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ホーム全日病ニュース(2022年)第1008回/2022年5月1日号調査研究事業を通じて高齢者の医療・介護の問題に中小病院の意見を反映したい

調査研究事業を通じて高齢者の医療・介護の問題に中小病院の意見を反映したい

調査研究事業を通じて高齢者の医療・介護の問題に中小病院の意見を反映したい

シリーズ●全日病の委員会 第11回 高齢者医療介護委員会・介護医療院協議会 黒澤 一也 委員長に聞く

 全日病の委員会を紹介するシリーズの第11回は、高齢者医療介護委員会・介護医療院協議会の黒澤一也委員長にご登場いただきました。黒澤委員長は、昨年8月に高齢者医療介護委員会の委員長に就任。同委員会は、改組により高齢者医療介護委員会・介護医療院協議会としてスタートしました。黒澤委員長に同委員会の今後の取組み方について聞きました。
介護医療院協議会との統合で幅広い分野を担当
──高齢者医療介護委員会・介護医療院協議会の活動について、教えてください。
 当委員会では、厚生労働省の委託事業である老人保健健康増進等事業による調査研究事業を担当しています。厚労省が示すテーマから当委員会で取り組むテーマを選定し、みずほリサーチアンドテクノロジーの協力を得て、調査結果をとりまとめ、それに基づいて提言をしています。例年2つのテーマを選定していますが、これが一番の大きな事業になっています。
 もう一つは、前委員長の木下毅先生が始められた医療保険制度・介護保険制度の簡素化に向けた検討があり、委員の先生方の施設の職員を構成員としてワーキンググループをつくっています。コロナ禍でここ2年ほど活動を休止していましたが、3月にWeb会議を開き再開しました。
 高齢者の医療・介護に関する様々な問題に関して、老健事業の調査等を通して、中小病院の意見が反映できればと考えています。
── 黒澤先生の委員長就任と同時に、高齢者医療介護委員会は、介護医療院協議会と一緒になったのですね。
 2018年に介護医療院の制度化に伴い、全日病で介護医療院協議会を立ち上げました。当初は、どのように介護医療院に移行すればよいかわからず、手探りの状況でした。介護医療院協議会では、土屋繫之先生が議長を務められ、私も構成員に加わって、調査をしたり、アンケートをとるなど、いろいろ活動をしてきました。
 最近は介護医療院への移行もスムーズにできるようになっていますし、介護医療院の数もそれなりに増えてきて、協議会で検討してきた内容については、ある程度、結論が出たということで、委員長交代にあわせて、高齢者医療介護委員会と一緒にしてはどうかという話になりました。
訪問リハとリハ職の訪問看護の違いを調査
──2021年度の老人保健健康増進等事業では、「地域における訪問看護・リハビリテーションの実態調査」と「居住系サービス等における医療ニーズの調査」の2つの研究事業に取り組み、すでにホームページに報告書が掲載されています。調査研究のポイントを教えていただけますか。
 1つ目の「地域における訪問看護・リハビリテーションの実態調査」は、介護保険の訪問リハビリとリハビリ職が行う訪問看護に、違いがあるかに着目し、実態調査を行いました。
 訪問リハは、医師の診察が必要でいろいろ手間がかかることや、地域によっては訪問リハステーションを立ち上げにくいという事情もあり、一時期、リハ職を大量に抱えてリハを行う訪問看護ステーションが多く見られました。これについては、何回かの介護報酬改定で是正されてきたのですが、まだ本来の目的である「訪看からのリハビリ」がきちんと行われているのか、「訪問リハ」と「訪看からのリハ」の違いが本当にあるのか、意識ができているのかという問題があります。当院(くろさわ病院)でも両方を持っていますので、個人的にも関心のあるテーマです。
 結果としては、両者の違いをわかっていても、実際にケアマネが利用する際には、使いやすい方を使ってしまうとか、地域に訪問リハがないので、訪看から行くしかないという実態があることがわかりました。実際に調査をしてみると、訪看からのリハの対象となっている利用者さんは、重症度が高かったり、慢性疾患があるなど、訪問看護の必要性がある方が多い実態を確認できました。それでも、両者の違いがわかって利用しているかというと、そうでもないということがあります。両者の目的をわかった上で、使ってもらいたいし、それに合わせた報酬がつけばいいと思います。
 特に訪問リハビリに関しては、「二重診察」と呼んでいますが、かかりつけの医療機関と訪問リハの事業所が異なる場合に利用に際して双方の受診が求められることになり、非常に手間がかかります。そのために、訪問看護のリハビリに移行してしまうという指摘があります。ただ、「二重診察」に関する手間をなくしてしまうことにも問題があり、提言に当たっては文言を慎重に検討する必要があります。
 調査の結果、訪問リハとリハ職による訪看の違いを理解していても、実際には違いが出ていないことがわかりました。訪問リハは、訪問リハを利用すべき利用者さんが利用できるような体制をつくってほしいという思いで、提言をまとめました。
居住系サービスにおける医療ニーズを調査
