全日病ニュース

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支部の意見を集約し、全日病の主張を発信していく

支部の意見を集約し、全日病の主張を発信していく

当面の課題について猪口雄二会長に聞く
聞き手=高橋肇・広報委員長

6月17日の定時総会で会長に選出された猪口雄二・新会長に当面する課題や今後の会務運営についての考えを聞いた。聞き手は、広報委員長の高橋肇常任理事。

全国の支部の意見を集約する仕組みをつくる

―会長就任に当たっての抱負をお願いします。
 いろいろあるのですが、一番考えているのは約2,500の会員に全日病のスタンスをきちんと示していくことです。
 同時に、各支部の意見や考え方を本部に集約することが重要と思っています。
 病院を取り巻く環境は地域差が大きくて、地域医療構想にしても都道府県によって進み方が違います。支部の意見を集約した上で、全日病の主義・主張としてまとめ、対外的に訴えていきたい。
―当面する課題についてお聞きします。まず、地域医療構想について。
 地域医療構想はPDCAサイクルを回しながら、2025年を目指して徐々に進めていくのだと思っていたら、骨太方針2017で「2年間程度で集中的に検討する」と書かれました。しかし、そんなに簡単に進むとは思えません。
 気をつけなければいけないのは、地域医療構想では医療機能を4つに分類して2025年の病床の必要量を推計していますが、これに合わせるのが地域医療構想ではないということです。地域医療構想を議論する調整会議は、最も効率的な連携システムをつくるための話し合いの場であって、数合わせの場ではありません。
 例えば、公立病院は、新公立病院改革ガイドラインに沿って改革プランをつくっていますが、地域医療構想の議論で違う方向が出たら、そちらに合わせることがはっきり謳われています。
 その意味で、調整会議は非常に重要なのです。先に実施したアンケート調査で、各地域の状況を聞いているので、できるだけ早い機会に全国の担当者に集まってもらって検討の場を持ちたいと考えています。  

地域包括ケア病棟の役割を発揮するための点数設定に

―委員を務める中医協について、来年度の改定にむけた審議の見通しを教えてください。
 中医協はちょうど第一ラウンドが終わったところで、本格的な議論はこれからです。いろいろな資料が出されると思うので、方向を間違えないようしっかり議論しなくてはなりません。
 とくに気にしているのは「重症度、医療・看護必要度」ですね。それとあわせて看護基準そのものを見直す動きがあります。日病協の要望にも入っていますが、そもそも看護職員の数は患者の状態から決めるべきではないか、ということです。2018年度の改定には間に合わなくても、長期的な展望として新たなステージに入っていくと感じています。
―2018年度改定は、介護報酬との同時改定です。
 医療と介護がかかわるのは、リハビリテーションや在宅医療、医療介護連携ですが、地域の中で生きている全日病の会員にとってはいずれも重要な問題であり、ぜひいい形で収束するにようにしたいと考えています。
―地域包括ケア病棟は、どんな改定になりそうですか?まだわかりませんが、データ次第でしょう。入院医療分科会でいろいろなデータが出されて、それを総会で議論することになります。
 地域包括ケア病棟は、全日病が主張する地域一般病棟の概念が具現化したものととらえています。
 すなわち、急性期の大病院からリハビリなどで引き受ける役割と地域の施設や在宅の高齢者の急性期に対応する役割、そして在宅療養の支援という3本の柱があるわけで、これを生かせる点数設定が必要です。改定の議論の場にのせたいと考えています。
―地域医療構想と診療報酬を連動させる動きもあるようですが。
 そこは連動させるべきではないと主張しています。地域医療構想は調整会議で話し合っているところであって、それがはっきりしていないのに点数で誘導することはやってはいけない。地域医療構想と診療報酬の評価は基本的に違うものだと思っています。
―介護医療院の具体的な姿が決まることになりますね。
 介護医療院の基準や報酬は、介護給付費分科会で決まることになりますが、そもそも介護医療院の対象は、介護療養病床であり、医療療養病床です。そのあり方については、病院団体を中心に協議する場が必要であると主張しています。

社会保障の安定財源のため消費税の引き上げが必要

―2018年度の同時改定では、財源を心配する声があります。消費税の引き上げが先延ばしされたことの影響が大きいですね。
 本来なら、今年の4月に10%になっているはずでした。引き上げが先送りされたために来年度の同時改定は本当に苦しいと思います。将来的にこの状態が続くとたいへんなことになるので、きちんと消費税率を引き上げていく必要がある。心配しているのは、財源がない中で、制度を維持していくために自己負担をあげていくしかなくなってしまうことです。
 今年度の予算編成では、社会保障の自然増6,400億円を5,000億円に抑制する必要があり、薬価の引き下げ財源を一部充てましたが、高額療養費や介護保険の負担を引き上げて帳尻を合わせています。
 こんなことを続けていると、社会保障のセイフティネットの機能が失われてしまう。社会保障の安定財源を確保するために消費税の引き上げは必要と考えています。
―消費税の対応で医療機関は苦しんでいます。この問題はどう考えますか。
 このまま医療は非課税でいけるのか、という問題です。控除対象外消費税の問題で、急性期の病院は苦労しているので、解決の方策についてもう一度仕切り直しをする時期にきていると思いますね。2019年10月に消費税の引き上げが予定されているので、スケジュールを考えると、来年の夏ごろに結論を出す必要がある。もう議論をはじめなければいけない時期なのです。

