全日病ニュース

全日病ニュース

ホーム全日病ニュース(2023年)第1044回/2023年11月15日号クラウド・ネイティブWEBカルテの導入事例を紹介

クラウド・ネイティブWEBカルテの導入事例を紹介

クラウド・ネイティブWEBカルテの導入事例を紹介

【医療DX人材育成プログラム⑤】
IT運営戦略のリーダーシップも解説
高橋泰 国際医療福祉大学教授、全日病広報委員会特別委員

 院内のDX化が適切に推進できる院内人材を養成する目的で、全日本病院協会は、広報委員会を担当委員会とし、日本医療教育財団、介護・医療見える化・効率化協会と共同共催で、「2023年度医療DX人材育成プログラム(全10回)」を開講した。今回は、第5回目の講習会の内容を紹介する。
 第5回講習会が、9月21日(木)13時〜 16時にZoomで開催され、136病院、332人が参加した。本講習会の前半は、社会医療法人原土井病院経営企画室の局千恵氏が自ら現地を訪れヒアリングを繰り返しながら作成した「日本で最初にクラウド・ネイティブWEBカルテを使用した医療機関」というケースを用いて、大阪府門真市の正幸会病院(56床)が、現時点日本の最先端といえる病院情報システムを開発するに至った経緯を説明した。
 まず、この講義の背景を説明する。銀行のネットバンキングや航空会社の予約システムなどスマホを通してユーザーとやり取りを行うシステムの多くは、WEBという技術をベースとするアマゾン、Google、マイクロソフトの米国の会社が運営するプラットフォーム上で開発されている。米国政府は、これらのプラットフォームに対してお互いの互換性を保ちつつ開発することを法律で義務付けており、これらのプラットフォームの取り決めに従い開発されたシステムを「クラウド・ネイティブ」という。「クラウド・ネイティブ」なシステムは、システム間の接続が簡単着実に行えるよう開発されているので、その結果、データのやり取りが容易に行える。また今回のケースで取り上げたクラウド・ネイティブWEBカルテとは、これらのプラットフォームの取り決めに従い開発された電子カルテのことである。これまでの日本の電子カルテは、病院内にサーバーの中に存在するオンプレミスか、クラウドを名乗っていても、米国のプラットフォームの取り決めに従わない独自仕様のものばかりであり、システム間の接続が従来の電子カルテ同様に難しく、その結果、データのやり取りも困難であった。
 正幸会病院院長の東大里理事長は、2015年に病院の成長戦略の柱をデジタル化の方針と決めた。2018年に図に示すような将来の病院情報システムを想定し、まず電子カルテの周辺機器(患者職員管理システム、画像システム、検査システム、看護システム)をクラウド・ネイティブな市販のアプリを用いて病院情報システムを構築することを決意した。その後地道に周辺システムをクラウド対応の市販システムに順次入れ替え、API(システムの情報の出入り口)で他のシステムと接続しながら、周辺システムのクラウド化を進めた。
 2022年に、2015年以来使用していた電子カルテのリプレースを検討、クラウドを名乗っているがクラウド・ネイティブでない電子カルテの導入を決定する直前に、完成間近の日本初のクラウド・ネイティブWEBカルテであるヘンリーの電子カルテに出会い、土壇場でヘンリーに変更を決めた。その後共同開発に近い状況で電子カルテの完成に協力し、2023年1月に「日本で最初にクラウド・ネイティブWEBカルテを使用した医療機関」となった。今回のケースでは、1983年の病院創設からデジタル化前の時代、デジタル化宣言後の病院での取り組み、特に市販システムに順次入れ替え、APIで他のシステムと接続しながら、周辺システムのクラウド化する過程を詳細に紹介された。図に示すようなクラウド・ネイティブなシステムにより構成された病院情報システムが導入されたことにより、正幸会病院の業務効率は、大幅に改善された。クラウド・ネイティブWEBカルテの利点、問題点については、第7回の研修会の報告(2023年12月15日号)で紹介する予定である。
 後半の小林土巳宏氏( 株式会社MEMORI)による運営戦略DX戦略についての講義では、①IT運営戦略の基礎、②施設内における他部署間のIT協働の基礎、③ITリーダーシップの基礎の講義が行われた。①の講義では、IT運営戦略とは病院内外に構築したITシステムが円滑に稼働するように、継続的な運営(運用、メンテナンス等)を行うことを指し、システムを止めずに効率的な運営を続けるために、常にシステムの状態を監視するなどの運営を行うことが説明された。②では、織田病院のメディカル・ベースキャンプを例に、「質の高いケアを提供するために、さまざまな分野の専門家たちが同じ目標に向かって一緒に働く」ために必要な考え方が説明された。③では、ビジョン型、コーチ型、関係性重視型、民主型、ベースセッター型、共生型という5つのリーダーシップの型に関する説明が行われた。
 最後にオンラインを通して講義内容の振り返りテストを行い、第5回の講習会が終了した。


2018年に東理事長が将来の病院情報システムとして思い描いたイメージ

 

全日病ニュース2023年11月15日号 HTML版

 

 

全日病サイト内の関連情報
  • [1] 2019.5.1 No.939

    https://www.ajha.or.jp/news/backnumber/pdf/2019/190501.pdf

    2019/05/01 ... そ. の際に、精神疾患との合併も少なくな. いことが指摘された。近年の改定では、. 入院医療におけるハイリスクな妊婦を. 対象とした診療報酬の充実を図っ ...

本コンテンツに関連するキーワードはこちら。
以下のキーワードをクリックすることで、全日病サイト内から関連する記事を検索することができます。