第7章 医療従事者:「病院のあり方に関する報告書」(2015-2016年版)

主張・要望・調査報告

「病院のあり方に関する報告書」

第7章 医療従事者

1.チーム医療の推進

①チーム医療とは

 チーム医療とは、診療部門のみならず事務部門等さまざまな職種を含めた部門横断的な連携を言う。医療に携わる多職種の職員が、それぞれの能力・役割を発揮して患者の治療にあたる必要がある。急性期医療のみならず、回復期のリハビリテーション、慢性期の療養、予防医学、地域連携等あらゆる医療提供の場面において求められる。特に多くの医療従事者が、様々な専門資格を持って働いている病院において、チーム医療は、きわめて重要である。我が国においてチーム医療が重視されるようになったのは最近であるが、今後この推進が必要である。また、チーム医療を推進するために、各医療職種の育成においても職種間での教育プログラムの整合を図るなど、制度的な推進策が併せて検討されることが望ましい。
 チーム医療推進の際には、診療において、患者の意思の尊重を基本に、各職種が常に専門的な知識と技術の向上を図りながらその専門性を発揮するとともに、カンファレンス等を通じて治療方針に従った良好なアウトカムを目指し協働する必要がある。施設特性や規模に応じて、可能な限り各専門職の採用を行うべきである。

②機能限定チーム

 最近では、多くの病院で、様々な医療チームを部署横断的に作り、多職種が集まってそれぞれの目的に合わせた活動がなされるようになっている。チーム医療推進協議会では栄養サポートチーム(NST)、褥瘡管理チーム、緩和ケアチーム、救急医療チーム、摂食・嚥下チーム、感染症対策チーム、呼吸ケアサポートチーム、医療機器安全管理チーム、医療安全管理チーム、糖尿病チームなどを挙げているが、その他にも創傷ケアチーム、化学療法チーム等があり、それぞれ効果を上げている。

2.医師数の充足と偏在の是正

①医師の絶対数不足の解消

 現在の医師不足の大きな原因は、厚生労働省が長期間にわたり医師養成数を抑制してきたためである。最近増員となっているが就業医師増には時間を要し、依然として医師絶対数は不足している。厚生労働省医師・歯科医師・薬剤師調査では、2014 年末現在の医師数は31 万1,205人(男79.6%、女20.4%)であり、2012 年より7,995 人、2.8% 増加している(表7-1)。医学の進歩に加え、専門分化の進展等により医師の業務量は格段に増加しており、更に人口の高齢化による有病率の増加、複数の病態を有する患者の増加により必要医師数は上ぶれするものと思われ、このままでは医師の絶対数不足は持続すると予想される。

 過去の厚生労働省の医師養成に関わる施策は一貫したものではなく、最近になり大きく変更された。医師養成数は長い間抑制されてきたが、2008 年になり厚生労働大臣よりの発議で医学部定員削減の閣議決定の見直しがなされることとなり、医学部の定員増加の方向に転換され、新設医学部、医科大学が具体化してきた。
 現状の医師養成増員策が継続されるなら、15年後には医師数が増加するのは自明の理であるが、今後の医療需要との対比で養成数の問題を考えるべきであろう。
 医学部の新設にともなう問題として、同一医療圏内の施設から医師、看護師、薬剤師をはじめとする専門職や事務系職員が招聘されることが多く、現場の混乱を招くこともあるので慎重な対応が必要である。

