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ホーム全日病ニュース(2023年)第1035回/2023年7月1日号2024年度を見据え働き方改革の推進をテーマに議論

2024年度を見据え働き方改革の推進をテーマに議論

2024年度を見据え働き方改革の推進をテーマに議論

【中医協総会】地域医療体制確保加算の廃止を含めた検討求める意見も

 中医協総会(小塩隆士会長)は6月14日、2024年度診療報酬改定に向けて、「働き方改革の推進」をテーマに議論した。2024年度は医師に対する時間外労働規制が施行される年度でもあり、これまでに講じてきた診療報酬や補助金での対応の成果が問われる段階にある。2020年度診療報酬改定で導入した地域医療体制確保加算については、支払側委員が廃止を含めた検討を求め、診療側委員は「廃止はあり得ない」(長島公之委員・日本医師会常任理事)と反対した。
 長島委員は、働き方改革の推進に対する診療報酬のあり方について、「医師の働き方改革では、勤務医の健康を守ることと同時に、地域医療を守らなければならない。そのために、診療報酬や補助金による後押しが必要になる。一朝一夕に達成できるものではなく、さらなる強力な支援が求められる。働き方改革はまだ始まったばかりで、十数年にわたって継続されるものであり、これからが本番だ」と、これまでに行ってきた評価の維持・継続を求めた。
 また、人材確保のためには、賃上げにも対応しなければならないが、「医療費は価格転嫁ができないため、診療報酬での対応が必要になる」と訴えた。
 働き方改革では、ICT・ロボットの活用が期待されている。同日の資料では、介護の事例を通して、見守り機器による夜間見守りや介護ロボットの活用が例示された。しかし、日本医師会常任理事の江澤和彦委員は、「介護現場でもまだエビデンスを確認している段階」と指摘。特に、「介護ロボットを医療現場で積極的に活用するのは、時期尚早」と述べた。

宿日直と治療室の関係を明確化
 日本病院会副会長の島弘志委員は、宿日直許可の取得について発言。「地域の病院では、医師の時間外労働の上限規制の適用に向け、宿日直許可を取得する動きがある。労働基準監督署において許可の判断が行われているが、本来であれば、宿日直許可が与えられない医師に許可が与えられることが常態化してしまえば、医師の働き方改革に逆行することになりかねない」と安易に許可を出すことには、反対した。
 その上で、「特定集中治療室に配置される医師が、宿日直許可を得ることはあり得ない。しかし、例えば、一部の小規模のNICU(新生児集中治療室)やMFICU(母体胎児集中治療室)など、業務の実態を踏まえ、宿日直の医師が対応することが可能と考えられる治療室があることを考慮する必要がある。次期改定に向けては、治療室と宿日直許可の関係が明確になるよう、見直すことが課題になる」と述べた。
 これに対し、厚生労働省の眞鍋馨医療課長は、治療室と宿日直許可の関係について、明確にすることを検討する考えを示した。
 一方、健康保険組合連合会理事の松本真人委員は、特定集中治療室等で、宿日直許可を得ることができる場合があることに、「驚きを感じざるを得ない」と述べ、宿日直の実態を厳しく注視していく姿勢を示した。

