全日病ニュース

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医療機関ごとに出産費用を見える化

医療機関ごとに出産費用を見える化

【厚労省・医療保険部会】1月以降に増額改定を決定した施設は26.5%

 社会保障審議会・医療保険部会(田辺国昭部会長)は9月7日、出産費用の見える化に向けた議論を行った。厚生労働省が、医療機関ごとの出産費用を見える化するための項目やウェブサイトのイメージ案を説明。来年4月から新設する見える化ウェブサイトで公表する方針を示した。出産費用の価格改定のアンケート調査の結果も報告された。出産育児一時金の引上げに伴い、2022年4月〜2023年4月に増額改定を決定したのは1,718施設のうち、765施設(44.5%)であることがわかった。
 昨年12月に同部会がまとめた「議論の整理」で、出産育児一時金を2023年4月から従来の42万円を50万円に引き上げるとともに、出産費用の見える化を実施する方針を打ち出した。
 見える化においては、出産育児一時金の直接支払制度を活用している医療機関などに対し、①医療機関等の機能や運営体制等②室料差額や無痛分娩の取扱い等のサービス内容③分娩費用や室料差額、無痛分娩等の内容(価格等)の公表方法④平均入院日数や出産費用、妊婦合計負担額の平均値―の公表を求めていた。
 公表項目等の詳細については、学識者・産婦人科医・保険者・当事者などで構成される「出産費用の分析等を行う調査研究の研究班」(代表=田倉智之教授・東京大学医療経済学)が素案を作成。今回、医療保険部会に見える化の公表項目案を報告した。
 公表事項は、①分娩施設の概要=施設種別、年間の取扱分娩件数、実施される検査(新生児聴覚検査等)②助産ケア=助産師外来・院内助産の実施の有無、産後ケア事業の実施の有無③付帯サービス=立ち会い出産実施の有無、無痛分娩実施の有無④分娩に要する費用等の公表方法=分娩に要する費用・室料差額・無痛分娩に要する費用⑤直接支払制度の請求書データからの費用等=平均入院日数、出産費用の平均額等、室料差額の平均額等、妊婦合計負担額の平均額―など多岐にわたる。
 ウェブサイトについては、分娩施設画面で施設名を検索すると、分娩に要する費用などを閲覧することができるイメージ案が示された。
 出産費用の直接支払制度を利用している医療機関・助産所は約2,300施設。年間分娩件数が20以下の施設は任意とする方向だ。
 今後のスケジュールは、◇10月に直接支払制度の要綱改正◇10月~来年1月に医療機関等への周知・医療機関等からの情報の受付◇10月~来年3月に見える化に必要な情報の収集・整理◇来年1月~3月に見える化ウェブサイトの作成◇4月に見える化ウェブサイトで公表開始―としている。
 出産費用の見える化の公表事項については、保険者の代表から不満があがった。健康保険組合連合会副会長の佐野雅宏委員は、「今回のウェブサイトのイメージ案では不十分。出産費用の内訳が記載されていない。妊産婦が適切に医療機関等を選択できるようにするため、総額だけではなく、出産費用の内訳を明らかにし、内容をわかりやすく説明する必要がある。内容の充実を図ってほしい」と要請した。
 これに対し、全日病会長の猪口雄二委員(日本医師会副会長)は、「出産費用の内訳を公表しても、提供する情報が複雑になりすぎ、かえって妊婦にわかりにくいものになりかねない。もともと正常分娩は自由診療であり、一つひとつの診療行為の点数を積み上げて計算されるものではないため、内訳を示すことは困難」と実情を説明した上で、厚労省案を支持した。

出産費用の増額施設は44.5%に
 厚労省は、全国の分娩施設を対象にした「出産費用の価格改定に係るアンケート調査」の結果を報告した。2022年4月~ 2023年4月の期間で、1,718施設のうち765施設(44.5%)が出産費用の増額を決めていた。また、出産育児一時金の増額が決まった2023年1月以降に増額改定を決定したのは456施設(26.5%)であった。
 増額改定の理由(複数回答)としては、2023年1月以降に決めた施設では、◇ 水道光熱費や消耗品費等の高騰(87.6%)◇医療機器等の高騰(68.3%)◇医療者等の確保が難しく、人件費が増加した(62.7%)―が上位となっている。「出産育児一時金が引き上げられることになり、妊産婦の自己負担への影響が少ないと考えたため」と答えた施設は53.3%だった。
 なお、2022年度の正常分娩の出産費用は平均48.2万円。最高は東京都の60.5万円、最低は熊本県の36.1万円。

こども医療費助成の減額措置廃止
 同部会は「こどもにとってよりよい医療のあり方」も議論した。自治体がこども医療費を助成した場合に、国民健康保険の公費が減額される措置を廃止することを、厚労省が提案した。
 国民健康保険では、自治体が医療費助成でこどもの自己負担を軽減すると、負担軽減に伴い増加した医療費分の公費負担を減額する調整を行っている。これに対しては、子育て支援の観点から批判があり、未就学児までを対象とする医療費助成については、2018年度以降、減額調整措置の対象外とした。一方、2023年6月に閣議決定された「こども未来戦略方針」では、こども医療費助成について、減額調整措置を廃止することが示された。
 こうした状況を踏まえ厚労省は、市町村の助成内容(自己負担や所得制限の有無等)を問わず、18歳未満までのこどもの医療費助成に係る減額調整措置を廃止する方針を示した。
 ただ、こどもの医療費助成が拡充すれば、◇窓口での自己負担無償化等の拡充による被保険者(保護者を含む)の受診行動の変容◇抗菌薬の処方など医療機関での診療内容への影響◇小児医療提供体制への影響◇医療保険財政への影響―といった課題が生じる。厚労省は、抗菌薬の適正使用の取組みなどこれらへの対応策も提案している。
 猪口委員は「費用負担を心配することなく医療が受けられることは、子育て世代にとっては心強く、大事な支援だと思う。ただし、コンビニ受診といった安易な医療機関の受診が増えれば、地域医療にも影響が出てくる。正しい医療のかかり方などの啓発活動も同時に実施していく必要がある」と述べた。

 

全日病ニュース2023年10月1日号 HTML版

 

 

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