②医師偏在の現状と対策

 医師の絶対数不足もさることながら、医師の地域偏在、科別偏在も深刻な問題である。いわゆる「医療崩壊」は、2004 年から始まった新医師臨床研修制度により、大学病院の医師が減少したため医局の医師派遣システムが破綻し、主に地方の出張病院から医師を引き上げたことが大きな要因の一つである。
 新制度では、大学病院以外の臨床研修病院での研修が容易となったため、多くの臨床志向の強い卒業生が臨床研修病院での研修を選び、入局者が減少したため、今まで派遣していた一般病院からも医師を引き揚げざるを得なくなった。その結果病院の医師数が減少し、更に残った医師も激務に耐えかね退職するという悪循環が発生し、特に地方の医師不足は深刻であり地域医療崩壊の原因となっている。
 外科、産婦人科、小児科、救急科等、不足が顕著な診療科もあるが、これは医師としての職業意識の変化および女性医師増加への対応の遅れ等に加え、勤務が過酷な診療科の敬遠等多くの問題が累積されて生じた問題であり、多面的同時対応が必要であろう。これらの診療科は、診療のリスクが高く訴訟の対象になりやすいばかりか、近年では医療の不確実性を理解しない社会の風潮を盾にした、警察の刑事事件捜査の対象となり、ますます敬遠されている。医療事故調査、再発防止を主たる目的として、2015 年より医療事故調査制度が開始されたが、さらにこれを進めて、当事者の再教育、医療事故被害者の補償制度、裁判外紛争処理(ADR:Alternative Dispute Resolution)の拡充が望まれる。
 病院を退職した医師は、都市部で診療所を開業する傾向が顕著になってきた。我が国の卒後研修はこれまでは専門医を育てることが目標であったため総合診療医(プライマリ・ケア医)は必ずしも確立していない。今後、すでに専門領域の知識・経験を有する医師の再教育を含む総合診療医の育成と、病院、診療所への配置を進めるべきである。
 直接診療にかかわる臨床医不足のみならず、放射線科医、病理医、法医学医の不足はさらに深刻である。かなりの規模の病院でも、放射線診断医や病理医の常勤医がおらず、非常勤医に頼っているところも多い。放射線診断、病理診断の需要は大幅に伸びており、病院として診断精度の管理を適切に行うことは困難になりつつある。法医学医に至っては、ほぼ大学病院本院にしか配置されておらず司法解剖の少なさはとても先進国とは言えない状況である。これらの診断科の重要性に鑑み、該当医師確保のための対策、遠隔診断等の新技術の導入を図るべきである。
 現在、大学入学における地域枠の設定、一定期間の勤務を条件に奨学金を貸与する制度が導入されており、地域の臨床研修病院における研修制度の充実により、地域医療に従事する医師の増加が一部認められるようになっている。地域医療を守るためにも、その効果について追跡調査、検証が行われる必要がある。

③女性医師のさらなる増加

 女性医師は増加しつつある(図7-1)。女性の医師国家試験合格者は2014 年には31.8%となっている。女性医師について適切な対応がなされなければ、医師としてのキャリアを継続することが困難であるばかりか、多くの教育費用を投じたにもかかわらず活躍の機会を得ることができず、社会的にも大きな損失となっている。医療施設においても結婚、出産、育児に配慮すべきであり、具体的には短時間勤務等、多様な就業形態の導入や保育所の整備等、勤務環境の整備、休職期間におけるe ラーニングなどを利用した継続研修が必要である。女性医師は今後ますます増えることが予想され、これらの施策が優先して進められる必要がある。

図7-1 女性医師数の推移

④ 2013 年度 「医師の就業動向調査」に関する報告書

 各医療施設における医師の確保状況については、医育大学からの派遣、医師本人の選択、各医療機関の努力、開設主体の違い、医療施設の場所等による影響が考えられるが、具体的にどのような要因が影響しているのかは明らかになっていない。全日病「病院のあり方委員会」では、全日病の全会員病院を対象にアンケート調査を実施したが、その結果は以下の通りである。
1)卒後1年目から10年目の間に約50%の医師が「教室派遣」を理由に就業先を変更し、「医育機関」または「公的病院」に勤務していた。
2)卒後11年目以降は、「就業条件」「開業/事業継承」「他の家庭事情(子供の教育以外の事情)」を理由として就業先を「私的病院」に変更する割合が徐々に増加した。
3)卒後年数別の就業先の変更回数は、性別、子供の有無、配偶者の有無による違いは見られなかった。
 総体として、卒後10 年間は医師としての教育期間となっていることが伺える。この時期の医師採用を考えるのであれば、しっかりした教育体制が必須であり、全日病が実施している臨床研修指導医講習を利用した人材育成をすべきである。11 年目以降については、「就業条件」「開業/ 事業継承」「他の家庭事情(子供の教育以外の事情)」が考慮される傾向にあり、各医師の希望に対応する個別の努力が必要であろう。

