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ホーム全日病ニュース(2018年)第925回/2018年9月15日号ICT、AIによって医療はどう変わるのか...

ICT、AIによって医療はどう変わるのか

ICT、AIによって医療はどう変わるのか

【夏期研修会を名古屋市で開催】医療の課題解決を支援するシステムに

 全日本病院協会の2018年度夏期研修会が愛知県支部(太田圭洋支部長)の担当で8月26日、名古屋市の名古屋国際ホテルで開催され、ICTやAIと医療のかかわりをテーマに特別講演が行われた。研修会には、全国の会員病院から54人が参加し、大きく変わる医療の将来像について見識を深めた。

 AIの登場で医師の役割が変わる
 名古屋大学総長補佐の水野正明氏(名古屋大学医学部附属病院先端医療・臨床研究支援センター教授)は「ICTを基軸とした生涯支援型地域包括ケア―医療・介護連携から統合へ―」のテーマで講演。AI、ビッグデータ、IoTといった新たなテクノロジーの登場で、今後10~ 20年で医療は大きく変わると予測した。
 疾病の体系は変わり、臓器別の医療は崩壊して内科や外科といった診療科の区別はなくなる。例えば、肺がんの遺伝子異常の一つであるALK遺伝子は、肺がんだけでなく、悪性リンパ腫や腎臓がん、神経芽細胞種にもみられる。ALK遺伝子の異常をもつがんをALKomaとして括れば、がんの発生臓器がどこであれ、ALK遺伝子の異常をもつがんはALK阻害剤で治療することができる。がん医療の分野では、診療科別に考える必要はなくなる。
 疾病の診断・治療においては、AIが主導する時代がくる。コンピュータ診断で注目されるIBM Watsonは、260万件の医学論文を知識ベースとしてもち、人間よりも高い精度で診断できる。Watsonは「高性能の医学辞書」と考えられていたが、新しい世代のWatsonは論文に書かれていない遺伝子の異常をみつけることができるようになった。人間が気づかないことを機械が指摘するようになり、「診断と治療は人よりもAIの方が優れている時代が来る」(水野氏)。
 新しいテクノロジーの登場によって、医師の真価が問われることになるが、医師の役割がなくなるわけではない。「AIは病人を診ることはできない。病気ではなく、病人を診る医師になることだ」と水野氏は述べた。

 地域包括ケアはどう変わるか
 2025年に向けて地域包括ケアが目指しているのは「高齢者の尊厳を支えるケア」。本人の生活スタイルや潜在能力を周囲が理解し、人格を尊重して、その人らしさを支えるケアである。そのためには徹底した自立支援が必要であり、①介護予防、②重症化予防、③生活支援に取り組んでいるが、成果をあげていないと水野氏は指摘する。「高齢者数は1.4倍になったが、介護対象者は2.5倍に増えている。これでは予防できているとはいえない。介護対象者が増え続ける介護サービスをこのまま続けていいのか。尊厳を支えるケアのあり方を検証し、確立を目指す必要がある」と強調した。
 愛知県では、地域医療介護総合確保基金を活用して、「在宅医療サポートセンター事業」に取組み、生涯支援型地域包括ケアを目指している。「事業を通じて県内のサービス事業者が一つの方向を見るようになった」のが最大の成果だ。
 県内では、水野氏らが開発した「電子連絡帳」が広く使われている。これは医療・介護のチームの情報共有ツールだが、自立を支援する観点から患者・サービス利用者が利用する「電子支援手帳」を開発し、情報共有を図っている。
 「電子連絡帳」と「電子支援手帳」はモバイル化し、スマホやタブレットなどの端末で利用できる。電話再診やモニタリングなどのオンライン診療にも活用している。

 AIとは何か
 帝京大学医療情報システム研究センター長の澤智博教授(医学部麻酔学講座)が「AIは医療をどのように変えていくのか」をテーマに講演した。
 澤教授は、AIとは何かを説明。AI(Artificial Intelligence、人口知能)の定義は人によって異なるが、澤氏が示した定義によれば、「人間や動物によって示される自然知能(Natural Intelligence)と対比して機械によって示される知性」である。一方で、機械によって実現できるようになったことは、AIの定義から外れる。
 1980年代の第2次AIブームの頃にAIと呼ばれた技術は、今日すでに実現し、AIとは呼ばれなくなった。当時は、医学知識をIF-THEN ruleでプログラミングしてコンピュータに与えた。しかし、IF-THEN ruleでは未知の課題への対応や矛盾するルールへの対応が難しい。
 現在の第3次AIブーム(2000年~)は、機械学習(machine learning)が主流だ。正解を教えなくても、コンピュータが自ら試行錯誤を繰り返して学習する。
 これまでのコンピュータは、人間が入力したり、データベースを与えたりしないと何もできなかったが、現在のAIは、自らの感覚器をもち、現実世界からデータを取得して、学習することができる。例えば、ドローンは周囲の状況を認識して障害物を避けて飛ぶことができる。外界と接するインターフェイスを持ち始めていることが現在のAIの最大の特徴であると澤氏は説明した。

AIを活かす医療情報システムはどうあるべきか
 急性期病院であれば、全体の経費の2%程度を電子カルテに使っている。澤氏は、「医療情報システムが医学・医療の課題解決を支援するものになっているか、コストに見合うものになっているか、厳しい目でみていく必要がある」と述べる。
 電子カルテの標準化の議論に関しては、「製品として標準化するのは難しい面があるが、システムからデータを取り出すときに標準化すればよいという考えがある」として、アメリカの実例を紹介した。アメリカでは、電子カルテ製品の認証制度があり、認証を受けるには標準化したデータを出力する機能が求められる。これにより、病院間のデータ連携が可能となっている。
 「医療情報システムは単体の機械ではなく、システムであり、システムには設計が求められる。どうしたら、医療者がよい医療を行うようになるかを考え、システム実装するのが今後のシステムのあり方ではないか」と問いかけた。
 研修会の最後に太田支部長が第61回全日本病院学会を来年9月28、29日に名古屋にて開催することを紹介し、幅広い参加を求めた。

 

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