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ホーム全日病ニュース(2023年)第1042回/2023年10月15日号医師の働き方改革に向け地域医療体制確保加算などを議論

医師の働き方改革に向け地域医療体制確保加算などを議論

医師の働き方改革に向け地域医療体制確保加算などを議論

【中医協・入院医療等分科会】救急医療管理加算は明確な基準求める意見相次ぐ

 中医協の入院・外来医療等の調査・評価分科会(尾形裕也分科会長)は9月29日、「医療従事者の負担軽減・医師等の働き方改革の推進」や地域包括ケア病棟入院料等、障害者施設等入院基本料等、救急医療管理加算、「医療資源の乏しい地域に配慮した評価」など幅広いテーマを検討対象にした。2024年度診療報酬改定に向けた分科会の議論が大詰めを迎えている。
 「医療従事者の負担軽減・医師の働き方改革の推進」については、地域医療体制確保加算の評価をめぐり議論が行われた。2020年度改定で新設された同加算は、医師の働き方改革に対応するための象徴的な点数で、入院初日に520点という高い点数を算定できる。算定医療機関は直近で1,045医療機関。400床以上の医療機関の64%、200~399床の医療機関の27%、100~ 199床の医療機関の3%が届け出ている。
 地域医療体制確保加算を算定する病院には、医師労働時間短縮計画の策定が求められ、勤務医の労働時間の減少が期待されている。だが、地域医療体制確保加算を算定している医療機関において、時間外労働が年1,860時間以上の医師と年960時間以上の医師は、2020年から2022年にかけて、わずかに上昇した。
 厚生労働省は、「逆の実績が出てしまっていることは、加算を今後とも維持するためにも、考えないといけない」と指摘。健康保険組合連合会参与の中野惠委員は、医師の労働時間短縮に結びつくための要件の厳格化を主張した。
 時間外労働が増えた理由について、日本医師会副会長として出席している全日病会長の猪口雄二委員は、「地域で救急医療体制の集約化が進んでいることが影響しているのではないか」と指摘。日本病院会常任理事の牧野憲一委員は、宿日直ではなく、交代勤務で夜勤に対応する取組みが進んだことの影響をあげた。
 全日病常任理事の津留英智委員や地域医療機能推進機構理事長の山本修一委員は、医師の働き方改革が、地域で二次救急を担う医療機関に危機感を与えていることを強調。地域医療体制確保加算について、「救急医療に係る実績として、救急用の自動車または救急医療用ヘリコプターによる搬送件数が、年間で2,000件以上」等としている要件の緩和などを求めた。
 一方、医療機関の宿日直許可の取得状況をみると、夜間に医師が従事する業務で、調査対象施設のうち、6割以上が宿日直許可を取得していた。許可の対象がすべての業務の場合と一部の業務の場合があり、一部の業務について許可を受けた施設は24%。許可を受けている業務としては、「一般病棟業務」、「救急外来業務」、「院内管理業務」の順で多い。治療室の中では、MFICU(母体胎児集中治療室)の業務で取得率が高くなっている。
 津留委員は、ICUなど治療室における宿日直許可の妥当性について、治療室の施設基準との関係で今後整理されることを踏まえ、「業務の実態に応じて、必要な体制が取られているのであれば、柔軟な運用を認めるようにしないと、治療室における医師確保が極めて困難になってしまう」と訴えた。
 他の委員からは、ICU等の施設基準で求めている常時勤務の医師が、宿日直許可の対象である場合の施設基準を別に設定して、点数を区別することの提案もあった。ただ、これに対しては、猪口委員が、「診療報酬の規定に宿日直許可の有無を直接持ち込むことはやらないほうがよい」と述べた。
 医師事務作業補助体制加算は2008年度改定で導入され、勤務医の業務負担軽減に効果があることが実態調査により確認されており、これまで充実が図られてきた。同日の議論でも、医師の業務移管を推進するため、さらに充実させるべきとの意見が相次いだ。
 牧野委員は、2022年度改定で、3年以上の経験者を評価する見直しを行ったことが、雇用を定着させスキルも向上することにつながっていると評価するとともに、レセプトの症状詳記を医師事務作業補助者が代替できれば、勤務医の負担軽減がさらに進むと強調した。津留委員も、「救急要件を満たせない病院でもニーズは高い。更なる質向上を求めつつ点数引上げは必要だ」と述べた。
 看護職員の負担軽減については、診療報酬では主に、夜間の看護体制の充実や看護補助者の業務分担・協働に対して評価が行われている。
 2022年度報酬改定で新設した看護補助体制充実加算の届出状況は、急性期看護補助体制加算の届出施設では約4割、看護補助加算の届出施設では2割超となっている。委員からは、看護補助者を確保するのに、介護職員処遇改善加算のある介護施設と比べ、給与面で医療機関が不利であることや、看護職員と看護補助者の協働が現場でうまくできていないとの指摘があった。
 病棟薬剤師についても、医療機関での確保が困難との指摘が相次いだ。医療従事者の負担軽減をはじめ、薬物療法の有効性・安全性を高めることが期待されているが、算定は、病棟薬剤業務実施加算1の届出施設の約50%、加算2は約25%にとどまる。加算1は週1回120点を一般病棟などで、加算2は1日1回100点を治療室で算定できる。病院団体の委員からは、給与面で薬局と競合し負けてしまうため、処遇を向上させることのできる水準の病棟薬剤業務実施加算の点数や、算定できる病棟の範囲の拡大が求められた。
 地域包括ケア病棟については、短期滞在手術等基本料3との関係の分析結果が示された。地域包括ケア病棟の入棟患者のうち、短期滞在手術等基本料3のみを算定する患者の割合は、多くの病棟、病室で0%だが、158施設(16.5%)は10%以上。10施設は50%以上であった。短期滞在手術等基本料3を多く算定すると、地域包括ケア病棟の指標は向上する。
 津留委員は、「収益目的だけで、短期滞在手術等基本料3を算定しているわけではないと思うが、ヒアリングなどにより確認が必要。短期滞在手術等基本料3を算定する分のデータは指標から除外しても、影響はあまり大きくないと思う」と述べた。
 障害者施設等入院基本料については、適正化の観点での論点が示された。特に、「障害者施設等入院基本料2~4を届け出ている病棟で、慢性腎不全患者を多く受け入れている施設」があることに対し、療養病棟入院基本料での透析治療よりも診療報酬が高くなることが指摘された。2016年度診療報酬改定では、脳卒中の後遺症による重度の意識障害者について、患者の状態が医療区分の1・2に相当する場合は、療養病棟入院基本料の評価体系を踏まえた評価になった。猪口委員は、「基準を明確化し、基準を満たせない場合は減額することも考えられる」と提案した。

