全日病ニュース

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超高齢者の救急搬送とACP

続報・全日本病院学会 in 広島
超高齢者の救急搬送とACP

【学会企画2】第三次救急の現場と地ケア病棟、病院救命士


中尾氏


仲井氏


加藤氏

 学会企画2では、「地域包括ケアにおける超高齢者の救急搬送とACP」をテーマに、第三次救急医療の現場における延命治療をめぐる問題から地域包括ケア病棟が担うマルチモビディティ患者への対応、在宅医療における病院救命士の活用について、3人の演者が講演した。

救急現場での延命治療の選択
 岡山大学の救命救急・災害医学講座の中尾篤典教授は第三次救急医療の現場の経験から、人生の最終段階の医療のあり方や延命治療など救急搬送における課題を講演した。
 人生の最終段階で受ける医療を考えると、穏やかな状態で最期を迎えられるという観点が大切になる。しかし、何を穏やかと感じるかは人により異なる。中尾教授は、「人工呼吸器や人工栄養の治療を受けたほうが穏やかな人もいれば、受けないほうが穏やかな人もいる」と述べ、人により異なる価値観に応じて、決断を下さなければならない延命治療の難しさを訴えた。
 一方、具体的な延命治療について、例えば胃ろうに対する拒否感など、患者・家族が不十分な理解で、選択肢を考えていることが多く、医療者側からの丁寧な説明が不可欠であることを強調した。その上で、患者の意思決定を支援するACP(アドバンス・ケア・プランニング)の普及に向けた取組みが重要であると主張した。
 ただ、現場感覚でもACPは普及していない。中尾教授は、子どもの学校行事でACPを伝えると、家庭で子どもが親に話し、そして祖父母との会話につながっていく場合があり、子どもを通した伝達が、効果的な周知の方法であると紹介した。
 高齢者の救急搬送では、第三次救急医療機関で受入れ困難事例が増えないように、救急現場できちんと診断できる体制を整えた上で、重症患者でなければ、リハビリ病院などに転送する連携システムが重要になると主張した。

高齢者救急の地ケア病棟の役割
 医療法人社団和楽仁・芳珠記念病院(石川県能美市)の仲井培雄理事長(地域包括ケア病棟協会会長)は、「地域包括ケア時代のキーワードは、高齢のマルチモビディティ患者への対応」であると強調した。マルチモビディティとは、複数の慢性疾患が一個人に併存し、中心となる疾患を特定できない状態。アウトカムは、基本的にはQOL 向上だが、介入のエビデンスは乏しく、ACPや多職種協働によるカンファレンスが必須になる。
 高齢のマルチモビディティ患者を受け入れる代表的な病棟が、地域包括ケア病棟だ。地域包括ケア病棟は、ポストアキュート、いわゆるサブアキュート、在宅復帰支援機能の3つの機能を持つ病棟ということで、2014年度診療報酬改定で創設された。
 仲井理事長は、地ケア病棟の立ち位置として、「地域の人口動態や医療ニーズを捉えた上で、総合診療や老年医学のマインドを持つ医師とともに、急性期後や在宅療養中のマルチモビディティ患者を病棟で受け入れる、在宅でみる地域診療拠点」と説明した。
 3つの機能のうち、中心となる機能は病院の状況で異なる。ただ、2022年度診療報酬改定で、一般病棟だと、救急告示病院等であることが要件化され、在宅等からの受入れの評価が上がった。2024年度改定に向けた議論では、地ケア病棟が関わる高齢者救急への期待が高まっている。仲井理事長は、高齢者の救急患者を地ケア病棟で直接受け入れることへの懸念を含め、中医協で行われている議論を紹介した。
 ただ、「救急現場での救急隊員や外来医師、看護師の判断はオーバートリアージになりがち。その結果、高度急性期病院に搬送され、急性期病棟への入院となる傾向がある」と指摘。トリアージの精緻化が重要であり、医療従事者の診断能力の向上とともに、中小病院がマルチモビディティ患者を支えることが、高齢者救急とACPの課題を解く入口になると述べた。

病院救命士の3つのアプローチ
 社会医療法人仁寿会・加藤病院(島根県邑智郡川本町)の加藤節司理事長は、病院救命士による3つのアプローチとして、「救急救命管理・在宅療養支援」「在宅療養者のACP支援」「地域プライマリヘルスケア力向上人材育成支援」について講演した。
 島根県は、100歳以上の長寿者が全国一であり、加藤病院は社会医療法人の中で最も人口が少ない自治体に所在している。高齢ひとり世帯の増加、介護費の増大、税収不足、人手不足などの課題が深刻化している。
 そのような状況で、加藤病院は、病院救命士を積極的に活用している。救急救命士は病院前救護を担う日本で唯一の医療国家資格者。2021年10月に改正救急救命士法が施行され、救急外来でも救急救命士が救急救命処置を実施することが可能となった。
 病院救命士について、在宅医療で訪問診療を行っている患者の急変時に、病院救命士が出動し、病院に搬送する事例などが紹介された。救急搬送時に活躍するだけでなく、住民が望む場所で希望する医療を提供するため、普段から在宅医療の患者と対話する包括的アプローチとして、信頼を得た病院救命士が、ACPに参加し、意思決定支援まで行うという。
 そのような病院救命士を育成するため、仁寿会MSSUC(メディカルスタッフスキルアップセンター)を島根大学医学部クリニカルスキルアップセンターと協力し、2020年に設立。「すべての医療・介護人の皆さんが、島根の田舎町でもできる生涯学習のお手伝い」を掲げて、取り組んでいるとした。

 

全日病ニュース2023年11月15日号 HTML版

 

 

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