⑤医師事務作業補助者

 近年、病院での医師の事務作業量が飛躍的に増加している。診療録記載、指示書、処方箋に始まり、入院医療計画書、患者への説明と同意、診断書、主治医の意見書等、作成する書類は多い。電子カルテ、オーダリングシステムは却って医師の作業量と時間を増やしている面がある。診療時間より書類作成に時間を取られるようになっている現状は、本末転倒である。医師は医師でなければできない仕事を優先して行えるような体制作りが求められる。
 医師事務作業補助者制度ができ、全日病でも2008 年から研修会を開催し、2015 年10 月現在2,254 名の修了者を数えているが、未だ有効な対策とはなっていない。急性期病床における要件の緩和、慢性期病床、精神科病床への拡大など制度拡充も図られるべきである。
 今後同時に、書類量の削減が必要である。医療安全、患者の権利保護を図ると称し、単に病院のリスク対策としての書類等が増えてしまっているので、説明と同意も可能な内容なら医師以外の職種が行うこと、保険会社の診断書の統一した書式とする等の効率的な対策の導入が必要である。

3.看護師

①看護師の絶対数不足の解消

 現在、看護師の絶対数は増えているが医療介護の現場では需要増に伴い依然大変不足している。厚生労働省の統計では2014 年の就業看護師数(准看護師を含む)は約142.6 万人であり、勤務先は、病院に約94.4 万人(61.4%)、診療所に32.0 万人(20.9%)の他、介護保険施設、訪問看護ステーション、社会福祉施設等である。人口1,000 人当たりの就業看護師数はOECD 加盟諸国平均(人口1000 対10.0)とほぼ同等であるが、我が国では、病院の機能分化が未だ不十分のため、OECD 諸国に比較して人口対病床数が多いため、病床1床当たり看護職員数はOECD 諸国と比較して少ない(図7-2、表7-2)。日本での看護師不足の問題は、医師とは異なり、主として配置の問題であることが伺える。

図7-2 医療関係職種の推移(2002 年= 100 として示す)
表7-2 諸外国の医師、看護師等の数

 看護師不足は以前より言われてきていたが、7対1看護基準の導入に見られるように診療報酬上の理由と診療内容の向上から病院看護師需要が増加した一方で、看護師養成が追い付いていないのが現状であり、救急医療の縮小、病棟閉鎖等の原因ともなっている。
 2001 年に270 校あった医師会立准看護師養成所は、2014 年には176 校にまで減少したが、逆に看護系大学は91 校から211 校に増え更に増加傾向にある。看護教育の高度化が図られているものの、現状の教育内容は座学に重きを置いたものであり臨床現場での即戦力化をもたらしていない。医育機関と同様に臨床現場にも携わる者が教員となること、チーム医療の推進のため他の医療職種との教育プログラムの整合を図ること、卒後臨床研修制度の導入等、臨床能力の向上に向けた取り組みが必要である。准看護師の教育については、高校卒業を要件として、教育内容の充実を図り、国家資格への移行を目指すべきである。
 2025 年における看護需要は社会保障国民会議による医療介護費用シミュレーションのいずれのシナリオにおいても看護師供給を上回ると予想されている9。例としてB 3シナリオにおいては、看護需要が215.9 万人で供給が179.9 万人、供給率は83% である。更に諸要件を当てはめた修正シナリオにおいても供給率は98% にとどまる。
 就業していない潜在看護師は71 万人と言われている10。復職支援は自治体等で始まったばかりであるが、貴重な労働力であり、人生経験を積んだことで更に看護能力が高まることも期待できるので、今後さらに推進する必要がある。医師、歯科医師、薬剤師については一定期間ごとに、就業状況などを厚生労働大臣に届け出ることが義務付けられている。看護職の医療における重要性に鑑み、あわせてエビデンスに基づく医療政策を推進するためにも、看護師の登録制度を推進し、潜在看護師の活用を積極的に図るべきである。

9  伏見清秀、他:長期的看護職員需給見通しの推計
  (http://www.mhlw.go.jp/stf2/shingi2/2r9852000000eydo-att/2r9852000000eyf5.pdf)

