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ホーム全日病ニュース(2023年)第1040回/2023年9月15日号「長崎 出島から日本の医療を考える」を主題に夏期研修会

「長崎 出島から日本の医療を考える」を主題に夏期研修会

「長崎 出島から日本の医療を考える」を主題に夏期研修会

【全日病・夏期研修会】増﨑理事長が「長崎の医療の歴史」、松田教授が「地域密着型病院の今後」について講演

 全日病は8月27日、長崎県支部(井上健一郎支部長)の主催で夏期研修会を開催した。「長崎 出島から日本の医療を考える」の主題のもと、佐世保市総合医療センターの増﨑英明理事長・院長が「長崎の医療の歴史について」、産業医科大学医学部公衆衛生学の松田晋哉教授が「地域密着型病院の今後について」をテーマに講演を行った。
 増﨑理事長は、日本が歴史の中で西洋医学を受け入れてきた過程を説明。西洋医学導入以前から日本には漢方があったが、漢方という言葉は、西洋医学導入後にできた言葉で、元々は医方と呼ばれていた。洋方と漢方を区別するために漢方になったのだという。
 西洋医学導入の第1期は宣教時代で、代表格のアルメイダは漢方と共同した。第2期は鎖国時代で、代表格のシーボルトは漢方と対立した。第3期は20世紀の幕末・明治時代で、代表格のポンぺは漢方を排除した。ポンぺは、長崎奉行所西役所医学伝習所(現・長崎大学医学部)で医学の講義を始め、これが日本で初めての医学部となる。
 西洋医学は世界で多発する大規模戦争を背景に、種痘と外科手術において効果を発揮し、感染症や、出血を止められず銃創に対応できないなど外科処置に劣る漢方を駆逐する。一方、戦場を含め国民病と言われた脚気に対しては、西洋医学でも当時は適切な対応がわからず、西洋医学と漢方で成績を競わせる脚気病院を東京府が開設するという出来事もあった。増﨑理事長は、「漢方の方が、成績がよかったというデータがあるらしい」と指摘した。
 制度としては、1874年に太政官医制が出されており、医師の開業が免許制になり、漢方は衰退の道をたどった。
 西洋医学の中でも、それぞれ源流があり、各大学医学部の出自とも関係し、複雑な経緯が生じている。例えば、脚気騒動においては、臨床を重視するイギリス医学を採用とした海軍と、基礎を重視するドイツ医学を採用した陸軍の違いがあり、現在も陸軍の森林太郎(森鷗外)の功罪が議論されている。
 増﨑理事長は、説明の中で、テーマに関連したさまざまな資料を紹介。特に聴講者に関心が集まったのは、ルイス・フロイスの「16世紀日欧医術比較」で、例えば、「西洋は死ぬまで治療する。日本人は死ぬことを選ぶ」、「西洋では食欲がなくても食わせる。日本では放置する」という言葉が残っている。井上支部長は、「日本は西洋と同じになったが、今の超高齢社会の状況などをみると、感慨深い」との感想と述べた。


増﨑理事長が講演

医療介護生活複合体が望ましい
 松田教授は、各病院が将来的な地域の医療ニーズをデータで見極め、生活に密着したサービスを住民に提供する地域密着型病院のビジョンを描いた。
 地域密着型病院について、例えば、全日病の猪口雄二会長は、「地域の中で、軽度の急性期から回復期、在宅医療等を担い、地域包括ケアシステムの要となる」病院であるとし、介護との協働の必要性を強調している。松田教授は、高齢化により、介護保険施設などに入所する要介護状態の高齢者の急性期医療のニーズが増大しており、そのニーズに対応できる医療機関が地域で求められていることを強調した。
 地域により人口構造や医療資源、地理的要因が異なるが、今後、多くの地域で、在宅医療のニーズが急増する。しかし、そのためには訪問診療や在宅介護、緊急時に対応できる体制、入院先の確保などができなければならない。松田教授は、地域密着型病院がこれらのサービスを担う役割に期待した。
 また、地域包括ケア病棟に入院している患者と在宅で訪問看護を受けている患者が類似しているとのデータを紹介。フランスで導入されている在宅入院制度の検討も提案した。
 また、全日病の神野正博副会長の「入院の前後には患者の生活がある。その生活に医療者は配慮することが求められている。そして経営面から考えれば、それは新たな社会サービスの創造につながる」という言葉を引き合いに、病院が医療介護生活複合体になることが望ましいと強調した。欧米では高齢者施設や病院がレストランを併設するなど、医療と生活を一体化させる町づくりがあることも示した。
 情報連携においても、医療・介護両方の情報共有が不可欠として、現在、政府の医療DXで開発を進めている電子カルテ情報交換サービスにおいても、介護情報との連携をシステムに組み込むことを実現すべきと主張した。


松田教授が講演

 

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