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ホーム全日病ニュース(2023年)第1035回/2023年7月1日号介護や在宅医療を含めた新たな地域医療構想を考える

介護や在宅医療を含めた新たな地域医療構想を考える

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【支部長・副支部長会】猪口会長が「2024年に向けた病院運営」をテーマに講演

 全日病の猪口雄二会長は6月17日の第1回支部長・副支部長会で、「2024年に向けた病院運営」をテーマに講演を行った。◇医師の働き方◇医療DX◇第8次医療計画◇地域医療構想◇かかりつけ医機能─に関して、最近の情勢を報告するとともに、病院運営にとって重要なポイントを伝えた。
 医師の働き方については、来年度からの時間外労働規制の適用を踏まえ、特に、宿日直許可の取扱いが説明された。時間外労働基準では、複数の医療機関に勤務する場合、労働時間が通算される。このため、宿日直許可が取れていない医療機関への宿日直が敬遠される可能性がある。猪口会長は、「宿日直許可を取ったほうが、大学病院などからのアルバイトが受けやすくなるのは間違いない」と述べた。
 ただ、「二次救急で救急車を数多く受け入れる病院が許可を受けるのは難しい」。一方で、労働基準監督署も最近は、実態に即した判断を行うようになってきたという。例えば、2022年7月29日の事務連絡などにより、◇救急や産科だからという理由で、宿日直許可を取得できないことはない◇大学病院や基幹病院でも、宿日直許可を取る時間帯の工夫により取得しているケースがある─との考え方になっている。
 特に、土曜夜から月曜朝までの連続した宿日直である「連直」でも、「宿日直の体制を確保するために、遠方から非常勤の医師を確保している」ような実態がある場合は、認められる事例が出ていることを報告した。実際、医師の宿日直許可の件数は、2020年に144件であったのが、2022年には700件を超え、さらに増え続けている。
 病院団体の働きかけにより、厚生労働省に相談窓口が設置され、多くの相談が寄せられたことが、現場への理解に役立ったとの見方も示した。

標準型電子カルテは病院も対象
 医療DXは、政府の工程表が6月2日に確定し、様々な分野の計画が同時並行で進んでいる。医療機関にとっては、今年度からオンライン資格確認が原則義務化され、そのシステムを通じた様々なネットワークが医療DXの基盤となる。診療報酬改定DXをはじめ多くの業務を社会保険診療報酬支払基金が担う。猪口会長は、従来の専用回線を用いた仕組みではないため、サイバーセキュリティへの対応と安全性を確保するための費用、業者の人手不足への懸念を示した。
 電子処方箋については、病院の導入はまだ11施設で、普及していない。「病院内で個人認証を行うシステムの導入が進まない状況になっており、国もそれを認識している。病院側があせる必要はない」と指摘した。
 一方、診療報酬改定DXは「共通算定モジュールの開発・運用」、「共通算定マスタ・コードの整備と電子点数表の改善」、「標準様式のアプリ化とデータ連携」、「診療報酬改定施行時期の後ろ倒し等」の4つのテーマで検討が進んでいる。
 背景には、2月半ばに診療報酬の改定内容がまとまり、その後、5月に医療機関が最初の請求を行うまでの間、ベンダや医療機関に膨大な業務が発生しているので、それを軽減するためということがある。
 共通算定モジュールは、診療報酬の算定と患者負担金の計算を行うものと説明される。猪口会長は、「共通算定モジュールでレセプトは出せない。レセプトを出せれば、診療報酬の算定と患者負担金の計算はできるのだから、何の役に立つのかという話になる。実は、共通算定モジュールを作ることが目的ではなくて、それを基に、標準的なレセプトコンピュータを作り、クラウドで運用する標準型電子カルテにバージョンアップすることを想定しているのではないだろうか」と述べた。
 標準型電子カルテは、「診療所と一部の病院の利用が想定される。精神や療養、あるいは回復期リハビリテーション、地域包括ケアだけを行っている病院などが対象となり、総合病院などでは難しいと思う」と説明した。

病床機能から病院機能へ
 第8次医療計画については、5疾病・5事業及び在宅医療で構成される医療計画に、今回から新興感染症対応も加わる。内容が膨大であるため、2点についてのみ指摘した。
 1つ目は、循環器病対策推進計画における脳卒中・心臓病等総合支援センターのモデル事業として、支援センターを大学病院などに設置されていること。支援センターは、地域の病院やかかりつけ医と連携しつつ、患者や地域住民に情報提供し、相談を受け付ける事業を行っていることが報告された。
 2つ目は、救急医療の考え方の整理で、「第二次救急医療機関は、高齢者救急をはじめ地域で発生する救急患者の初期診療と入院治療を主に担うなど、地域の救急医療機関間の役割を明確化する」と記述されたことに着目し、今後、二次救急医療機関の役割や評価を明確化するための議論が行われるとの見方を示した。
 地域医療構想は2025年を目標とした構想であるため、それ以後の構想を考える段階にきている。猪口会長は、現状の構想について、◇構想区域が人口2、3万~ 200万人超までばらばら◇急性期と回復期の区分が曖昧◇介護や在宅医療との整合性が取れない─などの問題を指摘。新たな考え方で構想を作らなければいけないと強調した。
 その際に、病床機能で医療機能を表すと、国民・患者にとってわかりにくく、病院が担う主な機能として、急性期と回復期を区別する困難も残る。
 このため、介護や在宅医療と連携する機能を含め、病院機能として表すほうが望ましいとした。例えば、市区町村を圏域とする地域医療連携病院は、急性期も回復期も含んだ地域包括ケアの機能を担い、二次医療圏単位で二次救急を担う急性期病院とは異なる位置づけになる。
 最後にかかりつけ医について、通常国会で成立した改正健康保険法等に「かかりつけ医機能が発揮される制度整備」が盛り込まれ、それは、財務省の財政制度等審議会の建議などで主張されたような、かかりつけ医の法制上の明確化、認定、事前登録・医療情報登録ではないことが説明された。
 厚労省の社会保障審議会・医療部会でまとめた「医療提供体制のあり方について」などに基づき、全日病では、かかりつけ医機能に関する考え方を示している。そこで、地域に密着し地域医療を担う病院を「かかりつけ医機能支援病院」として位置付け、民間中小病院の役割が重要であることを会員病院に周知している。
 また、かかりつけ医については、「日本プライマリ・ケア連合学会と協働し、全人的な医療と相談機能に必要な病院総合医育成事業の継続と拡大」を図っていることが報告された。

 

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