救急医療管理加算の判定困難
 救急医療管理加算(2面表参照)については、2022年度改定で、患者の重症度をより適切に把握するため、意識障害、心疾患、呼吸不全の患者の重症度を救急受診時等に記載。さらに、患者が「意識障害または昏睡」でJCS(JapanComa Scale)が0の場合など、緊急入院が必要と判断した医学的根拠を摘要欄に記載することになった。
 分析結果を踏まえ、「JCSやNYHA等による重症度分類が、転帰と相関しているものの、こうした重症度に関わらず加算1または加算2が選択されていると考えられる場合がある」ことから、重症度分類と加算の算定対象との関係が論点になった。これに対して、津留委員や牧野委員は、都道府県ごとの査定の判断が異なり、加算1が認められる場合と認められない場合があることを問題視し、改善を求めた。
 津留委員は、「都道府県により査定の違い、ご当地ルールのようなものがあり、救急医療管理加算で特に大きいと感じられる。ある県で加算1に認められるものが、別の県では加算2になることがある」と事例をあげた。
 一方、東京慈恵会医科大学医療保険指導室室長の鳥海弥寿雄委員は、「そもそもレセプト1枚で患者の状態を判断するのは困難」と強調。患者の重症度を判断する明確な基準が必要と主張した。牧野委員は、都道府県の判断に差があるのなら「明確な基準」が求められるとした上で、「JCSのような定量的な指標だけでは捉えられない、患者の疾患・病態を考慮に入れた明確な基準が必要になる」と強調した。
 救急医療管理加算に関する論点ではほかに、加算2のみのチェック項目である「サ」(その他の重症な状態)について、「『その他の重症な状態』の算定患者数が増加する一方で、これらの患者において多い傷病名は、重篤な状態であれば他の算定対象である状態に該当する」との指摘があった。加算2「サ」に対して、妥当性の検証が必要との意見が出ており、今後、適正化の観点での議論が行われる可能性がある。
 医療資源の乏しい地域に配慮した評価では、「医療資源の少ない地域において、回復期リハビリテーション病棟の病床数が0である地域が23地域あり、医療資源の少ない地域全体の57.5%を占める」といったデータが示された。猪口委員は、「医療資源が乏しい地域で、回復期リハビリテーションを提供する施設を維持していくことは難しい。患者が少なく、遠方からの患者も、急性期の患者も来る。そういう地域では、混合病棟といった発想で病棟の機能を考えるべきであると思う」と述べた。

 

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