全日病ニュース

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新たな施設類型案に既存施設を改修した「医療のついた住まい」

新たな施設類型案に既存施設を改修した「医療のついた住まい」

【療養病床の在り方等に関する検討会】
医療区分1の要介護度高い患者を想定。構成員からは疑問視、慎重な声

 10月9日に開かれた「療養病床の在り方等に関する検討会」(写真)は、事務局(厚生労働省保険局医療介護連携政策課)が示した“さらなる議論事項”を踏まえ、慢性期の患者を受け入れる新たな施設類型をめぐって、一歩踏み込んだ議論を展開した。
 この日の議論から、新たな施設類型の案として、既存療養病床(25対1および介護療養病床)を改修した、医療区分1の要介護度の高い患者を想定した「医療のついた住まい」が浮上、議論がこれに収斂していく可能性が生じた。
 これに対して、他の構成員からは慎重な検討を求める意見が相次いだ。

 武藤構成員(国際医療福祉大学大学院教授)は医療区分2・3に該当する患者の割合を取り上げ、訪問診療では45%、介護療養では24.6%、医療療養は71.3%となっていることから、「在宅における2・3患者の割合は介護療養よりも高い。
 介護療養病床に入院する2・3の患者は在宅でみることができるのではないか」と問題提起。
 その上で、「病院併設型の住宅が選択肢として考えられる。25対1の一部をこちらに回してはどうか」と提案した。廃止が予定されている介護療養病床からの転換も想定されていると思われる見解である。
 同構成員の「介護療養病床の医療区分2・3患者は在宅へ」という発想は、後段に提案した「病院併設型の住宅」を意味したものと思われるが、この論法に従うと、20対1の医療区分2・3患者まで在宅の対象となりかねない。
 訪問診療の患者の医療区分2・3 が45%という点については、訪問診療に関するデータが標本数364と少ないことからデータの再吟味が求められる一方、複数の医療系委員から「同じ医療区分でも、施設にいるときと在宅とでは意味が異なる。同じ基準で判断できない」との指摘も出るなど、武藤構成員の提案には、少なからぬ構成員が疑問を示した。
 一方、田中構成員(慶応大学名誉教授)は、「医療と介護と住まいを組み合わせることが大切。介護の世界には色々な組み合わせがあるが医療の供給がない。医療には暮らしをベースにした施設がない。これから必要になるのは要介護度が高いが医療必要度が低い人に対するサービスだ。住まいをベースに介護を組み合わせ、そこに一定程度の医療を供給する。そうしたミックス型の施設が必要ではないか」とする見解を表わした。
 また、「新たに医療+住まいの施設を考えるか、あるいは、(既存医療施設を活用して)同じ敷地・建物に手を加えて病床でもあり住まいでもある空間をつくり、人員基準を変えて同じスタッフがみていく」のかとも発言、選択肢の議論を絞り込む提案を行なった。
 同構成員は「私は在宅論を述べているわけではない。医療がそばにある新たな施設を考えるべきと申し上げている」として、これまでの在宅強化論とは一線を画したが、この提案は武藤提案の後段(病院併設型の住宅)とも重なるものがある。
 こうした提案に池端構成員(医療法人池慶会理事長・池端病院院長)は賛同する旨を表明。
 20対1病床から取り残される「医療区分1の患者をどうみていくかが主要なテーマ」との認識を示した上で、「転換型老健でもできなかった医療を提供できるようにすべきであり、療養機能強化型の機能は残すべきだ」と論じた。
 ただし、「利用者の負担水準を考慮しないとうまくいかない」ことから、「本人負担は医療療養とサ高住の間でおさめないとならない」とし、「今ある施設を利用していくべき」と主張した。
 この提案に対しては複数の構成員から「6.4m2で住まいといえるのか」という疑問が示されるなど、検討会には慎重な向きも多い。
 この提案に関連して、嶋森構成員(慶応大学元教授)は、主に看護師をさしながら、「こうした施設の人員基準を緩めて少しでも在宅医療に向かうようにしてほしい」と発言。池端構成員もその考えに賛成した。
 鈴木構成員(日医常任理事)は、「今よりも負担額が増え、医療や介護が手薄くなる。これで患者や家族が利用したがるだろうか。このままではうまくいかない。もう少し実際的な問題を含めて考える必要がある」と述べ、新たな類型案の絞り込みなど性急な議論の展開を戒めた。
 土屋繁之構成員(医療法人慈繁会理事長・全日病常任理事)は、「新しい枠組みという考え方は確かに大切」とした上で、「病院では患者の状態を悪化させないためにかなりの手がかかっているが、在宅ではそこまでできないので、医療区分1の患者がすぐに2・3と病態を悪化させる可能性が高い。その結果、急変して病院に救急搬送されるケースが増えるのではないか」と指摘し、医療区分1の患者も在宅で可能とする発想に強い疑問を表わした。
 さらに、既存施設の転換論に対しても、「25対1や介護療養病床はそれぞれ高いレベルの医療を提供している。それを新しい施設に転換させた場合に質の低下が懸念される。また、個人負担の増加が避けられない。それだけでなく、経営的な見通しへの不安、病院でなくなる転換で生活ができなくなる医療従事者が出る可能性があるなど、色々な問題が生じる」と指摘。
 「はたして若いマンパワーが確保できるのか。何よりも、経営が立ち行かなくなる事態だけは避けたい」とも述べ、患者だけでなく、経営者や医療スタッフの視点からも検討する必要があるとの認識を示した。