10  「第1回看護職員需給見通しに関する検討会」(2014 年12月1日)

 今後、看護師の養成、供給体制は医療体制の再構築に合わせて考えていく必要があり、医師同様に地域格差の是正は行政の責務である。
 若年人口の減少は歯止めがきかない。看護、介護を含み外国人労働力に頼らざるを得ない状況であり、今後益々その傾向は強まるであろう。政府は介護に外国人労働者を認める予定であり、全日病としては積極的に関わる必要がある。
 現在、看護師、介護従事者の勤務人数は診療報酬で厳しく定められている上、勤務に関する制度上の規制も多い。夜勤72 時間以内の制限、会議・委員会への出席時間の取扱、夕食・就寝時間の限定等、現場の実情にそぐわない場合が多い。当事者と医療機関の合意に基づき、就業条件の自由度を高めることにより職場の活性化が図られるものと考える。

②転職・離職の理由

 日本看護協会の調査では、2013 年度に常勤看護師の11.0%、新卒看護師の7.9% が医療機関から離職しているが、離職率は最近では減少傾向にある。また、離職者の大部分(2006 年の調査では離職者の約8割)は別の施設に再就職している。
 転職・離職の原因は、妊娠・結婚・育児を除けば、「人間関係、夜勤の負担の大きさ、勤務時間の長さ」がトップ3であり、続いて「責任の重さ、医療事故への不安、自分の能力への不安等」が挙げられている。人間関係では、「同僚や上司との関係の他に医師との関係」が挙げられている。
 これらの調査結果に示された問題の解消のためには、各医療機関において、上司による定期的な聞き取りとチーム医療の促進や業務改善による負担軽減、計画的なキャリアアップの仕組みの構築などに努める必要があり、苦労をともに支えあうという文化の醸成も重要と考える。

③専門看護師、認定看護師

 いずれも日本看護協会が認定する資格である11。全日病としては、看護師部門内での一部の技能・知識に優れた看護師の養成ではなく、むしろ看護職全体の技能・知識向上、看護業務の拡大を図るべきであると考える。最近の教育制度変更による効果の見極めが必要である。

11 専門看護師は、看護系大学の大学院修士課程に専門の教育過程が設置され、その修了と実地経験年数を踏まえて認定している。専門分野としてはがん看護、精神看護、老人看護、小児看護、母性看護、慢性疾患看護、急性・重症者看護、感染症看護、家族支援であり、今後在宅看護も加わる予定である。その役割は実践、相談、教育、調整、研究、倫理調整である。我が国の看護界での指導的な立場の人材を育成するのが目的である。
 認定看護師は実務経験5年以上で600 時間の認定看護師教育課程を修了し、筆記試験に合格することが必要である。
救急看護、皮膚・排泄ケア、集中ケア、緩和ケア、がん化学療法看護、がん性疼痛看護、訪問看護、感染管理、糖尿病看護、不妊症看護、新生児集中ケア等21 分野があり、役割は実践、指導、相談である。現場でより高い看護実践を行い、専門領域の指導者を養成するのが目的である。

④ PA、NP

 アメリカではPA(Physician Assistant)、NP(Nurse Practitioner)の制度があり、フランス、オランダの看護師の業務もこれと類似した部分がある。PA は外科系医師の助手として、医師の監督下に一定の医療行為を行うものであり、NP は主にプライマリ・ケアを担当し、生活習慣病の改善や予防が業務の中心となる。NP は、患者の臨床症状を判断し、症状緩和のための一定の範囲内で薬剤の投与、処置を実施できる。いずれも現在の我が国の看護業務を超えた内容であるが、看護業務の拡大と考えるか、あるいはまったく別の新規職種として考えるかを含めて、数年前から議論されてきたが、あまり進展は見られていない。今後、状況に応じて改めて検討を行うべきである。