医療現場での介護職の位置づけ
 日本慢性期医療協会副会長の池端幸彦委員は、病棟薬剤師の配置が、医師の負担軽減・医療の質向上に「効果がある」、「どちらかといえば効果がある」と医師の8割以上から回答があったとのデータなどを踏まえ、発言した。「病棟薬剤師へのニーズが病院にあっても確保できない。給与格差があり、病院よりも大手調剤薬局チェーン経営企業に流れてしまう。診療報酬で手当てしないといけない」と訴えた。
 全国健康保険協会理事長の安藤伸樹委員は、「給与格差が問題になっているというのであれば、昨年10月に導入した看護職員の処遇改善のための看護職員処遇改善評価料を薬剤師でも活用できるようにしてはどうか」と提案した。
 なお、厚労省は、病棟薬剤師確保に関して、地域医療介護総合確保基金(医療分)において、「都道府県が認めた薬剤師が不足する地域に所在する医療機関等を勤務地として、一定期間の勤務を修学資金返済義務免除要件としているもの」に限って、「薬剤師修学資金貸与事業を行うために必要な経費」を申請できることを紹介した。
 また、池端委員は、医療現場における介護職の業務の必要性が増大していることを訴え、看護補助者の処遇改善を要望するとともに、介護職を看護補助者と位置付ける制度の見直しを再度求めた。
 これに対し、日本看護協会常任理事の吉川久美子専門委員は、「看護補助者の確保に病院が苦労しているのは事実だが、看護補助者という職種が知られていない問題もある。看護協会として、看護補助者に対する理解をハローワークで深める活動を行っている。介護福祉士が看護補助者を担っている場合もあるが、介護福祉士は介護の現場で働いてもらうべきで、診療報酬で評価することには、私たちとしては反対せざるを得ない」と述べた。
 特定行為研修を修了した看護師については、第8次医療計画で、就業者数の目標値を「在宅・慢性期領域の就業者数」、「新興感染症等の有事に対応可能な就業者数」、「医療機関における看護の質の向上とタスク・シフト/シェアに資する就業者」に分けて、設定することになっている。現状をみると、2023年5月時点の指定研修機関は360、修了者数は6,875人で、年々増加している。ただ、委員からは、当初の目標と比べれば進捗しておらず、さらなる支援策が必要との意見が出た。
 なお、特定行為研修を評価する診療報酬の項目は改定を経るごとに増えており、2022年度改定では、栄養サポートチーム加算など各種チーム加算、重症患者搬送加算、重症患者対応体制強化加算、早期離床・リハビリテーション加算がある。訪問看護では、専門性の高い看護師による同行訪問、機能強化型訪問看護管理療養費1~3、専門管理加算の「ロ」で評価している。

地域医療体制確保加算の状況
 医師の働き方改革における診療報酬対応で、象徴の一つとなっている2020年度改定で導入した地域医療体制確保加算をめぐっては、松本委員が、「地域医療体制確保加算を算定している医療機関の勤務状況の調査結果をみると、残念ながら、時間外労働時間が月80時間(年960時間相当)以上の医師の割合は、2020年から2022年にかけて増加している。政策効果に疑問があり、この加算を継続するかを含め議論が求められる。継続するとしても、要件を見直すことが必須となる」と述べた(図表を参照)。
 これに対し、長島委員は、「もっと活用され、効果あるものとするための改善が必要ということで、廃止はあり得ない」と反論。その上で、「働き方改革にはコストがかかる。医療従事者が不足しており、それを確保するためにも、財源が必要だ」と訴えた。
 地域医療体制確保加算は入院初日に620点を算定でき、施設基準では、「医師労働時間短縮計画作成ガイドライン」に基づき、「医師労働時間短縮計画」を作成することや、「救急医療に係る実績として、救急用の自動車または救急医療用ヘリコプターによる搬送件数が、年間で2,000件以上である」(2022年度改定で、満たせない場合の別の基準も追加)ことなどを求めている。
 直近で1,050病院、200 ~ 399床の病院の27.3%、400床以上の病院の63.7%が算定している。
 そのほか、松本委員は、診療科別の平均労働時間の上位が、外科・脳神経外科・救急科であることを踏まえ、「一律の評価ではない仕組み」を求めるとともに、医療現場の個別の取組みに期待した。
 また、日本経済団体連合会社会保障委員会医療・介護改革部会長代理の眞田享委員は、病院の院長・副院長に対する質問で、医師の勤務状況の改善必要性について、「現状のままでよい」との回答が57%であったことに関し発言。「経営トップの改革マインド、リーダーシップが重要であるのは病院も企業も同じだと思う。その意味では、改善の余地があるのではないか。医師の働き方改革では、これまでの診療報酬の評価の継続やさらなる要件緩和だけでなく、効果の高い取組みを見極めて実施する必要がある」と強調した。

 

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