全日病ニュース

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高齢化の下、入院に準じた在宅医療が求められる

高齢化の下、入院に準じた在宅医療が求められる

【第56回全日本病院学会in福岡】
診療所のNWと高レベルの訪問看護、それを支える病院が不可欠

病院のあり方委員会企画「地域包括ケアシステムと医療介護連携」から

松田晋哉産業医科大学医学部教授の講演(要旨)

 福岡県の京築医療圏における今後の患者動向を推定すると、まず、外来患者の総数が減っていく。筋骨格系、循環器、眼科は1割ぐらい増えるが、それ以外は減っていく。
 一方、入院は2割ぐらい増える。とくに増えるのは肺炎、骨折、脳血管障害である。脳血管障害の増加は、患者が急性期から慢性期へ積み上がっていくことを意味している。脳血管障害は医療計画に書き込まれてきたが、肺炎や骨折はほとんど記載されていない。
 高齢者の増加によって急性期医療を必要とする患者も増える。その一方で、急性期医療は在院日数が短くなるので、急性期病院は連携体制が欠かせなくなる。つまり、ポストアキュートの病院が地域にないと、急性期医療は回らなくなる。
 さらに、介護ケア、リハケア、ADLケアを必要とする患者が急増する。社会的入院の温床ということで療養病床を削ってきたが、今の入院受療率を前提とすれば療養病床は足りなくなる。
 しかし、これ以上療養病床を増やせないのであれば在宅で対応するしかない。すなわち、今、入院医療で提供している医療を在宅で供給しなければならなくなる。
 死亡数は年間160万~170万人に増える。これを病院で迎えることは難しいが、在宅死を増やすことも難しいだろう。その結果、ぎりぎりまで在宅で過ごして最期は病院で亡くなる、つまり、死に場所としての病院をシェアするということになるだろう。
 そうなると、疼痛管理ができ、吐血や下血にも対応できる、スキルの高い訪問看護がなければ対応は難しくなる。そういう意味からも、これからは、在宅療養を支援する病院がとても重要になってくる。
 しかし、1人の先生が24時間365日対応するという在宅療養支援診療所では無理があり、診療所がネットワークを組む体制をつくらないといけない。それには、ネットワークをつなぐとともに医療的に支援し、もしものときに入院を引き受ける病院と、ネットワークの中を自由に動く訪問看護がないと難しい。
 このように、地域では、急性期からの受け皿機能と在宅ケアの支援機能を持った、亜急性期を担う病棟と老人保健施設みたいなものがきわめて重要になってくる。
 次に、地域包括ケアという視点から考えたい。高齢社会において介護、医療機関が果たす役割は何か。それは狭義の医療・介護だけではない。
 独居の後期高齢者が増える中、彼らの生活を地域で保証しない限り、在宅ケアを強いるのは残酷ではないか。まずは住の保証であるが、大切なことは高齢者を孤立させないということ、そして、食の確保と買い物支援など生活を支える仕組みをきちんと用意すること。つまり、医療機関が持っている生活保障機能を地域に開放できないかということである。
 青森県のクリニックは「浅めし食堂」を開いて高齢者の外出機会をつくっている。北九州市の「ふらて会」という病院は農作業を通したリハを一般の高齢者にも開放して、生きがいづくりをやっている。
 こうした門前町のような集いの場を確保して高齢者のアクティビティーを引き出す―。医療機関はこういうこともできるのではないか。
 地域で高齢者が隔絶されるのではなく、高齢者と地域がまとまることができる、そういう場所を提供する、ヨーロッパでいう「施設の社会化」という機能が、医療機関や介護施設にあってもいいのではないか。

地域包括ケアを支える統合とインテグレーテッド

神野正博副会長「超高齢社会に向けた地域包括ケアのあり方を考える」(要旨)