⑤看護師特定行為研修制度

 医療介護総合確保推進法により2015 年10 月より導入された制度である。国は「2025 年に向けさらなる在宅医療等の推進を図るためには、個別に熟練した看護師のみでは足りず、医師または歯科医師の判断を待たずに、手順書により一定の診療の補助(特定行為)を行う看護師を計画的に養成し、確保するための研修制度を創設する」こととし、2025 年までに10 万人以上の養成を目指している。
 特定行為として38 行為、21 区分が定められており、救急の場、集中治療室の場における行為の実施が期待されているが、それ以上に医師がいない在宅の場における特定行為実施が求められることになるだろう。在宅に関わる看護師へ積極的な教育の機会の提供が望まれる。
 全日病は、地域ごとに会員病院が指定研修機関となり、自院の看護師が遠方に出かけることなく継続学習として本研修を受講できる体制の構築を進めているが、研修医療機関には近隣の会員病院看護師や訪問看護ステーション看護師の研修先となり地域への貢献を望みたい。現在、指定研修機関に名乗り上げた医療機関を支援する目的で、e ラーニング教材の作成を進めている。

⑥看護職と介護職の業務分担

 我が国の病院では看護師は様々な業務をこなしてきた歴史がある。医師の診療補助、看護業務に加え、臨床検査技師、放射線技師、リハビリテーション職員の業務に準ずるものもこなし、事務作業まで行っていた。最近はチーム医療の中でそれらの業務は本来の職種が行うようになっているが、全日病の調査12 では、病院によっては移行されていない場合もあり、今後、チーム医療の推進と業務分担が並行して図られるべきと考える。
 看護師と介護職との業務分担もなかなか進んでいない。同調査では介護職、看護助手でも可能と思われる業務として、リネン交換、配膳下膳、おむつ交換、トイレ誘導、ナースコール対応、喀痰吸引、死後の処置等が挙げられている。

12 病院における各職種の業務分担に関するアンケート(2009年)

4.介護職員

①介護職員の需給

 2025 年に介護職員が30 万人不足すると予測されているが、人口が減少するなかで充足される可能性は少ない(表7-3)。この推計には今後さらに必要となる医療現場における介護職員は含まれていないので、不足数はさらに多くなると予想される。

表7-3 介護職員の必要数の予測

②外国人労働者導入の可能性

 これまで介護職員不足対策として外国人労働者の導入促進が議論されてきており、全日病も同様の主張をしてきた。
 しかし、EPA で看護・介護職員の導入が始まったものの年間養成数は1,000 人程度であり、介護職員不足を解決するにはほど遠い。今後必要とされる人員数に鑑み、10 万人規模の導入をいかに図るかが問われている。現地での日本語学校の設立、日本語習得者に対する看護・介護の教育を行うなど、抜本的な議論がなされる必要がある。

③介護職員の地位の確立

 介護職については肯定的なイメージもある一方で、「夜勤などがあり、きつい仕事」、「給与水準が低い仕事」、「将来に不安がある仕事」など、マイナスイメージがメディア等で流され、人材確保の阻害要因となっているおそれがある(図7-3)。介護職員は重要な仕事で、関係者一丸となって介護職はやりがいのある仕事という認識を社会全体が持つように啓発していかなければならない。介護職員の収入が一般職より低いと強調されているが、年齢・性別・勤続年数による差異を調整して比較検討し、処遇改善の要否を判断し、正しい情報として発信していかなくてはならない(表7-4)。

図7-3 介護職に対するイメージ(複数回答可)
表7-4 常勤労働者の男女比、平均年齢、勤続年数及び平均賃金

 医療保険では介護職員は看護補助者とされている。看護の下働きをするのではなく、チーム医療の一端を担う介護の専門職としての地位を確立する必要がある。安定した仕事として社会が認めるように、病院・施設等では職員福利厚生にも力を入れ、良い職場となる様努力する必要がある。