 もう一つの「居住系サービス等における医療ニーズの調査」では、委員の先生方の施設にヒアリングに参加していただきました。調査してみると、リハや訪問看護を使えない居住系サービスにおいても、それらのニーズがあることがわかり、条件を満たせば、訪問看護や訪問リハを利用できる体制にしていくことも必要ではないかと思いました。ただ、何でも認めるとなると問題もありますので、どのように提言していくか難しい面もあります。
 2つのテーマとも、データをもとに我々の思いをストレートに打ち出すのは難しい面もありますが、調査結果から今後の報酬改定や制度変更に影響があるような内容を導き出せたのではないかと考えています。
 2021年度の調査研究事業は、厚労省に報告書を提出しましたが、せっかく大規模な調査をしましたので、これで終わりではなく、全日病学会の委員会企画で、調査結果を周知しながら、皆さんの意見を聞いて、提言できたらいいと思っています。
──2022年度の調査研究事業も、テーマが決まっていますね。
 厚労省から多くのテーマが示されているので委員の先生方がご苦労されましたが、2つのテーマを選びました。
 一つは、「介護付きホームにおける医療行為の看護職員による円滑な実施に向けた調査研究」です。2021年度に居住系施設の医療ニーズを調査したので、それに続く調査研究になります。
 もう一つは、「介護施設等における認知症者の感染防止・安全管理策の手引等に関する調査」で、病院医療の中で、どういう形で取り組むか、今までと違った視点で捉えると面白いのではないかということで選びました。
 認知症者の感染防止は、コロナの対応もありますので、現場で役立つ知見が得られるのではないかと期待しています。
アイデアを集め事務の簡素化を進める
──医療保険制度・介護保険制度の簡素化に向けたワーキンググループが3月に検討を再開したそうですので、今後の見通しを教えてくれますか。
 ワーキンググループは、最初のメンバーがほぼ残っていて、3名ほど入れ替えになりました。これまでのワーキンググループで、ケアマネジャーが使う入院時情報連携シートと主治医意見書・認定審査会の簡素化についてまとめていますので、おさらいの意味で、資料の確認をしました。そのほか、入院診療計画書や総合評価票、ADL評価票、退院支援計画書などの書類等の簡素化について意見が出ていたので、皆さんの意見をききました。
 主治医意見書や入院診療計画書などは、行政から書式が指定されていて、ワーキンググループで提言して変えられるかというと、難しいというところもあり、今後の検討テーマについては再度見直しをしようということになりました。
 また、ワーキンググループは、事務職とケアマネジャー、看護師で構成されていますが、リハビリの評価票などを検討する必要があるということで、リハビリのスタッフにも加わっていただくこととし、本庄病院の理学療法士の方に参加していただくことになりました。
 ワーキンググループを今後どのように進めていくか難しいところもありますが、木下先生の肝いりで始まったものなので、ぜひ継続していきたいと思います。
 厚労省や厚生局の指定の計画書や評価票を変えるのはなかなか難しいのですが、サマリーや看護記録など、ある程度カスタマイズできる書類については、運用の仕方も含めて考えていきたいですね。
 例えば、電子カルテがあっても使いこなせないために、手書きになっていることもあり、W o r d やExcelを活用して、入力や保存、引継ぎの手間がかからないような書式など、いろいろアイデアを集めて情報提供することで、簡素化を進めることができるのではないかと思います。できるだけ多くの意見を募って進めたいと思います。
地域医療構想における介護医療院の位置を検討
──介護医療院協議会については、今後どのようなことが課題となりますか。
 委員会では、介護医療院協議会について意見が出ている段階ではないのですが、転換については現在でも手続きが煩雑ですので、土屋先生の意見をききながら、引き続き検討したいと思います。
 介護医療院は数も増えてきて、メジャーになりつつあります。今後、地域医療構想でベッド数をコントロールしていく中で、介護医療院への転換は重要なポイントになると思いますので、執行部と相談しながら進めたいと思っています。
 さしあたって全日病の会員で、介護医療院に転換された先生がいらっしゃいますので、アンケートをとって、転換を考えている先生に対してアドバイスをいただければと思っています。

──最後に今後の展望について聞かせてください。
 木下先生からのご指名で、このような大きな委員会の委員長を仰せつかり、なおかつ介護医療院協議会も一緒に担当することになり、責任の重さを感じています。委員会の先生方は大先輩ばかりで、助けていただきながら始めていますが、非常に勉強になりますし、先輩方のご意見をお聞きするなかで、私自身、病院が直面する問題について考えることが多くなりました。
 会長をはじめとする役員の先生にご助言をいただきながら、全日病の会員の先生に有益な調査研究や提言などの委員会活動ができればと考え、頑張っていきたいと思います。

 

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