働き方改革への対応まずは実態把握から

―働き方改革の問題も病院に大きな影響がありそうです。
 これについては、四病協の「病院医師の働き方検討委員会」が動き出していて、ある程度の方針を出したところです。まず実態を把握しようということになっています。
 日本全体の働き方を変える話なので、医師だけ特別な扱いは難しいかも知れないが、それでも応召義務など医師の特殊性をきちんと訴えていく必要がある。また、救急医療も医師の当直をすべて勤務時間に入れたら、日本の救急医療はパンクしてしまいます。そこをどうしていくのか。とにかく実態を踏まえて考えていこうという話になっています。
 国の検討組織も間もなく立ち上がると聞いていますので、病院団体が入って意見を言う必要があります。
―専門医制度への対応をどう考えていますか。
 1年前に日本専門医機構の理事が入れ替わって、制度の実施を1年延ばして仕切り直しになりました。しかしここにきて各方面から地域医療に対する影響を懸念する声が高まって、結論が出ない状況になっていましたが、最後に厚労省が動きましたね。「医師養成の在り方と地域医療に関する検討会」をつくって、私たちの言いたいことを言ってくれました。誰もが専門医になるわけではないことや、女性医師に配慮してプログラム制とあわせてカリキュラム制を整備する、大学病院に限らず市中病院で研修を行うなどの方向が専門医機構の理事会で決まったと聞いていますが、我々の考えと一致しているので、いい方向に進んでいると思います。
―医師需給の問題も対応を急ぐ必要がありますね。
 現状で医師が不足しているのは事実なので、医師数は増やす必要があると主張しています。一方、医療提供体制で欠けているのは、プライマリケアを担う総合医であり、総合医が増えれば事態は変わるかもしれません。現状は、多くの医師が専門医を志向するために医師が足りなくなっている面がある。
 とくに高齢者の場合、多疾患を持っていることがほとんどですが、専門医が何人もかかわるのではなく、1人で診られる医師が必要です。
 ただし、総合診療専門医が普及するには、時間がかかるので、病院総合専門医の研修が必要と考えています。全日病の会員病院は全科がある大病院ばかりではないので、総合的にみられる医師でないと困ります。一定のキャリアがある勤務医が研修を受けることで、総合的な診療能力を身につければ相当変わります。

総務・財務委員会を改組ディスカッションを重視する

―多くの問題が山積していますが、どう対応しますか?
 いろいろな委員会が立ち上がることになると思いますが、総務・財務委員会に、副会長はじめ主要メンバーに参加していただき、責任をもって 議論をまとめ、ある程度の方向性を出して、それを理事会・常任理事会に示すようにします。理事会・常任理事会は、よりディスカッションができる場にしたいと考えています。
―最後に、これからの医療、そして全日病会員病院の進むべき方向についてお聞かせください。
 少子高齢化が進む中で、特に地方は人口が減っていきます。その中で医療機関としてどう医療を提供するかを真剣に考える必要があります。各病院が生き残っていくと同時に日本の現状に合わせてどういう体制がよいのかを考える時期にきていると思うのです。
 地域ごとに高次機能の病院があって、それは大学病院や県立病院が担い、各科の専門医療に徹するということでしょう。しかし、一般的な医療で入院が必要になる人はたくさんいるわけで、その部分を地域の中小病院が受け持つことによって全体として効率的な体制になると考えます。
 そこで、地域包括ケア病棟が重要な存在になります。全日病の会員の多くがその役割を担い、地域包括ケア病棟の実践の中でいい医療をつくっていけたらと思います。

 

全日病ニュース2017年7月15日号 HTML版

 

 

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  • [2] 会長の挨拶:全日病について - 全日本病院協会

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    全日本病院協会は、昭和35年に民間病院を主体とした全国組織として設立、昭和37年
    9月に社団法人として認可、そして平成25年4月に公益社団 ... この医療制度改革には、
    地域医療構想を含む医療計画、平成30年度医療・介護報酬同時改定、療養病床の
    受け皿となる介護医療院など、当協会 ... 公益社団法人全日本病院協会会長 猪口雄二.

  • [3] 全日病ニュース 2016年新年号

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2016/160101.pdf

    副会長 猪口雄二. 新年おめでとうございます。 全国各地で地域医療構想の姿が朧げ
    ながらも見えてきまし. た。療養病床の新たな選択肢も示されつつあります。4 月. には
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