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ホーム全日病ニュース(2024年)第1058回/2024年7月1日号病院給食の厳しい状況は変わらない 調理方法の見直しなど解決策を模索

病院給食の厳しい状況は変わらない 調理方法の見直しなど解決策を模索

病院給食の厳しい状況は変わらない
調理方法の見直しなど解決策を模索

【今村英仁・慈愛会理事長に病院給食をめぐる状況をきく】

 2024年度診療報酬改定で入院時の食事療養基準額が約30年ぶりに30円程度の引上げとなった。この引上げが病院給食にとってどれだけの救済策となるのか。全日病の医業経営・税制委員会「病院給食のあり方検討特別委員会」の委員長をかつて務め、今は日本医師会常任理事である今村英仁・慈愛会理事長に病院給食を持続可能とするにはどうすればよいのかをきいた。

食事療養基準額の30円引上げ
病院給食が改善する水準ではない

─約30年ぶりの入院時の食事療養基準額の引上げが2024年度改定で実施されました。引上げ自体は望まれていたことですが、十分な引上げとは言えないと思います。
 今回の食事療養基準額の引上げで病院給食の現状が改善するかといえばそんなことはないと思います。例えるならば、溺れかけているところにようやく浮袋が投げられ、何とかそれにつかまりながらも結局は沈みそうな状況と言えばよいでしょうか。それを救出とは言えません。今の状況では残念ながら、水面に浮上できる病院は多くないと思います。
 国としては努力したのでしょう。今回の食事療養基準額の引上げは患者負担増で行っており、全体で数百億円規模です。仮に、入院時食事療養費を数百円単位で上げるなら、10倍の数千億円単位の財源確保が必要になり、政治的にも難しいことは理解できます。
─国にとってハードルが高いというのはわかりますが、物価高騰など経済環境の変化があり、病院給食の状況はますます厳しくなっています。
 6年ほど前に全日病で病院給食問題を担当しました。その間に、厚生労働省が病院給食の収支に関する考え方を示しており、それは、病院給食の収支は入院時食事療養費等を収入とする個別項目で考えるのではなく、病院全体の収支の中で考えるというものでした。
 2017年の厚労省の調査結果(入院時の食事療養に係る給付に関する調査結果(速報))において、入院時食事療養費等を収入とした一般病院の給食部門の収支は「全面委託」「一部委託」「完全直営」のいずれの場合でも赤字という結果でした。それにもかかわらず、その後の改定で、収支改善に結びつく対応は行われませんでした。病院全体の収支はそれほど悪化していないと判断されたのだと思います。
 病院全体の収支で病院給食を賄うという考えにある中で、約30年ぶりに食事療養基準額が引上げとなったことの背景には、やはり昨今の物価高騰があると思います。おそらく厚労省の要望を拒否してきた財務省もさすがにこの状況をみて、対応せざるを得ないと考えたのでしょう。一番大きいのは、医療団体などの声をきき、政治家が行動してくれたことです。
 2023年秋に公表された医療機関経営状況調査では6、7割の病院が赤字の状況にあり、コロナの特例対応や補助金がなくなるとさらに厳しい状況になるという推計も示されました。病院経営が苦しいということに対して、一定の理解はあったと思います。
 介護保険での食費負担が先に上がっていたので、それとの兼ね合いで患者負担を上げる状況になったという事情もあります。
─入院時の食事の費用は介護と合わせて自己負担で増やすという流れになっているようにみえます。
 入院時の食事の費用が診療報酬本体から切り離されて入院時食事療養費制度になったのが1994年です。介護報酬で食事が自己負担となったのが2005年ですから、対応は医療保険のほうが早かったことになります。医療も介護も保険制度の中で給付してきたところに自己負担が導入されました。医療も介護も低所得者に対しては国費投入を別途行っています。食事療養基準額の今回の引上げでは60億円弱ぐらい国費が増えることになっていますね。
 1食あたり640円という食事療養基準額は30年間変わりませんでしたが、その間、入院時食事療養費(保険給付)を減らし自己負担を増やしており、患者の標準負担額は260円から360円、そして460円に上がっています。
 国の社会保障費抑制策の手段として入院時食事療養費制度が用いられた経緯があります。結果として、患者が払う食費負担は上がるけれど、病院の収入は変わらない状況が続きました。

給食部門の赤字常態化の原因
1食あたり算定の影響大きい

─給食部門の赤字が常態化する状況はなぜ起きたのでしょうか。
 様々な要素があります。費用面では人件費や材料費の上昇が原因ですが、はっきりしているのは収入面の変化で、2006年に食事療養基準額の算定が1日あたり1,920円から1食あたり640円になったことです。
 療養病床や精神科の病院では、長期入院患者が多いので、影響は比較的少なかったのですが、患者の出入りが激しい急性期病院では、大きく収入が下がりました。患者一人当たりの食事回数は1日2.4食程度であり、その分収入減になっています。1日2.4食になっても、固定費が大きいので、その分厨房設備や人件費を減らせるわけではありません。
 ある時期までは給食会社が頑張って委託費などを上げずに対応してくれたのだと思います。当時はデフレ経済で費用を下げてでもパイを増やすことが優先され、また病院給食の職場は比較的安定しており人が集まりやすい状況もありました。その意味では一時期、Win-Winの関係がありました。それが最近になって変わってしまった。
 昨今の経済環境の変化で、給食会社もこのままでは生き残れないということになり、委託費を上げるかそうでなければ撤退せざるを得なくなっています。病院としては、委託費の増額を受け入れる、あるいは自前での運営に切り替える場合があると思います。一方、どれだけ委託費を増額しても人が集まらず撤退しかないという給食会社が出てきています。人材不足が深刻です。
─特に不足しているのは調理師ですか。
 そうですね。調理師免許の新規取得者はピーク時の半分以下です。それも飲食店の料理人を目指す資格取得が増えており、病院給食には来ません。新型コロナ禍により外食産業が大打撃を受けたことでレストランの景気も悪く、病院給食がバッファーの役割を果たした側面がありますが、状況は変わりました。今後も経済環境によっては同じ状況が生じるかもしれませんが、中長期的に考えれば調理師不足は確実です。
 従来から栄養士・管理栄養士等の配置基準がありますが、調理師が足りず栄養士が調理師の業務を代替する状況が起きています。看護職員と看護補助者の関係のように、調理補助者も働いていますが、料理のスキルは不可欠であり、調理師の確保が大きな課題になっています。
 栄養士の数が減る一方で管理栄養士は増える傾向にありました。そのため両者を足した数は増加傾向にあったのですが、最近になって減り始めました。少子化は続くのでその傾向は変わらないでしょう。

