうございました。

 

全日病ニュース2022年4月1日号 HTML版

 

 

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