 今や地域で連携する医療が求められているが、まずは、急性期から回復期あるいは慢性期そして在宅へと垂直に連携していく、医療の流れがある。次に、それに加えて医療と介護の連携もある。いわば縦軸と横軸からなる二次元で、まさに2Dなわけだ。
 地域包括ケアというのは、この2つをきちんと整えることが大きな題目ではないかと思うが、実は、その先には3Dがあるのではないか。
 それは、高齢者には医療と介護の行き来が一生続くわけだが、それを時間軸で我々がどう管理できるかという視点である。さらに、その次には4Dがある。予防、セルフマネジメント、はセルフメディケーションといった日常の行為を我々の情報にどうつなげていくかという視点である。
 さて、自院(恵寿総合病院)をみると、全病棟の43.8%が75歳以上であり、救急搬送されるうちの20%が85歳で、半数が75歳以上という実態がある。人口減と高齢社会化の能登半島でどうやっていくのかという問題に直面している。
 人口の減少は大変な問題で、地域の崩壊は医療の崩壊となる。逆に、医療の崩壊は人口減少を加速させて地域を崩壊させる。たとえ民間病院であっても、我々には、地域を守るために安心を提供するというBCPの一躍を担っているという自負が必要だ。
 今後は、選択と集中の対象になるためにはどうすべきかということも考える必要がある。
 地域包括ケアは、機能分化した医療機関同士あるいは介護事業者との連携が柱となるが、果たして、“お友達の関係”だけでいいのだろうかということもいえる。すなわち、これからは統合という考え方も必要になるのではないか。
 統合とはガバナンスのことであり、ビジョンを共有化して、ひとつの意思で皆が動く形をいう。厚生労働省は地域包括ケアの「包括」をインテグレーテッドすなわち統合・統括と言い表している。
 うまくいっている地域包括ケアにはリーダーシップを持つ者がいるが、きちんと意思を統一、統合、統括できるというのが地域包括ケアの本質ではないか。それをやらないとうまくいかないのではないかとも考える。
 地域包括ケアは全体で情報共有しないと回らない。ガバナンスによってこれを統括する地域をつくることができるかということが、インテグレーテッドした地域をつくる鍵になるのではないかと思う。
 医療・福祉複合体の恵寿総合病院グループは、インテグレートした仕組みにするために、グループ内をオンラインでつないで1患者・1利用者・1IDとした上で、共通アセスメントも実現した。
 これはグループだからできるが、地域でこれをつくるのはかなり大変だ。しかし、我々はこれを創り上げて、地域の皆さんはこれでやってほしいと、それこそ、リーダーシップを発揮するという気概で取り組んでいくことが大切であるとも思っている。

データから自院ケースミックスと医療圏の実情を再確認すべし

シンポジウムから(敬称略)

徳田座長(病院のあり方委員長)  地域包括ケアを考えるときに担い手不足をどうするかという問題があり、いかにして効率化を図るのかが問われる。そのためには集約化と連携が必須。集約化には、提供者側の協力と、サービスを受ける人をまとめる方法とがある。
 地域で複数の医療機関が連携して一定範囲をまとめて診る、即ち医療を面で提供していく方法もある。いかに集中させるかという考え方が不可避であり、組織同士の統合という方法も必要だと思う。
会場質問 集中という場合に、そのやり方は地域地域の実情に合わせたきめ細かなものであることが必要。全国一律の考え方ではうまくいかないと思うが。
徳田 私もそう思う。
会場質問 在宅に戻った後の医療が不足している。在宅患者に入院と同質の医療を提供する仕組みが必要ではないか。
松田 入院と介護の間に位置する、米国のメディカルホームのような仕組みが日本でも必要になるだろう。先ほど、医療機関はもっとサ高住にかかわっていくべきと申し上げたが、高齢者の住は医療の提供しやすさを前提に考えなければならない。医療と住宅の複合体をどうつくっていくかである。その場合に有床診を活かすという方法もある。
徳田 本日の議論で、データが示すものをよくみることの重要性が示された。ぜひとも、自施設のケースミックスと医療圏の実情を確認し、その上で、地域包括ケアにどうかかわるべきかを再確認していただきたい。
 2025年まで10年あるが、個人的には、もっとスピード感が求められると考える。大事なことは住民の参加である。皆さんには、地域に住民に対する地域包括ケアの啓発に努めていただくようお願いしたい。