クックフリーズ方式で食事提供
セントラルキッチン等で効率化

─収支は赤字で人も集まらないとなると、病院給食はどうすればよいのでしょう。
 食事療養基準額を30円程度引き上げても、病院が沈んでいく状況は止められず、これからの対策を考えなくてはいけません。対応策は病院により異なります。
 地方でこれといった産業がないために病院に人が集まり、食材費の問題を解決できるとすれば、何とか従来のクックサーブシステムを維持できるかもしれません。そのような病院はあまりないと思いますが…。
 次に考えるのは、調理方法の見直しであり、厨房システムの見直しです。一時期はレディフードシステムにおけるクックチル方式が解決策と言われました。これにより若干の人員削減と勤務時間の短縮を行うことができます。問題は投資資金です。初期投資は何とか行えても、機械の更新までに費用を回収できず、持ち出しになる可能性が高い。そうすると更新時に投資を継続する病院の負担が大きくなります。
 効率的な厨房システムとして、別の施設でまとめて食事を調理するセントラルキッチンがあります。セントラルキッチンの活用で収支が改善した病院があります。ただ、話をきくと、5〜6 千食ほど作らないと効果が発揮されず、加えて最近は建築費が倍になっており、これからセントラルキッチンを建てるとなると収支が合わないそうです。
 そのような中で、調理方法の見直しで最近注目されているのは、冷凍技術の発展を背景としたクックフリーズ方式です。1食を1プレートで配送する「完全調理済み食品」の冷凍食品を電子レンジで解凍して提供している介護保険施設等が出てきています。病院の場合は、患者に合わせて食事を変える必要があり、種類が多くなるので1プレートは難しく、「完全調理済み食品」を組み合わせて提供するアセンブリングが必要になります。
 個々の冷凍食品を施設や製造委託先の工場で作る、あるいは既製品を購入し、別の場所で組み合わせて段階的に1プレートにして提供するやり方は、バーチャルセントラルキッチンと呼ばれ、この方法は今のところ、有力な選択肢となっています。企業と大学病院が組んで開発する取組みも行われています。明るい未来というよりも、ぎりぎりの状況で生きていくために活路を見出そうとしているといった感じですね。

病院給食の生産管理システム

臨床栄養管理の充実は継続の方向
病院が地域の栄養管理の役割担う

─2024年度改定では食事療養基準額の引上げとは別に、栄養管理が重要なテーマに位置づけられ、様々な診療報酬項目で見直しがありました。
 臨床栄養管理を推進する方針は国から明確に示されており、2024年度改定では、リハビリテーション・栄養・口腔の一体的な推進が目玉となりました。リハビリテーション・栄養・口腔連携体制加算も新設されています。在宅医療関係でも栄養管理を重視した改定が行われており、今後もこのような方針は継続されると思います。
 一方、食事療養基準額の総額が年間6~7千億円であるのに対し、臨床栄養管理の評価はせいぜい年間100億円程度で規模が違います。とても病院給食の費用を賄える規模ではありません。
 病院給食だけを考える病院は今後一層厳しくなると思います。栄養士や管理栄養士が専門職としての役割を果たせる病院でなければ、人は集まりませんし、育成もできません。在宅医療に積極的に関わる病院は、地域の栄養管理に関わることになり、他の施設等と連携することで新たな展開が生まれるかもしれません。厳しい状況ではありますが、トライ&エラーを繰り返すことで、活路を開くことが求められています。
─成功事例を他の病院に広げていくことが重要になってきますね。
 先ほど説明した各方式で成功しているモデルケースで言うと、例えば、セントラルキッチンでは社会医療法人駿甲会コミュニティーホスピタル甲賀病院、バーチャルセントラルに近いのは社会医療法人雪の聖母会聖マリア病院、クックフリーズ方式では社会医療法人河北医療財団河北総合病院、それからやはり医療法人社団協友会船橋総合病院の事例はとても参考になります。
 こうしたモデルケースを横展開するという意味では、全日病の役割は大きいと思います。中小民間病院が病院給食を維持していくために、情報共有や共同作業が積極的に行われていくことに期待しています。

 

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    https://www.ajha.or.jp/topics/admininfo/pdf/2022/220922_1.pdf

    2022/09/21 ... 工施設を使用して行う場合の調理方式としては、クックチル、クックフリーズ、ク. ックサーブ及び真空調理(真空パック)の4方式があること。 なお ...

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    2023/03/31 ... 別記). 一般社団法人 日本病院会. 公益社団法人 全日本病院協会. 一般社団法人 日本医療法人協会. 一般社団法人 日本社会医療法人協議会.

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