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ホーム全日病ニュース(2023年)第1034回/2023年6月15日号肝臓病の克服に向け「奈良宣言2023」を発表

肝臓病の克服に向け「奈良宣言2023」を発表

肝臓病の克服に向け「奈良宣言2023」を発表

【日本肝臓学会】指標としてALT > 30を用いる
全日本病院協会広報委員会副委員長、医療法人ロコメディカル理事長 江口有一郎

 (一社)日本肝臓学会は、令和5年6月15日に「奈良宣言2023」を発表した。その背景としては、我が国のがん罹患の部位内訳で長年、上位を占める肝がんの主な成因であったB型肝炎やC型肝炎といったウイルス性肝疾患に対する抗ウイルス治療は劇的な進化を遂げ、適切な診断と治療により高い可能性で肝硬変や肝癌への移行を抑制することが可能になり、近年はウイルス性肝疾患による死亡者は減少傾向にある一方、まだ国民の約半数は、B型肝炎やC型肝炎の感染の有無を調べる肝炎ウイルス検査を受検しておらず、さらに近年は生活習慣病を基盤とするいわゆる脂肪肝(非アルコール性脂肪肝炎(NASH)やアルコール性肝疾患)を基礎疾患とする肝疾患が年々増加しており、肝硬変や肝癌に進行してから医療機関を受診するケースも少なくはなく、一般報道等でも警鐘が鳴らされている。
 本宣言は、一般的な健康診断でも肝機能検査として血液検査で広く測定されているアラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)値に注目し、指標として用いることとし、フローチャートの通り、日常診療や健康診断等でALT>30であった場合、まずかかりつけ医療機関等を受診してその原因が検索され、機会を逸することなく、消化器内科における精密検査を受けたのち、かかりつけ医と専門医の診療連携による適切な医療を受けるといった肝疾患の早期発見・早期治療に繋げることを目的としている。
 肝疾患を拾い上げる数々の方法の中で「ALT>30」とする根拠および利点としては、 ①シンプルで健診や一般診療で汎用されている項目であり、 ②英文も含めて基準値に関する文献が多数あり、 ③我が国の特定保健診査(特定健診)および人間ドック学会の基準値は ALT30以下と示しており、 ④特定健診や人間ドック学会の基準値は(一財)日本消化器病学会の肝機能研究班意見書に基づいて決定されていることを挙げている。
 しかし、この「奈良宣言2023」も懸念がない訳ではない。「ALT>30」は日本臨床検査標準協議会の基準範囲共用化委員会が発表している「日本における主要な臨床検査項目の共用検査範囲」では基準値内の症例も対象となり、また健康成人の約15%はALT値30超えを満たすとの報告があるため、本宣言を受けて多くの市民が医療機関に押し寄せ「奈良宣言2023」の意義を知らない医療機関側が「なぜALT >30で医療機関を受診したのか?」といった混乱を招く懸念もある。したがって、同学会は、厚生労働省健康局、日本医師会をはじめ、関連学会、団体等には、事前に周知を図っているとしている。
 全日本病院協会としても会員医療機関において、「ALT>30」の健診結果を持参する患者が訪れることを念頭に置き、本宣言について周知を図っておきたい。

 

全日病ニュース2023年6月15日号 HTML版

 

 

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