5.その他の職種の充足

 医療水準の進展に合わせて、各医療機関には今以上に専門職の技能レベル向上と人材の充実が求められている。看護師、保健師、助産師、臨床工学技士等看護系職種、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、視能訓練士等のリハビリテーション系職種、薬剤師の不足が言われ続けてきたが、チーム医療の推進には、放射線技師、臨床検査技師、社会福祉士、診療情報管理士、さらには専門職種をサポートする事務職等の活躍も必要であり、これらの人材の充足も必要である。
 高齢化とともに増える医療費負担、長期療養・要介護状態におけるサービスの選択、住まいの問題などに関し、社会福祉の立場から問題解決を業務とする医療ソーシャルワーカー(MSW)の役割は今後さらに重要になってくる。しかし、現行の社会福祉士、精神保健福祉士の育成過程において、医療についての教育内容が乏しい。医療行為や医療制度に関する研修も必修化し、MSW としての資質向上に係る新たな認定の仕組みを講ずるべきである。現在全日病では医療介護に関する制度、医療機関が求めるソーシャルワーカー像、チーム医療における多職種連携のあり方などを学ぶ研修会を開催している。
 2025 年労働人口の減少は医療分野にも及ぶことは必須である。医療従事者が65 歳以上になっても、経験を生かしながら引き続き就業を継続できるような、多様な就業形態、環境整備が必要である。

6. 医療従事者確保のための高齢者の定義の見直しと人口増政策

 現在は65 歳以上を高齢者としているが、これは1965 年の国勢調査で導入された高齢者の定義である。この年の平均寿命は男68 歳、女72 歳であった。
 2002 年に内閣府が行った「加齢・年齢に対する考え方に関する意識調査」では、「調査対象年齢によって多少の差はあるが、およそ70 歳以上を高齢者と考えている」という結果になっている。日本の法制度では高齢者の年齢の扱いは分野により異なり、65 歳、70 歳、75 歳とさまざまである。
 2013 年日本老年学会と日本老年医学会のワーキンググループは高齢者の定義について、年齢の引き上げを含めて見直す検討を開始し、既述(P 8)の通り2015 年声明文を出しているが、政府においても高齢者の定義の変更に関して正式に議論すべきである。
 高齢者の社会的活躍を推進するために、高齢者の定義を変えこのような不整合を是正すべきである。高齢者を70 歳以上、生産年齢人口を15 ~ 69 歳と変更すると、2015 年の高齢化率は26.8%から19.1% 、高齢者1人を支えるのに必要な生産年齢人口は2.1 人から3.5 人となる。2025 年の高齢化率は30.3%から24.6%、 高齢者1人を支えるのに必要な生産年齢人口は1.8 人から2.7 人となる。さらに高齢者を75 歳以上、生産年齢人口を15 ~ 74 歳と変更すると、2015年の高齢化率が13.0%、高齢者1人を支えるのに必要な生産年齢人口が 5.4 人となる。2025 年の高齢化率は18.1%、高齢者1人を支えるのに必要な生産年齢人口は3.7 人となる(表7-5、7-6)。昨今の65 歳以上の就業能力、健康状況も鑑み、高齢者を75 歳以上とし「後期高齢者」という言葉を廃止し、政策自体も変更すべきである。

表7-5 高齢化率 表7-6 高齢者一人を支える生産年齢の人

 現在、2025 年に団塊の世代が後期高齢者になることから諸政策がすすめられているが、団塊の世代にはより自立してもらう必要があるだろう。物を言う世代だからサービスを充実しておかなければならないという意見があるが、それは介護者不足などの要因から物理的に困難である。健康的な高齢者の増加を踏まえ、多様な勤務形態を用意しアクティブシニアとして生産年齢層と考えると同時に健康寿命の延伸をはかる取り組みが必要である。

 人口減社会の到来が確定的であることから、その影響を多面的に検討し、人口増政策も早急に議論し必要に応じ実行すべきである。
 国は、2015 年度厚生労働白書において、人口減少克服に向けた取組みとして、①「まち・ひと・しごと創生長期ビジョン・総合戦略」、②「少子化社会対策大綱」、③「子ども・子育て支援新制度」の3つを挙げている。①では、「東京一極集中」の是正、若い世代の就労・結婚・子育ての希望の実現、地域の特性に即した地域課題の解決を基本的な考え方として、②③との一体的な取り組みによる人口減少への対応を提言している。人口増が不可欠ならより積極的かつ大胆な対策が必要であり、子育てに関する思い切った支援を検討すべきである。
 また、日本人は同質性を重んじる国民ではあるが、外国人の種々な形での受け入れについても広く検討すべき時であろう。